Event report
2021.5.19
FabCafe編集部
2020年、内閣府と内閣官房によって立ち上げられたオープンデータベース「V-RESAS」。新型コロナウイルス感染症が地域経済に与える影響を数値で示し可視化することで、対策を練り新しいアイデアを生む手助けとなるWebサイトです。
このイベントシリーズ「コロナ禍における地方創生とデータ活用~V-RESASで見るデータとケーススタディ~」は全3回で開催。2021年2月に開催した第1回では、台湾のデジタル大臣、オードリー・タン氏をゲストに迎え、シビックテックと日本のデジタル化戦略について議論を展開しました。
本記事でご紹介する第2回は3月12日に開催。国内の先進事例として岐阜県飛騨市の都竹淳也市長を迎え、飛騨市で官民共同事業「飛騨の森でクマは踊る」を経営するFabCafeファウンダーの林千晶と共に、地方でのデータ活用を考えました。ナビゲーターはデザインエンジニアの田川欣哉氏、統計家の西内啓氏です。
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【岐阜県飛騨市長 都竹淳也氏登壇】コロナ禍における地方創生とデータ活用~V-RESASで見るデータとケーススタディ~ vol.2
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【第1回】ゲスト:台湾 デジタル大臣 オードリー・タン氏
【第3回】ゲスト:京都市観光協会 DMO企画・マーケティング専門官 堀江卓矢氏
日々変化する感染症の影響を把握、即時性の高いデータを提供するV-RESAS
まずは田川欣哉氏より、本イベントのタイトルにも掲げられている「V-RESAS」についての紹介が行われました。
「V-RESAS」は2020年に公開された内閣府地方創生推進室、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部が運営するウェブサービスです。新型コロナウイルス感染症が地域経済に与える影響の可視化をミッションとし、地域ごとの子細なデータをグラフ化して公開することで現状分析や対策の一助となることを狙いに運用されています。
このサービスの母体として、「RESAS」という地域経済分析システムも存在します。RESASは地域経済を多角的データによってごく細部まで見ることができる一方、データの更新頻度は年単位。リアルタイム性が重視された構成ではありませんでした。
日々刻々と状況の変わる新型コロナウイルス感染症に対策を講じる上では、より即時性の高いデータが求められます。そこでV-RESASは民間企業から提供されたデータを採用することで更新頻度を高め、政府の提供するデータサービスの中でもっとも高頻度とされる週次単位でのデータ公開を実現しています。
停滞する県内の経済を巻き返すには?POSデータに見る、近隣商圏の消費分析
では、実際にこのサービスをどう活用すればよいのでしょうか。今回のトークに紐付けて、岐阜県飛騨地方のデータを参照しながら西内啓氏に解説していただきました。
サイトのヘッダー部分にある選択ボックスで「岐阜県」を選択すると、岐阜県内のデータに絞ったサマリーデータが一覧表示されます。移動人口や決済データ、飲食店情報の閲覧状況などを横断的に確認することで岐阜県内の経済を俯瞰的に把握することができます。
全体像を把握したら、次は突出して変化の表れている人流や宿泊のデータの分析が求められます。ページをスクロールすると、分野別に各データの拡大されたグラフが並んでいます。グラフは流入元や宿泊者の属性単位で表示され、より詳細にデータの内訳を把握することができます。
県内の経済に停滞がみられる場合、県外での流通を促すという観点で経済政策を検討できないでしょうか。岐阜県と結びつきの強い商圏である愛知県のPOSデータを分析すると、ホットケーキミックスなどのプレミックス(調整粉)や生クリームの消費が活発化しており、外出自粛によって家庭内で手軽に調理できる食材の需要が高まっていることがわかります。生鮮食品の売上が伸び悩んでいるようであれば、加工品やミールキットの製造・販売に舵を切るのも一つの有効なアイデアとなりそうです。
人口減少先進地における、先進的なコロナ禍へのアプローチ
続いて、岐阜県飛騨市長・都竹淳也氏に、データによって日々の政策判断を下し市政を行っているのかお話を伺いました。
飛騨市は岐阜県の北端にある人口約23,000人の都市です。「人口減少先進地」と呼ばれ、都市部より30年ほど先行して人口減少が始まっているとされています。
飛騨市における政策の大きな特徴は、データと生の声を組み合わせること。飛騨市内の販売店やメーカー300社から1割にあたる30社をランダムに選び、月に2回ヒアリングを行います。また、選外の企業にもスポットでヒアリングを行いながら情勢の把握に努めています。
この取り組みは、都竹市長が県庁職員時代に得た経験によるアイデアです。経済対策において、統計データは早くても数か月遅れのものしか取得できず実用的ではありませんでした。その点、ヒアリングによる定点観測は、数か月後に出る統計の予測が立てられるほど精度の高い情報が得られたことから、リアルタイムの状況を把握するために市政でも採用しているとのことでした。
これに加え、政策の判断に際しては統計データを活用。国政におけるコロナ対策には一律のものが多くみられましたが、飛騨市ではあくまでも有効性を重視。弱っている産業に対しピンポイントに施策を打つことに重きを置いています。
市の産業構造から分析、最優先は「経済活動の回復」
2020年春、当時は飛騨市内では感染者が出ていなかったものの、国内レベルでは感染者が増大。自粛ムードにより観光、宿泊、飲食、小売、卸業が大打撃を受けました。「このままでは街が死んでしまう」と感じた市長は、経済を回しながらコロナ禍と戦うことを決意したといいます。政策には、重症度の高いところから手を打つ「トリアージ」の考え方を採用。感染対策には飛騨市民病院の感染症制御医に指導を仰ぎ、経済対策へと動き出しました。
まず最優先と捉えたのは飲食、宿泊業です。近隣には観光地として知られる高山市がありますが、高山市と飛騨市の大きな違いは、地域経済の大半が地元の消費で成り立っていることです。市内での消費活動を促進するため、市は3月上旬にプレミアム食事券の発行を決定。宿泊施設には市民を対象とした割引プランを増設しました。
飛騨市は海外輸出を主とした製造業が強い街で、サービス業に従事しているのは約2割と近隣の街より少数であることが統計から判明していました。また、年金生活者も多いため、即時的な家計への影響は少なく、消費活動の促進を期待しての施策でした。
一方で、正社員の失職はみられなかったものの、生活相談窓口には高山市内の宿泊施設で働く非正規雇用者の収入減の声が聞こえてきました。そこで市は無利子無担保の生活資金貸付を実施。3か月後に収入が戻っていない場合は返済免除とするなどの雇用対策を行いました。
プレミアム商品券を柔軟に使い分けて発行し消費行動を喚起
第一波といわれる4、5月には国から10万円の特別定額給付金の一律支給が決定。直接的な打撃が及んでいない飛騨市では、10万円が貯蓄や市外消費ではなく市内の経済活動に使われるよう、プレミアム商品券とプレミアム電子地域通貨の発行に踏み切りました。
プレミアム電子地域通貨は飛騨市のみで使われているものではなく、隣の高山市でも共通で使うことができます。高山市に流出する懸念が考えられますが、国勢調査によって常住地と従業地の関係が明らかになっていたためその心配はありませんでした。ここでも、データが政策の判断根拠として活用されていることがわかります。
一度目の緊急事態宣言を終え、第一波の収束がうかがえると同時に、長期戦になることが見えてきました。冬に次の波が来ることを想定し、飛騨市では「コロナと共に生きる生活」を提唱。アクリル板や換気設備の設置事業者に「安全安心コーディネーター」の認定制度を設け、営業を兼ねて地域への感染対策の指導にあたってもらうこととしました。
夏の第二波を乗り越えた後も、インフルエンザの流行期に第三波が重なることを警戒し、比較的落ち着きのみられた秋には消費マインドや観光需要の喚起を行いました。タクシーの需要が戻らず依然落ち込んでいたため、市では飲食店とタクシー乗車に利用できる「プレミアム食タクチケット」を発行。近隣5県を対象にスキーリフト券を半額補助し、近距離での観光を促進しました。
11月を迎えいよいよ第三波が到来、二度目の緊急事態宣言も発出されました。酒の小売業が回復から取り残されている状況を受け、プレミアム食事券の対象に酒の小売店を追加し消費活動を促しました。また、観光への影響に注目が集まる影で、土産物屋も大きな煽りを受けていたことから、行き先を失った土産品をお得に販売する「緊急オトク宣言」キャンペーンを実施。市内外で物産展を開催するほか、ネットショップでも好評を博し、全国から購入が殺到しました。
宿泊業界でも依然低調が続いていたため、施設の空室を市が借り上げテレワークの場として無償開放する「お宿であんしんテレワーク」キャンペーンを実施。アフターコロナに期待されるワーケーション事業に向けたテストケースとしても機能しています。
この1年のコロナ禍に対する取り組みを振り返り、「市内の状況をリアルタイムで把握するには現場のヒアリングが一番」と都竹市長。加えて、データから産業構造や就業構造を把握して政策を実行することの重要性を訴えてプレゼンテーションを結びました。
一人ひとりの経験を凝縮したものが「データ」。市民の声を直接拾うことに意義
迅速かつ的確な施策の数々に、林や田川氏、西内氏は感激。興奮冷めやらぬまま、感想や疑問を市長に投げかける形でパネルディスカッションが始まりました。
もっとも注目を集めたのは月に2回行われているという市内企業へのヒアリングです。ヒアリング数を30社程度に絞った経緯について、市長は県職員時代の経験に触れ「リーマンショックでは岐阜県内の100社にヒアリングを行い、次の展開が読めるレベルまで分析できた。飛騨市に絞ると1割ぐらいの企業に聞けばほぼ状況が掴めるだろうという確証があった」と説明しました。
林は、リーマンショックでの経験を政策に反映している都竹市長の姿勢を称賛。同時に、リアルな市民の声を共有する対策本部会議が週次で行われていた事に触れ、「V-RESASも同様に週次でデータを更新している。全体把握の難しいマクロデータも、週次のペースで目を通せば把握可能だということは覚えておきたい」とコメントしました。
また、ヒアリングという行動には西内氏も賛同。「一人ひとりの経験や人生を凝縮したものがデータ。企業へのアプローチを考えるにあたり30社に聞くというのは現実的で良い手法だと思う。データを集めるのは大変、と躊躇している自治体にも参考になるやり方なのでは」(西内氏)と話しました。
話題は「二次医療圏」にも言及。V-RESASでも都道府県内地域別の詳細データを掘り下げるにあたり、データの母数が確保できない場合には二次医療圏を基準としたエリアでの区分を採用しています。岐阜県は南北に長く、また南に人口が偏っている県です。都竹市長も「県単位でのデータや指示だけでは、飛騨市にとっては時に本質的でないものとなりやすい傾向がある」と述懐。田川氏は「このコロナ禍において最優先して守るべきは地域の医療体制。二次医療圏は医療計画における区分だが、V-RESASでの統計区分に二次医療圏を採用しているのは理に適っている」と市長の言葉を受けて評価しました。
最後に、他の市区町村へのメッセージとして市長は「現場の状況をヒアリングするのに、アンケートフォームに頼っていてはいけない。あなたのところに私が行きます、という人海戦術に意味がある。月2回程度なら職員の負担も重くないはず。市民の声を肌で感じ、市政に反映できる体制を作る事が必要」と訴えました。
プレミアム商品券の適用先を柔軟に変更したり、市民の声を受けて政策をチューニングしたり、アジャイル開発のように進められる飛騨市の市政には学ぶところも多かったのではないでしょうか。その裏付けや基礎としてデータが活用されていることも注目すべき点でした。ヒアリングデータや国勢調査のデータに加え、二次医療圏の動向把握という意味では、今後V-RESASのデータが飛騨市の市政に役立つ機会もあるのではないでしょうか。
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