Event report

2021.12.26

接近する眼差し 多様な表現を響かせあう vol.1 -「つくるもの、つくるあたま」中川朝子・ばいそん・山崎結子 アーカイブ・レポート-

「創作」、それはすなわち社会を切り取る無数の手段。

 途方もなく複雑に分岐する世の中に対抗するべく、私たちはシャッターを切り、ペンを取り、エンターキーを軽やかに叩く。クマ財団奨学生というくくりを除き、三人を繋ぐものは何もない。誰もがそう思っていた、トークの火蓋が切られるまでは。

 対話により見いだされた新たな共通項――出自も背景も創作過程も異なる私たちの抱く類似点。それはきっと、世界を紐解く鍵となることだろう。

 私たちは反発しながら、同じ「希望」を追い求めていた。その過程は荒々しくも美しかった。さながら、実験室で引き起こされる化学反応のように。文字に織り込まれた火花の熱を感じ、飛び散る光の可能性を追い求め、各アーティストの今後に思いを馳せよ。

中川朝子

いまを生きる若手クリエイターたちは、眼のまえにひろがる世界をどんなふうに切りとり、自分たちの表現へとつなげているのでしょうか。
本展示では、AR・ガラス工芸・映像・ことば・電気回路・錯覚等、さまざまなメディアをとおして創作をおこなう9人の学生クリエイターたちの作品をあつめ、未来にさしだされた【あたらしいものづくり】の可能性をさぐりました。

本マガジンは、2021年11月に開催された「つくるもの、つくるあたま」展 アーティストトークのアーカイブ・レポートシリーズになります。名古屋の中心部で引き起こされた、新進気鋭のアーティスト・クリエイターたちの化学反応の記録を、ぜひご覧ください。(空気感を伝えるため、話し言葉を活かした記事となっております。)

  • 中川 朝子 / Asako Nakagawa

    名古屋市立大学 医学部 在籍。クマ財団5期生。
    医学部に通いながら、小説を書く。メインフィールドはSF。創作テーマとして”IF”を掲げ、「もし、〇〇だったら…」をパターンとして組み合わせ、不思議な世界観を演出する。
    他にも、理系的な比喩を用いる小説、匂いや触覚などの感覚を重視して作った小説の制作、出版甲子園出場など、活動の幅は多岐に渡る。
    2021年11月にFabCafe Nagoyaにて開催した「つくるもの、つくるあたま」展では、店内カウンターの左右壁面に対となる文章、フードメニューに付いてくる文庫本ペーパー、影で読むことのできる透明人間作品などを展示。
    面白いことをして、色んな人と知り合いたい気持ちをモットーに制作を続ける。

    【受賞歴・活動歴】

    • 第7回日経「星新一賞」学生部門最終選考会選出
    • 第8回日経「星新一賞」学生部門優秀賞受賞
    • 第4回阿波しらさぎ文学賞 最終選考進出
    • 第17回出版甲子園 決勝大会進出
    • 第39回大阪女性文芸賞 受賞

    名古屋市立大学 医学部 在籍。クマ財団5期生。
    医学部に通いながら、小説を書く。メインフィールドはSF。創作テーマとして”IF”を掲げ、「もし、〇〇だったら…」をパターンとして組み合わせ、不思議な世界観を演出する。
    他にも、理系的な比喩を用いる小説、匂いや触覚などの感覚を重視して作った小説の制作、出版甲子園出場など、活動の幅は多岐に渡る。
    2021年11月にFabCafe Nagoyaにて開催した「つくるもの、つくるあたま」展では、店内カウンターの左右壁面に対となる文章、フードメニューに付いてくる文庫本ペーパー、影で読むことのできる透明人間作品などを展示。
    面白いことをして、色んな人と知り合いたい気持ちをモットーに制作を続ける。

    【受賞歴・活動歴】

    • 第7回日経「星新一賞」学生部門最終選考会選出
    • 第8回日経「星新一賞」学生部門優秀賞受賞
    • 第4回阿波しらさぎ文学賞 最終選考進出
    • 第17回出版甲子園 決勝大会進出
    • 第39回大阪女性文芸賞 受賞
  • ばいそん / BISON

    九州大学 芸術工学部を卒業、情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] 在籍。クマ財団4,5期生。総務省 異能vation「異能β」認定。
    「つくるもの、つくるあたま」展では、体の動きを瞬時にコピペして、サイズを変えたり配置を変えたり、機能を組み合わせて遊べるARアプリケーション「ARama!」を展示。
    「遊び」を提供することによって生じるユーザーとの対話など、「ものづくりを介したコミュニケーション」を楽しむことを制作の軸としている。

    【受賞歴・活動歴】

    • ADAA2019 エンターテインメント部門 大賞
    • いばらきデジタルコンテンツソフトウェア大賞 最優秀賞
    • Ars Electronica 2020 出展 ・総務省異能vation「異能β」認定
    • 技育展 2021「スマホアプリ部門」登壇

    九州大学 芸術工学部を卒業、情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] 在籍。クマ財団4,5期生。総務省 異能vation「異能β」認定。
    「つくるもの、つくるあたま」展では、体の動きを瞬時にコピペして、サイズを変えたり配置を変えたり、機能を組み合わせて遊べるARアプリケーション「ARama!」を展示。
    「遊び」を提供することによって生じるユーザーとの対話など、「ものづくりを介したコミュニケーション」を楽しむことを制作の軸としている。

    【受賞歴・活動歴】

    • ADAA2019 エンターテインメント部門 大賞
    • いばらきデジタルコンテンツソフトウェア大賞 最優秀賞
    • Ars Electronica 2020 出展 ・総務省異能vation「異能β」認定
    • 技育展 2021「スマホアプリ部門」登壇
  • 山﨑 結子 / Yuiko Yamazaki

    愛知県立芸術大学 修士1年 在籍。クマ財団5期生。
    主に写真を使い、自己に対する内外の人間性に焦点をあてて、アートとして創作。日常を過ごす上、視覚的なあるいは感覚的に得るものを、作品として具現化して昇華する。
    「つくるもの、つくるあたま」展では、新たな試みとして久坂蓮との映像と音声(文章)の共同作品に挑戦。文章は二種類あり、一つは映像表現に関する説明的なもの。もう一つは、制作過程を詩的表現としたもの。その二つの音声の重なりと、レイヤー層のある映像を組み合わせ、左右の耳に届く文章の息遣いによる、生き物に似た仮想的な変化を見せる作品を制作した。

    【受賞歴・活動歴】

    • 全国大学版画展 優秀賞
    • SHIBUYA PIXEL ART AWARD Beyond Pixel Art 賞
    • 嵯峨美術大学制作展 教育後援会賞

    愛知県立芸術大学 修士1年 在籍。クマ財団5期生。
    主に写真を使い、自己に対する内外の人間性に焦点をあてて、アートとして創作。日常を過ごす上、視覚的なあるいは感覚的に得るものを、作品として具現化して昇華する。
    「つくるもの、つくるあたま」展では、新たな試みとして久坂蓮との映像と音声(文章)の共同作品に挑戦。文章は二種類あり、一つは映像表現に関する説明的なもの。もう一つは、制作過程を詩的表現としたもの。その二つの音声の重なりと、レイヤー層のある映像を組み合わせ、左右の耳に届く文章の息遣いによる、生き物に似た仮想的な変化を見せる作品を制作した。

    【受賞歴・活動歴】

    • 全国大学版画展 優秀賞
    • SHIBUYA PIXEL ART AWARD Beyond Pixel Art 賞
    • 嵯峨美術大学制作展 教育後援会賞

  • 加藤あん

    FabCafe Nagoya アシスタントディレクター

    2000年生まれ。水瓶座。

    2019年あいちトリエンナーレ育成プロジェクト参加をきっかけにアートとジェンダーについて興味を抱く。卒業論文のテーマは「身体とファッション」。鷲田清一の「モードの迷宮」がバイブル。現代の人々が衣服を着用する意味、身体本来の目的ついて深掘り中。 趣味は映画鑑賞。特に好きな映画は「SWEET SIXTEEN 」。

    2000年生まれ。水瓶座。

    2019年あいちトリエンナーレ育成プロジェクト参加をきっかけにアートとジェンダーについて興味を抱く。卒業論文のテーマは「身体とファッション」。鷲田清一の「モードの迷宮」がバイブル。現代の人々が衣服を着用する意味、身体本来の目的ついて深掘り中。 趣味は映画鑑賞。特に好きな映画は「SWEET SIXTEEN 」。


加藤:山崎さんに質問なのですが、どういった経緯で久坂さんとの共同制作に至ったのでしょうか?

山崎:久坂さんとの出会いは、クマ財団繋がりでSNSをフォローしたのがきっかけです。そうしましたら、久坂さんの方から私の作品についての感想メッセージが届きまして、私も久坂さんの作品を拝見させていただき、「いつか一緒に作品制作ができたらいいですね!」みたいなお話をしていたんです。
そこから、ひょんなことに、この有志メンバーによるクマ財団東海支部が立ち上がり、『つくるもの、つくるあたま』展で共同制作が実現することになりました。不思議な出会いですね。

加藤:作品はどれくらいの期間で作られたのでしょうか?

山崎:どれくらいだろう…3、4ヶ月くらいですかね、結構かかってます。映像であったり、校正であったり、あーでもない、こうでもないと、久坂さんと相談し、悩みながら制作していました。1ヶ月に1、2回会って、残りはLINEで綿密にやりとりしていた、という感じですね。

加藤:LINEでのやりとりも多かったんですね!山崎さんが事前に作品を制作して、久坂さんが価値観を理解してくれたというようなイメージで合っていますか?

山崎:あ、そうなんです。本当におっしゃる通りで、私、あんまり自分のことを知られたくないというか、照れみたいな気持ちがあり、作品のことを説明するのが苦手で…。でも、最初にメッセージをいただいた時から、久坂さんは作品から意図や気持ちを汲み取ってくださって、本当に思いやりのある方なんです。
作品がどんどん良い方向に広がって、自分でも思い描いて無かったものができるということが、共同制作の良さでしたね。

ばいそん:まだ一回も会ったことがない頃から、気持ちを汲み取ってくれるのはすごいよね。クマ財団の同期っていうところから、テキストコミュニケーションを通して始まった作品ってのも、面白いな〜。

山崎:そうです、そうなんですよ。

中川:ちょっと気になるんですけど、二人で制作を進めていく上で摩擦とかはなかったんでしょうか?

山崎:相違はありましたね。自分は写真をばかりやってきたから、言葉で表現するということに全然慣れていなくて。映像の流れも、久坂さんがアドバイスしてくださって、でも、私はここは違うんじゃないかな、と。
ですが、意見交換を経たことで、久坂さんが客観視をしてくれまして、おかげで独りよがりな作品にならずできたなっていうのがよかったですし、自身の成長にもつながりました。


久坂蓮、山﨑結子/Variable Breathing(変動する呼吸)

加藤:ばいそんさんは、共同で何か作られたことはありますか?

ばいそん:共同で物作りたいなっていう欲求は、ずっとあるんですよ。

加藤:では、やったことはない?

ばいそん:そうなんです(笑)『ARama!』のシステムからUI設定、動画作成まで全て自分でつくっているので、できることは自分でやりたくなっちゃって。ただ、色々一人だと回らないところもあるなぁと思ってはいるので、誰かと一緒にできたらいいなぁという気持ちもあります。
中川さんは、今まで何かと共同でつくることはありましたか?

中川:共同と言えるかはわかないですが、文芸部のメンバーに助けられた部分が多くあります。受賞してきた小説って、多いと10人ぐらいの方に読んでもらいながら変えていったものなので、そういう意味では全ての小説が共同作品とも言えるかもしれません。
あとは、まだやったことはないんですけど、ちょうど5期生に久坂さん、幸村くん、そして私という3人の物書きがいるので、いつか3人で一緒に小説書いてみたいです。

加藤:ばいそんさんは『ARama!』を作る以前は、どういったものをつくられていたんですか?

ばいそん:僕のキャリアは、豊田工業高等専門学校 電気科から始まっていて、その時は、あんまりものをつくらなかったんです。電気化学にある美学的な、大きなシステムの中の核心的な部分を作るという考えが合わないかも…と感じていて、それでモーショングラフィックスを始めたところ、ワクワクし始めました。そこから学園祭のPVを作って盛り上がったりしてました。このあたりがものづくりの原体験ですかね。
その後、色々手を出した結果、「これで何ができるんだろう…」という漠然とした不安を抱えつつ、IAMASに入学し、ARアプリケーションを作ってみたんです。そうしたら、AR特有の”現実空間とデジタルなものを組み合わせて扱う”ことが、これまでの経験を活かせそうだなと。
『ARama!』は、フィジカルなものもデジタルなものもやってきたからこそ、傑出したのかなって思っています(笑)まだまだだな〜という点もたくさんありますが、まず多くの方々に楽しんでいただけたら嬉しいです。


ばいそん/ARアプリケーション「ARama!」

加藤:少し話が変わりますが、みなさんは、今やってる分野を、ここから先もずーっと続けていくということを考えていますか?

山崎:私は、学部の頃から写真を続けていていたのですが、他分野の方とお話したり触れ合ったりしていくうちに、自分が写真でできることってなんなんなんだろうと己を振り返ってみたら、だんだん、だんだん、うーん…すごくすごく、凝り固まっていっているような気がして。
だからこそ、私は写真だけに決める必要はないんじゃないかなと。試行錯誤して、自分の表現みたいなのを見つけていけたらなぁと思っています。

ばいそん:今後は、写真で映像みたいな”流れ”を表現することもしていくのでしょうか?動きによって変化するような?

山崎:つくろうと思えばつくれるんですけど、なんていうか…どうしても、1枚単体で完結してしまうんですよ、写真は。でも、映像は1シーン、カットでみることってあんまりなくて、最初から最後まで流れでみていただく前提を踏まえることが重要だなって思っています。

加藤:中川さんはいかがですか?

中川:私、高校まではずっと漫画家になりたかったんです。手塚治虫みたいに、なんでもできる人を目指していたんですけど、大学で医学部に入ったら、実際は忙しくて、制作活動を諦めかけていた時期もありました。そんな時に手塚治虫を読み直して、やっぱりこれじゃダメだなって。でも、あんまり絵が上手くないので、何が一番私にとって良い表現媒体なのかなと考えたら、紙とペンから始められる文章はどうかと、我流で小説を書き始め、現在に至ります。

ばいそん:医学部に入ったのは、手塚治虫になりたいという第一歩だったのでしょうか?

中川:ぶっちゃけてしまうと、文学部を目指していたのですが、親に医学部以外進学しちゃダメと言われれてしまって…。

ばいそん:親は見ない?大丈夫?(笑)

中川:はい!そこは、大丈夫です!(笑)手塚治虫は、医学部の博士課程まで進学してるんですよ。なのに、アイデア数がめちゃくちゃ多くて、それでいてストーリーも完成されていて、作品全部が高クオリティ。まだまだ私は言い訳して逃げているって、奮い立たされました。

ばいそん:かっこいいなぁ!中川さんは、クイズとかもやられるでしょ?出版甲子園もだし、英語のスピーチコンテストも出ていると聞いて、多彩だと思っていたんです。
手塚治虫によるパッションから、この”中川朝子”が出来上がっているのは、とても面白いなぁと思います。もはや手塚治虫を超えてしまってるような。

中川:ありがとうございます!私は、本当にガッツだけが取り柄なんで(笑)

中川朝子/Direction

加藤:他のみなさんは、憧れの人っていますか?

山崎:姉を尊敬していますね。私の姉、変な経歴なんです。観光系の大学に入ったんですけど、バイトで巫女をしていて、そうしたら、神主さんに認められ、神社を継ぐことになったんです。
そのエピソード自体に、すごく姉の人柄の良さみたいなのが出ていて、本当に、なんというか柔らかくて優しい、それでいて、少し根暗なところが、すごい好きだなって。

ばいそん:手塚治虫パッションと素敵なお姉さんのお話しを聞いた後に、なかなか難しいのですが…僕は祖父ですかね。うちのじいちゃん、すごく日曜大工をする人だったので、おかげで、家って作るものなんだ、道具って作るものなんだって、物心着いた時からつくることの日常感を覚えていました。そんな、ものをつくる姿勢に、憧れましたね。
僕の父親は教師をしているんですが、そんな祖父の血を継いで、音楽の授業で自作楽器を作って、子どもに音楽を教える活動をしていた頃もありました。やっぱり、家族ですね。


  • 株式会社ファースト

    サイン・ディスプレイ用品 製造販売会社

    名古屋市天白区にあるサイン・ディスプレイ用品 製造販売会社。サイン・ディスプレイを通して、人々の便利で快適な暮らしを根本から支え、より豊かな生活の実現を目指していきます。

    Webサイト

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今回の「つくるもの、つくるあたま」展はいかがでしたでしょうか?

広告媒体としての情報発信を追求してきた弊社ですので、クリエイターの方の「何かを産み出したい!」という情熱はすごく新鮮で刺激的でした。
そういった想いをどのように社会に実装すべきか、スマホやインターネットの中だけでなくてリアルな原体験の世界にどうやって落とし込むか。そのきっかけをいただいたような気がします。
特に今回弊社の工場で実際にものを作ってる現場を見てもらってから、わいわいとサイネージのデザインを決めたことも、世界観を大切にされているクリエイターの方との共創では必然だったと感じます。

今後、具体的に、彼らのようなクリエイターたちと何かしてみたいこと、描く未来を教えてください。

基本は今回同様、クリエイターの方たちの表現方法の物質的お手伝いとなりますが、我々みたいに社会に大きく「面」を出すことができる企業をあらかじめ認識した上で、表現する手法から一緒にものづくりできたら面白いと考えております。
広告媒体・情報端末としてのサインの枠からはみ出し、デジタルやアナログすら関係なくアイデアソンのようなものもやりたいですが、我々も利益追求型の民間企業であるため収益性のあるビジネスへ昇華させる必要があり、どういったシーンで使用し、どうやってマネタイズするかを同時に考えていきたいです。


加藤:今回の『つくるもの、つくるあたま』展を通して、お互いの共通点、何か見つけたこと、感じたことはありますか?

ばいそん:美大生を目指すストーリーの漫画『ブルーピリオド』に「俺の頭の中にある“俺の絵”は最高にかっこいい、けど一筆、また一筆、俺が俺の絵をダメにしていく」ってセリフがあるんですけど、その言葉、僕がグラフィックや動画制作をしている中で感じたことがあるなって思ったんです。
でも、プログラミングは相反していて、一筆一筆良くしていくものなんですよね。

中川:それ、まんま、漫画描いていた時の自分です。小説でも、書き進めていくごとに迷走していくのは近しいものがあると感じますね。
推敲していく度に、文章の勢いが無くなってしまうので、きれいな文章か、パッションを選ぶか、いつも悩みます。
ですが、自分にとっては映像や絵でアウトプットするより文章の方が相性がいいのかなと思いますね。いろんなイメージを落とし込むっていう面からすると、文章には良い部分も悪い部分もあると感じます。細かく伝えすぎると世界観がなくなってしまいますし、かといって雑に書くと全然伝わらない。

山崎:私も、ブルーピリオドの話を聞いて、高校の私だなぁって(笑)
高校の油彩の授業で、すごい大きなキャンバスに、お風呂の絵を書きたいと思ったんです。頭の中では、本当に、もう素晴らしい絵が描けるぞっていう希望に満ち溢れていたんですけど、筆を重ねるごとに、だんだん違う色になっていって。
油絵は、その色を乗せていくごとに濁っていくんです。どんどんどんどん、澱んだ浴槽ができていって、私は何を書いているんだろう…と。
最終的にキャンバスを黒く塗りつぶし、展示に出したんです。それを経験して、油絵の終わりのなさがすごい恐怖で、そこからカメラに移りました。カメラは、押した瞬間に絵が決まって終わりが見えるから、私にとって写真表現というのは、すごいやりやすいんです。

ばいそん:写真の取り直しとかはするんですか?

山崎:撮り溜めはしますね。モチーフを組み、その前に網を組んで、写真を何枚も何枚も撮る。その中から、自分の一番いいものをピックアップできるというのが良くて、絵画だったら、この瞬間がいいってなったとしても、まだ上が目指せるんじゃないか?って考えてしまう。そしたら、もう、わからなくなっちゃうんですよね。”Ctrl+Z”がない世界です。

ばいそん:それ、本当に僕がプログラミングで感じないことだなと思っていました。僕のは”Ctrl+Z”有りきのものづくりなのかなって。プログラムは、どんどん良くしていける。デジタルなものづくりだと、濁るようなことはないのかも。


多様な作品がカフェ空間にずらりと並ぶ展示風景

加藤:今、文章を書いている方って、もちろん原稿用紙に手で書くみたいなこともあると思うのですが、中川さんはどうですか?デジタルで制作されてます?それとも、アナログでしょうか。

中川:SFのプロット作りは、紙とペンというアナログな方法を使います。それは、頭の中の世界をどうわかりやすくアウトプットするかという過程を踏むからですね。わかりやすくすることは、繊細な作業だと思っていて。それが不要な小説は、勢いに任せてWordで書いちゃいます。

加藤:なるほど(笑)理想のものがあって、それに対してアプローチしていくにつれ、よくなくなっていくんじゃないか?みたいな感覚は、結構みなさん経験されているんですね。その経験は、共通点と言えそうですね。

ばいそん:そんな気がします。ツールの違いはあっても、没頭した時に生じる、ものづくりへの自分勝手さだったり、熱量、パッションだったり。山と谷があって、その一筆一筆進めていくたびに、脳汁がぶしゃぶしゃ溢れ出るみたいな体験、きっと、みんな経験してきているんですよね。ここが”ものづくり”に共通したものなんだろうなぁ。

加藤:逆に、これだけは譲れない、僕だけの、私だけのものだろう、みたいな他者との相違点ってあります?

ばいそん:パッと思いついたのでいうと、無駄を省いてスマートにしていくことですかね。
アプリを作っていると、「何行書いたの?」って聞かれるんです。なんとなく、行が多いほどすごい印象があるのだと思うんですけど、実は、プログラムって行数を少なくすればするほどかっこいいんです。
何行も何行も書いて無駄な処理を繰り返すより、繰り返しますってガット一つにまとめてあげた方が、かっこいいんですよ、収まりが良くて。尚且つ、こう動いているんですって仕組みを答える時に、人に伝えやすい。
そんな感じで、プログラミングのすごさは、無駄なところを省いていかにシンプルにロジックを組み立てるかだと僕は考えているので、そのあたりの認識が他の制作とは違うのかな。どうでしょう?

山崎:美術においては、スマートさは作品の良さに比例しないですよね。簡単に作れるからこれはよくないとか、そういうものではない気がします。それより、質であったりコンセプトの起き方とか見せ方であったり…うーん、確かに、ちょっと違うかもしれません。
こだわりっていう面で言えば、何100枚と撮ってこの1枚を選んだというのは、人には言えないけど、努力の明石みたいにはなりそうですね。

加藤:さて、ここからは、クマ財団の事務局員であり、財団1期生でもある野村さんにも加わっていただきます。よろしくお願いします。
みなさん、実際に他ジャンルの作品展示を行ってみて、いかがでしたか?

ばいそん:普通の展覧会だったら、デジタルコンテンツはデジタルコンテンツ、絵画は絵画が並ぶ。でも、今回は多ジャンルが集まったクマ財団ならではの内容だったので、クリエイターといえどもこんなに違いがあるのだなと感じましたね。

山崎:それぞれの良さをどう活かすのかっていうのが、ちゃんと形になってると思いました。他の作家さんとかの影響もあって、すごいもらったなぁって感じがします。

中川:私、これが人生初の展示だったんで、ものすごく追い詰められていたというか…。アイデア出すまでは簡単ですけど、それを切り詰めるのって本当に難しくて。もう、みなさんすごいんだなっていうのをヒシヒシ実感しました。

加藤:野村さん、クマ財団サイド、そしてクマ財団1期生の先輩として、俺の時はこうだった!みたいな意見はありますか?

野村:僕は1期生の時、舞台美術で演劇をやってたんですよ。で、演劇って基本的に異分野の人たちが集まってつくらないとできない芸術なので、多様な表現が集まることは当たり前なことです。だけど、他の芸術表現っていうのは、決められたフォーマットから外れられなかったりする。例えば、小説家だったら最終的には印刷物に起こすべき、とか。
そういう意味で、今回の展示の中での中川さんの表現は特に印象的でした。カッティングシートで文字で空間演出をしたり、男子トイレの壁に新聞のようなものを貼ったりしている。最初は気づかなかったんだけど、あれ男性が立ってトイレしようとすると、ちょうど視界に入るっていうね(笑)
こういう表現の枠を超えた挑戦って、他の人やジャンル作品との対話から生まれた表現なのかなって、見ていてすごく良い経験してるなぁと思っていました。
今回の展示は、みんなの自主企画だから運営に関わっているわけではないんだけど、計画の段階からたくさん話をしているのは知っていて、それが展示まで落とし込まれている。過程が面白いし、クリエイターとして若い頃からいろんな表現を試せるのは、正直羨ましいと思いました。

中川朝子/激白! トイレの花子さん

加藤:みなさんは、クマ財団に在籍してみて、何か気づきはありましたか?また、どうして応募したのかについても伺いたいです。

中川:創作活動するにあたって、後ろ盾が欲しかったんです。医学部で小説を書いてると、偏見だったり、もっと真面目に勉強しろよだったり言ってくる人がいるんですよ。それで本一冊かけちゃうくらい(笑)ですが、クマ財団に入ったら、周りもちゃんと理解してくれるようになったので、本当に最強の後ろ盾です。もし、自分に後ろ盾が欲しいと思う学生は、迷いなく応募してほしいな。

野村:後ろ盾として我々も頑張らないと(笑)にしても、医学部という中で文学活動をやるっていうのは、かなり異端なことなんですか?

中川:そうですね、その昔だと森鴎外とか、今でいったら海堂尊とかいるんですけど、学部生のうちからやってると理解されない雰囲気はありますね。ただ、それもここ数年で変わってきて、ショパン国際コンクールに出てる医学生とか、ミスコン出てる医学生もいて、徐々に変化しているなとは感じています。

野村:周りに似たような活動している人が少ないと思うんだけど、中川さんの創作活動において、”コミュニティ”って必要だと思いますか?

中川:絶対、必要だと思います。クマ財団のみんなは、てんでばらばらのことをやっている。だからこそ、私の世界ってこんなに狭かったんだなって気づきましたし、その刺激が自分の創作に活きます。私も、他の人にそんな影響を与えられていたらいいな。

野村:なるほど。周りのコミュニティのことで、ばいそんさんに聞きたいんですが、在籍しているIAMASはメディアアート系の人たちが集まっているイメージがあります。学校ならではのコミュニティの良さとか、学校と比較した時のクマ財団について何かありますか?

ばいそん:今のIAMASは、メディアアートって一括りにできるような人たちが集まっている場所ではなくなっているんです。僕の同期でも、アーティストやられてる方、グリッチアートされてる方、デジタルなアートやられてる方、絵画されている方がいたり、テレビ局で13年勤めてからキャリアチェンジで来た人もいたり。多ジャンルの人が集まっている。なので、僕の感覚としては、小さいクマ財団みたいなところが、IAMASです。あと、九州大学の芸術工学部もそれぞれが好きなことやる似たような環境でした。
そうやって、全然違うもの同士が出会う場にいると、まず自分のやりたいことを説明しなきゃいけないじゃないですか。そうしたコミュニケーションの中で、考えていたことと異なる観点の発見が、どんどん来るんですよね。クマ財団の”創造性が共鳴し合う”というのは、まさにこれだなと、その重要性を実体験として知っていたからこそ、惹かれました。

野村:そんな既に刺激的な環境に身を置いてて、なんでクマ財団に応募したんでしょう?

ばいそん:生々しい話をすると、好きなことして生きていきたいじゃないですか(笑)ただ、そこまで甘くないこともわかっているんです。学生というモラトリアムな状況下でつくっているけど、まだお金になったことはないし、不安がある。だからこそ、好きなことして生きていくんだっていうモチベーションで制作して、尚且つ120万円貰えるなら応募するしかない!と。

野村:なるほど。お金かければ必ずいいものができるというわけじゃない、と言いつつも、いいものつくろうとするとお金がかかってしまうジレンマがある中で、奨学金があれば、制作時間を確保することや、制作の手助けになるのかなと思いました。山崎さんはどうですか?

山崎:私は、愛知の大学に通って一人暮らしをするとなった時に、資金が必要だったというのがきっかけでした。ですが、今改めて考えてみると、クマ財団の奨学生という肩書きが、自分の中でアイデンティティの一つになっています。
やっぱり、学生でアーティストをするというのは、なんていうか、不安定なんです。結局、アーティストにもなりきれてないし、バイトもしていて、私って一体なんなんだろう…って釈然としない。でも、クマ財団の奨学生って名乗れることによって、「よかった、私ってちゃんと人間やれてるんだな…」って、すごい安心につながっています。

野村:「人間やれてるんだな…」とんでもない後ろ盾になっちゃった(笑)でも、新しいものをつくるってなると、意外と孤立したりってあると思っていて。、それこそ、中川さんみたいに医学部っていう中で、誰もやったことない、まだ挑戦したことがないことをしようとすると、白い目を向けられちゃうみたいなの、なんかあると思ってて。自分のつくっているものに自信はあるけど、ふとした時に、私は何者なんだろうって考えてしまう。そんな時に、ぱっと周りを見渡して、『クマ財団』っていう冠で我々は一緒ですよねと安心感を与えられるといいのかな。

加藤:最後に、みなさんは、これからどんなことに挑戦していきたいですか?

山崎:そうですね、漠然とした答えなんですけど、支えられてやっていくんじゃなくて、己の軸みたいなものをちゃんと見つけたいです。今はいろんなことをやっているけど、まだ道の途中みたいな気がしていて、その着地点を最後に見つけたいなぁと。

ばいそん:最近は「遊ぶように生きる」と話しています。ARアプリを通して勝手に遊べる空間を作っていたんですけど、それを通して、僕は、遊ぶように生きたかったんだなと気づいたんです。決してキャッチコピーでも建前でもなく、本当に、ただみんな好きなことをして生きたい。正直、クマ財団に受かったことにより、「このままいけるな!」みたいな前向きな気持ちにはなれたので、この勢いで突き進みたいですね。

中川:私は、クマ財団に在籍したことのあるクリエイターを題材に、一人一人の小説を書いてみたいです。実は、既にほんのちょっとだけ進めていて、3、4作品くらい書いてる最中なんですけど、それを200、300と続けたいです。そのために、その人自身やその人の作品を、知って、話して、あわよくば制作をご一緒させていただければ、もう最高です。

ばいそん:野村さん、1期生としてはどうですか?卒業して、実際どうだったのかなと。

野村:今、クリエイターを一旦離れ、支える側の人間やろうと決めてから思うのは、この先長いなってことですね。
当時は、卒業までにこれをやらなきゃとか、ギャラリー所属を決めないと終わりみたいなことを考えていたけど、それこそ、ばいそんさんの”楽しく生きる”じゃないけど、クリエイターとして生きるってことは、必ずしもそれだけで生計を立てるか生きるってことじゃなくて、クリエイティブをどう生活に馴染ませるか、どう日常的に向き合うかってことも含まれるんじゃないかなって思い始めていて。
だから、僕の場合は、上手く活動もも続けながら、支えていく側としてもクリエイションに向き合っていければいいのかなと考えています。

加藤:ありがとうございます。クマ財団のビジョンである”創造性が共鳴し合う世の中に”というのは、クリエイター同士の話だけではなく、外の人たちにも「いいな!」って思ってもらえ、周りに与えられることも多いんじゃないかなと、話を聞いて思いました。

野村:そうそう。クマ財団に入ることだけがクマ財団との唯一の関わり方ではなくて、今回のような展示に来て、感じたこと、わからないことがあったら、クリエイターに質問していいし、意見をぶつけて欲しくて。とにかく、クリエイターたちと話してほしい。色んな形で、クマ財団のクリエイターのみなさんたちの表現が新しい関わりを生んでくれると、僕は本当に嬉しいです。
最後、ちょっと宣伝になるんだけど、気になる人は、ぜひ来期に応募してみて欲しいです。

ばいそん:補足ですけど、クマ財団、1回落ちてます、僕。

野村:そうなの!2回目・3回目で通る人、結構多いんです。

ばいそん:落ちた時は、やっぱり準備が足りなかったというか、物自体が足りなくて。でも、これだと落ちるんだなっていうのがわかったから、どんどんつくった。そうして貯めたものをまた見せたら通る、みたいなパターンもあるので、今のタイミングでクマ財団を知って興味を持ったなら、そこから始めていけばいいと思います。

野村:1回やってダメで次の年に出す人もいれば、ちょっと時間を空けて挑戦する人もいるので、永久に落ち込むことなく、何回も挑戦していただければと思います。

 

本アーティストトークの会場動画はこちら

次回、vol.2 (久坂、西田、寺澤)レポートは1月上旬公開予定です


  • クマ財団

    株式会社コロプラ代表の馬場功淳により設立された公益財団法人。「才能を持った人に、いいものを作って欲しい」という想いのもと活動をスタート。

    5年目を迎える現在、私たちは「創造性が共鳴し合う、世の中に。」というビジョンを掲げ、次の時代を担うクリエイター発掘と支援を行い、若き才能が世の中へ拡がる原動力となることを使命に活動をしている。

    Webサイト

    株式会社コロプラ代表の馬場功淳により設立された公益財団法人。「才能を持った人に、いいものを作って欲しい」という想いのもと活動をスタート。

    5年目を迎える現在、私たちは「創造性が共鳴し合う、世の中に。」というビジョンを掲げ、次の時代を担うクリエイター発掘と支援を行い、若き才能が世の中へ拡がる原動力となることを使命に活動をしている。

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  • 野村善文

    1994年生まれ。國學院久我山高校を卒業後、米国東海岸フィラデルフィアにあるハヴァフォード大学に進学。大学三年次に身体表現の授業を行ったことを契機にパフォーマンスアートの分野に進み、セノグラファー(舞台美術家)として活動を始める。日本帰国後、クリエイティブ業界での経験を積み、現在は公益財団法人クマ財団事務局にて若手クリエイターの支援と文化振興に携わりながら、個人活動として演劇芸術にも関わる。クマ財団1期生。

    1994年生まれ。國學院久我山高校を卒業後、米国東海岸フィラデルフィアにあるハヴァフォード大学に進学。大学三年次に身体表現の授業を行ったことを契機にパフォーマンスアートの分野に進み、セノグラファー(舞台美術家)として活動を始める。日本帰国後、クリエイティブ業界での経験を積み、現在は公益財団法人クマ財団事務局にて若手クリエイターの支援と文化振興に携わりながら、個人活動として演劇芸術にも関わる。クマ財団1期生。

クマ財団6期生募集中!

クマ財団では、奨学金の給付のみならず、最終成果発表までの期間、創作活動を総合的にサポートします。対象は、2022年4月1日時点で、25 歳以下の学生クリエイター。
実力と熱意を併せ持った、学生クリエイターのみなさまの応募をお待ちしています。

  • 前期募集期間:2021年11月18日(木)〜2022年1月31日(月) 23:59
  • 後期募集期間:2022年2月1日(火)〜3月31日(水) 23:59

Author

  • 居石有未 / Yumi Sueishi

    FabCafe Nagoya プロデューサー/作家

    名古屋造形大学大学院 修了。名古屋造形大学 入試・広報センターにて4年勤務。企画運営やワークショップ講師などを務める傍ら、百貨店やギャラリーだけではなく、街中などで作家・イベンターとして常識に囚われない活動を続ける。制作コンセプトは、ニュートラルの表現。
    FabCafe Nagoyaでは、垣根を超えたコラボレーションを通し、それぞれが心地よく”自己追求”できる場づくりを心がけています。

    名古屋造形大学大学院 修了。名古屋造形大学 入試・広報センターにて4年勤務。企画運営やワークショップ講師などを務める傍ら、百貨店やギャラリーだけではなく、街中などで作家・イベンターとして常識に囚われない活動を続ける。制作コンセプトは、ニュートラルの表現。
    FabCafe Nagoyaでは、垣根を超えたコラボレーションを通し、それぞれが心地よく”自己追求”できる場づくりを心がけています。

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