Event report

2024.6.18

廃プラ再生業者に学ぶ、中小企業の「カーボン・オフセット」活用法

マテリアルリサイクルを“見える化”し、正当な価値をつけるには...?

地球温暖化や海洋汚染の元凶とされる廃棄プラスチック。日本では、その6割がサーマルリサイクル(焼却され熱エネルギーとして利用)されています(出典:プラスチック循環利用協会)が、焼却する際にCO2や有害ガスが排出されるため、結果、根本的解決に繋がらないのではと疑問視する見方もあります。また、世界規模では、廃棄プラスチックの多くが埋め立てられているほか、管理されず水域環境へ流れ出すものもあり(出典:OECD)、海洋プラスチック問題に繋がっていることも指摘されています。

こうした命題の一つの解として、廃棄プラスチックのマテリアルリサイクルに取り組むのは、三重・鳥羽市の株式会社 REMAREです。同社は、加工の難しい複合材でできている廃棄プラスチックを再資源化し、小物や家具などを製造しているだけでなく、このアクションに対して「カーボン・クレジット(排出権)」を発行し、取引=「オフセット(相殺)」することで、より多くのプラスチック焼却由来のCO2削減にも貢献しようと動き出しています。国内だけでも、2050年には15兆円にも上る(出典:環境省)と言われているリサイクル素材市場。脱炭素社会に向けたムーブメントにいち早く布石を打つREMAREの取り組みを知り、様々な企業同士が廃プラ問題を“自分事”として捉えながら、グリーンに繋がろうというイベントが、FabCafe Nagoyaで開かれました。

テキスタイルや有機塗料、自動車部品 etc… 様々な素材を扱う異業種の担当者や、教育機関の研究者などが集まった今回のイベント。扱う素材や、課題とする廃棄物の種類こそ様々ですが、共通の課題は、「脱炭素社会に向けて、よりよくトランスフォームするために、今何をすべきか」ということ。イベントのはじめには、まず、株式会社 REMARE のCPO・田中 翔貴さんが登壇し、アーティストやクリエイターの視点から、廃棄プラスチックが“宝の山(ものづくりの資源)”に見えたことが創業のヒントになったという秘話や、今後は、廃棄プラスチックを再資源化するだけでなく、そのインフラの構築も目指していることなどを話しました。

(写真 / 株式会社 REMARE のCPO・田中 翔貴さん)

  • 株式会社REMARE

    株式会社REMAREは三重県鳥羽市に自社工場をもち、廃棄プラのマテリアルリサイクルに取り組む。
    再生の難しい複合プラスチックをマテリアルリサイクルに落とし込む仕組みを考え、自社内で一貫して回収・洗浄・粉砕・成形・加工までを行うことのできる独自の工場を設計したことで再資源化を実現。2023年グッドデザイン賞受賞。
    海洋プラスチックがある海を “NEW NATURE” と謳い、破損した漁具や海洋プラスチックを 「海からの恵み」 とポジティブに受け止めながら、それらがすでに環境の一部となった 「現代における新しい自然とは何か」 を問いかけ続けている。

    株式会社REMAREは三重県鳥羽市に自社工場をもち、廃棄プラのマテリアルリサイクルに取り組む。
    再生の難しい複合プラスチックをマテリアルリサイクルに落とし込む仕組みを考え、自社内で一貫して回収・洗浄・粉砕・成形・加工までを行うことのできる独自の工場を設計したことで再資源化を実現。2023年グッドデザイン賞受賞。
    海洋プラスチックがある海を “NEW NATURE” と謳い、破損した漁具や海洋プラスチックを 「海からの恵み」 とポジティブに受け止めながら、それらがすでに環境の一部となった 「現代における新しい自然とは何か」 を問いかけ続けている。

ペレット状に粉砕した廃棄プラスチックを板材に加工する作業

  • 複合材を成形できるREMARE可変式加熱機

  • ペットボトルのキャップやラベルからできたコースター

  • 様々な複合材を利用して家具も製造

現在、日本における廃棄プラスチックのマテリアルリサイクル率は約2割(出典:プラスチック循環利用協会)。廃棄プラスチックは、様々な材質で複合的に構成されているがゆえ、再資源化するにはコストがかかり、その後、製品化するに当たっては品質管理が難しいと指摘されています(出典:J-STAGE「廃プラスチックの現状と循環利用への課題」。漁具や、錠剤の包装シート、それにスポーツ用品など、REMAREが自社で回収したり、依頼を受けてマテリアルリサイクルする素材は、まさに、扱いが難しいとされる「複合材」が主。様々な素材が様々な割合で配合されているため融点が異なり、ペットボトルのような単一素材と比べると成形の難易度が高いものばかりです。そのため、REMAREでは、複合材を一度に成形できる可変式加熱機を独自開発。扱う素材ごとに集計したデータ数は現在4,000に上り、把握できた素材ごとの最適条件を日々アップデートしていると言います。また、漁具を油化する実験にも成功。将来的にはケミカルリサイクルも進め、廃棄プラスチックが社会に資源として貯蔵されたり、油化され燃料となることを後押ししていくとのことです。

(REMAREの事業の詳細は、FabCafe Nagoyaが連載する「crQlr dialogue 1 on 1vol.4 REMARE」をご参照ください。

廃棄プラスチックのマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルと同時進行で、今、REMAREが進めているのが、CO2の排出を削減するアクションを“見える化”し、正当な価値で取引する「カーボン・オフセット」です。

これは、CO2などの削減効果を、第三者機関により「カーボン・クレジット(排出権)」として認証してもらい、企業間で取り引きできる仕組みのこと。自社で削減できない温室効果ガスの排出量は、より多く削減できる企業からクレジットを買い取ることでオフセット(相殺)できます。REMAREがマテリアルリサイクルで削減したCO2量に対し、「カーボン・クレジット」が発行(カーボンクレジットの認証機関「Verra」により認証)されるため、どうしても自社で温室効果ガスを削減しきれないという企業は、REMAREのカーボンクレジットを購入することで、排出量がオフセット(相殺)されるというのです。まだ聞き慣れない「カーボン・クレジット」ですが、国内では国が主導する制度(出典:環境省)などがすでにスタートしているほか、2023年には市場が開設されて企業間での売買が正式に開始されるなど(出典:東京証券取引所)、今後、取引はさらに本格化すると見込まれています。

株式会社 REMAREの田中翔貴さん(ステージ右)、一般社団法人Co 代表理事 片岡 慶一郎さん(ステージ中央)、FabCafe Nagoya 代表の矢橋 友宏(ステージ左)

「自社・自身でどのようなアクションができるのか?」…そんな思いでイベントに参加してくださった方々と有意義な意見交換をしようと、イベントの終盤では、REMAREの田中さん、FabCafe Nagoya 代表の矢橋 友宏に加え、カ-ボン・クレジットの創出支援や脱炭素・生物多様性領域の研究に取組む一般社団法人Co の代表理事 片岡 慶一郎さんが登壇。「CO2の増加で地球の限界が近づいていると言われる中、“脱炭素”は喫緊の課題。どんな小さなことでも実践していくことが急務で、『勉強』のフェーズから『実践』のフェーズにすでに移行しています。一緒に一歩踏み出しましょう」と、FabCafe Nagoyaの矢橋が、参加者を激励しました。

「カーボン・オフセット」を巡るディスカッションが開始すると、参加者からは、現状の課題を指摘する声が上がりました。それに対し、現段階でできること、そして、今から取り組むことで得られるメリットについて、登壇者が回答しました。

参加者(テキスタイルメーカー):現在、カーボン・クレジットの取り組みに対する企業のモチベーションが低いと感じています。その価値を消費者に伝えることが難しいのも課題であるとも感じています。

片岡:確かに、民間企業目線でクレジットを購入するインセンティブが少ないのが現状です。今はまだ、実際の使い道がなく、環境配慮をPRするためのブランディングツールのように扱われる傾向もあります。そもそも消費者が、環境価値を、まだ、価値として捉えてくれていない。ですが、経産省が主導する『GXリーグ(カーボンニュートラルの実現と持続的な成長の実現を目指す企業が官・学と協働するプラットフォーム)』が本格稼働を迎える2026年くらいからニーズの高まると予測されているので、個人的に推奨しているのは、現段階から、クレジットを発行したり取引して保有をしておくことや、取引に慣れておくことです。すぐにマネタイズする計画を練るのではなく、今後の対応に使うという姿勢が健全だと思います。

矢橋:消費者がクレジットの価値を理解してくれない現状では、実際に販売する商品の価格に、クレジットの価格を添加できないという点が問題ですよね。例えば、有機栽培で生産された野菜を倍の値段で買う人がどれだけいるのかという問題と同じで、それを理解して洗濯する消費者はまだ一部。あとどのくらいの期間で「カーボン・クレジット」の取引が本格化するかが問題ですが、効果が如実に出るのは“人材採用”だと聞いています。若い世代の意識が変わってきていて、環境配慮に本気で取り組む企業が人気だからこそ、「カーボン・クレジット」への取り組みやその姿勢が、若い世代からの信頼を勝ち取ることに繋がるのではないでしょうか。

イベント後の交流会では、参加者同士が積極的に情報交換する様子が見られました。世界情勢や再生資源人気を背景に、ペットボトルやナイロンなどの使用済み素材が、バージン材よりも市場で高値をつけている昨今。環境配慮に対するアクションの価値を、カーボン・クレジットで評価し、取り引きするようになる時代へのティッピングポイント(転換点)に向けての士気が感じられるイベントとなりました。

  • 田中翔貴(Shoki Tanaka)

    株式会社REMARE CPO

    1994年神戸生まれ多拠点育ち。大阪工業大学を卒業後、商空間制作会社勤務の建築設計業務を経て、VUILD株式会社に参画し、アーキテクト/プロジェクトデザイナーとして、デジタルファブリケーションツールを全国に普及させ、2023年より現職。「あらゆる副産物から、つくる喜びを届ける」を使命に、日々の暮らしから地球環境までを美しくすることを目指している。プロダクトから建築、それらをつくる環境をデザイン対象として横断している。現在、築130年以上の古民家蕎麦屋の相談役。一級建築士。

    1994年神戸生まれ多拠点育ち。大阪工業大学を卒業後、商空間制作会社勤務の建築設計業務を経て、VUILD株式会社に参画し、アーキテクト/プロジェクトデザイナーとして、デジタルファブリケーションツールを全国に普及させ、2023年より現職。「あらゆる副産物から、つくる喜びを届ける」を使命に、日々の暮らしから地球環境までを美しくすることを目指している。プロダクトから建築、それらをつくる環境をデザイン対象として横断している。現在、築130年以上の古民家蕎麦屋の相談役。一級建築士。

  • 片岡 慶一郎(Keiichiro Kataoka)

    一般社団法人Co 代表理事

  • 矢橋 友宏 / Tomohiro Yabashi

    FabCafe Nagoya 代表取締役
    株式会社ロフトワーク 顧問

    岐阜県大垣市出身。1989年名古屋工業大学を卒業し、株式会社リクルート入社。通信事業や新規事業開発に従事。2006年ロフトワークに合流、取締役としてマーケティング・プロデュース部門の立ち上げ。プロジェクト管理、人事、労務、経理など経営システムの基盤構築・運用を指揮したのち、2023年より顧問に就任。

    これまでの経験を東海エリアでも活かしたいと、2020年、ロフトワークとOKB総研(本社 岐阜県)との合弁で株式会社FabCafe Nagoyaを立ち上げ、代表取締役に就任。東海エリアにおけるデザイン経営の浸透と循環型経済(サーキュラーエコノミー)の社会実装をテーマに、製造業をはじめとした企業へのプロジェクト提案、コミュニティラボの立上げ・運営に奔走している。
    これまでの活動・登壇

    岐阜県大垣市出身。1989年名古屋工業大学を卒業し、株式会社リクルート入社。通信事業や新規事業開発に従事。2006年ロフトワークに合流、取締役としてマーケティング・プロデュース部門の立ち上げ。プロジェクト管理、人事、労務、経理など経営システムの基盤構築・運用を指揮したのち、2023年より顧問に就任。

    これまでの経験を東海エリアでも活かしたいと、2020年、ロフトワークとOKB総研(本社 岐阜県)との合弁で株式会社FabCafe Nagoyaを立ち上げ、代表取締役に就任。東海エリアにおけるデザイン経営の浸透と循環型経済(サーキュラーエコノミー)の社会実装をテーマに、製造業をはじめとした企業へのプロジェクト提案、コミュニティラボの立上げ・運営に奔走している。
    これまでの活動・登壇

crQlr Awards Exhibition Nagoya – “New Relationship Design(新しい関係性のデザイン)”

「循環」をテーマに各国から集まったアワード受賞作品と東海エリアの循環型経済の取組みを展示します。

■会期:2024年7月2日(火) – 7月31日(水) *FabCafe Nagoyaの営業日時に準じます。
■会場:FabCafe Nagoya
■観覧無料 / 予約不要

crQlr Exhibition Nagoya banner

Author

  • 東 芽以子 / Meiko Higashi

    FabCafe Nagoya PR

    新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。

    「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。

    趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。



    新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。

    「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。

    趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。



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