Project Case
2023.5.28
東 芽以子 / Meiko Higashi
FabCafe Nagoya PR
環境配慮型のビジネス転換に興味はあっても、“サーキュラーエコノミー”というビッグワードを前に、何からアクションすれば良いか尻込みしてしまう…。そんなビジネスパーソンを対象に、FabCafe Nagoyaは「人材開発プログラム」を定期開催しています。
未知や変化に対し思考や態度が硬直してしまう心理状態=“現状維持バイアス(固定観念)”を取り払い、循環型社会を踏まえたデザイン(サーキュラーデザイン)をクリエイティブに学ぶ機会を提供する同プログラム。通常は全5回に渡る濃密な内容で開催されますが、より多くの方に体験していただくべく、この度、1Day版の ワークショップが開かれました。ワークショップを通してバイアスがどう“揉みほぐされて”いき、最終的にどのようなマインドセットが整うのか。
皆様も、本記事で是非、疑似体験してみてください。
アイスブレイク
– 共創する態度を身につける –
運動する前にストレッチをするように、ワークショップの本題に入る前には「アイスブレイク」が必要です。参加者が自己の本質に気づくこと、また、互いに心理的安全(非難や拒絶の不安なく自己表現できる状態)を確保し合うことという、共創のための態度を身につけ、短時間で最短距離の関係性を築くことができるからです。例えば、呼ばれたい(自分自身が心地よい)ニックネームを自ら提示するほか、価値観やパーソナリティを紐解くような質問事項に答えたり、フィジカルなアクティビティを全員で行います。
モンドリアン コンポジションに学ぶ相関関係
今回のアイスブレイクでは、プレイフルラーニングをキーワードに、学習環境デザインとラーニングアートの先進的かつ独創的な学びの場づくりを数多く実施する上田信行さんが、ピート・モンドリアンの「コンポジション」に着想を得て形作ったワークショップを元に、FabCafe Nagoyaの窓を活かしたオリジナルバージョンにチューニングして実施しました。参加者がそれぞれ異なったテーマカラーを決め、その色のクレヨンを手に、カフェの窓に水平線と垂直線を引いていくと…線同士の交わりが不規則な格子模様に。それを直感のままに塗りつぶしていくと、最終的には参加者の“目線”や他者との“距離感”が模様となったアートができあがります。それぞれの塗り方には一定のパターンがありますが、全てが組み合わさると「ジャズの即興のような“リズム”感を感じる」という感想も。最初に定めたモチーフを描くのではなく、一人一人の存在感や他者との相関関係が結果的にデザインとなっていく“動的アート”制作を体験をしました。
インプットトーク
– 新しい知識に触れる –
未知や変化に挑むために必要情報のリサーチは欠かせません。WSでは限られた時間内に上質な情報を得るため、有識者をゲストに迎えてインタラクティブなインプットトークを提供します。
デザインは“終わりなき動詞”
今回は、人類学を背景とした自律的なデザイン理論を研究する専修大学 ネットワーク情報学部 教授の上平崇仁さんをゲストスピーカーに迎え、デザインの本質的な意味や、サーキュラーデザインの概念・意義についてインプットしました。
「“デザイン”と聞くと、人はつい「産業の方法論」を想像してしまう。では、生活者目線で捉え直してみたら?例えば、知的障害者を積極的に雇用する企業では、作業用のゴミ箱を色ごとに種類分けしています。字は読めなくても色で何を捨てるゴミ箱か一目瞭然だからです。作業スピードを測るには砂時計を使うなどワークプレイスを“デザインして”機能させているんです。これこそデザインの原点ではないでしょうか。私が考えるデザインの定義は「一見矛盾するような、何かと何かを”あいだ”で取り持つもの」。ゴミ箱の例では、あまりカスタマイズされることがない安価なポリバケツという容れ物と人間側の認知という矛盾を取り持つために“気遣い”を仕組みにして、知的障害者のみなさんを働き手に変えるデザインだと捉えられます。」
「デザインは、職業でも、商品自体でもない。本来グラデーションがあり、料理のようにプロでなくても色々なレベルで実践して良いもの。さらに、環境問題のような壮大な課題は、デザインの力を使えば、捨てる=悪い・捨てない=良いといった対立構造に切り離すことなく多面的な解決策の提案ができます。なぜなら、現状から理想の結果に導きたいような場合に、どうやったら人の行動を変えられるかという“アブダクション(仮説的推論)”として機能できるからです。デザインは“終わりなき動詞”。社会や時代の変化に合わせて、いかに発想“し直し”ていくかが肝心です。」(上平さん)
サーキュラーデザインを落とし込む
「サーキュラーデザイン」とは、サーキュラーエコノミー(循環型経済・社会)の実現のため、廃棄物を出さず資源を循環させながら、製品・サービスを生産・提供する設計のこと。地球環境の維持・改善が免れない社会背景から、多くの人がサーキュラーデザインに前向きであるものの「解決しなくちゃ!と“カタく”なりがちなのが課題」と上平さん。そもそも環境問題は地球全体の生物が利害関係者なのだから主体を“人間以外”にも広げてみると想像し得なかった共感が醸成されるのでは、と提起します。その実例として、本WSのアシスタントで専修大学学部生の持永さんと菅原さんが、斬新な視点で取り組んだ研究成果を発表してくれました。
『自然と人間の関係の再定義』-育てるのデザイン-
専修大学 持永 隼
人間のエゴで育てている観葉植物との関係性を捉え直し、能動的にケアしあう関係性を築くための研究。盆栽が自由に移動することで空間の微生物相を多様化させて人間を育て、人間にとっての子供のように育てられる存在となり得るのではないかと「育てる」の意味を再定義する。
『菌類と人間の関係を問う新しいスコビークリエイティブ』
専修大学 菅原 真唯
菌の活動は、人間の都合に合わせて扱いが変わる。例えば細菌と酵母の共生培養「スコビー」を発酵させたドリンク・コンブチャは人間に好まれているが、生成過程でできる“膜”は廃棄される。菌の捉え方を変え、新しい可能性を探るため、膜を使ったお茶パックや観察キットの考案を行う。
プロトタイピング
– アイデアを具現化する –
インプットトークでインスパイアされ、ひらめいたアイディアを具現化するプロトタイピング(試作)。このステップで体験していただきたいのは、直感的アイディアがその“きらめき”を失わない内に、短時間で一気に目に見える形に仕上げること。そうすることで早期にフィードバックを得られる態勢となり、改善のステップへ進むことができます。スピード感やつくり上げることへの情熱に重点を置くため、完成度の高さは求められません。材料は手に入るものだけを利用し、柔軟性や即興力もフルに活かすことで、障害や制限への突破力や寛容さ、結果的に想定を超える要素がプラスされる可能性などを体感します。
FabCafe Nagoyaで“体験できる”裏メニュー
WSではサーキュラーデザインをビジネスとして捉える第一歩として「FabCafe Nagoyaの裏メニュー」をテーマにプロトタイピングに取り組みました。2人1組に分かれ制限時間2時間で、FabCafe Nagoyaに集まった端材などの材料を使用しプロトタイプを作り上げました。
共有とフィードバック
– ものを介したフィードバックに慣れる –
プロトタイピングで出来上がった作品を参加者全員に共有(プレゼンテーション)し、他の参加者やゲストスピーカー、プロデューサーなどから、即時、フィードバックを得ます。主観的アイディアは常に改善の余地があり、忌憚なきフィードバックは、アイディアをブラッシュアップするために生産的だと体感することで、アイディアを披露することの精神的ハードルを下げると共に、製品・サービス(アイディアの完成形)の完成度を上げることができます。
作品:サーキュラージム
使用時間で課金するジム。客の排泄物を分解するコンポストの電力を、エアロバイクの稼働量でまかなう循環システム。運動量に応じたマイレージポイントで、カフェメニューを注文できる。
「自分の貢献が可視化できて良い。フードを消費すること自体に貢献性があるので、食事することの意義も変わり、運動することへのやる気につながるアイディア。」(FabCafe Nagoya 斎藤 評)
作品:フードレゴブロック
カフェの食材がブロックの形をしていて、オーダーしたものを組み合わせて好きな形の食べ物をつくることができる。食器などの材料もブロック化し、企業が廃材を持ち込める環境をつくることで、循環を体感できる空間と企業間の共創が生まれる仕組みを実現する。
「組み合わせ方で見栄えが変わるのが良い。ブロック化のアイディアは汎用性があり、食べられる椅子、食べれるカフェなど、まるで“お菓子の城”のように対象を広げられる。」(FabCafe Nagoya 居石 評)
「人材開発プログラム」の要素を盛り込み5時間に圧縮された今回のワークショップ。短時間ではあったものの、参加者の皆さんに、適切なステップを順を追って体感していただいたことで、全員が自身の考えを臆することなく表現できるようになりました。まだ見ぬ未来を、自分たちの視点でどうデザインしていくのか。各々が“主体”であることを考える良いチャンスとなったようです。
実施日:2023年3月3日 13:00-17:00
内 容:サーキュラーデザインWS『無理のない循環を再創造する』
目 的:バイアス(固定観念)を外し、サーキュラーデザインを無理なくクリエイティブに実装する方法を学ぶ
参加者:営業、経営、デジタル推進担当などのビジネスパーソン
ゲスト:上平 崇仁 (専修大学 ネットワーク情報学部 教授)
アシスタント:専修大学 学生 持永 隼、菅原 真唯
プロデュース:居石 有未(FabCafe Nagoya)
ディレクター:斎藤 健太郎(FabCafe Nagoya)
人材開発プログラム 三期生募集中
詳しくはこちらをご確認ください!
https://fabcafe.com/jp/nagoya/business-service/workshop/
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上平崇仁
研究者 / 実践者 / 教育者
1972年鹿児島県阿久根市生まれ。筑波大学大学院芸術研究科デザイン専攻修了。 グラフィックデザイナー、 東京工芸大学芸術学部助手を経て、2004年より 専修大学ネットワーク情報学部勤務。現在はデザイン系プログラムを統括し、 教授/教務委員長/学部長補佐を務める。2015-16年にはコペンハーゲンIT大学インタ ラクションデザインリサーチグループ客員研究員として、北欧のCoDesignを研究。
1972年鹿児島県阿久根市生まれ。筑波大学大学院芸術研究科デザイン専攻修了。 グラフィックデザイナー、 東京工芸大学芸術学部助手を経て、2004年より 専修大学ネットワーク情報学部勤務。現在はデザイン系プログラムを統括し、 教授/教務委員長/学部長補佐を務める。2015-16年にはコペンハーゲンIT大学インタ ラクションデザインリサーチグループ客員研究員として、北欧のCoDesignを研究。
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居石 有未 / Yumi Sueishi
FabCafe Nagoya プロデューサー・マーケティング
名古屋造形大学大学院 修了。卒業後、大学の入試広報課にて勤務。2021年2月 FabCafe Nagoya 入社。
美術館 学芸員インターンシップ、教育機関でのワークショップ・プログラム企画運営、取材・広報などの多岐にわたる業務で培ってきた柔軟性と経験を活かし、関わる人の創造力や表現力を活かせる環境づくりを行う。
FabCafe Nagoyaでは、クリエイターと企業・団体が共創する『人材開発プログラム』や『アイデアソン』『ミートアップイベント』などを企画運営しながら、FabCafe Nagoyaという空間の面白さを、より知ってもらうタッチポイント設計や店頭サービス開発を、日々行なっている。
好きな食べ物はいちご。ライフワークは作品制作。名古屋造形大学大学院 修了。卒業後、大学の入試広報課にて勤務。2021年2月 FabCafe Nagoya 入社。
美術館 学芸員インターンシップ、教育機関でのワークショップ・プログラム企画運営、取材・広報などの多岐にわたる業務で培ってきた柔軟性と経験を活かし、関わる人の創造力や表現力を活かせる環境づくりを行う。
FabCafe Nagoyaでは、クリエイターと企業・団体が共創する『人材開発プログラム』や『アイデアソン』『ミートアップイベント』などを企画運営しながら、FabCafe Nagoyaという空間の面白さを、より知ってもらうタッチポイント設計や店頭サービス開発を、日々行なっている。
好きな食べ物はいちご。ライフワークは作品制作。
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斎藤 健太郎 / Kentaro Saito
FabCafe Nagoyaプログラム・マネジャー、サービス開発 / 東山動物園くらぶ 理事 / Prime numbers syndicate Fiction implementor
名古屋における人ベースのクリエイティブの土壌を育むためにコミュニティマネージャーとしてFabCafe Nagoyaに立ち上げから携わる。
電子工学をバックボーンに持ち科学技術への造詣が深い他、デジタルテクノロジー、UXデザインや舞台設計、楽器制作、伝統工芸、果ては動物の生態まで幅広い知見で枠にとらわれない「真面目に遊ぶ」体験づくりを軸とした多様なプロジェクトに携わる。
インドカレーと猫が好き。アンラーニングを大切にして生きています。
名古屋における人ベースのクリエイティブの土壌を育むためにコミュニティマネージャーとしてFabCafe Nagoyaに立ち上げから携わる。
電子工学をバックボーンに持ち科学技術への造詣が深い他、デジタルテクノロジー、UXデザインや舞台設計、楽器制作、伝統工芸、果ては動物の生態まで幅広い知見で枠にとらわれない「真面目に遊ぶ」体験づくりを軸とした多様なプロジェクトに携わる。
インドカレーと猫が好き。アンラーニングを大切にして生きています。
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東 芽以子 / Meiko Higashi
FabCafe Nagoya PR
新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。
「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。
趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。
新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。
「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。
趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。