Column
2024.11.5
2024年8月3日から8月9日の間、FabCafe Kyoto 2Fの和室スペースを活用して開催された、COUNTER POINT13期メンバー成瀬陽太さんによる展示企画「Sight / Insight -Interim Exhibition-」。会場では、実際に成瀬さんが夜の京都を観察し、何らかの形や動きに認知できるような光の集合を抽出したものを、小さなロボットとLEDライトで捨象した作品が展示されました。
「京都の夜の場景の中から、人間の運動知覚と探索的行為から光の新しい見方を抽出し、光を見る意識を変容することを目的としたプロジェクト」と銘打たれた本作。情報科学技術大学院(IAMAS)に在学しながらレジデンスに参加した成瀬さんの制作にはどんな背景があったのか、今後の展望へと続く3ヶ月の活動を振り返ります。
構想を実装して初めて見えるもの
正面から見ると人が手を振って歩いているように見えたり、夜の高速道路を眺めているような気持ちになったり。LEDの光源を載せたモジュールがレールの上を規則的に動くことで、街中で見かけるような光の点群が現れる成瀬さんの作品。一つ一つは単純な動きを反復する光の集まりが、今ではないいつか、ここではないどこかを感じさせる不思議に立ち会うことができます。
人が光をどう知覚するのかに強い関心を向けながら、自身が持つ「夜景を見るときに得られた独特の感覚」を活動の起点としIAMASで制作を続けていた成瀬さん。「個人の衝動こそが人を動かす」という私たちのメッセージに共感し、COUNTER POINTに応募してくれました。
レジデンス期間は、構想の実装に注力。自身に詩情をもたらす夜景を作品に落とし込むべく、IAMASでの制作と並行しながら自転車で夜の京都を回遊し光の点群をサンプリング。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いたVR空間で動きのシミュレーションを行い、展示プランの構成へと進みました。
信号の色や光の色など街中にある豊かな光を捨象するにはどうすればよいか、光は同じ色にまとめた方が集合体としての見せ方に統一感が生まれるのでは、など、仮説と検証を繰り返しながら構想を実装していきます。
電球を搭載したモジュールの動き方などブラッシュアップを重ね、各機構がシーケンスを繰り返すスタイルに。会場にフレームや暗幕を建て込み、体験に没入できる空間が生まれました。
「コンテクストがわからない」状態で鑑賞されることの価値
本展では、光の点群が路上や電車の光に見えるなど、概ね当初想定していた感想やフィードバックが多く得られたといいます。カフェ利用者や3Dプリンターユーザー、研究者に工芸作家まで、作品のコンテクストや前提条件を共有しない多様な人々が往来するFabCafe Kyotoで展開したことで、フラットな関係性のもと固有の感覚を共有できたと振り返ります。鑑賞者の中には、「天文部にいたことを思い出した」など、各人ごとの想起のあり方に出会う場面も。
美術館や学内外のギャラリーなど作品鑑賞を軸とする場での鑑賞体験は、ある種のバリデーションやジャッジが生まれることも少なくありません。キャプション通りの確認作業や何かに見えることを正解とするのではなく、そこから何を思うのか、わかりきれないものが生まれることが大事だと成瀬さんは話します。
想起の種から広がるもの
自分だけの個人的な衝動が他者の想起の種となる瞬間に立ち会った成瀬さん。振り返りミーティング時には、リサーチの講師などアーティストとしての活動を広げることへの意欲について、FabCafe Kyotoメンバーから打診される場面も。
実際に、YCAM(山口芸術情報センター)やCCBT(クリエイティブシビックベース東京)などでは、アーティストが一般の方や企業に向けた講座の講師として活動している事例も見られます。陸橋による外光の点滅、新幹線、高速道路など、私たちの身の回りにはつい見過ごしてしまう魅力的な光が溢れていることに気づける視点が、例えば夜のランドスケープをデザインするヒントになるかもしれません。
「修士研究としては作品として作り込む流れですが、制作の方向性そのものはワークショップ向き。誰かと自分だけの光を共有し合い、プロトタイプを重ねることでそれぞれの想起の種をつくりたい」と今後の展望について成瀬さんは話します。
THE BLUE HEARTSの「リンダリンダ」を引用しながら、写真には映らない美しさについて語る成瀬さん
成瀬さんのプロジェクトは、来年2月のIAMAS修了研究発表会にてその集大成がお披露目される予定です。FabCafe Kyotoでの展示をご覧になった方はもちろん、成瀬さんのプロジェクトに関心を持たれた方は、ぜひ足をお運びください。
出展情報 ─IAMAS修了研究発表会のお知らせ
成瀬さんが出展する情報科学芸術大学院大学 第23期生修了研究発表会は、2025年2月21日(金)〜24日(月)開催。本プロジェクトの集大成をぜひお見逃しなく!
詳細、続報はIAMASの公式Xをチェック! |
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FabCafe編集部
FabCafe PRチームを中心に作成した記事です。
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