Project Case

2020.8.6

ポストパンデミック時代における非接触の展示とは? 京都精華大学産学連携授業「インタラクティブデザイン2020」

浦野 奈美

SPCS / FabCafe Kyoto

京都精華大学のプロジェクト授業として2020年4月21日(火)〜8月3日(月)にわたって開催された「インタラクティブデザイン2020」。メインの講師は美術家のやんツーさんとエンジニアの中農稔さんの2人で、半年間に渡って毎週開催されました。FabCafe Kyotoはこの授業のパートナーとして参加しました。授業のテーマは「ポストパンデミック時代のデザイン/クリエイション」。一昨年は成果発表、昨年は授業の学外会場&展示会場の場として協力してきたFabCafe Kyoto。今年は講師チームとしても授業にも参加。学生たちは、ポストコロナの時代における展示のあり方を2回のアウトプットを通して模索しました。

【期間限定公開中】最終課題講評会

8月3日(月)にYouTube Liveをとおして開催された最終課題講評会が、期間限定で一般公開されています。ゲストとしてメディアアーティストの市原えつこさん、編集者でキュレーターの塚田有那さんもお迎えして、豪華版でお送りした講評会。学生たちからのストレートな質問に、ゲストを含め、講師陣が熱く答えていたのが印象的でした。
ポストパンデミック時代デザイン/クリエイションという、難しく答えのないテーマに、学生同士もオンラインのみで取り組んだにもかかわらず、興味深い視点に溢れる作品が揃いました。ぜひご覧ください。
京都精華大学ビジュアルデザイン学科3年プロジェクト授業 「インタラクティブ・デザイン」 最終課題作品 公開オンライン講評会+ゲストレクチャー
配信URL:
https://youtu.be/Rsg8iRR6OSY(公開期間:〜2020年8月13日)
講師:やんツー(美術家)、中農 稔(エンジニア / テクノロジスト)、大溝 範子(京都精華大学 デザイン学部 ビジュアルデザイン学科教授)
ゲスト出演:市原えつこ(メディアアーティスト)、塚田有那(編集者/キュレーター)

非接触の展示のあり方を考える

「インタラクティブデザイン」は、デザイン学部ビジュアルデザイン学科3年生向けの授業。プロジェクト型授業として、一昨年度から毎年開催しています。昨年までのテーマは「メディアアート」でしたが、今年はより問題解決的な思考やプロセスに取り組みました。

授業は毎週月曜と火曜のそれぞれ13:00〜17:50という、学生たちにとってもかなりの時間を使って取り組むもの。月曜日は中農さんから映像、ビジュアル制作のためのプログラミングの授業が行われ、火曜日はやんツーさんからArduinoを用いたハードウェアのプログラミングや、メディアアートの文脈に沿ったインプットとアイディエーションが行われました。FabCafe Kyotoは産学連携パートナーとして授業に参加。授業に向き合う下準備として、答えのない課題に向き合うための思考力をトレーニングするためのワークショップを実施しました。

全編オンラインで進められた本授業。今年は三密を避けた展示の方法はもとより、展示自体のあり方も考え直す必要があります。学生たちはチームごとにディスカッションを重ね、中間と期末の2回に渡って課題発表を行いました。最終課題発表会では、ゲストとしてメディアアーティストの市原えつこさん、編集者でキュレーターの塚田有那さんもお迎えして公開講評会を実施しました。

  • 昨年のテーマは「ハッキング/公共圏に介入する」。受講生たちは、各々の視点から、カフェ店内における既存の機能や「場」そのものに対し、テクノロジーを用いた作品をもって介入していくことを試みました。

  • 作品の多くははFabCafeの工作機械も用いて作られました。

  • たった一つのLEDで普通の飲み水を神々しく光らせることで、神社の山奥から溢れ出ているような感覚を呼び起こそうとした作品。

  • タグの「どこの誰のものか示す」という役割に着目し、オリジナルのタグをカフェのあらゆるものに付けることで、介入を試みた作品。

ポストパンデミック時代のデザイン/クリエイションを模索

授業のテーマは「ポストパンデミック時代のデザイン/クリエイション」。ユーザーとコンテンツ(対象、他者)との関係性やコミュニケーションのためのデザインを、思考と実践の両方から取り組みます。講師のやんツーさんは、授業の意図を、美術評論家の椹木野衣さんの言葉を引用しながら、学生たちに以下のように投げかけました。

新型コロナ・ウイルスは人と人とを隔て、あらゆるところに壁を立て、人類の活動をグローバリズム以前の世界へと引き戻そうとしている。仮に今回のパンデミックが早期の収束を見たとしても、世界は、社会がいつ崩壊してもおかしくないほどのリスクが厳然として存在することを知ってしまった。喉元を過ぎたからといって、すっきりもとの通りに戻れるというのは、考えが甘すぎるだろう。今回のようなパンデミックは、人類がその生き方を根本から変えない限り、今後も十分に発生しうる。

美術の展覧会に至っては、モノとしての保護を第一とする文化財なら、そもそもがヒトを敬遠するはずのものだった。他方、ヒトを必要としない情報の通信速度はますます飛躍的に進んでいく。遠からずそれは、同時性や固有の場所という概念そのものを刷新してしまうだろう。ポストパンデミック時代の新しい体験性とはなにか。私たちは、かつてない性質の時の猶予を得た今、「ポス・パン」の世界像とその可能性について、新たな思索と模索を始めなければならない。

自らの手を動かし何かを作り出すことによって、社会に関わる方法や考え方を教えるのが芸術大学なのだとしたら、コロナウィルスのような新たな課題についても、考え、実験する場であるべき、とやんツーさんは学生たちに伝えます。学生たちの普段の制作や生活と現在の問題を結びつけて考え、クリエイティブな発想で未来を切り開いていく方法を共に思考し、実践する授業になりました。

オンラインワークショップで学生の思考を深堀り

学生たちは授業の中で、明確な答えのないテーマに対してさまざまなアイデア出しをすることになります。アイデアとはひらめきだけでなく、多くは既存の要素を組み合わせることによって生まれるもの。そのためには、身の回りにあるものを自分自身がどのように認知し、意味を見出し、言語化できるかということが大切。ものごとをひとつひとつ深く考え、根本を問い直す姿勢が必要になります。

そこで、全国的自粛の中でのゴールデンウィークが明けた5月11日(月)、オンライン授業の中で、学生たちに向けて授業に向き合うマインドセットを醸成するためのワークショップを実施しました。ワークショップを企画・ファシリテートしたのは、FabCafe Kyotoを運営するロフトワークの上ノ薗正人木下浩佑。「5Whys」というフレームワークをベースに、「好きなもの」や「授業に参加する理由」といった問いへの回答について、「なぜ」を5段階深掘りするというワークを実施しました。

学生たちはこのワークを通じて、普段いかに「なぜ」を掘り下げていないか、また、いざ掘り下げようと思っても難しいということを実感できたようでした。また、それまで認識できていなかったことを発見したり、連想して関係なさそうなものが繋がっていったりと、これからのアイデアワークに必要な思考を学ぶことができたようでした。

また、ワークショップはZoomでつなぎながらGoogle Slideを使って行いました。同じスライドを使って学生たちがライブで空欄を埋めていくことで、同時に仲間の思考を共有することもでき、Face to Faceで行うワークショップではできない学びもありました。

バーチャル空間を使った中間発表会

2020年6月24日の授業では、学生たちが取り組んできた表現の中間発表と講評会が行われました。中間発表はバーチャルSNSのCluster上に作られた展示会場で、学生たちの作品が展示され、学生や講師陣がアバターとして一人一人の部屋を訪れながら講評をするという形式で行われました。学生ごとに異なった空間を作り上げ、それぞれ非接触のバーチャル空間だからこそできるコミュニケーションや身体性を模索した作品を展示しました。この展示はしばらくの間観覧可能です。ぜひ覗いてみてください。

関連リンク:
「ポストパンデミック時代のデザイン/クリエイション」VR小課題展
(※ Clusterのアプリケーションをインストールしてご覧ください)

授業概要「インタラクティブデザイン2020」

学生たちが考えた内容や授業のアウトプットについては、成果発表をもってお知らせします。お楽しみに。

期間: 2020年4月21日(火)〜8月3日(月)
講師: やんツー中農 稔、大溝 範子
京都精華大学デザイン学部公式サイト: 
https://www.kyoto-seika.ac.jp/edu/design/
参考: 昨年の授業の様子

  • やんツー

    美術家

    1984年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。美術家。京都精華大学デザイン学部ビジュアルデザイン学科特別任用講師。2009年多摩美術大学大学院デザイン専攻情報デザイン研究領域修了。デジタルメディアを基盤に公共圏における表現にインスパイアされた作品を多く制作している。文化庁メディア芸術祭アート部門にて「SENSELESS DRAWING BOT」が第15回の新人賞、「Avatars」が第21回の優秀賞を受賞(共に菅野創との共作)。2013年、新進芸術家海外研修制度に採択され、バルセロナとベルリンに滞在。近年の主な展覧会に「札幌国際芸術祭2014」(チ・カ・ホ、14年)、「オープン・スペース2015」(NTTインターコミュニケーションセンター [ICC]、15年)「あいちトリエンナーレ2016」(愛知県美術館愛知、16年)、「Vanishing Mesh」(山口情報芸術センター [YCAM]、17年)、「DOMANI・明日展」(国立新美術館、18年)などがある。
    http://yang02.com/

    1984年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。美術家。京都精華大学デザイン学部ビジュアルデザイン学科特別任用講師。2009年多摩美術大学大学院デザイン専攻情報デザイン研究領域修了。デジタルメディアを基盤に公共圏における表現にインスパイアされた作品を多く制作している。文化庁メディア芸術祭アート部門にて「SENSELESS DRAWING BOT」が第15回の新人賞、「Avatars」が第21回の優秀賞を受賞(共に菅野創との共作)。2013年、新進芸術家海外研修制度に採択され、バルセロナとベルリンに滞在。近年の主な展覧会に「札幌国際芸術祭2014」(チ・カ・ホ、14年)、「オープン・スペース2015」(NTTインターコミュニケーションセンター [ICC]、15年)「あいちトリエンナーレ2016」(愛知県美術館愛知、16年)、「Vanishing Mesh」(山口情報芸術センター [YCAM]、17年)、「DOMANI・明日展」(国立新美術館、18年)などがある。
    http://yang02.com/

  • 中農 稔

    エンジニア / テクノロジスト

    京都精華大学 非常勤講師、Gs Academy メンター、Landskip テクニカルディレクター。面白法人カヤックにてエンジニア/ディレクターを経て独立。デジタルサイネージ、インタラクティブコンテンツ、インスタレーションを中心に企画と制作を行う。
    主な受賞:GUGEN HIRAMEKI 2014 大賞、ArtHackDay 2015 優勝、YouFab 2016 FINALIST、県北芸術祭2016 選出
    https://twitter.com/nenjiru

    京都精華大学 非常勤講師、Gs Academy メンター、Landskip テクニカルディレクター。面白法人カヤックにてエンジニア/ディレクターを経て独立。デジタルサイネージ、インタラクティブコンテンツ、インスタレーションを中心に企画と制作を行う。
    主な受賞:GUGEN HIRAMEKI 2014 大賞、ArtHackDay 2015 優勝、YouFab 2016 FINALIST、県北芸術祭2016 選出
    https://twitter.com/nenjiru

  • 大溝 範子

    京都精華大学 デザイン学部 ビジュアルデザイン学科教授
    創造戦略機構 キャリアデザインセンター長

    京都精華大学美術学部デザイン学科卒業。 ゲームキャラクターのディレクション及びゲーム開発デザイン全般を担当。並行してプロジェクトマネージング、人事採用まで幅広く行ってきた。現在、スマートフォンのゲームアプリのアートディレクション等で活動中。

    京都精華大学美術学部デザイン学科卒業。 ゲームキャラクターのディレクション及びゲーム開発デザイン全般を担当。並行してプロジェクトマネージング、人事採用まで幅広く行ってきた。現在、スマートフォンのゲームアプリのアートディレクション等で活動中。

  • 木下 浩佑

    株式会社ロフトワーク / MTRL・FabCafe Kyoto
    マーケティング & プロデュース

    京都府立大学福祉社会学部福祉社会学科卒業後、カフェ「neutron」およびアートギャラリー「neutron tokyo」のマネージャー職、廃校活用施設「IID 世田谷ものづくり学校」の企画職を経て、2015年ロフトワーク入社。素材を起点にものづくり企業の共創とイノベーションを支援する「MTRL(マテリアル)」と、テクノロジーとクリエイションをキーワードにクリエイター・研究者・企業など多様な人々が集うコミュニティハブ「FabCafe Kyoto」に立ち上げから参画。ワークショップ運営やトークのモデレーション、展示企画のプロデュースなどを通じて「化学反応が起きる場づくり」「異分野の物事を接続させるコンテクスト設計」を実践中。社会福祉士。2023年、京都精華大学メディア表現学部 非常勤講師に就任。
    https://loftwork.com/jp/people/kousuke_kinoshita

    京都府立大学福祉社会学部福祉社会学科卒業後、カフェ「neutron」およびアートギャラリー「neutron tokyo」のマネージャー職、廃校活用施設「IID 世田谷ものづくり学校」の企画職を経て、2015年ロフトワーク入社。素材を起点にものづくり企業の共創とイノベーションを支援する「MTRL(マテリアル)」と、テクノロジーとクリエイションをキーワードにクリエイター・研究者・企業など多様な人々が集うコミュニティハブ「FabCafe Kyoto」に立ち上げから参画。ワークショップ運営やトークのモデレーション、展示企画のプロデュースなどを通じて「化学反応が起きる場づくり」「異分野の物事を接続させるコンテクスト設計」を実践中。社会福祉士。2023年、京都精華大学メディア表現学部 非常勤講師に就任。
    https://loftwork.com/jp/people/kousuke_kinoshita

  • 上ノ薗 正人

    株式会社ロフトワーク
    クリエイティブディレクター

    大阪生まれ大阪育ち。九州大学芸術工学部環境設計学科卒業。大阪のデザイン事務所grafで丁稚として修行後、再び福岡に移住。福岡の古ビル再生プロジェクト「紺屋2023」の設計、運営を行うno.d+a / TRAVEL FRONTでの勤務を通してデザイン、建築設計からイベント運営、アートプロジェクト等幅広い業務に携わる。

    2014年に関西に戻り、グランフロント大阪ナレッジキャピタルの総合プロデュース室に所属。アルスエレクトロニカとの協働プロジェクトや中高生を対象とした学びのプログラムを担当。2017年よりロフトワークに入社。趣味は野球観戦とハイキング。

    https://loftwork.com/jp/people/masato_uenosono

    大阪生まれ大阪育ち。九州大学芸術工学部環境設計学科卒業。大阪のデザイン事務所grafで丁稚として修行後、再び福岡に移住。福岡の古ビル再生プロジェクト「紺屋2023」の設計、運営を行うno.d+a / TRAVEL FRONTでの勤務を通してデザイン、建築設計からイベント運営、アートプロジェクト等幅広い業務に携わる。

    2014年に関西に戻り、グランフロント大阪ナレッジキャピタルの総合プロデュース室に所属。アルスエレクトロニカとの協働プロジェクトや中高生を対象とした学びのプログラムを担当。2017年よりロフトワークに入社。趣味は野球観戦とハイキング。

    https://loftwork.com/jp/people/masato_uenosono

  • 浦野 奈美

    SPCS / FabCafe Kyoto

    大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。

    大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。

Author

  • 浦野 奈美

    SPCS / FabCafe Kyoto

    大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。

    大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。

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