Column

2018.5.30

茶人が点てるお茶の振る舞い/触覚を共有する「Haptic茶道」体験会レポート

FabCafe Kyoto編集部

こんにちは、MTRL TOKYO(FabCafe MTRL)ディレクターの弁慶です。

マテリアルでは、様々な素材を起点にしたプロジェクトや企画を行っているのですが、中でも新しいテクノロジー、考え方を組み合わせたプロジェクトも様々展開しています。
中でも特に力を入れている分野に「触覚(ハプティクス)のデザイン」を考えるプロジェクト、コミュニティを展開しています。
触覚のデザインは、各分野の研究や技術、デザインの進歩によって近年様々な表現が生まれてきているいま最もホットな分野なのです。触覚のデザインに関しては、詳しくは下記の記事をご参考ください。

【参考記事】Haptic Design Project | MTRL(マテリアル)東京・京都・香港 – ものづくりの素材と向き合う 空間/プロジェクト/コミュニティ https://mtrl.com/projects/haptic-design-project/

そんな触覚デザインの考え方を応用した、MTRL KYOTOならではの企画「Haptic茶道」体験会が開催されましたので、レポートいたします。

激陶者集団へうげ十作展「俺たちの京都」– へうげdeマテリアル

今回のHaptic茶道体験はMTRL KYOTOにて開催された「激陶者集団へうげ十作展「俺たちの京都」 – へうげ de マテリアル」(主催:白白庵)の会期中のコラボレーション企画として誕生しました。


※激陶者集団へうげ十作展「俺たちの京都」 – へうげ de マテリアル | MTRL KYOTO(マテリアル京都) https://mtrl.com/kyoto/events/180525-28_hyouge/

「へうげ十作展」は、漫画『へうげもの』(山田芳裕/講談社)の公式スピンオフイベントです。『へうげもの』は戦国時代の武将にして茶人、古田織部を主人公にした茶道を中心に物語が展開する歴史漫画です。「へうげる」とは現代の意訳で「クスッと笑うような/面白がる」という意味合いがあるそうです。

企画内容は、人の持つ欲や業の肯定、そして「面白がる」視線とスピリットへのリスペクトなど、現代のクリエイションにも深く通じる「へうげもの」の世界観に共鳴する若手工芸作家による作品展示などを中心にした構成となりました。

企画展全体のレポートはこちらに公開されています。合わせてご覧ください。

※会場のMTRL KYOTOには、300を超える現代陶芸作家の陶芸作品がずらりと並びました。

そんな企画展の準備中に、本企画を運営する京都メンバーに、「企画展で茶道体験をするのだが「触覚 x 茶道」で何かへうげた(面白い)体験ができないか」という相談を受けたことがきっかけでこのプロジェクトが始まりました。この相談をきっかけに、今回の企画の最大のコンセプトである「へうげる」ような茶道体験を企画することになりました。

茶の湯に自由を吹き込む現代の茶人・松村宗亮と「触覚」を知覚しその価値を共有する研究者・田中由浩

茶道は元来、その場に流れる雰囲気や物語を共有し、緊張や緩和含め、そのひとときを楽しむものですが、今回の企画では茶人の「ふるまい」そのものを身体で感じるような、そんな新しい茶道体験をデザインできないかと考えました。
そんな考えのもと、「茶人の触感を感じられる茶道」というコンセプトを実現したいと考え、その実現に向けてコラボレーションさせていただいたお二方をご紹介します。

まずは、横浜関内のほど近くのマンションの一室に居を構えるお茶室 SHUHALLY「文彩庵」を主宰する、今回の茶人を務めていただいた松村宗亮氏です。
SHUHALLYにある茶室のなかには、LEDライトに照らされた幻想的な茶室に現代作家によるドクロの形の茶碗を使用した茶席など、松村氏はこれまでの茶道の型にはまらない体験のデザインに挑戦し、ユニークな体験を茶道に落とし込まれています。

※黒を貴重として洗練された茶人松村宗亮の茶室は、私たちを非日常の世界へと誘います。

今回、この松村氏がお茶を点てる際の振る舞いや、所作で発生する「触覚」を検知し、その触感を振動に変換し、お茶席に参加されるみなさまに共有すると面白いのではないかと考えました。そこで、触覚共有デバイスの開発にご尽力いただいたのが、Haptic Design Projectでもパートナーとしてお世話になっている、名古屋工業大学大学院工学研究科准教授の田中由浩先生です。

※写真左が今回デバイス開発にご協力いただいた名古屋工業大学大学院工学研究科准教授の田中由浩先生。

田中由浩先生は、指の内部構造や皮膚特性のような基礎研究から、、他者との触覚共有システム、触感のプロダクトデザインまで、幅広く触覚研究を展開している研究者です。この最強のタッグの元、Hapticな茶道とその体験に最適なデバイスの開発を行いました。

※下記には、Haptic Design Projectが主催したMeetupにて田中先生の実践をご紹介している記事が公開されています。ぜひご覧ください。

【参考記事】田中由浩(名古屋工業大学 大学院工学研究科)触覚研究により、人々の幸福度の向上をめざす http://hapticdesign.org/designer/file015_Yoshihiro_Tanaka

今回開発していただいたデバイスは、松村氏の感じる触覚をお茶を点てている最中もストレスなく検知できるように、指の根元あたり(今回は親指と人差し指にしました)に、皮膚で感じる振動を取得することのできるセンサーを巻きつける形式のものを採用しました。


※茶人松村宗亮の指が感じる振動を取得するセンサーを指の根元に巻きつけます。

また、そこで計測された波形を、参加者は同じ指の根元部分に振動子をつけ、3Dプリントされたリングで固定して、振動を感じることができるような設計にしました。
仕組みとしては、松村氏が点てる動作から発する指先を中心とした皮膚で生じた振動を、アンプと言われる振動のチューニング機器でリアルタイムに変調し、参加者の指につけたリングに付けた振動を起こす機器に伝え、参加者の指を同時に振動させるするという仕組みになっています。


※参加者も、松村氏と同じ位置にリングで固定した小型の振動子を装着します。

いざ実践!Haptic茶道体験会

これで準備が整い、ついにMTRL KYOTOでの実践の日がやってきました。今回は、立礼式というテーブルと椅子を用いて茶を点てる椅子点前の方式で、参加者のみなさまにお茶を振舞っていただきました。まずは、今回の主役のお二人から、趣旨の説明がありました。


※今回は、立礼式という椅子と机を出してお茶を振る舞うスタイルでお茶を点てていただきました。

茶人の触覚を共有するとはどういうことなのか、みなさん興味津々です。感じてみないとわからないのが触覚の醍醐味でもあり、伝えづらいところでもあります。まずはみなさん松村氏の用意した今回の趣旨に合わせたお茶菓子を選び、甘味を愉しみます。


※みなさん、各々好きなお菓子をいただきます。

甘味を愉しまれた後は、開発した振動リングを指に装着していただきます。


※できるだけ茶道のスタイルを崩さないことを意識して、最小限の装備を考えた結果、リング形式の装備に。みなさん、特に邪魔にもなっていなかったようでした。

装着したら準備万端、どんどんお点前が進んでいきます。そしてここから、振動のスイッチがオンします。みなさん、どんな触感が感じられるのか、ドキドキした様子です。


※茶器を清めていく松村氏

お点前は進み、松村氏より今回使用する茶道具の説明や茶道具を清める所作など、ひとつひとつ丁寧に行われる所作で発生する振動が参加者のみなさまにじわじわと伝わっていきます。


※じわじわくる振動にみなさんの反応もそれぞれです。

そのたびにみなさん、それぞれの反応が印象的でした。
「おおー。」
「くすぐったい。」
「本当に触っているように感じる!」
などなど、様々な反応をいただくことができました。

さらに今回は、Hapticな茶道ということもあって、茶器もテクスチャをふんだんに感じることができるものを中心に選んでいただきました。
茶器って、こんなに自由にデザインされたものが多くあるんですね!


※特に触感を意識して選定いただいた茶器たち。

そしてここからが体験のクライマックス、テクスチャがひとつひとつ特徴的な茶器を使って、参加者ひとりひとりの目の前で松村氏がお茶を点ててくださいます。
シャカシャカシャカシャカ…みなさんご存知の通りのお茶を点てる音と共に、抹茶の香りが空間全体に豊かに広がります。今回はそれだけではなく、そのシャカシャカと点てる際に発生する触感を感じることができるのが、最大の醍醐味です。


※松村氏が即興で全員の前でひとつずつお茶を点ててくださいました。

みなさん、「おおー、入ってる入ってる。」など、目の前で行われている所作を振動として感じることで、よりリアルな体験として感じていらっしゃるようでした。実際に、お茶の水分をかき混ぜる時に生じる抵抗感まで感じることができました。結果、視、聴、嗅、味、触覚の五感すべてで感じられる茶道体験となりました。


※余った手を茶器に添えることで、その振動の理由がよりリアルに伝わったようです。

また、お茶を点てる際の工夫として、参加者のみなさまの触覚リングを装着していない方の手を茶器に添えていただきました。そうすることによって、松村氏と一緒に、茶器に当てた皮膚で茶器のテクスチャーや温度も感じることができ、より「一緒に点ててる感」が増すのだそうです。

この体験が意味するのは、今まではお茶が提供されるのを待つだけだった客と「一緒に点てる」という感覚が生じることです。 それが五感を用いたデザインの効果と言えるのではないでしょうか。
参加者のみなさまも口を揃えて、一緒にお茶を点てているような感覚が増すという感想を述べていらっしゃいました。


※もちろん、お味は一級品。結構なお点前です。

このような形で実施した「Haptic茶道」でしたが、初の試みに関わらず、好意的にご協力いただきました松村さん、田中先生、ありがとうございました。また、参加された方の反応や表情から察するに、初の試みにしては、思っていた以上にうまく行ったのではなかったでしょうか。

今回のような、一見アナログな動作の中にこそある「触感」を捉え、他者と共有することで、伝統的なイメージが強かった茶道も、また違った形でのアップデートがされていくのかもしれません。
今回の実践をキッカケに、「Haptic茶道」開発チームはさらなる新しい体験の創出を求め、ブラッシュアップしていく予定です。またどこかで、お茶会を企画した際には、みなさまぜひご参加くださいね。

ご協力いただきましたみなさま、ありがとうございました!

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「Haptic 茶道体験」開発メンバー
開発・体験デザイン:田中由浩(名古屋工業大学 准教授)、飯島渉太、鈴木貴大(名古屋工業大学 学生)
茶人:松村宗亮
プロデュース:MTRL KYOTO/TOKYO 小原和也(弁慶)、木下浩佑
テクニカルアドバイザー:金子真弓(一般社団法人T.M.C.N 理事)
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