Event report
2026.5.22
小島 和人(ハモ)
株式会社ロフトワーク, プロデューサー / FabCafe Osaka 事業責任者
FabCafe Osakaから大阪湾に向けて歩く。
特別なことは何もしていない。ただ歩いて、話して、ドリンクを飲んだだけ。 でも、何かが残った。言葉にしにくい何かが。
これは2026年5月、ロフトワークの地域共創ユニット、『ゆえん』,FabCafe Osaka,梅田サイファーのKZが企画した都市体験プログラム「大阪トレイル」第1回の記録です。かつての水路跡をなぞるルートを歩きながら、大阪という都市の地層を身体で感じることをテーマにしました。
大阪はかつて「水の都」と呼ばれ、無数の川と堀が街の骨格をつくっていた。 高度成長期以降、そのほとんどは埋め立てられた。今では地図を重ねないと、どこに水があったかもわからない。

水都大阪トレイルの最中の土佐堀川の水辺
でも、道には記憶が刻まれている。
FabCafe Osakaを出て西へ伸びる土佐堀通を歩いていると、なんとなくそれが感じられる。緩やかに曲がる道のライン、川と並走していたであろう微妙な高低差。舗装の下に、かつての水の流れが眠っている。
これはただの「歴史散歩」ではなかった。 足の裏で、街の地層を読もうとする試みだった。
水都大阪コンソーシアムが2026年2月に公開した水都大阪ビジョン2030は、大阪の水辺を「持続可能な共創の水辺」として再定義し、市民・事業者・行政が連携してユニークなチャレンジが次々と生まれることを目指している。今日歩いたルートは、その水辺の記憶と体験価値を、足という最も原始的な手段で確かめる試みでもあった。

この日集まったのは大学生から社会人まで、国籍も多様な15人。
このイベント企画の重要なポイントは「手段としての歩行」にならないこと。「健康のために歩く」でも「景色を楽しむために歩く」でもなく、歩くこと自体が体験の核。
課題もない。ただ歩いて、感じたことを口にする。
ガイドもしない。正解も言わない。 ホストは録音しながら、一緒に歩くだけ。
それだけなのに、人は驚くほど話し始める。 「都会なのに音があまりしないことが不思議」「なんでここだけ古い建物残ってんやろ」「大阪って山が見えないんだ」。 日常の会話には出てこない言葉が、足を動かすと出てくる。
当初は5.8キロ歩いて、海が見える場所まで出ようと話していたが、途中の中之島が薔薇のイベント真っ最中ということもあり
穏やかな歩みで、大正まで歩く。ここがこの日のゴールだった。
FabCafe Osakaに戻ったあとは、今日のために設計されたドリンクを皆で飲む。
ドリンクの名前は
「汽水 / Kisui」
海水と淡水が混ざり合う「汽水域」をコンセプトにしたドリンクで、グラスの底に酒粕蒸留水とトニック、その上に玄米ミルクのフォームが静かに重なっている。液体を混ぜ切らず、あえて層として残すことで、淡水と海水がゆるやかに交わる河口の状態を再現している。
口に含むと、最初に軽やかな泡、次に発酵の香り、最後にトニックの苦味と清涼感。
飲んだ感想として、この日大阪の水辺の記憶を皆それぞれに景色として語る。
身体の内側でもう一度なぞるようなドリンク。
都市の体験価値は、景色や会話だけでつくられるわけではない。 こういう一杯が、その日の記憶を身体に定着させることがある。FabCafe Osakaが提供する「対話型飲食」。
小島和人ハモが提唱するSensibility Urbanism(感性都市論)の中に、都市ミルフィーユモデルという考え方がある。
都市を一枚の平面ではなく、大地性・文化層・経験層という複数の時間層が重なったものとして捉えるモデルです。大地性(土地そのものの記憶)、文化層(人々の営みが積み重なった層)、経験層(その場所で人が感じ取るもの)が折り重なって、ひとつの場所の価値をつくっている。
今日歩いたルートで起きていたことは、まさにこれだったと思う。
埋め立てられた水路の上を歩く。 かつての商業地帯を通り抜ける。 大阪湾が少しずつ近づいてくる。
それぞれの場所で、過去の時間層が身体経験層と交差する。 その交差点で人は何かを感じ、言葉を発する。
録音された会話を後からAIに読み込ませて、歴史的文脈との接点を探すセッションも行ったが、そこで出てきた問いよりも、「歩きながら自然に出た言葉」の方がずっと都市の地層を感じさせていた。(これはこれで、面白い発見だった)
帰りのFabCafe Osakaでの振り返りセッション。 FabCafe Osakaが取り組むまち感性ラボでは、都市の中で人が何を感じ、どんな言葉を発するかを丁寧に観察することを大切にしている。今日の録音と会話は、その実践の一部でもあった。
同じ道を歩いたのに、みんなが違う場所で立ち止まっていた。
都市は、一枚の解釈で完結しない。 同じ場所に立っても、人は違うものを感じる。 その違いが、場の核心にある。
大阪トレイル、第1回。
このイベントはまだ走り始めたばかりで、正直なところ手探りも多い。 でも「歩く」という行為が、都市の感性を開くひとつの回路になりうることは、今日確かめられた気がする。
梅田には、土地の記憶がある。かつての水路があり、商業の歴史があり、人の往来がある。その「大きなアジェンダ」を足で感じながら、日々の小さな実践を積み重ねていくことが、ここFabCafe Osakaでやりたいことに近い。
次回は、また別のルートを歩く予定です。 大阪の別の「水脈」を、足でなぞりに行きます。
大阪トレイルはFabCafe Osakaが継続的に実施する都市体験プログラムです。Sensibility Urbanism(感性都市論)の実践として、大阪・梅田を起点に都市の感性価値を探るフィールドワークを続けていきます。
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小島 和人(ハモ)
株式会社ロフトワーク, プロデューサー / FabCafe Osaka 事業責任者
都市と社会のあいだで「感性」を手がかりに、都市や組織の関わり方を探るプロデューサー/アーティスト。株式会社ロフトワーク所属、FabCafe Osaka事業責任者。
自身の思想である Harmonism(ハモニズム) を背景に、都市体験を感性から読み解く Sensibility Urbanism(感性都市論) を提唱。さらに、都市の体験価値を可視化する指標として まち感性指標(Machi Sensibility Index) の研究と実践を行っている。
企業・自治体・大学などと協働しながら、都市開発や文化プロジェクトを多数プロデュース。FabCafe Osakaを拠点に、都市と創造性の新しい関係を探る活動を続けている。都市と社会のあいだで「感性」を手がかりに、都市や組織の関わり方を探るプロデューサー/アーティスト。株式会社ロフトワーク所属、FabCafe Osaka事業責任者。
自身の思想である Harmonism(ハモニズム) を背景に、都市体験を感性から読み解く Sensibility Urbanism(感性都市論) を提唱。さらに、都市の体験価値を可視化する指標として まち感性指標(Machi Sensibility Index) の研究と実践を行っている。
企業・自治体・大学などと協働しながら、都市開発や文化プロジェクトを多数プロデュース。FabCafe Osakaを拠点に、都市と創造性の新しい関係を探る活動を続けている。





