Event report

2021.10.26

芸術の輪郭を探って【Fungible? Vol.1 -NFTから考える未来の美- 】#2

前回のレポートでは、加藤明洋さんにお話いただいた「NFTの歴史的背景と現状の概略」についてお伝えしました。
「NFTとはいったいなんなのか?その正体を探る」はこちらからご覧ください。

加藤さんからのNFTの解説に引き続いて、ディスカッションに入る前に秋庭先生よりこれまでに芸術の価値がどのように考えられていたのかについて解説をいただきました。

このプレゼンの初めでは現在形作られている芸術観が当たり前に昔から存在しているわけではないことが改めて解説されています。私たちの今の価値観を形作っているものは多くありますが、その中でもオープンソースカルチャーがその価値観形成に与えている影響はかなり大きいといえます。オープンソースカルチャーは制作過程をオープンにし、無償で各々の制作物を交換し合うことに価値をおいたものです。オープンソースカルチャーにおいては不特定多数による制作活動に重きが置かれるので、個々人への著作権のようなものはあまり重要視されません。もちろん製作者個人へのリスペクトが無いというわけではありませんし実際に製作者への敬意は存在しますが、著作権を過剰に重視しすぎないようにすることで個人ではできないような制作物の完成を可能としてきたのです。このオープソースカルチャーは商業主義に対抗して発展した部分があり、無償でのオープンな情報、作品の共有がインターネットでは大多数を占めています。オープンソースカルチャーがすっかり浸透した後に生まれた世代が個々の作品に対して金銭を払う感覚が薄いことがあるのはこのためかもしれません。ここまで現在の私たちの価値観を形成しているものの一つであるオープンソースカルチャーについて説明してきました。次に美術史を紐解いていくことで、いかに今の私たちの価値観が後天的に作られたものであるかがわかってきます。

プレゼンテーター

  • 秋庭史典

    名古屋大学大学院情報学研究科 准教授

    名古屋大学大学院情報学研究科准教授。専門は美学・芸術学。博士(文学)。著書に『絵の幸福—シタラトモアキ論』(みすず書房 2020年)、『あたらしい美学をつくる』(みすず書房 2011年)。分担執筆に『美学の事典』(丸善 2020年)、『人工知能学大事典』(共立出版 2017年)。共著に『食(メシ)の記号論』(日本記号学会編, 新曜社 2020年)、『人工知能美学芸術展 記録集』(人工知能美学芸術研究会, 2019年)など。訳書にリチャード・シュスターマン『ポピュラー芸術の美学—プラグマティズムの立場から』(勁草書房 1999年)などがある。

    名古屋大学大学院情報学研究科准教授。専門は美学・芸術学。博士(文学)。著書に『絵の幸福—シタラトモアキ論』(みすず書房 2020年)、『あたらしい美学をつくる』(みすず書房 2011年)。分担執筆に『美学の事典』(丸善 2020年)、『人工知能学大事典』(共立出版 2017年)。共著に『食(メシ)の記号論』(日本記号学会編, 新曜社 2020年)、『人工知能美学芸術展 記録集』(人工知能美学芸術研究会, 2019年)など。訳書にリチャード・シュスターマン『ポピュラー芸術の美学—プラグマティズムの立場から』(勁草書房 1999年)などがある。

芸術作品とかけがえのなさについて

1950年代において芸術作品とは唯一絶対のものであり、かけがえのないものとされていました。
この時代においてアートとは何かの役に立つためのものというより、作品それ自体で価値を持つ代替不可能なものとして存在していました。そこには作品と鑑賞者の一対一の関係が築かれており、鑑賞者には作品に対し最大限の注意を払って鑑賞することが求められていたのです。

この芸術作品と鑑賞者との関係は1960年代以降に徐々に変化していきます。作品と鑑賞者は一対一の関係ではなく、作品が鑑賞されるには多くの物事や人々が関わっていることが認識され始めたのです。これはアートワールドと言われる概念であり、作家や作品だけでなくキュレーターや美術売買に関わるものそれから鑑賞者などさまざまな要素が相互作用することで作品は形作られていくのだという価値観が広がりました。

上記のような美学観とは別に商品でありながら商品のルールを逆に利用して批判的距離を保っていくことが芸術的価値であるという美学観に基づいた作品も存在しました。商品経済が圧倒し始めた19世紀ごろにもこのような作品は見られ、当時まだ資本主義とコミュニズムの拮抗があった世界においては資本主義に対して懐疑的な見方も多くあったためにこのような作品も有効でした。

しかし1989年のベルリンの壁の崩壊に代表されるような、資本主義の影響力の広まりは美術界に大きな影響を与え、芸術作品は商品であるという価値観が全世界的に市民の間に浸透していきます。これによって今まで存在していた商品批判のような芸術は有効性を失い、反対にアート市場は発展していきました。そして資本主義の拡大と同時期に広まった計算機の処理速度の大幅な向上、ゼロ年代以降に急速に普及したスマートフォン、コモンズの概念の登場など情報技術分野におけるさまざまな変化によって芸術の価値観は再び変容しました。ポストインターネットの現在において芸術作品への価値付けには、展示されることによって存在する作品、あるいはインターネットや書籍を通して拡散されるなんらかのモノの表象、(合法的かどうかを問わない)そのモノの再現、そしてそれら表象されるモノへのDJ的改変やコンテクストの置き換えにより生まれるバリエーション、その全てに等しく芸術的価値をおく傾向があります。

私達はヴェイパーウェイヴのようなオリジナルというよりも過去作品の引用であったりリミックスに力点をおいた音楽に価値を見出し、二次創作作品に喜んで対価を払い、オリジナルではない作者の音楽作品、演劇の再演にも喜んでlike!ボタンを押します。東京都美術館に飾られる作品もYouTube上にアップロードされている個人の楽曲も等しく作品であることには違いがありません。このように芸術作品のあり方は時代とともに変化していて、一点ものであった物質から資本主義に対抗する商品批判のような記号へ、そしてそれからデジタル空間上に現れる情報へと作品のあり方は変化し、芸術の価値も美的なものへの追求からそれを読み解いていく認識的価値、それから倫理的な価値へと変化していきました。このように時系列で私たちの美学観を美術史を元に紐解いて行った中で、改めてNFTは美術の文脈から見るべきなのか?そしてNFTアートはブロックチェーン技術のポテンシャルを生かしているのか、そしてNFTはポストインターネット的な状況を継承しているか、などの問いをいくつか立てた上でディスカッションへと移っていきました。

ここまで秋庭先生からしていただいたプレゼン内容を元にレポートしてきました。NFT作品をどう見るかの前に、その判断を下す私たちの美術作品への認識そのものがどのように形作られているのかを詳しく知ることができました。芸術というと浮世離れした印象が一般にはありますが、芸術は政治状況であったり技術革新など社会情勢によってとても左右されやすい存在なのだなと改めて感じました。そしてそのように社会に影響を受けやすいのと同時に芸術は社会のあり方や方向性を示す鏡のような存在だとも感じました。ここまでディスカッションへ向けての事前知識が整った上で、次回からはいよいよディスカッションの内容に移っていきます。(執筆:市川慧)

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