Event report
2023.8.31
東 芽以子 / Meiko Higashi
FabCafe Nagoya PR
人間の経済活動が地球規模の環境変化をもたらす「人新生」の時代に突入している現代。“何”と“どのように”「共生」する(=つながる)ことができるのかを改めて考えることが、普段見落としがちな存在を再認識することや、リジェネラティブ(環境再生)を推進するような新たな視点を発見することにつながるのでは…。
そんな願いを込めて「FabMeetup Nagoya vol.10(つくることに関わるアイデアやプロジェクトをシェアするミートアップイベント)」では、「共生」のつくり方をテーマに、東海エリアから新たな価値創造へ挑戦する企業やアーティストを集め、公開ディスカッションを開催しました。どのような「共生」が、今、新たな付加価値を生んでいるのか、その秘密に迫りました。
-
株式会社 サンウエスパ 川合 稜太さん
-
Elliott Haighさん 澤田 奈々さん
-
株式会社 飛騨の森でクマは踊る
井上 彩さん
何と、どう「共生」している?
ディスカッションに登壇していただいたのは、再生資源卸売業を主な事業とする株式会社サンウエスパで研究開発を手がける川合 稜太さん、自然環境や野生生物などが持つ歴史や時の流れを様々な手法で表現するアーティストデュオのElliott Haigh (エリオット ヘイグ)さんと澤田 奈々さん、そして、岐阜県飛騨市で豊富な地域資源である広葉樹の活用・循環・価値創造に取り組む、株式会社 飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)でマーケティングを担う井上 彩さんの3組。共通点は、自然環境をステークホルダーとして新しい「共生」のあり方を築き、付加価値を追及したり、社会に向けた問題を提起していることです。
制度 / 国境を越えた「共生」
株式会社サンウエスパ
世界中の熱帯・亜熱帯地域で異常繁茂し生物多様性などに負の影響を与えているホテイアオイに着目。東南アジア最大と言われるカンボジアの湖・トンレサップ湖にて現地ステークホルダーと情報交換しながら調査を進め、ホテイアオイ等の未利用バイオマスを活用するバイオエタノール製造体制を確立。国境を超えた「共生」をつくり、ホテイアオイを活用したバイオエタノールの製造や、それを原料にしたクラフトジン製造に取り組む。現在は、高付加価値追及のため、水草のバイオ炭から国産トリュフを人工栽培する研究開発にも取り組んでいる。
時を越えた「共生」
Elliott Haigh + 澤田 奈々
愛知県を拠点に、野生生物や自然界とのつながりを彫刻やインスタレーションで表現し、自然環境への理解を働きかける。常滑市の文化財・古窯に着想を得た作品では、周辺の雑木林の樹皮を地域の土でかたどって野焼きすることで出土品を彷彿とさせるインスタレーションを発表。人間の活動は時代とともに移ろう中、今見ることのできるランドスケープや生物は果たして”自然”なのかを問うことで、人間は本来、自らの歴史や環境の時間的な変化と「共生」していることを気づかせる。
写真:The Construct of a Forgotten View (2022)
多様なステークホルダーとの「共生」
株式会社 飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)
細く曲がっていて木材としては市場価値の低い広葉樹にポテンシャルを見出したヒダクマ。デザイナーや建築家など「つくること」に関わる人たちと広葉樹の森に入り、使いたい木を選定してもらうところから、地域の製材所・職人達と共にプロダクト化するまでを一貫して行うというストーリーあるものづくりの手法を確立。広葉樹の循環に多様なステークホルダーを繋げ、「共生」のあり方を更新する。
写真:森の端オフィス Photo by Shinkenchiku-sha
五感で感じる、パーソナルな“変化”
FabCafe Nagoya 居石をファシリテーターにスタートしたディスカッションでは、まず、3組に共通する“自然”という「共生」の現場の持つ魅力について教えていただきました。
都会から飛騨に訪れる人たちは、森に一緒に入った時に、開放されている感じがします。東京で会った時の顔と、森の中で見る顔が違うんです。そうさせる飛騨の森は、五感を刺激する場所なんだと思います。(ヒダクマ・井上さん)
身近な自然って、それぞれ違う。それぞれにとって身近な理由は、今住んでいる場所だったり、過去に訪れて忘れられない自然だったり様々で、だからこそ、そこに思いを馳せる時、とてもパーソナルな刺激を受けるんだと思う。(澤田さん)
昔と違って、自然との直接的関わりがない家庭や仕事が多く、人と自然の距離が離れてしまっている。でも、自然からしか感じ取れない感覚があるんですよね。現代において、自然と人間を切り分けない考えや視点を意識的に取り入れる機会が必要で、その体験が豊かさにつながると思います。(FabCafe Nagoya 居石)
-
クリエイターと飛騨の森を歩く
-
AR(拡張現実)とチェーンソー加工をかけ合わせた製作風景
-
森の記憶を詰め込んだマテリアル「Forest Bank」Photo: Kenta Hasegawa
「共生」のつくり方 - 連れていく –
四方から聞こえてくる動物の生命の音。四季と共に変化する植物の香りや太陽の光の強さ。プロダクトの原材料が“生育する”環境へ足を運べば、五感を刺激するこうした経験が得られるという価値の再発見を通して、ヒダクマの共生の現場では、こんなポジティブな連鎖反応が起きているそうです。
ある家具メーカーから、営業や販売の担当者が木が育つ森のことを語れるようになったら、一層プロダクトの魅力をお客さんに直接伝えられるので、森に連れて行ってほしいという要望がありました。それ以外にも、建築家やデザイナーは、板の状態の木材を扱ったことはあっても立木を見たことのない人が多いんです。そういう人たちが、生態系としてのありのままの森を見る体験をすることで、よりクリエイティブなアイディアが浮かんできたり、プロダクト誕生の魅力的なストーリーを伝えることができるようになる。結果的に、これまで9割以上海外産の木材を使っていた作り手が、身近な地域の木材を使おうという流れになってきています。(ヒダクマ・井上さん)
近年はビジネスが複雑化したり分業化したりと、事業内容を大きな流れや繋がりで理解することがとても難しいですよね。だからこそ、クリエイターの有する視点を借りて、普段と違う目線で、自然環境をも自社事業のステークホルダーとして捉えなおすと、点でしか見えていなかった繋がりが、まるで波紋のように広がって見える。素材も環境も自然も一つの「その土地ならでは」の要素として考え、改めて共に生きるための関係性や体験を描いていくことで、新しい時代の事業や価値に繋がるのではと思います。(FabCafe Nagoya 居石)
-
Osprey and Deinonychus (2022)
-
Excavation (2020)
-
Ginkgo (2022)
「共生」のつくり方 - 問いかける –
一方、エリオットさんと澤田さんは、アーティストとしてどのように「共生」をつくり出すかについて、こんな風に考えています。
natureとはどういう意味か?自然とは何であろうか?今ある自然の風景は“自然”なのか?という疑問があります。歴史的に人によって作られた“自然な”風景は、果たして自然であるのか?知多にも田園風景がありますが、それは自然なのか?水生生物が生きていたり、野鳥が来たり、田んぼにも野生生物 (wildlife) が集まる生態系が存在しています。では、今ある生態系は、いつできた生態系で、どのような観点で自然であるのか?現代社会では、田んぼを維持するために農薬に依存してしまっています。人工的に管理された田園風景を自然とするなら、果たして、その維持に使われている薬剤や米の作り方は自然であるのか?私たちは研究者じゃない。アーティストは、作品を通して疑問を投げかけることで、そこから生まれるそれぞれの学びや、正解不正解では測れないそれぞれの思考が生まれるための手助けができます。そうした積み重ねがまだ見ぬ新たな共生への意識を芽生えさせることにつながるのではないでしょうか。(エリオットさん)
-
キノコを中心とした菌床実験
-
カンボジア・トンレサップ湖の水上でホテイアオイをボートに引き揚げている様子
-
現地でエタノールを製造している様子
「共生」のつくり方 - 先入観を捨て、尊重する –
カンボジアで事業展開するサンウエスパ・川合さん、そしてヒダクマ・井上さんは、「共生」をつくる側のマインドセット、そして「共生」する相手に対しての態度について、こう話しました。
まずは尊重し合うことが大事。カンボジアで事業をしていますが、日本人が勝手に、環境にいいことをしよう!とやってきても、それは単なる押し付けになる。現地での事業なので、雇用を創出したり、市場に見合った対価を払うなど、お互いに求めているものを擦り合わせて理解し合うことが第一。また、新規事業として国産トリュフの人工栽培方法を研究する中で菌を取り扱っていますが、例えば”カビ”というと不快な印象を抱かれる方もいらっしゃる中で、抗生物質の開発に寄与したという“ポジティブな面もあります。どんなことも先入観だけで解釈しないのが、新しい「共生」のつくり方の第一歩。そういう態度が新たな繋がりの可能性を広げるのではないでしょうか。(サンウエスパ・川合さん)
共生のベースにあるのは信頼関係。地域の方々とコミュニケーションする時は覚悟が問われます。だから、必要に応じて一対一で会いに行って、座して、勝負をかけて話す…みたいな時がある。コミュニケーションの方法も様々な形があります。相手が表に出す言葉が反応の全てではなく、きっとこのことをきっと言いたいんだろうな、と推しはかる思いやりが大事。職人や建築家の間に入る時は、モックアップなど形をつくって感覚的にコミュニケーションすることも。様々な関係者で森に入る時は、あえて多くを語らずただ感じてもらうことで、意外にも、言葉以上に同じ感覚を共有できたりする。そんな時、最高だな!と感じます。これからも、いろんな人に関わってもらうこと、いろんな視点があることを受け入れて答えを一つに限定しない。それがヒダクマの姿勢です。(ヒダクマ・井上さん)
先入観を捨て、自身の事業や生活を取り巻く環境を広く見渡し、新たにつながることのできる人・こと・モノを尊重する。新たな「共生」をつくる挑戦の第一歩は、態度やマインドセットをほんの少し改めることからスタートするのかもしれない。ディスカッションは、そう考えさせられる貴重な機会となりました。
-
川合 稜太
株式会社サンウエスパ 南洋事業部 南洋事業課 BE研究室 係長
こんにちは。株式会社サンウエスパの川合と申します。
サンウエスパは、古紙や古着等の再生資源卸売業を中心に、主に岐阜県にて活動しております。「商流を創り、価値を永らえさせる」をミッションの一つに掲げており、その観点から、近年はカンボジアにおいて未利用バイオマス(湖沼において繁茂し諸問題を引き起こしている水草ホテイアオイなど)を原料に用いたバイオエタノールの製造、またその高付加価値化としてクラフトジン製造に取り組んで参りました。
今後、新たな取り組みとして、日本各地の湖沼にて同様に繁茂している水草に目を向け、これを炭化し、高付加価値化することを構想しております。
この度はご機会をいただき、上記取り組みについてお話させていただきます。こんにちは。株式会社サンウエスパの川合と申します。
サンウエスパは、古紙や古着等の再生資源卸売業を中心に、主に岐阜県にて活動しております。「商流を創り、価値を永らえさせる」をミッションの一つに掲げており、その観点から、近年はカンボジアにおいて未利用バイオマス(湖沼において繁茂し諸問題を引き起こしている水草ホテイアオイなど)を原料に用いたバイオエタノールの製造、またその高付加価値化としてクラフトジン製造に取り組んで参りました。
今後、新たな取り組みとして、日本各地の湖沼にて同様に繁茂している水草に目を向け、これを炭化し、高付加価値化することを構想しております。
この度はご機会をいただき、上記取り組みについてお話させていただきます。
-
エリオット・ヘイグ+澤田奈々
現代美術家
エリオット・ヘイグ (1995 年イギリス生まれ)と澤田奈々(1996 年愛知県生まれ)によるアーティストデュオ。ロンドンで活動後、現在は愛知県を拠点とする。野生生物や自然界とのつながりについて彫刻やインスタレーションで表現し、自然環境への理解へと働きかける作品を制作・発表。
その他にも、芸術を通して自然に関する知識や経験を共有するプロジェクト『The Liminal Voice』を企画、運営。このプロジェクトでは、今まで展覧会や、自然と芸術をテーマとしたワークショップの開催、また自然を表現する作品やプロジェクトを特集した雑誌の出版など、さまざまな活動を今まで行ってきた。エリオット・ヘイグ (1995 年イギリス生まれ)と澤田奈々(1996 年愛知県生まれ)によるアーティストデュオ。ロンドンで活動後、現在は愛知県を拠点とする。野生生物や自然界とのつながりについて彫刻やインスタレーションで表現し、自然環境への理解へと働きかける作品を制作・発表。
その他にも、芸術を通して自然に関する知識や経験を共有するプロジェクト『The Liminal Voice』を企画、運営。このプロジェクトでは、今まで展覧会や、自然と芸術をテーマとしたワークショップの開催、また自然を表現する作品やプロジェクトを特集した雑誌の出版など、さまざまな活動を今まで行ってきた。
-
井上 彩|Aya Inoue
ヒダクマ 取締役/CMO
島根大学教育学部、武蔵野美術大学彫刻学科卒。瀬戸内国際芸術祭 小豆島 醤の郷+坂手港プロジェクト「観光から関係へ」(2013年)、「小豆島町未来プロジェクト」(2016年)の運営に携わる。2018年ヒダクマ入社。森と人との接点をつくることに楽しさを感じながら活動中。飛騨で好きな食べ物は、朴葉寿司。
https://hidakuma.com/島根大学教育学部、武蔵野美術大学彫刻学科卒。瀬戸内国際芸術祭 小豆島 醤の郷+坂手港プロジェクト「観光から関係へ」(2013年)、「小豆島町未来プロジェクト」(2016年)の運営に携わる。2018年ヒダクマ入社。森と人との接点をつくることに楽しさを感じながら活動中。飛騨で好きな食べ物は、朴葉寿司。
https://hidakuma.com/
-
居石 有未 / Yumi Sueishi
FabCafe Nagoya プロデューサー・マーケティング
名古屋造形大学大学院 修了。卒業後、大学の入試広報課にて勤務。2021年2月 FabCafe Nagoya 入社。
美術館 学芸員インターンシップ、教育機関でのワークショップ・プログラム企画運営、取材・広報などの多岐にわたる業務で培ってきた柔軟性と経験を活かし、関わる人の創造力や表現力を活かせる環境づくりを行う。
FabCafe Nagoyaでは、クリエイターと企業・団体が共創する『人材開発プログラム』や『アイデアソン』『ミートアップイベント』などを企画運営しながら、FabCafe Nagoyaという空間の面白さを、より知ってもらうタッチポイント設計や店頭サービス開発を、日々行なっている。
好きな食べ物はいちご。ライフワークは作品制作。名古屋造形大学大学院 修了。卒業後、大学の入試広報課にて勤務。2021年2月 FabCafe Nagoya 入社。
美術館 学芸員インターンシップ、教育機関でのワークショップ・プログラム企画運営、取材・広報などの多岐にわたる業務で培ってきた柔軟性と経験を活かし、関わる人の創造力や表現力を活かせる環境づくりを行う。
FabCafe Nagoyaでは、クリエイターと企業・団体が共創する『人材開発プログラム』や『アイデアソン』『ミートアップイベント』などを企画運営しながら、FabCafe Nagoyaという空間の面白さを、より知ってもらうタッチポイント設計や店頭サービス開発を、日々行なっている。
好きな食べ物はいちご。ライフワークは作品制作。
-
東 芽以子 / Meiko Higashi
FabCafe Nagoya PR
新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。
「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。
趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。
新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。
「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。
趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。