Event report
2020.11.18
田根 佐和子
株式会社ロフトワーク / マテリアルプロデューサー、コミュニケーター
2020年08月19日に開催されたFab Meetup Kyoto vol.45のプレゼンターをご紹介します。
イベント概要はこちら
Fab Meetup Kyotoとは?
「Fab Meetup Kyoto」は、多種多様なバックグラウンドの人たちが、月に1度、ゆるーくお酒を飲みながら、アイデアやプロジェクトをシェアするMeetupイベント。毎回複数のクリエイターが「つくる」にまつわるショートプレゼンテーションを行います。MTRL KYOTO / FabCafe Kyotoのオープン以降、毎月のレギュラーイベントとして開催され、業界の垣根を超えた人が集まるコミュニティが育ってきました。
新型コロナウィルス感染症流行の影響を受け、FabCafe Kyotoに実際に集まっての開催をお休みしていましたが、2020年8月よりオンライン版にて再開します。オンライン版のFab Meetup Kyotoでは、毎回1組のゲストを迎え、対話を通して「つくる」人の魅力や奥深さに迫ります。
Fab Meetup Kyoto vol.45では京都にある染工場、アートユニさんにお伺いし、西田社長に話をうかがいました。
ご一緒したのはアフリカドッグスを運営する中須さん。
前職、京都信用金庫勤務時代に、アートユニさんを担当していた中須さんは、西田さんとご一緒するうちに価値観がかわり、後に独立することになったと言います。
「銀行って数字だけで企業を判断するじゃないですか。売上額とか、利益額とか。
ここにしかない技術がある、ということや、どれだけ強みがあるか、ということを知っていても、銀行の評価軸では一切評価できない。それが歯がゆかった」
「いくら数字で表そうとしても、そもそも数字に表せてない価値領域がありすぎる」
「また、お金の貸し付けでは数字以外の価値基準部分を伸ばす事がむずかしい。そこを伸ばしたいと思ったときに、銀行の業務内容では手が出せないと思い、独立を決意しました」
中須さんはアフリカに残る「おあつらえ(仕立て)」の文化に着目し、日本の職人が染めた布をアフリカ・トーゴ共和国の職人さんに仕立てて貰うというブランドを立ち上げ、その染めの部分を西田さんの工場が担っています。
西田さんは御年73歳。アートユニの長として、日々職員とともに布を染めています。
アートユニは西田さんを入れて5人の少数精鋭の工場(うち1名は修行中の大学生。未来に期待が持たれます!)。
ウェブサイトもありませんが、世界中のハイブランドからオーダーが入る、業界の「駆け込み寺」だといいます。
型染めも手染めもこなし、化学染料も天然染料も扱い、染め付ける布の種類も問わず、あらゆるオーダーに応える技術があります。
染める布のサイズも他の染め屋と比べて大きいのも特徴だとか。
一体どうしてこうなったのか、今回のFab Meetup Kyotoではその秘密に迫りました。
アートユニの工場は1階に型染めの設備、そして2階に手染めの設備があります。
それぞれを担当する職人さんは型染めの方が一名、手描き染めの方がお二人。
「本当は染料場にもう一人、見本場にももう一人、くらい居てもいいんやけど。少数精鋭でやってます」 ──西田さん
「染め屋とできもんは大きくなったら潰れる、っていうてな」と西田さん。
常時平均して大量の発注があるわけではない染め屋の仕事は、常に大勢の職人を抱えていることは厳しく、少数で機敏に動く方がやりやすいといいます。
どの産業もそうですが、産業隆盛期は効率化を目指して、様々な工程が分業化/専業化したという歴史があります。──そして時は過ぎ、今。
「糊屋は5軒、蒸し屋は2軒、刷毛作ってる人は多分一人、布の幅を出す人もあと3軒(広幅)かな」──西田さん
このまま、それぞれの工程を担う工場が店をたたむと、遠からず、日本の染めの業界は途絶えます。それを回避するには、今のうちに手法をアップデートさせるか、製品が見直され注文が増えるか、あるいは単価を上げることが出来るようになるか……が必要となります。
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1F。型染めの台がずらりと並ぶ。
長さは26m。幅は珍しい広幅。 -
1F糊置き場。布と染料の種類によって糊の種類も変わる。「時にはブレンドしたりもします」「夏場はすぐに糊も腐るんだよなあ」とのこと
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2F。手染めのフロア。1Fで型染めしたものを2階で追加で手染めするなどの作業が出来ることもアートユニの強み
今年の頭くらいまではかつてなく景気がよかった、と西田さん。
「海外の安価な製造に飽き足らなくなった人たちが国内回帰をし始めてましたよね。
そして、そのタイミングで、コロナ」──中須さん「今回は凄かったな。注文が殆ど全部、キャンセル。ゼロや」──西田さん
バブル崩壊、リーマンショックといった過去の大きな危機的局面の時にも型染めだけではなく手染めも開始してみたり、など、業態を変えて「それがその後10年自分たちの特色となって残った」と西田さん。
「ある日西田さんから電話があって『暇になってしもたし、あそぼか』っていわれまして」──中須さん
コロナで時間があるので、ハイブランドのショーで使った布の染め方をやってみるのはどうや? と声をかけられた中須さんは喜び勇んで仲間を募集しました。
一人で開催するのは惜しい、という思いからです。
告知をみて、日本各地から興味を持った人が集まり、子供も大人も大喜びで染めのワークショップに関わった。
これが6月の話です。以来月次で開催していますが、毎回好評とのこと。
参加者の中には「こんなに手を汚して何か作業したのは幼稚園の時以来」との声も。
四国や信越、また北海道といった遠方から数時間かけてはせ参じるファンも。
また、一度参加すると虜になり、ついつい何度もリピートする人も居ると云います。
実際に作業をしてみて初めて、均一なクオリティでこれを大量に作るためにどれほどの職人の技術が生きているかが分かります。
コロナの騒ぎで逆風が吹いたファッション業界。
「きっとこれが終わっても業界はもどらない」と西田さん。
アパレルや消費に対する考え方が一段進み、戻っても半分くらいになるだろう、との予想です。
「今のご時世、広告宣伝が氾濫してて、乗っておけば何も考えなくてもものは買えるしなんとなくいいものなんだろうなって思える。与えられた情報を鵜呑みにしてるだけで、何も考えてない。それ続けてると日常で頭を使う場面が殆どなくなるんですよ。
でも僕それだと良くないと思うんですよね」──中須さん。
人に聞いたからではなく、本当に自分が好きだと思うものはなにか、良いと思うものはなにかを感じるためには体感して貰うのが一番だと、中須さんはいいます。
「だから僕、ワークショップに皆に来て貰ってるんです」と。
西田さんに相談をしてくるデザイナーさん達の中にも、「現場を一切見ないで、作って欲しいと言ってくる人がいる」と西田さん。
そういう人は、何が良いものなのかの価値基準が自分の中にないということになります。
西田さんの凄さは、「材料屋と組んで、とにかくあらゆる方法を試してきているところにある」と中須さんはいいます。
「失敗の歴史がとんでもない。普通はこんなにテストしてみませんよ。だって失敗したらそれ全部、無駄になるんですから」 ──中須さん
「それ、ほめてへんやろ」──西田さん
「いや、褒めてますよ。材料屋と連絡を取り合って新しい手法をどんどん試して、今回ダメだとなっても過去の経験があるから、あのとき試した方法と組み合わせたらいけるんやないか、という新ワザが生まれる。これは西田さんの強みです」──中須さん
ややこしいことしてるだけやと笑う西田さん。世界中からオーダーが来るのも分かります。
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弓のように構えているが実際は逆に使う。
弦の部分に抜染材などをつけ、布上にパチンとはじいて模様をつける -
布の上に糸をはじいて作った模様の入った布。
ぼかし染めのうえに抜染を組み合わせている工程になる
特にコロナの時代、何もかもがオンラインイベントになってしまった昨今、我々イベント運営をしているロフトワークにとっても、「イベント参加者に能動的に動いて貰うためのしかけ」は常に気になるところです。
今回、西田さんのところにお邪魔出来てとても光栄でした。
今後とも、良いと思うものを、自分の体感で伝えられる一員となりたいと思った一時間でした。(ちなみにイベントは盛り上がりすぎて時間が足りませんでした)
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中須さんのオーダーで西田さんが染めた布。
「こんな感じの布お願いします」と適当にメールでオーダーしたとのこと。
ろうけつ、ぼかし、蒸し、ろうけつ、ひきぞめとなんと5工程も踏んでる大変手間の掛かった布 -
西田さんが染めた布をアフリカドッグスの仕立て職人、デアバロさんが仕立てたブルゾン。
アフリカドッグスにいけば、好きな布と好きな形でおあつらえすることが出来る。
世界に一着の自分の服を作ろう
西田さんの染めた布でおあつらえの服を作れるお店を、中須さんが作られました!
アフリカドックスウェブサイト
https://afurikadogs.com/
ぜひおあつらえの服を作りに行ってください。
トーゴ人の仕立屋のデアバロさんが最高にクールな服を作ってくれます!
※ アートユニでの染色ワークショップのお問い合わせはアフリカドッグスのInstagramまで
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中須 俊治
株式会社AFURIKA DOGS・代表取締役社長。重彩プロデューサー。
1990年、京都生まれ。滋賀大学経済学部卒業。「みんなが笑って過ごせる世界をつくる」ために日本とトーゴ共和国を往復し、エウェ族と京都の職人の染色技術を重ねて、商品開発している。大学在学中に単身アフリカへ渡航し、ラジオ局のジャーナリストとして番組制作に携わる。大卒後、京都信用金庫に入社。嵐山地域で営業を担当した後、独立・起業。モットーは他力本願、2児の父親。著書に『Go to Togo 一着の服を旅してつくる』(烽火書房)。
AFURIKA DOGS1990年、京都生まれ。滋賀大学経済学部卒業。「みんなが笑って過ごせる世界をつくる」ために日本とトーゴ共和国を往復し、エウェ族と京都の職人の染色技術を重ねて、商品開発している。大学在学中に単身アフリカへ渡航し、ラジオ局のジャーナリストとして番組制作に携わる。大卒後、京都信用金庫に入社。嵐山地域で営業を担当した後、独立・起業。モットーは他力本願、2児の父親。著書に『Go to Togo 一着の服を旅してつくる』(烽火書房)。
AFURIKA DOGS -
西田 清
染色工房「アート・ユニ」代表
1947年、京都生まれ。大学中退後、生地問屋の営業として東海エリアを担当。広幅の手描き染色に触れ、26歳のときに独立・創業。染料屋とのコネクションを太くし、まだ世に出ていない染料を独自に調達するなかで、独自の染色技法を編み出し続けている。Louis Vuitton (ルイ・ヴィトン) 2016-17年秋冬コレクションで「ろうけつ染め」の作品が採用されたことを皮切りに、エルメスやイッセイミヤケ、ヨウジヤマモトなど名だたるコレクションブランドの作品に携わっている。
1947年、京都生まれ。大学中退後、生地問屋の営業として東海エリアを担当。広幅の手描き染色に触れ、26歳のときに独立・創業。染料屋とのコネクションを太くし、まだ世に出ていない染料を独自に調達するなかで、独自の染色技法を編み出し続けている。Louis Vuitton (ルイ・ヴィトン) 2016-17年秋冬コレクションで「ろうけつ染め」の作品が採用されたことを皮切りに、エルメスやイッセイミヤケ、ヨウジヤマモトなど名だたるコレクションブランドの作品に携わっている。
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田根 佐和子
株式会社ロフトワーク / マテリアルプロデューサー、コミュニケーター
大手PC周辺機器メーカーで営業部門、広告部門を担当した後、2006年、ロフトワークに入社。クリエイターとのチームメイキングに定評があり、ソーシャルゲームなどのコンテンツ・ディレクション分野で活躍。2011年に京都オフィスの立ち上げメンバーとして京都移籍。現在は素材の新たな可能性を探る事業「MTRL」のプロデューサーとして、企業や職人、研究者を繋ぐ活動をしている。特技は”興味の湧かないものはない”こと。職人/技術者/研究者への人一倍のリスペクトと個人的な好奇心から、プライベートでも日本中を駆け巡って会いに行ってしまう。趣味はスキーとダイビングという、ロフトワークでは数少ないアウトドア派。
大手PC周辺機器メーカーで営業部門、広告部門を担当した後、2006年、ロフトワークに入社。クリエイターとのチームメイキングに定評があり、ソーシャルゲームなどのコンテンツ・ディレクション分野で活躍。2011年に京都オフィスの立ち上げメンバーとして京都移籍。現在は素材の新たな可能性を探る事業「MTRL」のプロデューサーとして、企業や職人、研究者を繋ぐ活動をしている。特技は”興味の湧かないものはない”こと。職人/技術者/研究者への人一倍のリスペクトと個人的な好奇心から、プライベートでも日本中を駆け巡って会いに行ってしまう。趣味はスキーとダイビングという、ロフトワークでは数少ないアウトドア派。