Event report
2023.5.25
COUNTER POINT|偏愛を社会に発信させるプロジェクトインレジデンス
公募型アートフェスティバル「KG+」に連動した展覧会「Semi-Fiction 半架空の知覚法|小瀬古智之」のクロージングイベントとして開催されたトークイベント「デザインと天文学ナイト」。素材に当てるとその表面が惑星に見えるデザイントイ「惑星発見器」で見つけた架空の惑星を、天文学者の視点と重ね合わせます。2023年5月13日(土)、グラフィックデザイナーの小瀬古智之さんと、京都大学で宇宙物理学を学ぶ反保雄介さんによって行われたトークの様子をレポート。
Exhibition : KG+「Semi-Fiction 半架空の知覚法|小瀬古智之」
擬態をテーマにグラフィックの探求を行う小瀬古さん。無生物が何かに擬態するシリーズ「gitai-graphy」を通して、見立てによる視点の変容を軸にグラフィックを展開してきました。その中で生まれた、穴の空いた黒い円盤をかざすことでなんでも惑星に見えるデザイントイ「惑星発見器」。特殊なソフトがなくても、視覚に変容をもたらすプロセスを誰しもが体験することができます。開発後はワークショップも開催し、多くの子供たちがそのプロセスを追体験したことも。今回は、そんな惑星発見器で見立てたワクセイを天文学のスポットから照らします。
「天文学者に星座占いの結果はわかりません」そうユーモラスに自己紹介をしてくれたのは、京都大学の宇宙物理学教室博士課程に通う反保さん。宇宙の成り立ちや多様性に関心を示しながら、主には宇宙の中で爆発的な現象によって明るくなる星たちを研究しています。爆発の理由や、爆発中に起こっていることを探求しているのだとか。
惑星っぽさをイメージするとき、私たちは何を想像するでしょうか。陸地や草、水、岩石、惑星ごとにユニークな色彩が溢れるイメージを持ちますが、反保さんが提示するのは一面に広大な太平洋が広がる真っ青な惑星。陸地や草地、複雑な要素を内包することが必ずしも「惑星らしさ」には限らないと話す反保さんの専門的な視座に、会場はグッと惹き込まれます。
公式の天体の素材がイラストで用意されることもあった時代、惑星の観測は技術的にも解像度がまだまだ頼りありませんでした。150年ほどかけ、天文学の発展と共に惑星へのイメージが向上してきた背景があります。サイエンスの文脈の中で描かれてきた「惑星らしさ」にも通ずる、人々の曖昧な認識を表面化できるツールが惑星発見器なのかもしれません。
話題は小瀬古さんが各所で採取した惑星について移ります。京都各所にある義肢工場や自転車の製造工房、業種や扱う素材もさまざまな場所で採取した惑星をピックアップしながら、反保さんに惑星らしさを伺う流れに。
惑星発見器の中心には透明なレンズが嵌め込まれ、うっすらとインクジェットプリントされた陰影によってさまざまなテクスチャを球体に錯覚させることができます。木目の縞模様が木星の縞のリズムや赤みと似ていたり、身近なものが宇宙と接続する驚きに会場も興味津々。
義肢装具士さんがハンマーで革を叩くときに敷かれるマットには、木星にとっての衛星であるエウロパが潜んでいました。シートの表情はランダムな引っ掻き傷が特徴的ですが、エウロパの持つ模様は惑星の地表から染み出したものがその成り立ち。一転して、雨風による侵食や風化は惑星にも通ずるテクスチャの生まれ方。ものの組成や造形プロセスと、惑星の成り立ち、全く違うプロセスで生まれたもの同士が距離を超え、時間を超えて接続するおもしろみも、惑星発見器ならではの楽しみ方といえます。
これまで職人の工房にこだわって惑星を採取してきた小瀬古さん。そこには、職人が工房を地域に開かれたものにする、いわゆるオープンファクトリーと呼ばれるイベントなどにおいて、工房のプレゼンテーションがテンプレ化してきている現状への課題意識がありました。不意に見慣れた景色にかざすことで思いがけない工房の眺め方が生まれ、職人自身も新たな視点を獲得する体験に繋がります。
また、子供たちとのワークショップでは、惑星発見器を2枚重ねて惑星の満ち欠けを表現する子供が現れたり、製作者の意図を超えた使い方を目の当たりにする場面もあったそう。見慣れた景色や質感にかざすことで、何かを見つけたいモチベーション(=人の探究心)を好奇心ごと呼び起こす装置、まさに惑星発見器が「発見のためのツール」であることを改めて実感します。
望遠鏡で観測する以上は近づけない惑星。宇宙飛行士でも近づける距離には限界があり、私たちはときに想像することでその遠さを乗り越えてきました。実在するはずなのに近づけない、そんな半架空である存在に思いを馳せながら、何よりもリアルな手元、足元にある手触りに好奇心を託し、宇宙と接続させてみる力こそ、わたしたちをどこまでも連れていってくれるのかもしれません。
「Semi-Fiction 半架空の知覚法|小瀬古智之」展示風景より(撮影:山月智浩)
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COUNTER POINT|偏愛を社会に発信させるプロジェクトインレジデンス
「COUNTER POINT」は、FabCafe Kyotoが提供するプロジェクト・イン・レジデンスのプログラムです。「組織を頼らず自分たちの手で面白いことがしたい」「本業とは別に実現したいことがある」そんな好奇心と創造性に突き動かされたプロジェクトのための、3ヶ月限定の公開実験の場です。流浪する河原者たちが新しいスタイルの芸能”歌舞伎”を生み出した京都・鴨川の近く、築120年を超える古民家をリノベーションしたFabCafe Kyotoを舞台に、個人の衝動をベースにした新たなエコシステムの構築にチャレンジしています。
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