Event report

2021.6.22

自分を憑依させた石と共に、京都にある冥界の入り口へ。

COUNTER POINT第4期「Skin Records in Kyoto」活動報告。

服部 木綿子

株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター

個人の偏愛と衝動を応援するレジデンスプログラムCOUNTER POINT byFabCafe Kyoto。コミュニティマネージャーの服部です。第4期プロジェクトである「Skin Records in Kyoto」のノガミカツキさんが、京都での滞在中に気になったという六道珍皇寺へ。六道珍皇寺の境内あたりは、いわゆるこの世とあの世の境、冥界への入口とも信じられている場所です。

ノガミさんの作品を持参し、ご住職の坂井田さんにお話を伺ってきました。

活動概要

【Skin Records in Kyoto】

映像作家としてキャリアを築きながらFORBS「30 UNDER 30 JAPAN」に選ばれるなど、近年注目される現代アーティストのノガミカツキさん。

自分の肌と顔が嫌いだったがゆえに、逆に執着するように、スキャナで取り込んだ自分の肌をUVプリントで石に施した作品を作り続けています。石は魂が宿るとも言われます。自分が死んだ後に、いつか誰も訪れなくなるような墓ではなく、ずっと大切な人の身近にあって欲しいという想いもあり、この作品が自分の墓のような存在になることも想像しているそう。

今回COUNTER POINT中に制作した作品は、下記の展示で実際に見ることができます。

生態系へのジャックイン展(The Exhibition of Jack into the Noösphere)
【会場】日本庭園「見浜園」
【会期】2021年7月24日〜8月8日 18:00-21:00(最終入場20:30)
※8月2日(月)休館日(見浜園は通常営業)

  • ノガミ カツキ

    現代アーティスト

    1992年新潟県長岡市生まれのメディアアーティスト。
    生きづらいインターネットとの付き合い方、現実とのギャップで歪んだアイデンティティと向き合う為に制作活動を続ける。

    https://katsukinogami.co/

    1992年新潟県長岡市生まれのメディアアーティスト。
    生きづらいインターネットとの付き合い方、現実とのギャップで歪んだアイデンティティと向き合う為に制作活動を続ける。

    https://katsukinogami.co/

今回訪問した動機はなんですか?

京都に来て、死について考えることが多くなりました。僕はもとから生きる気力を感じることが少なくて、なんとか自分の存在意義、自分にしかできない事を探して作品を作っています。
京都は古いものがたくさん残っていて過去の人々が現代まで強く影響している様から、自分の残し方についても興味が出ました。それを強く意識したのは、六道珍皇寺のあの世とこの世の境目、そして水子の絵馬でした。
魂の行方、自分の残し方を考える為に、この冥界への井戸を見る事、そして死生観について聞く為に訪問しました。

得られた気づきはなんでしたか?

主に寺の成り立ちや特徴、それに付随した京都の歴史についてのお話を伺いました。
寺の周辺の鳥野辺は葬送地であり、昔の地蔵もたくさん埋まっています。寺にある丸くなってきている地蔵は、年月の為に摩耗して形がなくなりました。これは私の作品にも繋がる話だと感じました。例えかたちが保てなくなったとしても、石はそれを宿した記録媒体である為、そこにはそれが宿っているのです。

冥界の出入り口である井戸は、特に出口が印象的でした。出口の井戸は100mの深さがあり、視覚できない距離というものが、異次元という説得力を持っていたのです。アニッシュカプーアの黒色に感じるめまいは、異次元を作るという作品でもあったのかもしれません。井戸の手前の石には足跡がついていました。また、入口と出口がある事は、死は一方通行である事に感じました。そしてそこを行き来していた小野 篁は、自身が母子家庭だった為に母を生き返らせるようえんま様に直談判しに冥界、地獄へと行きました。一説では法律に詳しかった為にその後えんま様の手伝いをしていたようです。彼の故人へ残る思い、弔いの仕方などについて考えました。日本では法律で火葬以外の選択肢は無く、宗教の違いや個々人の自由があっても良いと僕は思います。

京都では本当に死が身近であり、祖先の魂は伝統的な送り火で山に残っているとのことでした。魂は鴨川(三途の川)から六道の辻を通ります。住職の坂井田良宏さんのお話では、お盆という風習は、祖先に自分を見てもらう、背中を伸ばす様な機会である要素が強い為、日頃の行いを見直して欲しいと仰っていました。この話から、お盆は宗派を関係しない、民族的な風習であるという事も、日本の独特な混ざり合った風習を感じました。

寺の迎え鐘は、俗世から見えて良い物ではないからその姿が隠してありました。これは、見せる部分と見せない部分を構成する意味で、展示の方法にも反映できると感じました。境内の中でも観音様の高さや隠し方など、展示の方法についてとても学べることが多い気がします。ちなみに観音様は、音を観察できるから観音という名前だそうです。

手前のお地蔵さまは平安時代くらいのものだそう

足跡。この後ノガミさんは、自分の足跡と重ねていた。

迎え鐘

今後の活動、展望について

お盆の話のように、自分の身近な風習から死について見直すことができると感じました。そして、京都の様に歴史が重要視されている街では風習がたくさん残っていて知ることが多いが、他の町ではやはり難しい様に感じました。それでも、自分に繋がっている風習から何か掴めるかもしれません。

また、やはり石という素材は目に見えない何かを記録することのできる媒体だと思いました。水や木とは違って私達の役に立ちづらい物であり、漬物石のように重しにしか使えないような物であるからこそ、何かが宿った時にその重さが存在感に作用します。自分の制作の方向性が間違っていないという自信もついたので、石に自分を憑依させる制作をこのまま続けたいと思います。

六道珍皇寺の石をいただくことが出来た。これも作品になる予定。

  • 服部 木綿子

    株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター

    神戸生まれ神戸育ち。岡山で農林業や狩猟がすぐそばにある田舎暮らしを約10年に渡り経験。その中で2軒の遊休施設をゲストハウス(あわくら温泉 元湯・岡山県西粟倉村/mamma・香川県豊島)として再生し、自らも運営の第一線に立った。その後、神戸の農産物などを販売する「FARMSTAND」で、マネージャーとして店舗の運営に携るなど、ローカルのコミュニティ拠点づくりに関わってきた。2020年2月ロフトワーク入社。感性を頼りに現場どっぷりで培ってきた経験値に、ロフトワーク流のロジカルな手法を掛け合わせたアウトプットが出来る日を目指している。趣味は、自分の人生と感覚を観察して、文章を書くこと。イラストも描く。
    https://loftwork.com/jp/people/yuko_hattori

    神戸生まれ神戸育ち。岡山で農林業や狩猟がすぐそばにある田舎暮らしを約10年に渡り経験。その中で2軒の遊休施設をゲストハウス(あわくら温泉 元湯・岡山県西粟倉村/mamma・香川県豊島)として再生し、自らも運営の第一線に立った。その後、神戸の農産物などを販売する「FARMSTAND」で、マネージャーとして店舗の運営に携るなど、ローカルのコミュニティ拠点づくりに関わってきた。2020年2月ロフトワーク入社。感性を頼りに現場どっぷりで培ってきた経験値に、ロフトワーク流のロジカルな手法を掛け合わせたアウトプットが出来る日を目指している。趣味は、自分の人生と感覚を観察して、文章を書くこと。イラストも描く。
    https://loftwork.com/jp/people/yuko_hattori

同行してみて

COUNTER POINTに応募時は、どちらかというとご自身の顔に対する嫌悪感と、それゆえの執着のような話を話していたと記憶しています。今も変わらずその想いはあるんでしょうが、FabCafe Kyotoや京都の街での出会いの中で、思考をどんどん深めていっているようです。「死生観についてお坊さんと話してみたい」とノガミさんが言っていて、せっかくなら、そのきっかけとなった六道珍皇寺さんに行ってみよう!ということになりました。快く引き受けてくださったご住職の坂井田さん、ありがとうございます。

私も一緒に話を聞かせていただき、貴重な井戸も拝見し、京都に根付く歴史、文化の奥深さを体感することが出来ました。

ノガミさんの作品は、千葉の庭園で展示されることが決まっています。
生態系へのジャックイン展:https://2021.metacity.jp/
FabCafe Kyotoでは、7月後半から8月前半にかけて、作品が出来るまでの思考の痕跡を見ていただける予定です。(詳細は7月中旬に!)

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  • 服部 木綿子

    株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター

    神戸生まれ神戸育ち。岡山で農林業や狩猟がすぐそばにある田舎暮らしを約10年に渡り経験。その中で2軒の遊休施設をゲストハウス(あわくら温泉 元湯・岡山県西粟倉村/mamma・香川県豊島)として再生し、自らも運営の第一線に立った。その後、神戸の農産物などを販売する「FARMSTAND」で、マネージャーとして店舗の運営に携るなど、ローカルのコミュニティ拠点づくりに関わってきた。2020年2月ロフトワーク入社。感性を頼りに現場どっぷりで培ってきた経験値に、ロフトワーク流のロジカルな手法を掛け合わせたアウトプットが出来る日を目指している。趣味は、自分の人生と感覚を観察して、文章を書くこと。イラストも描く。
    https://loftwork.com/jp/people/yuko_hattori

    神戸生まれ神戸育ち。岡山で農林業や狩猟がすぐそばにある田舎暮らしを約10年に渡り経験。その中で2軒の遊休施設をゲストハウス(あわくら温泉 元湯・岡山県西粟倉村/mamma・香川県豊島)として再生し、自らも運営の第一線に立った。その後、神戸の農産物などを販売する「FARMSTAND」で、マネージャーとして店舗の運営に携るなど、ローカルのコミュニティ拠点づくりに関わってきた。2020年2月ロフトワーク入社。感性を頼りに現場どっぷりで培ってきた経験値に、ロフトワーク流のロジカルな手法を掛け合わせたアウトプットが出来る日を目指している。趣味は、自分の人生と感覚を観察して、文章を書くこと。イラストも描く。
    https://loftwork.com/jp/people/yuko_hattori

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