Event report

2023.1.18

リジェネラティブ(再生型)ビジネスモデルのあり方とは

森林活用、素材開発、プラットフォームの国内外の取り組みを紹介

crQlr Meetupについて

crQlr Meetupは、循環型社会を目指す未来のクリエイターをつなぐことを目的に開催している、世界各地のFabCafeが主催するオンライン・オフラインのイベントです。本シリーズやその他のFabCafeの最新情報・更新をご希望の方は、FabCafeニュースレターを購読ください。
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人と地球の共存を実現する再生型のビジネスモデルとは

リジェネラティブなビジネスモデルを目指す3つの活動を紹介 

自然資源の活用を通したリジェネラティブ(再生型)のビジネスモデルが、経済的・生態的にどんな可能性があるのか。2022年9月30日に開催されたcrQlr Meetup Hidaでは、このテーマに取り組む3名の活動を紹介しました。モデレーターは、FabCafe CCO兼Loftwork Sustainability ExecutiveのKelsie Stewartが務めました。

イェリズ・マート

生産的で収益性の高い、公平で回復力のあるランドスケープを作るという共通のビジョンを持った人々をつなぐ、知識主導型のプラットフォーム、「グローバル・ランドスケープ・フォーラム」のナレッジシェアリングコーディネーター。土地に根ざした再生可能なビジネスモデルが、人と地球の公平性とと回復力を高めるべく活動している。

岩岡 孝太郎

FabCafeの創設メンバーであり、ヒダクマの代表取締役社長兼CEO。デジタルファブリケーションやITなどのテクノロジーを活用し、飛騨の匠の技や木材の振興を目指す。

ロナルディアス・ハータンティオ

Mycotech Lab (以下、MYCL) Chief Innovation Officer兼共同設立者。MYCLは、インドネシア発のバイオベースマテリアルのスタートアップ企業。MYCLは、キノコの菌糸を天然の接着剤として使用した材料の栽培に注力しており、現在、長野県にも拠点を立ち上げ、活動を拡大中。

「リジェネラティブ(再生型)ビジネスモデル」とは

テーマとなった「リジェネラティブ(再生型)ビジネスモデル」について、モデレーターのケルシーから「事業の意図と戦略の結果として、プラスの乗数効果を生むビジネスのこと」という説明がありました。そのうえで、まず、FabCafeグローバルチームでもあるヒダクマの活動から紹介しました。

テクノロジーを駆使した持続可能な広葉樹伐採の可能性

岩岡 孝太郎 私たちのミッションは、安価なチップに使われる広葉樹の価値を高め、経済的に森に還元することで、持続可能で豊かな森をつくり、将来にわたって安定した林業を実現することです。

ヒダクマ(正式名:飛騨の森にクマは踊る)は、飛騨市、トビムシ、ロフトワークの官民連携で2015年に設立されました。ヒダクマの最初のプロジェクトは、カフェ、デジタルファブリケーションラボ、木工スタジオ、ゲストハウスを含むFabCafe Hidaで、国際的な建築家を魅了しています。

豊かな森林と飛騨の匠の木工技術は、1300年以上にわたって日本の工芸の発展に貢献してきました。飛騨は土地の93.5%を森林が占め、そのうち68%が広葉樹の天然林ですが、国産広葉樹の価格が高騰し、針葉樹や輸入材の需要が高まっています。これまでの国産広葉樹の課題として、ほとんどの家具デザインに欠かせない大きなサイズの素材が海外輸入広葉樹に比べて少ないことがあるといいます。そこで、ヒダクマは新しい技術を駆使して飛騨の持続可能な家具生産をさらに発展させるべく取り組んでいます。


岩岡がこの課題への取り組み方を示すプロジェクトのひとつに、「TORINOSU」というプロジェクトがある。広葉樹の自然な形である「しなり」を3D技術で解析し、そのデータをもとにデザイナーが家具をデザインし、精密に製作することで、自然の形とデザインが調和した家具を完成させるというものです。

知識を行動に変え、スケーラブルな変化を支援するイェリズ・マート

次のゲスト、グローバル・ランドスケープ・フォーラム(以下、GLF)のイェリズ・マートさんはソーシャルデザイナーであり、カタリストです。再生農業、循環型経済、気候変動対策、多様性と包摂の分野で10年以上の経験を持ち、crQlrアワード2022の審査員9人のうちの1人でもあります。

GLFでの彼女の目的は、「知識を現場での行動につなげる道筋を作る」こと。イエリズは、”The Regenerative Business “の著者であるキャロル・サンフォードを引き合いに出し、再生可能なビジネスとは、「コミュニティ、産業、資源など、その事業が営まれるシステム全体における自らの位置を認識するビジネス」であると説明しました。また、循環型経済をめぐる別の視点も提示しました。

イェリズ・マートさん 循環型のビジネスモデルには限界があります。なぜなら、循環型モデルは、私たちを「ビジネス・アズ・ユージャル」(=既存のビジネスモデル)の考え方から根本的に脱却させてはくれないからです。循環型モデルは資源の使用を最小限に抑えるとはいえ、あくまで資源を使用することに重点を置いています。つまり、生態系がビジネスモデルの中心に置かれていないのです。

また、再生型のビジネスモデルの成果をどのように測定・分析すればいいのでしょうか。イェリズさんは、再生型ビジネスモデルのビジネス原則と主要業績評価指標(KPI)について以下のように説明しました。

イェリズさんは、GLFのコアバリューについて、「世界中のコミュニティをつなぐこと」、「人々やコミュニティ間での知識の共有を促進すること」、「行動を加速させること」と説明しました。

GLFは、先住民の活動家から首相まで多様な講演者を集め、イェリズさんの言う「急進的な」会議を主催している。GLFは現在、6万人以上の若者たちによる世界的な運動を支援しており、若者の参加はGLFの重要な活動となっています。たとえば、「ユース・イン・ランドスケープ」イニシアチブでは、修復スチュワードの選抜に5,000ユーロが授与され、プロジェクト資金、トレーニング、修復専門家による指導を受けることができるといいます。

ロナルディアス・ハータンティヨが語る持続可能なバイオマテリアルの未来とは

MYCLの共同設立者でありイノベーション・オフィサーであるロナルディアス・ハータンティヨさんは、MYCLがサステイナブル・レザーのベース素材としてキノコを活用する背景と、既存の牛革との比較を通して菌糸レザーの可能性を説明しました。

 

ロナルディアス・ハータンティヨさん 建築構造や家具の開発に菌糸を使うことから始め、さまざまな試作品を通して、きのこが皮革のような特性を持っていることを発見しました。動物性レザーは、土地や水を大量に使用し、家畜からCO2を大量に排出することで、環境に悪影響を与えてしまいますが、きのこは違います。

さらに、「ここまでの活動は革命の始まりに過ぎず、MYCLを成長させるために、今後多くのコラボレーションを進めたい」と意気込みを語りました。

再生型ビジネスモデルの今後の行方

再生型ビジネスモデルに関してそれぞれの意見を聞きました。

再生ビジネスの現在のトレンドと、その未来についてどう思われますか?

イェリズ・マートさん 私にとっては、社会のあり方が持続可能なビジネスモデルへと進化し、さらに再生可能なビジネスモデルへと拡大しているのを見るのは、とてもポジティブなことです。気候が悪化しているとはいえ、これは私に希望を与えてくれることのひとつです。

岩岡 孝太郎 木を植えたり、育てたり、伐採することをとおして、人々の視点がそこにある資源に焦点を当てようと考え方がシフトしていることもわかります。人々が森林の自然循環をコントロールするのではなく、既存の森林の再生力にもっと焦点が当てられていると思います。

エンパワーされた参加と地域の方々の役割について教えてください。また、どのようなステークホルダーがみなさんの仕事に関わっていますか?

ロナルディアス・ハータンティヨさん 卒業後の最初の仕事はバナキュラー建築(建築家のいない建築)でした。この仕事では、地元の村々を訪ね、そこで多くのことを学びました。仕事の中で、彼らの話に耳を傾け、実際に社会的実現可能性を調査したことで、彼らに必要だったのは、私が予想していた電力ではなく、コーヒーを売る市場だったということが分かったことがありました。

イェリズ・マートさん 私たちは発想の転換が必要です。私たちが成功体験を積んできた、人々を豊かにしてきた短期的な考え方はもう通用しません。私たちがこれから迎える次の時代は、もっとゆっくりと考える必要があるんです。私たちが自然を押したり引いたりしているだけでは、自然が回復することは期待できません。ソーシャル・キャピタルやコミュニティの構築も同様です。

crQlrアワードについて

2021年、FabCafe Globalとロフトワークが日本初のサーキュラーデザイン分野のアワードとして立ち上げた「crQlrアワード」は、循環型経済システムの実現に取り組む未来のデザイナーを支援することを目的としています。業界や国を越えてつながり、知識や技術を共有することで、可能性を見出し、新たな価値を創造していくコミュニティの育成を目指します。

多種多様な世界で、インパクトのある循環型システムを発展させるにはどうしたらいいでしょうか。我々は、FabCafeのグローバルネットワークの活動を通して、長期的な変革は多くの場合小さなことから始まり、地域コミュニティの特定のニーズに応えるものであることを証明してきました。そこで二年目となるcrQlr Awards 2022では、地域社会の問題解決を目指すボトムアップの活動にスポットを当てるFabCafe Global Special Prizeを導入しています。

これまでのcrQlrサミットについて、ご興味のある方は以下をご覧ください。
>>「スケーラブル・インパクトの創出」をテーマにしたcrQlrサミットvol.3のレポート
>>「システムデザインと天然資源」をテーマにしたcrQlrサミットvol.4のレポート

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  • FabCafe編集部

    FabCafe PRチームを中心に作成した記事です。

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