Event report

2021.2.3

ひとつの対話の場から生まれた、人数分のやさしさの形ーー「やさしさラボ」#4 レポート

「社会におけるやさしさとは何か、そして可能か」という命題に向き合うオンラインスタディプログラム「やさしさラボ」も、この第4回が最終回。

 

11月から2か月間にわたり対話や実験を重ねる中でわかってきたのは、「『正しい』やさしさは定義できない」ということでした。かといって思考を止めるのではなく、仮説を立て実験を試みながらこの日に至ります。最終回は参加者が行った実験を発表し合い、それをもとに未来へのヒントが得られる対話を試みました。

食品メーカーで環境に配慮した商品の開発をしているかわちゃんは「日本人にとって環境にやさしい食品とは何か」という問いを持ってラボに参加。さまざまな人の冷蔵庫に潜む捨てるに捨てられない食品を教えてもらう「今日の私の冷蔵庫とフードロス」という観察分析を行いました。仕送りやお土産など頂き物によるフードロス予備軍が散見され、やさしさのずれを感じたといいます。

スポーツ文化論を研究するたいちさんはスポーツ×やさしさについて考えました。ラボのプログラムに参加する中で「話しかけることは相手を思うこと」と気付き、スポーツ中に声掛けを行い積極的に褒めたりアドバイスを送ったりするという試みに挑戦。声を掛けることで「ありがとう」という言葉や自分に対してのアドバイスなどやさしさが返ってくることを体感したそうです。

こはるさんのテーマは「縄文人と楽しい現実逃避」。現在のコロナ禍とちょうど100年前のスペイン風邪大流行から「歴史は繰り返される」と感じたこはるさんは、大好きな縄文時代にならって悩みやストレスを解消することを提案。現代社会では複雑な人間関係に悩むことも少なくありませんが、それは人間の優劣とは関係ない、と割り切ることができました。縄文人に学ぶフラットで客観的な視点、ユニークなやさしさです。

純粋な興味からラボに参加したみきてぃが抱えていたのは「やさしさの価値観が異なる人々とわかり合うことはできるのか」という直球の問い。身近な10人に声を掛け、やさしさについて対話を行いました。さまざまな意見が飛び交い、やさしさの形も十人十色でしたが、総じて「価値観が異なっていても、相手を思ってした行動はすべてやさしさである」という結論に達しました。

やさしさのずれをなくすことは可能なのかを追求したこーだいさんは、ほんとうのやさしさを学ぶべく、これまでに経験したやさしさについて複数名にインタビューを実施。人によってやさしさの基準や指標が異なることが見えてきました。やさしさのずれをなくすことはできなくても、やさしさを働きかける気持ちが伝わることが大切なのだと結論づけました。

しげちゃんが着目したのは日常の中でとっさに求められる「瞬間的なやさしさ」。あの時こうすればよかった、と後悔したり反省したりする場面に焦点を当てました。家族の介護もあり、当初予定していたワークは実施できませんでしたが、プログラムを通じて学んだ多様性を受け入れて自分の考えや行いに自信を持つこと、表現を尊重することは今後もしげちゃんの背中を押す要素になることでしょう。

建築の勉強をしているるんちゃんは、地域を転々としながら育ったため、ホームと呼べる場所がないことをコンプレックスと感じていました。サードプレイスとも呼べる居心地の良い場所の条件や要素を親しい仲間と話し合ったところ、世代や分野の異なる人と「混ざる」こと、「自分の意思を持って参加する」こと、拠り所やコミュニティに「選択肢を持つ」ことが重要であることが見えてきたそうです。

発達障害を抱えるまめこさんはアンケートを実施。マイノリティにやさしい社会にするために健常者に話を聞いてもらいたい反面、生々しい体験談に健常者が引いてしまうのではないかという懸念を抱えていました。実際には体験談に関心を示す健常者が多かった一方、それは知識がないためなのではないかとも感じたそうです。体験談をより積極的に話していくことと同時に、自分自身も障害や偏見への知識を多角的に深めたいと語りました。

人を褒めたくて仕方ないおぐ氏。しかし本能のままに褒めると感情のコントロールができていないと感じることも少なくないため、「やさしさの目盛り」を見つけることに挑戦しました。普段多用しがちな絵文字を使わずにコミュニケーションをとることでの心情の変化と周囲の反応を日記として記録。以前ならこうしていたはず、という冷静な分析と照らし合わせながら客観的な分析ができるようになったそうです。

フィンランドへの留学中、あらゆる生命に支えられていることを実感したふみさんは、人間以外へのやさしさを育むべく、一日一通微生物に感謝の手紙を書くことにしました。微生物の役割について書かれたカードを用意し、その内容に沿って感謝をしたためます。具体的な状況とセットで感謝の言葉を述べることで、手紙を書いている時間以外にも何気ない場面で感謝の気持ちが湧き上がるようになったとのこと。

さくらさんはテキストコミュニケーションが発達した今、LINE上で自分と他人にやさしさを持つための工夫を探りました。ひらがなを多用することで字面だけでなく感情も柔和になることや、やさしさとあたたかさは親和性があるのではないかという気付きを得ることができました。聴覚や触覚へのアプローチがコミュニケーションを豊かにする未来が今後訪れるのかもしれません。

あきらさんは「女の子だって暴れたい」というコンセプトのアニメ「プリキュア」シリーズを題材に、プリキュアがどのような価値観をもって多様性を生み出してきたのかを緻密に分析しました。プリキュアに影響を与えたとされるアニメ「セーラームーン」と比較し、テーマソングの歌詞から背後にある感情や思想を紐解き、次は「人は生まれながらにして特別である」という発想の「ノームコアプリキュア」が現れるのではないかと予想しました。

Keiさんが掲げた問いは「テクノロジーは本当に人を幸せにするか」というもの。テクノロジーと人間の共生にまつわる情報を調べ、SNSで発信することにしました。人の関心を引くにはキャラクターに擬態したりイラストを多用したりすることが有効であると学び、「テックまる子」というアカウントが誕生しました。デジタル世界でのやさしさのずれを解消する手段の一つとして今後も継続したいと考えているそうです。

https://www.instagram.com/tech_maruko/

大学で演劇を研究するちーちゃんのテーマは「家畜へのやさしさとは何か」。やさしさを引き起こす「共感」に着目し、動物に成り代わってユーモアを含ませながらやさしさを働きかけることにしました。結果として、必ずしも共感を求めないこと、わかりあえなくても思いを馳せるやさしさは存在することがわかりました。家畜との関係性にはやさしさもやさしくなさも孕んでいますが、やさしさが一歩リードしている状態を心がけたいと語りました。

えりさんの問いは「プラスチックは本当にやさしくない素材なのか」。ガラスも土に還るまで100万年かかるという報道を見て、使い捨てのイメージが先行しているプラスチックに対して意識を変える試みを起こしました。プラスチックで植物の形を模したオブジェを作ったり、ジュエリー化して価値を見出したりすることで、プラスチックも大切な資源であることを視覚的に発信することができました。

https://youtu.be/VJHvG0FupN4

全員が発表を終えた後、それぞれのプレゼンテーションの理解を深めるためブレイクアウトルームに分かれてディスカッションを行いました。ワークを実施してみて困難に感じたことや、世代や所属の違いによる感じ方、考え方の違いなどを話し合うことで新たな気付きを得る人もあれば新たな疑問が生まれた人もいたようです。

「なぜみんなはやさしくしたいのですか?」という疑問の挙がったルームでは、各々で考えをまとめて即興的に議論を行いました。合理性を大切にしているしげちゃんは「場をスムーズに運ぶためにやさしくしていることが多い」と内省しますが、こーだいさんは「あくまで自分がスッキリするための行動で、特に理由を考えていない」と答えました。その問いに正解がないのはルーム内の誰もが理解していて、それぞれの考えを抱えながら発言に耳を傾ける姿が印象的でした。

一度もリアルの場で集うことのなかったラボメンバーでしたが、いつの間にか互いの生活や考え方を知り、談笑できるコミュニティができあがっていました。誰もが触れる「やさしさ」を軸に腹を割って話し、相手の話に丁寧に耳を傾けた2か月間の賜物ではないでしょうか。参加者の皆さん、改めてお疲れさまでした。

最終発表会に向けてMiroボード上でまとめられたマインドマップは、やさしさラボの活動を総括する資料として冊子にまとめられ、パナソニックセンター東京や100BANCHなどに配布されます。このレポートをご覧の皆さんの目に触れる機会もあるかと思いますので、見かけた際はぜひ手にとってご覧ください。

Author

  • 吉澤 瑠美

    1984年生まれ、千葉県出身。千葉大学文学部卒業。約10年間Webマーケティングに携わった後、人の話を聞くことと文字を書くことへの偏愛が高じてライターになる。職人、工場、アーティストなどものづくりに携わる人へのインタビューを多く手掛けている。末っ子長女、あだ名は「おちけん」。川が好き。

    1984年生まれ、千葉県出身。千葉大学文学部卒業。約10年間Webマーケティングに携わった後、人の話を聞くことと文字を書くことへの偏愛が高じてライターになる。職人、工場、アーティストなどものづくりに携わる人へのインタビューを多く手掛けている。末っ子長女、あだ名は「おちけん」。川が好き。

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