Project Case
2023.4.2
東 芽以子 / Meiko Higashi
FabCafe Nagoya PR
未知とは、白地のキャンバス
新時代という未知に対峙するビジネスパーソンが、知らず知らず持ってしまっていた“現状維持バイアス”を克服する姿を追うドキュメンタリー『脱バイアスへの挑戦』は、今回で最終回を迎える。
彼らが参加したFabCafe Nagoya主催「組織のバイアスを破壊する人材開発プログラム」では、これまで以下のテーマで実践を重ねてきた。
【第1回】 未知の課題に柔軟に臨む「態度」を学ぶ
【第2回】天然醸造を題材に「ステークホルダー=利害関係者」を俯瞰 前編 / 後編
【第4回】FabCafe Nagoyaと共創するサーキュラー・デザインをプロトタイプ化
最終回では、参加者が自社の強みを活かした「循環型」=サーキュラー・デザインのプロトタイプ(第4回で制作)を一般公開する。それぞれが思い描く未来の姿は、一筆、また一筆と、キャンバスに描かれ始めた…
Day5 Program
自社 × FabCafe Nagoya 「循環」するコラボ商品 一般公開
- プロトタイプ・プレゼンテーション
- フィードバック
- 体験会
- 共有・まとめ
循環型プロダクトが誕生…?
まだ世に存在しない“循環型のプロダクト”が、この日、誕生への一歩を踏み出すかもしれない…。参加者のそんな期待感からだろうか、この日のカフェ店内は、少し落ち着かない雰囲気を醸し出していた。
FabCafe Nagoya主催「組織のバイアスを破壊する人材開発プログラム」の最終回となる今回は、参加する成形加工メーカー「名古屋樹脂工業株式会社」、建設会社「株式会社 淺沼組名古屋支店」、電材商社「田澤電材株式会社」がそれぞれブースを設置。前回からブラッシュアップした新商品の“卵”=プロトタイプに関心を寄せた一般のオーディエンスへ向けて、プレゼンテーションを行うためだ。様々な技術やアイディアをもつ企業や教育機関の担当者、そしてクリエイターも集まっており、こうした人たちとのつながりが、今後、プロトタイプの商品化を後押しする可能性も秘めている。
持ち時間20分のプレゼンテーションは、こうした緊張感の中スタートした。
田澤電材株式会社
電材専門商社
- プロトタイプ:「Freedom light & watch(ドローン型照明器具)」
- コンセプト:「未来を照らす、心を繋ぐ、サステナブル」
- 概要: 照明の明るさ・色合いをシーン(PC利用、ナイトウォーキングなど)に合わせて変更可能な飛行式照明器具。スピーカーやプロジェクターも搭載し、bluetoothやスマートウォッチとも連携しており、例えば、プロジェクターで夜間の歩道に目的地への経路を投影したり、スピーカーによる音声指示機能も利用できる。
- 循環型ポイント:〈モジュール性・製品の長寿命化〉パーツは全て解体でき、不具合があれば利用者が自分で交換できる〈グリーンケミストリー〉太陽光発電によるバッテリーを検討かつ小型軽量化を推進
淺沼組名古屋支店
建設会社
- プロトタイプ:「オルゴール・ミル付き高速ドリッパー」
- コンセプト:「コーヒー体験に新定義 心地よく淹れ ゼロ廃棄」
- 概要:コーヒー豆を挽くミルをオルゴールにすることで、コーヒーができるまでの待ち時間=楽しむ時間に。急いでいる人用には高速ドリップができる柔軟性も。“鹿おどし”の装備品がドリップのタイミングをリラクシングな音で指示。また、通常捨ててしまうコーヒー豆は、巾着袋型のフィルターを絞ると消臭袋になる他、コンクリートと融合させコーヒーの香りが楽しめる建材にもなる。
- 循環型ポイント:〈クローズド・ループ/回収性〉〈循環性〉〈廃棄の回避〉不要なコーヒー豆は販売元の自社で回収し建材に活かす
名古屋樹脂工業株式会社
成形加工メーカー
- プロトタイプ:「tocoton – sui(ソーダメーカー)」
- コンセプト:「DAC(Direct Air Capture)推進 排出CO2を直接キッチン用品へ転換」
- 概要:空気のCO2を直接採取できる本体内蔵の生成機で炭酸ガスをつくり出すことで、ガスボンベを使用せず炭酸水をつくることができる。炭酸の強弱が調整できるため、美容や料理など幅広く使用できる。5年後にポータブル化を検討。
- 循環型ポイント:〈クローズド・ループ/回収性〉〈循環性〉〈廃棄の回避〉〈グリーンケミストリー〉CO2の圧縮や液化など炭酸ガス生成に必要な資源やインフラのコストを削減
目指す未来の具体化が共感につながる
プレゼンテーションの後、各社のブースではオーディエンスからの質問が相次いだ。サーキュラーエコノミーを見据えた各社の具体的なコンセプトがあるからこそ、オーディエンスは、それぞれのプロダクトが生活に溶け込む豊かな未来をイメージすることができる。共感が波及する。すると、未来に可能性が感じられ、高揚感が生まれる。オーディエンスからは「自社プロダクトやサービスと連動できるかもしれない」といったクリエイティビティの連鎖や「発想を“飛躍させた”アイデアを生み出すためには、土壌作りから行う必要があると感じた」など、バイアスがいかに創造性の”邪魔”をしているかを感じとり、本プログラムが提起する問題点の本質を突く声も上がった。
もっとも、実現には現時点の技術的限界から課題の残るプロトタイプもある。しかし、プログラムで「難しい」というワードを封印した参加者たちは、筋書を書かない“即興の”ブレインストーミングに様々な可能性を見出すべく、技術者や研究者であるオーディエンスとの“知的戯れ”を楽しんでいた。そして、プログラムを通して互いに共感しあった“異業種”である他社の存在も忘れていなかった。ドローン型照明器具の商品化を目指す田澤電材は、パーツを名古屋樹脂に、体験の場を浅沼組にと、今後の協力を乞うことにした。
バイアスを外し、寛容に受け入れ、多様性を最大化
プログラムの最後に修了証を受け取った参加者たち。これで「組織のバイアスを破壊する人材開発プログラム」は幕を閉じるが、全5回のワークを通して、それぞれの気づきは少なくなかったようだ。
これまで物事をきちんと観察していなかったことに気づいた。“他者の視点を借りる”という選択肢の有効性も知ることができた。
時間制限のある中でプロトタイプなどを形にしないといけず、ハードルが高かったが、やればできると経験した。非常に勉強になったので学んだこと全てを社内にフィードバックしたい。
相手のどんなアイディアも最初から否定せず、まずは受け入れると、自由でユニークな意見がたくさん出る。コミュニケーションの際の環境づくりが大切だと学んだ。
第1回目に「難しい」と言うのをやめようと言われ、これまでのマインドセットを初めて客観視でき、開眼した。有意義な時間だった。
業界が異なる参加者の多角的な視点や考えに刺激を受けた。アイディアを具現化するのは大変だったが、考え方のプロセスも学びになった。
(参加者)
それぞれの“クリエイティビティ”が活きる未来…
東海エリアは、製造業だけでなく、醸造業や繊維業、伝統産業など様々なビジネスのエコシステムが成立し、それだけで充分にも感じる特色ある地域だ。しかし、ビジネスにおいても生活スタイルにおいても、持続可能な社会へとパラダイムシフトの只中にある今、これまでの“常識”に囚われがちなバイアスを外し、大きく舵を切ることが求められている。そんな時代の先駆けになってほしい…参加者への願いを込め、FabCafe Nagoyaのメンバーから最後にこんなエールが送られた。
本来、誰しもクリエイティブ。効率性などが優先される社会の“常識”をマインドセットから外し、自由な意見を言い合えるよう相手を受け入れる寛容さを持ち帰って、今後もクリエイティブでい続けてほしい。(居石)
サーキュラーエコノミーについて思考する中で、案外、地域の資源を知らないということに気付かされたのでは。文化的な資源なども含めて“見える化”する大切さを忘れないでほしい。デザインの態度を通して「面白がる力」と「面白がらせる力」の両方を学んできた。それぞれ業界の歴史や構造がある中で、一旦、相手や既にあるものを“面白がって”受け止めてみた上で、何を変えていくのかを考え、“面白がらせる”伝え方を試してみてほしい。(加藤)
様々な条件が制限となり捉われてしまうのが“バイアス”だとしたら、その対極にある“真のクリエイティビティ”は、常に「本質的な問い」に向き合う際の“自分らしさ”から引き出されるものなのかもしれない。最終日のこの日、何にも捉われず、純粋に“あるべき未来”を描き続ける参加者の姿は、ただただ、とても清々しかった。
〜 完 〜
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株式会社 淺沼組
建設会社
淺沼組の歴史は明治25年(1892年)、悠久の都「奈良」からはじまる。
以来、互いを尊重し、理解しあう「和の精神」、何事に対しても正直に、熱心に、独創的な考えを以て挑戦する「誠意・熱意・創意」の創業理念のもと、誠実な仕事が信用を生み、次の仕事に繋がる「仕事が仕事を生む」の精神に則り、神社仏閣や学校建築を通じ、培い、磨いてきた“技術”を礎に、人々の建物に対する想いに真摯に向き合う誠実なモノづくりの精神は、決して色褪せることなく、今もなお脈々と受け継がれています。「ヒト」からの発想で、深みと広がりのある人間環境、そして、次世代をも考慮した人間環境を提供します。
ASANUMAは「創環境産業」として、社会の発展、生活文化の創造に寄与します。淺沼組の歴史は明治25年(1892年)、悠久の都「奈良」からはじまる。
以来、互いを尊重し、理解しあう「和の精神」、何事に対しても正直に、熱心に、独創的な考えを以て挑戦する「誠意・熱意・創意」の創業理念のもと、誠実な仕事が信用を生み、次の仕事に繋がる「仕事が仕事を生む」の精神に則り、神社仏閣や学校建築を通じ、培い、磨いてきた“技術”を礎に、人々の建物に対する想いに真摯に向き合う誠実なモノづくりの精神は、決して色褪せることなく、今もなお脈々と受け継がれています。「ヒト」からの発想で、深みと広がりのある人間環境、そして、次世代をも考慮した人間環境を提供します。
ASANUMAは「創環境産業」として、社会の発展、生活文化の創造に寄与します。
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加藤 修平
株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター
ケープタウン大学サステナビリティ学修士。アフリカ地域での鉱物資源開発に伴う、周辺コミュニティへの影響調査をエスノグラフィ調査手法によって実施。また、同大学内Hasso Plattner Institute of Design Thinking (通称d-school)において、デザイン思考コーチとして学生、社会人の指導を行う。過去に携わった案件は、民間金融機関内にて、多部署横断型のチームを率いて新サービスの開発及び、デザイン思考の社内への浸透を促すためのプロジェクト等多数。
ケープタウン大学サステナビリティ学修士。アフリカ地域での鉱物資源開発に伴う、周辺コミュニティへの影響調査をエスノグラフィ調査手法によって実施。また、同大学内Hasso Plattner Institute of Design Thinking (通称d-school)において、デザイン思考コーチとして学生、社会人の指導を行う。過去に携わった案件は、民間金融機関内にて、多部署横断型のチームを率いて新サービスの開発及び、デザイン思考の社内への浸透を促すためのプロジェクト等多数。
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大石果林
株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター
多摩美術大学で版画を学び、紙の専門商社で企画デザイナーとして勤務。働いていく中で、デザインの装飾的な「かたち」の役割だけではなく、散らばった情報を整理しわかりやすく可視化するという役割に興味を持つ。
2021年ロフトワーク入社。デザインの力を使って物事の血の巡りをよくしたい!と日々奮闘中。多摩美術大学で版画を学び、紙の専門商社で企画デザイナーとして勤務。働いていく中で、デザインの装飾的な「かたち」の役割だけではなく、散らばった情報を整理しわかりやすく可視化するという役割に興味を持つ。
2021年ロフトワーク入社。デザインの力を使って物事の血の巡りをよくしたい!と日々奮闘中。
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斎藤 健太郎 / Kentaro Saito
FabCafe Nagoyaプログラム・マネジャー、サービス開発 / 東山動物園くらぶ 理事 / Prime numbers syndicate Fiction implementor
名古屋における人ベースのクリエイティブの土壌を育むためにコミュニティマネージャーとしてFabCafe Nagoyaに立ち上げから携わる。
電子工学をバックボーンに持ち科学技術への造詣が深い他、デジタルテクノロジー、UXデザインや舞台設計、楽器制作、伝統工芸、果ては動物の生態まで幅広い知見で枠にとらわれない「真面目に遊ぶ」体験づくりを軸とした多様なプロジェクトに携わる。
インドカレーと猫が好き。アンラーニングを大切にして生きています。
「コンピュテーショナル食感デザインプロジェクト」にて第1回 Tech Direction Awards R&D / Prototype Bronze受賞
https://award.tech-director.org/winner01名古屋における人ベースのクリエイティブの土壌を育むためにコミュニティマネージャーとしてFabCafe Nagoyaに立ち上げから携わる。
電子工学をバックボーンに持ち科学技術への造詣が深い他、デジタルテクノロジー、UXデザインや舞台設計、楽器制作、伝統工芸、果ては動物の生態まで幅広い知見で枠にとらわれない「真面目に遊ぶ」体験づくりを軸とした多様なプロジェクトに携わる。
インドカレーと猫が好き。アンラーニングを大切にして生きています。
「コンピュテーショナル食感デザインプロジェクト」にて第1回 Tech Direction Awards R&D / Prototype Bronze受賞
https://award.tech-director.org/winner01
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居石 有未 / Yumi Sueishi
FabCafe Nagoya プロデューサー・マーケティング
名古屋造形大学大学院 修了。卒業後、大学の入試広報課にて勤務。2021年2月 FabCafe Nagoya 入社。
美術館 学芸員インターンシップ、教育機関でのワークショップ・プログラム企画運営、取材・広報などの多岐にわたる業務で培ってきた柔軟性と経験を活かし、関わる人の創造力や表現力を活かせる環境づくりを行う。
FabCafe Nagoyaでは、クリエイターと企業・団体が共創する『人材開発プログラム』や『アイデアソン』『ミートアップイベント』などを企画運営しながら、FabCafe Nagoyaという空間の面白さを、より知ってもらうタッチポイント設計や店頭サービス開発を、日々行なっている。
好きな食べ物はいちご。ライフワークは作品制作。名古屋造形大学大学院 修了。卒業後、大学の入試広報課にて勤務。2021年2月 FabCafe Nagoya 入社。
美術館 学芸員インターンシップ、教育機関でのワークショップ・プログラム企画運営、取材・広報などの多岐にわたる業務で培ってきた柔軟性と経験を活かし、関わる人の創造力や表現力を活かせる環境づくりを行う。
FabCafe Nagoyaでは、クリエイターと企業・団体が共創する『人材開発プログラム』や『アイデアソン』『ミートアップイベント』などを企画運営しながら、FabCafe Nagoyaという空間の面白さを、より知ってもらうタッチポイント設計や店頭サービス開発を、日々行なっている。
好きな食べ物はいちご。ライフワークは作品制作。
バイアスを外す
「合同プログラム」
二期生募集中!
クリエイティビティあふれる、手触り感を大切にした実践的なワークを通し、未来の価値基準である「サーキュラー・エコノミー」や「ダイバーシティ」などについての理解を深め、組織の視座を高める複数社合同プログラムを開催しております。
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東 芽以子 / Meiko Higashi
FabCafe Nagoya PR
新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。
「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。
趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。
新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。
「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。
趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。