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Event report

2020.5.23

メイカーコミュニティはCOVID-19にどう立ち向かっていくか?

オンラインミートアップイベントレポート

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延により、多くの人々が外出の制限を強いられ、そして医療や医療システムに関する考え方も根本的に変化しています。このような状況の中、世界各地のメイカーコミュニティは「共に命を救う」という使命感のもと、迅速に行動を起こしてきました。
この記事は、世界各地が緊急事態の最中であった2020年4月24日に開催されたオンラインイベント「COVID-19とメイカーコミュニティーの最前線」から重要なポイントをまとめたレポートです。このイベントでは、東京、バンコク(タイ)、バルセロナ(スペイン)など、世界各地のメイカーコミュニティの中心人物を招き、それぞれの現状を共有した上で、メイカーコミュニティの「いま」と「これから」について議論しました。

Written by : Mariko Sugita, Translated by Yoshi Nomura

原文:Maker Communities Respond to COVID-19 – Online Meetup Report

イベントの主催者である FabCafe Tokyo のケルシー・スチュワート氏、およびイベント制作会社 GLUG東京のライター、ジョン・アマリ氏は、COVID-19 と闘うため、さまざまなバックグラウンドを持つメイカーやステークホルダーのチームが協創的、かつボトムアップなプロジェクトを迅速に立ち上げていることをかいつまんで説明しました。

ケルシー氏は「FabCafeのリーダーをはじめ、さまざまなバックグラウンドのメーカースペースコミュニティのメンバーが、それぞれが持つ既存のネットワークと COVID-19 への対応にあたる人々を繋げながら、スピーディに対応してきました。」と話しました。

FabCafe は、デジタルファブリケーションのオープンスペースとして世界に11拠点存在でワークショップやミートアップイベントなどをオーガナイズしています。ケルシー氏は、その FabCafe のコンセプトである「What Do You Fab?」という問いかけは、この危機において改めて注目を集めていると語ります。

例えば、FabCafe では未来のマスクのアイデアをクリエイターから募るアワード「マスクデザインチャレンジ」を開催したり、アフターコロナの時代を見据えて学びにつながるオフラインゲームのアイデアを募集する「ゲームデザインチャレンジ」など、オープンイノベーションの力で課題に取り組むプロジェクトを次々と打ち出しています。

その上で、迅速なプロトタイピングとローカルなコラボレーションを必要とするプロジェクトを生み出しているメイカーのコミュニティリーダーたちと知見と経験を共有することが重要であるし、このイベントの目的であると説明しました。

登壇者に質問をするクロストークゲストも招き、計10名で議論が交わされました

第1部:キーノートセッション

第1部では、ゲストスピーカーとして以下の4名を招きました。

  • アズビー・ブラウン(セーフキャスト)
  • アイラ・ワインダー(マサチューセッツ工科大学)
  • カラヤ・コヴィドビシット(FabCafe Bangkok 共同創業者)
  • デイヴィッド・テナ・ビセンテ(FabCafe Barcelona CEO)

それぞれ5分ほどの持ち時間で、COVID-19に関するそれぞれの活動について紹介しました。

COVID-19検査マップの事例 – アズビー・ブラウン(セーフキャスト)

トップバッターはアズビー・ブラウン氏です。アズビー氏は、日本のデザイン、ものづくり、環境感性に関する専門家であり、放射線や大気質測定などの環境モニタリングデータを収集・共有する世界的な市民ネットワーク「セーフキャスト」の主席研究員でもあります。

セーフキャストは2011年3月に立ち上がりました。東日本大震災の際に、信頼に足る情報が不足していることがきっかけでした。「独自に開発したGPSとデータ記録用放射線センサーを用いた測定システムを考案し、そのデータベースをオンラインで開発、一般公開しました。透明性と信頼性が私たちのプロジェクトの鍵となっています。」とアズビー氏は説明します。

セーフキャストはその後、ボランティアの力も借りながら世界規模のネットワークへと成長しましたが、その取り組みの焦点にはいつも「人とコミュニティ」があると話します。「人々は答えを必要としています。」とアズビー氏。危機に直面した人々は、誰もが自分自身や友人、家族の安全を守るための決断を下す必要があり、そのためには信頼度が高い正確な情報を手に入れる必要があるといいます。

今回のパンデミックを受けてセーフキャストが立ち上げた「COVID-19試験マップ」のプロジェクトも、「人々が信頼できる情報へアクセスできること」という思いが原動力になっています。「COVID-19試験マップ」はクラウドソーシングされた地図で、検査を受けた人が保健所における検査の受診受け入れの状況を共有できたり、検査時の経験や体験談を共有することができるプラットフォームです。

アズビー氏は、どのような情報が信頼できるのかわからなくなる緊急事態において、人々が「自分は取り残されていないと実感できること」が大切であると説明します。「人々が参加し、関わりを持てていることを実感してもらい、それぞれが、それぞれの形で危機と向き合うことができる方法を見つけることが重要です。」と語りました。

COVID-19シミュレーション – アイラ・ワインダー(マサチューセッツ工科大学)

次のスピーカーは、研究者、教育者、実践者であり、インタラクティブ・シミュレーションのエンド・ツー・エンドでの設計、開発、実装を専門とするアイラ・ワインダー氏です。「ソーシャル・ディスタンス」がコロナウイルスの感染拡大防止にどのような影響を与えるかを示す、最新のシミュレーションプロジェクトを紹介しました。

「シミュレーションを作る意義は、学ぶことにあります。」とアイラ氏は語ります。コロナウイルスの蔓延が始まった初期の段階で、「ソーシャル・ディスタンス」が感染拡大を防ぐ手段として議論される中、アイラ氏は「人と距離を保つこと」が一体どれくらい感染防止に効果があるのか興味を持ち、このプロジェクトを立ち上げました。

アイラ氏は人口統計と空間データをもとに、仮想の都市空間を作りました。そのモデルの中で人々を移動させることができます。例えば、学校に通わせたり、買い物をさせたり、家に留まらせたりといった人々の移動の中で、誰か1人がウイルスに感染していたら、ウイルスがどのように広がっていくかを、さまざまなシナリオでシミュレーションすることができるのです。

これにより、例えば「不要不急の外出自粛」が患者数の指数関数的な増加をおさえることができる、という効果を知ることができます。また、ほかのさまざまな施策や抑制策もシミュレーションし、それぞれの対策がどの程度の効果をもたらすかを考えることが可能です。アイラ氏はこのシミュレーションを通し、状況が良好になっているように見えても、外出自粛を解禁を早々に行うのは危険であると警鐘を鳴らしました。

アイラ氏の「EpiSimプロジェクト」はオープンソース化されています。ダウンロードして自由にシミュレーションする事が可能ですので、ぜひ試してみてください。

カラヤ・コヴィドビシット(FabCafe Bangkok 共同創業者)

「バンコクにおいて、COVID-19 に対応する最前線の現場と、それを背後から支える人々をつなぐために最も重要な要素はコラボレーションの力です。」そう語るのは、タイにある FabCafe Bangkok の共同創業者、カラヤ氏です。
カラヤ氏は、タイにおけるCOVID-19のをめぐる動向は以下の4つのフェーズに分けることができると言います。

  1. 渡航制限発令前
  2. 渡航制限発令後
  3. ルンピーニボクシングスタジアム集団感染発生後(ムエタイ観戦イベントで集団感染が発生したケース)
  4. 外出禁止令発令

そして、それぞれのフェーズにおいてどのようなイノベーションが、どのようにして生まれたのかを説明しました。

初期の段階でイノベーションを先導したのは、元々医療分野で活動していたスタートアップメイカーでした。彼らは医療機関チームと共にインキュベーションプロジェクトに取り組んでいきました。このような動きは、タイへの入国制限が始まる前の、ごく初期のフェーズにスタートしており、個人の健康状態記録ツールやチャットボット、DIYでマスクを作るワークショップや、日々の医療業務で活用するためのツールまで、さまざまなプロジェクトが生まれました。

この危機的な状況のもとでは、さまざまなステークホルダーとの連携を図り、寄付金などのリソースを素早く準備し、オンタイムで分配する事が重要です。FabCafe Bangkok とTCDC(タイランド クリエイティブ&デザインセンター)は、元々企業のサプライヤーや流通業者と強力なつながりを持っていたことから、病院が必要とするものを開発し、届けることができました。

カラヤ氏は、こういった協業的な取り組みにおいて最も重要なことは、病院をプロジェクトの「リーダー」として位置づけることであると話します。「私たちは医療機関のニーズに耳を傾けなければなりません。その上で、私たちが今いる場所、今あるリソースで、できる限りのことを最大限、協業的に行うことが求められています。」と締めくくりました。

FabCafe Bangkok のCOVID-19関連プロジェクトについては、「FabCafe Bangkokが医療現場と向き合うコロナ対策共同プロジェクトを紹介」で詳しく紹介しています。

デイヴィッド・テナ・ビセンテ(FabCafe Barcelona CEO)

最後のスピーカーは、スペインにある FabCafe Barcelona のCEOであるデイヴィッド氏。以前からつちかってきた地域のステークホルダーとのつながりから、FabCafe Barcelona は物資・物流の中核としての役割を果たしています。

バルセロナのものづくりコミュニティは反応が早く、FabCafe Barcelona では事態が深刻化し始めてからわずか数日でプロトタイプ製作を開始し、チャットグループには800人強のクリエイターが集まりました。その動きを発端として、地域で特に緊急性の高い3つのカテゴリー「物流」「R&D」「製造」にフォーカスし、医療機関からの依頼を直接受け始めました。

「以前から医療機関とは仕事をする機会があったので、すでにつながりがありました。このような危機的状況において、企業などのステークホルダーとつながりを持っていることは、自分たちに何ができるのかを俯瞰的に判断する上でとても重要だと思いました。」とデイヴィッド氏は話します。

FabCafe Barcelona ではマスク2万2000枚以上、医療用ガウン1万1000枚以上、フェイスシールド553枚、病院での検査用分配器、エアゾールボックスの試作品などさまざまな医療機器を開発・製造し、配布してきました。また、病院からはエンジン式呼吸機や灌流装置の開発の依頼を受けました。また、家族と連絡を取り合うための通信機能付きタブレットを400台、パートナー企業と協力して寄贈する取り組みも行いました。

また、FabCafe Barcelona に併設されているコワーキングスペース「MOB」は物流センターとして機能し、10,080リットル程度の水を、患者への物資として供給しました。

当初は多くのプロジェクトを自己資金で行いましたが、デイヴィッド氏はすぐに資金調達方法をクラウドファンディングに変更。最終的には製造メーカーと共同で取り組むことで、必要な資材を手に入れることができたと語ります。バルセロナにおける取り組みからは、信頼できる情報・人や組織、素材メーカーとのネットワークをもっていること、また、何が起きているかを的確に把握することが、危機的状況を乗り切るために不可欠であると学ぶことができます。

第2部:クロストーク – メイカーコミュニティの未来を考える

第2部ではその他の有識者も交えたクロストークが行われました。参加した有識者は以下の4名です。

  • シェーン・ラストル(Reustle Inc/Tokyo Tech meetup)
  • ティム・ウォン(FabCafe Taipei および FabCafe Hong Kong の創業者)
  • 安田クリスティナ(マイクロソフト、InternetBar.org)
  • セシリア・タム(Senior Social Technologist × Futures Synthesist/Board of Advisor City of Barcelona)

「透明性」と「信頼」について

最初のテーマは「透明性」と「信頼」についてです。セーフキャストのアズビー氏は情報への社会的なニーズがあると指摘し「人々が知るべきことは、知られる必要がある。」と述べました。

どの情報が信頼に足るのかを判断することが難しくなる危機的状況において、信頼できるデータを、アクセスしやすい形で提供することは非常に重要です。例えば、シェーン・ラストル氏は、感染者のデータに関する情報が不足していることを受け、日本政府から提供される情報をソースとして、COVID-19トラッカーを開発しています。

どのようにして情報を集めるかという議論の中では、クリスティーナ氏(InternetBar.org)は、特に日本が直面している課題として、感染者に接触した人を追跡する場合のプライバシー問題があると指摘しました。COVID-19に関連して自分の個人情報を提供することに意欲的な人の割合は、世界平均が75%であるのに対し、日本では35%程度しかおらず、日本社会ではプライバシー情報の扱いを懸念する姿勢があると語ります。そういった背景を受けて、InternetBar.orgでは、ユーザーに匿名の識別子を与えるアプリなどの工夫を取り入れながら、開発を手掛けています。

加えて、日本ではそもそもデータを得ること自体が文化的に難しいという面もあります。アズビー氏は、日本の人々は自分のウイルス検査結果を共有する事に消極的であると指摘します。これは東日本大震災の際に、放射能を浴びた可能性がある人を差別するような問題があったが、今回はそのケースに近いのかもしれません。日本の人々は、自分がウイルス検査を受けたかどうかを他人に知られたくないし、集団の中に病気を持ち込む最初の人間になりたがらない。例え匿名であったとしても、情報を共有したがらない傾向にあると話しました。

コラボレーションについて

多くの取り組みが生まれる中で、その足並みをどう揃えていくかが課題となります。スピーディーに動きながら効果的な結果を生み出すため、どう動いていけばよいのでしょうか。

シェーン氏は、オンラインでのコラボレーションが増えるのは良いことだと話します。特にプロジェクトがオープンソース化されることで、ボトムアップで生まれてくる活動内容が重複してしまうことを防ぎ、効率化するためのデータセットを提供することができるはずだと語ります。オンラインでのコラボレーションは大変な面もありますが、製造や物流に関するプロジェクトに比べれば、情報収集や発信が比較的簡単に行うことができるはずです。

セシリア氏は、オフラインでの「コラボレーション」の可能性について議論します。「これまでに、メイカーコミュニティーからは多くのプロジェクトが生まれてきました。ただ、実際の現場とのコラボレーションについてはまだ十分とは言えません。願わくば、病院や行政などの機関がメイカーコミュニティの価値に気付き、今後緊急事態が発生した際には私たちがもっと「ものづくりの場」として機能することを願っています。」

また彼女は、私たちができるコラボレーションの可能性として、学んだことを社会的に不利な立場にいる人や、テクノロジーのインフラが整っていない場所に向けて伝えていくことも大切だと話します。「歯車を必要としている多くの社会的弱者は、歯車を作るための機械や工具を持っていないのです」と彼女は指摘します。セシリアは、一連のノウハウを伝えることで、ローテクで供給量が限られている地域でも、現地で調達した材料を使って活動を始められる。そういった形で私たちは、より広く貢献することができるはずだと強調しました。

メイカーコミュニティの未来について

白熱する議論も終盤を迎え、話題は「これからメイカーコミュニティはどのような姿になるのか」について進みました。COVID-19によってさまざまなアクションが生まれ、収束後も継続する可能性があるプロジェクトも出てきている中、メイカーコミュニティの未来について語りました。

「メイカーコミュニティーの特筆すべき点は、その適応力だと思います。最新のテクノロジーを扱う専門家は、より広い視野を持っていることが多く、それが誰かを助ける上で大きな原動力になっているのです」とデイヴィッド氏は話します。

ティム氏は、FabCafe のグローバルネットワークの可能性を強調します。このパンデミックにおいて、今まで以上に各拠点の交流が活発化されていると語ります。「世界規模で緊急性の高い課題を目の前にすることで、地理的な距離による壁がなくなってきたと考えています。」

シェーン氏はそれに続く形で、「このような世界規模の打撃は珍しく、誰もがグローバルにプロジェクトに参画できる時代になり、コラボレーションの精神が広がっていくのは好ましいことです」と話しました。

まとめ

90分にも及んだディスカッションの中、ひとつの共通点として見えてきたのは「危機的状況に直面したとき、いかに柔軟にアクションを起こしていくか」ということです。

メイカーも研究者も、この緊急事態の中で「何ができるのか?何が作れるのか?どのようなコネクションがあるのか?そして、それをどうやって共有できるか?」という問いを自問し、行動に移してきました。それぞれが持つ能力やリソースを生かし、この緊急事態を収束させるために出来ることを見出してきたのです。

FabCafe のグローバルコミュニティは闘い続けます。FabCafe Tokyo では「How to make it safe」のような、Fab と医療専門家のコラボレーションを通じて、医療機器提供のために必要なノウハウを生み出すオンラインでの取り組みを始めました。また、FabCafe Hong Kong ではオンラインでの FAB meetupを開催しており、FabCafe の関連サービスである MTRL は、これまで毎月開催してきた素材をテーマにしたミートアップイベントをオンラインで実施し始めました。

私たちが直面しているこの事態の課題を解決する方法を、ひとつでも多く生み出していく。そんなメイカースペース・コミュニティの可能性を再確認しながら、イベントを終了しました。

Author

  • FabCafe編集部

    FabCafe PRチームを中心に作成した記事です。

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