Event report

2021.11.7

東京を再生しよう: Global Goals Jam Tokyo 2021 レポート

David Willoughby

ライター

Tokyo

東京という都市は限界を迎えたのでしょうか?これまで、都市は人間の自然な「群れていたい」という欲求によってできたものだと考えられてきました。しかし、リモートワークが一般的になった今、生活への不安を抱き、都市から地方へ流出する人たちも出てきています。

最近、「再生都市」という新しい考え方が登場しています。再生都市では、再び都市に住むことが自然な選択になるような都市をめざしています。つまり、単に自然に対する悪影響を軽減するのではなく、都市が自然環境にプラスの影響を及ぼすことを目標とした都市なのです。

この考え方では、都市は単なる消費する場になることをやめ、エネルギーや栄養や、アップサイクルされた廃棄物などをつくりだす側になります。都市が引き起こす汚染や廃棄物処理などの問題を解決する可能性があるのです。

今回のGGJでは、「Regenerative Cities」について考えるための知識のインプットのため、3人のゲストスピーカーを招待しました。

一人目のゲストは世界銀行のオペレーションオフィサー三木はる香さん。三木さんは、コンゴ民主共和国の首都、キンシャサのような急成長を遂げている都市に対して、廃棄物管理システムの構築に関するアドバイスを行っています。

彼女は「密度は敵ではありません。都市計画から撤退するのではなく、正しい都市づくりをしてほしい」と語ります。

東京は、世界初のメガシティとして、数十年前に重要なインフラを整備しました。東京をはじめとする日本の都市では、住宅、交通、防災などの快適な環境が当たり前のように整備されています。このように、日本はSDG11「住み続けられるまちづくりを」の目標に向けて順調に進んでいます。

しかし、他の関連するSDGsを考慮すると、東京が再生可能な都市とは程遠いことが明らかになりました。国連によると、日本はSDG13「気候行動に具体的な対策を」に関して大きな課題に直面しており、その進捗は停滞しています。日本全体はもちろん、東京もエネルギー需要の85%以上を化石燃料の輸入に頼っています。再生可能エネルギーの導入は遅れており、原子力発電は2011年の福島原発事故以来、計画から外されています。

リサイクルが行われている自治体はあるものの、SDG12「つくる責任 つかう責任」に関しては大きな課題を抱えています。SDGsに向けた日本の進捗が芳しくないことから、倫理的な消費や循環型経済に関する政策的な取り組みが少なく、一般の人々の意識が低いことが指摘されています。

二人目のゲストは、エディターでアーバニストの杉田真理子さん。2017年に開催された第1回GGJ東京の開催に協力し、今年ゲストスピーカーとして参加しました。再生可能な都市というテーマについて、杉田さんは、「『人間のための楽園』として設計された都市を、他の生物にも快適な都市に変える方法を考えてほしいと言います。


杉田さんは、都市を変えるための草の根の活動を行う団体「for Cities」の共同設立者でもあります。for Citiesの目的は、「批評的な市民」を育成することです。

今年のGGJ Tokyoは、緊急事態宣言のためオンラインで開催されました。そのため日本各地のみでなく海外の人々も参加し、デザイン関係者、会社員、大学生など職業や年齢も多様な約30名が参加しました。

ワークで使うツールは、「Zoom」のブレイクアウトルームと、アイデアを共有・発表するための「Miro」のホワイトボードです。

1日目のワークでは、各チームがそれぞれの目標、価値観、スキルをチームキャンバスに記入します。続いて、ゲストスピーカーからのインスピレーションをヒントに「Regenerative Cities」というテーマに基づいた解決したい課題を設定します。

どうすれば、より健康的で持続可能な関係を自然と築くことができるのか?
どうすれば現状の都市システムの連鎖を止めることができるのか?
都市を生態系として設計し、持続可能なものにするだけでなく、繁栄する地球に積極的に貢献するにはどうすればよいのか?

を、
キークエスチョンとして考えながら、課題文を設定します。

あるチームは、江戸時代の人々の、持続可能で廃棄物の少ないライフスタイルに注目しました。日々の生活の中で持続可能な選択をするために「責任ある消費」を中心に課題文を設定しました。

他にも、都市に自然を取り戻すことや、東京と地方のつながりを強めることなどもテーマとして取り上げられました。その達成のためには、多角的なアプローチが必要です。

ワーク2日目に向けて、各メンバーが各チームごとのテーマについてリサーチをするという宿題が出され、1日目は終了しました。

2日目のワークではチーム内でリサーチ内容を共有し、課題について話し合いながら考えます。人間と人間以外の生物など、全てのステークホルダーを特定するための「アクタントマップ」を完成させてから、アイデア出しの段階に移ります。

チームの1人1人がアイデアを出した後、複数のアイデアの中から、どのアイデアを採用するかを決定します。チームメンバーは、複数のアイデアに投票することも、1つのアイデアに複数票投票することもできます。

次にコンセプトスケッチを行います。チームが他のチームに自分たちのアイデアを簡単にプレゼンテーションし、質問や提案といった形でフィードバックを集めます。

プロトタイピングでは、実際に動くモデルやビデオなどを作成し、アイデアが実際にどのように機能するかを示します。そして、最終的にプレゼンテーションを行います。

それでは、6チームから生まれたアイデアをみていきましょう。

このチームは、東京の自治体が廃棄物処理で頭を悩ませている「使い捨て傘」の共有システムを発表しました。日本では毎年8,000万本のビニール傘が廃棄されていますが、ビニール傘はリサイクルが難しく、最終的には埋め立てられてしまいます。「Umbrella Day」では、傘を使いたい時に使えるように、傘を保管するためのコミュニティエリアを考案しました。

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ReFoodsは2つのアプローチで食品廃棄物問題を解決することを目指しました。1つ目は、規格外の食品を利用すること、2つ目は、消費者にとって魅力的なサービスを提供することです。その結果、さまざまな食品のリサイクルや再利用のアイデアを取り入れたDIYキットが誕生しました。キットは自宅に配送され使用します。責任ある消費行動を促すきっかけとなるでしょう。

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このチームは、使用済み食用油のリサイクルプログラムを支援するアプリのアイデアを作りました。家庭から出る廃油は、東京近郊の海洋生物の生命を脅かしていて、中でも食用油は最悪の事態を招いています。KOREKUTOの良い点は、リサイクルプログラムの所有権を地域に与え、最も積極的に参加した人には独自の報酬を与えられるという点です。

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このチームは、都市緑化のコンセプトを考えました。東京の通勤者に、通勤経路にある植物の世話をする責任を与えて都市に緑を増やします。「On-the-go Gardening」は、企業からの協賛によって運営されており、植物に十分な水が与えられているかどうかを、テクノロジーを使って可視化します。多くの住民が自然と触れ合う場所や時間を失っている都市において、日常生活で植物と触れ合う機会をつくるアイデアです。

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「Sister Stations」は、東京の都市部と日本の農村部の関係を構築することを目的としています。都市部に住む人々に、農村部で実践されている技術やライフスタイルを学ぶ機会を提供するというアイデアであり、デジタル技術、水耕栽培、音風景を含む環境デザインの融合によって実現されます。このコンセプトは「東京の通勤者はスマートフォンに夢中になっている」というシンプルな観察から生まれました。

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最後のチームは、QRコードをベースにしたモバイルアプリ「Nature Rate」を使って、日本の消費者に商品の持続可能性を確認することを提案しました。このチームは、ファッションアイテムに使用されているカーボンフットプリントや素材を明らかにするだけでなく、サプライチェーンにおける倫理的な問題にも取り組んでいるブランド「Everlane」の「ラディカルな透明性」にインスピレーションを受けました。さらに「Nature Rate」の宣伝のため、エシカルファッションショーでプロモーションを行うことも発表しました。

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今回のGGJは、オンラインで行われましたが、参加したメンバーからはSDGs達成への熱意を感じました。SDGs達成のための制度改革がなかなか進まないこととは対照的に、GGJは人々に行動の場を与え、ゲストスピーカーの杉田さんが指摘した「批評的な市民」を生み出したといえると思います。

歴史を振り返ってみると、1970年代にピークを迎えた町内会や消費者団体は、東京のゴミ処理場を閉鎖したり、自治体によるリサイクルに取り組み、日本の産業公害を抑制するのに役立ちました。しかしその活動は次第に衰退し、若い世代には浸透しなくなりました。若い世代も含めて全世代で再生都市を作るためには、誰でも参加できる活動が必要になってきます。

その点において、今回のGGJやFabCafeで行われた同様のハッカソンやデザイナソンのようなイベントは、誰がサステナビリティや都市デザインの活動に参加するのか?という重要な問いを投げかけます。GGJ Tokyoは、市民活動は一部の人が一生かけて行うものではなく、多くの人が参加し、身につけることができる「習慣」であることを教えてくれました。

「GGJは、アイデアの大きなるつぼのようで、とても刺激的でした。参加者、ファシリテーター、運営チームの創造性とポジティブなエネルギーがとても気に入りました。今年はすべてオンラインで行われましたが、本当のコミュニティイベントのように感じられました。」

Nick Ashley, Sustainability Consultant & GGJ Tokyo facilitator

「よく調整されていて、(オンラインの)ツールのおかげで、2日間で一つのアイデアをまとめることができました。予想していなかったので、とても嬉しい驚きでした。」

Hasumi Nemani, FoundingBase & GGJ Tokyo jammer

「さまざまな背景や考え方を持った人たちが一堂に会しているのを見て、とても刺激を受けました。私自身も彼らのアウトプットから多くのことを学びましたし、皆さんもお互いから新しいことを学び有意義な時間を過ごせたのではないでしょうか。」

Mariko Sugita, for Cities & GGJ Tokyo guest speaker

GGJ への参加はワクワクする経験でした。参加者は、再生可能な都市を実現するための多様で革新的なアプローチを提供してくれました。多くのプロトタイプの例では、異なるセクターの縦割りを解消し、技術と既存の都市インフラを再設計して接続し、持続可能な社会を実践する際に楽しさや喜びといった感情も重要視していることがわかりました。」

Haruka Miki-Imoto, World Bank & GGJ Tokyo guest speaker

GGJでは、毎年、情熱を持った地元の人々のユニークで貴重な視点を通して、地域の持続可能性の課題に迫る機会を提供しています。カメレオンのような大都市「東京」の都市問題を掘り下げていくうちに、東京には何かが足りないという共通の感覚から、再生可能な解決策のアイデアが自然に浮かび上がってきました。さらに、GGJのチームは、都市生活者の生活の質を向上させるという課題を考えるだけでなく、関係する人間以外のステークホルダーを真剣に向き合い、生態系全体の幸福を考えています。今年のGGJでは、人間以外の生き物や自然の要素、そして人間が住む地球へのコミットメントを確かなものにするための体験を提案しました。

Kelsie Stewart, FabCafe Chief Community Officer & GGJ Tokyo organiser

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  • David Willoughby

    ライター

    サステナビリティ、テクノロジー、文化について考え、執筆しています。これまでに多くのハッカソン、講演、その他イベントをレポートしています。また、日本の企業と協力して、彼らのストーリーを世界に伝えるお手伝いをしています。

    サステナビリティ、テクノロジー、文化について考え、執筆しています。これまでに多くのハッカソン、講演、その他イベントをレポートしています。また、日本の企業と協力して、彼らのストーリーを世界に伝えるお手伝いをしています。

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