Event report
2021.11.3
松尾 沙織
ライター
グローバル・ゴールズ・ジャム(以下GGJ)は、2015年に国連で採択された人類の共通目標である「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けて、デザイン思考で取り組んでいくデザイナソンです。
GGJは、2016年にオランダのアムステルダム応用科学大学と国連開発計画(UNDP)の共同のもとスタートしたプロジェクトで、初年度は17都市で開催されました。それから多くの人の共感を得て、現在では年1回、世界90都市以上で同時開催されています。2020年には、世界で 5,000人以上が参加しました。
2017年に東京で「GGJ Tokyo」としてスタートし、過去に5回開催されています。2021年の今回は、中学生と高校生を対象にした初の試み「GGJ TokyoBay」が開催されました。
GGJ TokyoBayでは、学生たちが中心となり、クリエイティブ・チームとともに「Beyond-human-centered Design(人間中心デザインのその先へ)」というテーマに取り組みました。SDGsのゴールでは「13:気候変動に具体的な対策を」「14:海の豊かさを守ろう」「15:陸の豊かさも守ろう」に該当します。
出典/unpacking DESGIN・ UX collective
現在深刻化している気候危機などの環境問題の原因が人間活動であることは、多くの研究からもわかっています。Beyond-human-centered Design(人間中心デザインのその先へ)では、これまでの人間中心に設計されたデザインではなく、自然や環境も含んだデザイン設計に移行していく、Enviroment – centered Design(環境中心のデザイン)に取り組みます。
オンラインワークにあたるファシリテーターとスタッフ、パナソニックセンター東京・AkeruE(アケルエ)にて開催
1日目は、ワークショップ全体の説明と、チームメンバーを知るための自己紹介から始まりました。「SDGsの意義を見出したい」「災害の影響を受けない社会をつくりたい」そんな理由で参加したという声もありました。
チームでのアイスブレイク、ゴール設定のあとは、九州大学芸術工学研究院 助教である 稲村 徳州さん、エコロジカル・アーティスト/Give Spaceアーバンデザイン方法論創始者である 井口 奈保さん、 京都大学フィールド科学教育研究センター准教授である 伊勢 武史さん、3人のゲストトークから気づきとインスピレーションをもらいます。
稲村さんからは、人間の体の半分以上は菌やバクテリアなどで構成され、他生物との共存から私たちの体ができていることから、他生物を含めて幸福にすることを想像する必要や、
体から感じながら、循環する社会や未来に実現したいことをデザインに落とし込んでいること、ものだけでなくサービスやルールもデザインできることなど、デザインの基本と共感を生むデザインについてお話いただきました。
井口さんからは、人間も生物であり生態系の一部であることを踏まえて、人間以外の生物のスペースも考慮した土地のデザインを考えることが、人間の役割なのではないかという問題提起と、都市において他の生物たちにスペースを返していくプロジェクト「GIVE SPACE」の紹介がありました。
このプロジェクトでは、人間以外の生物の生息地が拡大し、人間の生息地と融合していくために、「リジェネラティブ・シンキング(再生・循環思考)」「バイオフィリアック(命を愛する思想)」「コミュニケーション・プロセス・デザイン」「エコロジカル・アート(自分と自然の物語を紡ぐ)」をもとにしながら、
公共空間や建築などでつくられる「PHYSICAL(物理的)のスペース」コミュニケーションをする場などでつくられる「MENTAL(頭)のスペース」内側にある自分のスペース「SPIRITUAL(魂)のスペース」この3つをデザインしていくことが取り組まれています。
伊勢さんからは、生物には、利己的に生きることが遺伝子に組み込まれていること、後先を考えられる思考があること、それにもかかわらず、わかっているけれどやめられないという欲よって環境問題が起きてしまっていること、生物学から見た環境問題について話されました。
だからこそ、地球を救うという「楽観主義」でもなく、人類が滅びれば良いという「悲観主義」でもない、これらを併せ持った「楽観的悲観的主義」という考えが必要なのではないか、という事実と問いかけがありました。
併せて、在来種を侵害する可能性から駆除をしないといけない外来種の植物を使った「外来種いけばな」の事例の紹介も。過去に外来種は日本に棲みつくものも多く、そのまま日本文化になるものもあり、外来種の存在や種の共存について、改めて考えさせられる内容でした。
伊勢さんからは、生物には、利己的に生きることが遺伝子に組み込まれていること、後先を考えられる思考があること、それにもかかわらず、わかっているけれどやめられないという欲よって環境問題が起きてしまっていること、生物学から見た環境問題について話されました。
だからこそ、地球を救うという「楽観主義」でもなく、人類が滅びれば良いという「悲観主義」でもない、これらを併せ持った「楽観的悲観的主義」という考えが必要なのではないか、という事実と問いかけがありました。
併せて、在来種を侵害する可能性から駆除をしないといけない外来種の植物を使った「外来種いけばな」の事例の紹介も。過去に外来種は日本に棲みつくものも多く、そのまま日本文化になるものもあり、外来種の存在や種の共存について、改めて考えさせられる内容でした。
トークを聞いたあとは、学生のみなさんからの質問をゲストに投げかけます。
「外来種から種を守るためにはどうすればいい?」という質問に対して、伊勢さんから、ハブを食べることから持ち込まれたマングースが増えてしまい、他の種を脅かす存在になってしまった事例と、人間の介入とその影響の先を想像することの大切さについてお話いただきました。
「人間中心でない世界をつくるために何が必要か?」という質問に対しては、井口さんから、遠回りでも、さまざまな生息地を取り戻していく、人間が手放していくことが必要で、
そこには「なぜ私たち人間は所有したいのか?」「なぜ所有することで精神が安定してそれがアイデンティティになっていくのか?」「空間をモノ化しないでいかに循環する世界をつくるのか?」を考えていく必要があるとお答えをいただきました。
「見えない伝え手を意識するためにやっていることは?」という質問に対しては、稲村さんから、そのものがどこにつながっているのかを想像することから始めてみること、例えば、南米からトマトが来たところからケチャップの歴史を捉えてみることで、そこに関わる人や物事や自然への想像力を持ってみることが提案されました。
また、学生のみなさんから「言葉がなくても共感できる」「動物としての人間という視点から考える」という言葉が特に心に残ったという意見や「自然と人間が尊敬しあう関係性が必要」という意見も共有されました。
その後は、トークでシェアされた視点をもとに一人ずつ問題を解決したい生物を選び、その生物の目線に立って、5W1Hで問題を深掘りするワークを行います。そしてチーム内で投票し、フォーカスする生物を一つに絞ったあとは、その生物と問題をリサーチする宿題が出て、1日目は終了しました。
2日目は、リサーチしてきた内容をチーム内で共有します。さらに問題を分析するために、その主人公となる生物のライフサイクル全体をワークシートを使って考察し、「どうすれば〜できるだろう?」という、解決策を導き出す問いの設定を行いました。
これらの中間発表をしたあとは、問題に対して持っている「当たり前」や「思い込み」を話し合い、それらをひっくり返す「問い」を出すワークを実施。固定観念に囚われることがイノベーションを生みにくくしていることから、それらを可視化し気づくことで、自由な発想を呼び起こします。
ここでの問いで興味深かったのは、人間の「文化」を守りつつ、いかに他の生物の住処や生態系を守ることをしながら「共存」するかという視点のものが複数あったこと。私たち人間のこれまでの伝統や文化は、まさしく他の生物たちとの共存の歴史が詰まったものになっています。この文化の前提を見直しつつ、今の時代に合ったアップデートの必要についてもグループ内で話されました。
さらに、これらの問いをもとにつくったアイディアスケッチに対し、他の参加者やファシリテーターから、フィードバックをもらったあとは、画像やイラスト・文字を使って、アイディアをプロトタイピング(試作品)に落とし込んでいきます。
そしてイベントの最後は、2日間かけて出されたアイディアを、各チームが参加者全員の前で発表する時間です。
クモに共感し身近に感じることができる「クモアプリ」や文化を守りつつ土に余計なお世話をしないで共存することを目指した「土カフェ」、海洋のプラスチック汚染とウミガメを守るための「食べられる包装パッケージ」、
絶滅危惧種であるユキヒョウを守るための「生態系のデザインと保護プログラム」、人間の文化を守りつつニホンウナギが住む場所と生態系を守ることを目指した「文化や習慣を見直し新しい文化づくりにチャレンジできるイベントカレンダー」と、ユニークなアイディアがたくさんシェアされました。
「土カフェ」チームのプレゼンでは、カフェの内装のイラストが描かれたスライドを使って、メンバーがスタッフ役とお客さん役となってカフェを再現しながら、アイデアを説明。土を使ったパック体験やスイーツなどが紹介され、実際にカフェに訪れたかのような体験ができるプレゼンでした。
参加者からは「楽しかったし達成感があった」「2日間で成長を実感できた」「来年のGGJにも参加したい!」という声が集まり、イベントを通して同世代とのつながりやアイディアを形にする楽しさを体感してもらえたようです。
今回は、初の学生デザイナソンでしたが、発想の柔らかさやデジタルツールを当たり前に活用するさまからも、学生のみなさんの意見やアイディアを社会全体でもっと活かしていくことの可能性や必要を感じました。
また、他生物の目線に立って「Enviroment – centered Design(環境中心のデザイン)」のテーマに向き合うことによって、人間中心のデザインだけでは出てきづらい「共存の歴史と文化」を改めて見ることや、「人間の存在とは?」という人間を客観視する問いを考えることができるところも、面白い発見でした。
今回、デザインのアプローチから生態系のヒエラルキーを壊すことも話されました。その先に人間の社会では、どのような変化や影響が起きるでしょう?想像するとワクワクする一方で、それによって起こる負の影響や必要なサポートについても、考える必要がありそうです。
※“Jamkit”…Digital Society Schoolが開発した独自のデザイン手法キット
2016年に、国連開発計画(UNDP)は、デザインコミュニティと持続可能な開発目標の連携を実現するために、Digital Society School にアプローチしました。Digital Society Schoolは、デザインメソッドの専門知識と国際的な異文化コラボレーションを活用し、人々がそれぞれの文脈で国際的な、あるいはローカルな課題を解決できるよう『The Design Method Toolkit』を作成、オープンソース化しました。GGJでも、課題からアイデア、アイデアから解決策へと進むためのロードマップとして、これらのツールを活用しています。
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松尾 沙織
ライター
震災をきっかけに社会の持続可能性に疑問を持ったことから、現在はフリーランスのライターとしてさまざまなメディアで「SDGs」や「サステナビリティ」を紹介する記事を執筆。オンラインコミュニティ「ACT SDGs」立ち上げる他、登壇、SDGs講座コーディネートも行う。また「パワーシフトアンバサダー」プロジェクトを立ち上げ、気候変動やエネルギーの問題やアクションを広める活動もしている。
震災をきっかけに社会の持続可能性に疑問を持ったことから、現在はフリーランスのライターとしてさまざまなメディアで「SDGs」や「サステナビリティ」を紹介する記事を執筆。オンラインコミュニティ「ACT SDGs」立ち上げる他、登壇、SDGs講座コーディネートも行う。また「パワーシフトアンバサダー」プロジェクトを立ち上げ、気候変動やエネルギーの問題やアクションを広める活動もしている。