Interview

2019.2.3

「paper tunes」作者・杉山三さんインタビュー

WAVEクリエイターインタビュー Vol.2

吉澤 瑠美

手のひらから、世界へ。文字が音になる紙巻きオルゴール劇場

デジタル工作機械が身近になった昨今、ジャンルの垣根を飛び越えハイブリッドなものづくりを行う人が増えています。新しいムーブメントはユニークな活動や思いをもつクリエイターを続々と生み出し、そのうねりはまるで波のようにあらゆるものを吸収しながら大きさを増すばかりです。

FabCafe Tokyoでは「今、注目したいクリエイター」をキュレーションするプロジェクト「WAVE MONTHLY SHOWCASE」を始動。毎月一組のクリエイターを迎え展示やワークショップなどを展開します。

第二回は、紙巻きオルゴールで文字や絵から音を生み出す、杉山三さんの「paper tunes」にフォーカス。2018年12月に「The music of [ _?_] 」キャンペーンを開催、フォントデザイナーやイラストレーターとのコラボレーションを行いました。今後も世界各国での展開が期待されます。

杉山三さんに活動のルーツ、今後の展望についてお話を伺いました。

インタビュー・文=吉澤瑠美
編集=鈴木真理子

「手の中の楽器が世界を劇場にする」シアタープロダクツに受けた影響

オルゴールを作り始めたときのマニュフェストは、シアタープロダクツの「洋服があれば世界は劇場になる」というコンセプトに強く影響を受けています。当時は箱に入ったオルゴールを作っていたんですが、その箱の中に感情を揺さぶる要素が全て詰まっていたから、彼らにとっての劇場は街だけれども、僕にとっての劇場は手のひらに収まる楽器だな、と。オルゴールに対して「絵を音に変え、音が絵と舞い踊るスペクタクルを繰り広げます」という打ち出しをしたんですよね。

2011年の12月に、森岡書店の茅場町店(現在は銀座店に移転)が何か表現したいという僕に場所を貸してくれて、個展を開くことになったんです。オルゴールをアートとしてどう見せるかという構想がぼんやり出てきて、作るとなったら必然的にどんどん形が決まっていきました。プロトタイプを当時シアタープロダクツプロデューサーの金森香さん(現在はロフトワークのAWRD編集長)に見てもらう機会があったんですが、「アートなのかプロダクトなのか」ということと「これでプロダクトとしてどうやっていくの?」と助言を受けて。それは今もずっと残っていますね。最初は気持ちだけで走るつもりでしたが、尊敬する人たちのアドバイスを受けて、マネタイズの工夫から、作ったものをどう守って・広げていくか、オープンとクローズの関係もすごく考えるようになりました。

オルゴールは「読む楽器」であり個人と世界をつなぐ「窓」

僕にとってオルゴールは単純な食い扶持ということではなく、外に対して開かれる窓。自分なりに世界を理解するツールだと思っています。窓の形が変わっていると外の人が覗きに来てくれるんですよね。お客さんにとってもセンス・オブ・ワンダーを刺激する要素が少なからずあると思うし、本気でそのプロダクトやワークショップに個人が向き合うことで共鳴し合うこともできる。結局、開かれたものであってほしいという思いがありますね。

昨年は「読む楽器」「言葉を贈るオルゴール」という言葉がブランドの核になるんじゃないかと気付いて、オルゴールのパッケージを本にして、本棚にしまえる形にしてみました。大掃除の途中で「そういえばこんな本あったな」と半年に1回ぐらい思い出してもらえるUXはオルゴールの音色を聞く周期に重なっていると思って。「書籍」や「言葉」というのも自分の中ではテーマとして重要な位置にあります。

また、最近はワークショップとプロダウトアウトのほかに、動画(Instagram)で伝えることにも取り組み始めました。世界中の人たちに僕がかつて感動した初期衝動とまったく同じ体験を共有するとしたら、動画は一番伝わりやすい方法なんじゃないかと思うんです。Instagramなら、実物を手にしなくても目に見えるものが音に変わって心に刺さる体験をお裾分けできるかなと思って。今まさに試行錯誤しているところです。

プロダクトデザイナーではなくアーティストとして課題発見に挑戦

2019年には発表できると思うんですが「言葉の海を泳ぐ」ような体験をアートとして作っていきたいと思ってます。違う形態の表現を組み合わせて、素材も新しい組み合わせにして、見た目も変えて空間的にするつもりです。たぶんそこでも影響を受けたものがかなり表れると思います。

自分自身は何を表現したいのか、時代に何を感じているのか、自分なりの仮説をオルゴールに預けたいんですよね。ツールは何であれ、技芸と視点とがとても高い水準で結ばれている何かを作りたい。もう一度プロダクトではなくアートとして、一人のアーティストとして本気で取り組みたいと思っています。プロダクトやデザインとアートは志向が違うので。

この7年間は導かれるようにデザイン=「課題解決」のアプローチでプロダクトを作り込んできました。取っ手の回しやすさや五線譜の視認性、音がどれぐらい出るか、実はユーザー体験をかなり気にしています。杉山三っていう名前も、プロダクトの匿名性を保ちたくて付けました。アノニマスな存在として、自分が亡くなって個人の存在が漂白された後も残ってほしいという願いを込めて、ただの「すぎやまさん(杉山三)」と名乗っています。

一方、アートは課題発見だと思っています。自分がかすかに感じているストレスや不満、ユーザーも言語化できていない感覚とかちょっとした違和感。課題発見を得て、それを見える化して、問題提起したい。すごくラディカルなものが表れてしまっても、それはそれで仕方ない。「共感が欲しいからやるわけではなく、個人の中の海を深く潜る」といったことを意識してやりたいですね。賛否両論があったとしてもそれを表現するかどうか、自分の覚悟を問われることが待ち構えているかもしれないです

「音の図書館」を作りたい

海外のFabCafeでもワークショップをやりたいと思っています。そして、その取り組みの中で、新しいアーティストも現れるといいなと思います。始める早さ・遅さはどうでもいい、その本人の中に強い衝撃が走って、自分が感じていることを表現したいのならその人は僕と同じ地平に立つアーティストなんですよね。カンブリア紀みたいに、オルゴールという枯れた技術からいろいろなものが生まれてきたらめっちゃ面白いじゃないですか。そのドライブが見たいです。そこで僕は、相手さえ良ければ一緒にやりませんか、とか、このアイデアで違う発展形を作って発表するとか、相乗効果を生み出したいと思っています。コールアンドレスポンスかもしれないですね、手紙になぞらえるなら文通。ビジュアルと音の両方でのインタラクションを期待しています。

言語の違いは面白いですよ。最初はアルファベットで譜面を作っていたんですが、日本人ならひらがなで発信するのがいい、とある友人に言われたんです。「タイの屋台の看板とか面白くない?コカコーラの文字のTシャツとか買いたくない?あの感じ」「タイ語やハングル文字を日本人が見て、意味性ではなく、ただビジュアルとして面白いという感覚と同じで、ひらがなでコンテンツを発表し続けるほうが外国の人に面白さが伝わりやすいのでは」とアドバイスを受けて、Instagramではひらがなでオルゴールを奏でる試みをしています。

世界中の言語がフォント化されてオルゴールに落とし込まれると、言語の多様性が音に置き換わる「音の図書館」ができます。それがオープンイノベイティブに、世界各地で図書館みたいにアーカイブされていくといいですよね。そこに「何かしたい、作りたい人たち」が有機的につながっていくFabCafeが機能しているイメージが僕にはあります。形としての言葉の面白さが音になり、そこに言語の形状による音の性質が見えだす。面白くないですか?僕は香港で幼少期を過ごしたので、次はワークショップを香港でできたらいいなと思っています。

次回の「WAVE MONTHLY SHOWCASE」では神楽岡久美さんとコラボレーション。「Study of Metamorphose – 美的身体メタモルフォーゼ – 」展を行います。未来の科学を想起させる身体の美、どうぞお楽しみに。

Author

  • 吉澤 瑠美

    1984年生まれ、千葉県出身。千葉大学文学部卒業。約10年間Webマーケティングに携わった後、人の話を聞くことと文字を書くことへの偏愛が高じてライターになる。職人、工場、アーティストなどものづくりに携わる人へのインタビューを多く手掛けている。末っ子長女、あだ名は「おちけん」。川が好き。

    1984年生まれ、千葉県出身。千葉大学文学部卒業。約10年間Webマーケティングに携わった後、人の話を聞くことと文字を書くことへの偏愛が高じてライターになる。職人、工場、アーティストなどものづくりに携わる人へのインタビューを多く手掛けている。末っ子長女、あだ名は「おちけん」。川が好き。

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