Event report

2022.2.23

接近する眼差し 多様な表現を響かせあう vol.3 -「つくるもの、つくるあたま」天野真・今井健人・久坂蓮レポート-

「創作」、それはすなわち社会を切り取る無数の手段。

 途方もなく複雑に分岐する世の中に対抗するべく、私たちはシャッターを切り、ペンを取り、エンターキーを軽やかに叩く。クマ財団奨学生というくくりを除き、三人を繋ぐものは何もない。誰もがそう思っていた、トークの火蓋が切られるまでは。

 対話により見いだされた新たな共通項――出自も背景も創作過程も異なる私たちの抱く類似点。それはきっと、世界を紐解く鍵となることだろう。

 私たちは反発しながら、同じ「希望」を追い求めていた。その過程は荒々しくも美しかった。さながら、実験室で引き起こされる化学反応のように。文字に織り込まれた火花の熱を感じ、飛び散る光の可能性を追い求め、各アーティストの今後に思いを馳せよ。

中川朝子

いまを生きる若手クリエイターたちは、眼のまえにひろがる世界をどんなふうに切りとり、自分たちの表現へとつなげているのでしょうか。
本展示では、AR・ガラス工芸・映像・ことば・電気回路・錯覚等、さまざまなメディアをとおして創作をおこなう9人の学生クリエイターたちの作品をあつめ、未来にさしだされた【あたらしいものづくり】の可能性をさぐりました。

本マガジンは、2021年11月に開催された「つくるもの、つくるあたま」展 アーティストトークのアーカイブ・レポートシリーズになります。名古屋の中心部で引き起こされた、新進気鋭のアーティスト・クリエイターたちの化学反応の記録を、ぜひご覧ください。(空気感を伝えるため、話し言葉を活かした記事となっております。)

  • 天野 真 / Makoto Amano

    1997年 福岡県生まれ。

    情報科学芸術大学院大学メディア表現研究科(IAMAS)在学中。
    「社会に実装されたAIに対する抵抗」をテーマに、メディアアート作品の制作を行う。AIを誤用することを通して、メディアを介した人と環境の関係を探る。
    【受賞歴・活動歴】

    • UIST2018 Student Innovation Contest 最優秀賞 受賞
    • 文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品 選出
    • Media Ambition Tokyo 2020 出展

    1997年 福岡県生まれ。

    情報科学芸術大学院大学メディア表現研究科(IAMAS)在学中。
    「社会に実装されたAIに対する抵抗」をテーマに、メディアアート作品の制作を行う。AIを誤用することを通して、メディアを介した人と環境の関係を探る。
    【受賞歴・活動歴】

    • UIST2018 Student Innovation Contest 最優秀賞 受賞
    • 文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品 選出
    • Media Ambition Tokyo 2020 出展
  • 今井 健人 / Kento Imai

    1997年 愛知生まれ。

    名古屋市立大学大学院芸術工学研究科小鷹研究室 在籍。認知心理学において重要な概念である「身体所有感」に対する理解を軸に、現実空間での「身体の透視」を考案し、身体内部に直接アクセスするようなインタラクション装置の制作を通して、未知なる<からだ>のリアリティーを探求している。

    【受賞歴・活動歴】

    • 注文の多い「からだの錯覚」の研究室展 出展
    • Best Illusion of The Year Contest 2020 Top10 ノミネート
    • 名古屋市立大学芸術工学部 imd 学科賞 2020 受賞
    • 大名古屋電脳博覧会2021 出展
    • XR CREATIVE AWARD 2021 優秀賞 学生部門

    1997年 愛知生まれ。

    名古屋市立大学大学院芸術工学研究科小鷹研究室 在籍。認知心理学において重要な概念である「身体所有感」に対する理解を軸に、現実空間での「身体の透視」を考案し、身体内部に直接アクセスするようなインタラクション装置の制作を通して、未知なる<からだ>のリアリティーを探求している。

    【受賞歴・活動歴】

    • 注文の多い「からだの錯覚」の研究室展 出展
    • Best Illusion of The Year Contest 2020 Top10 ノミネート
    • 名古屋市立大学芸術工学部 imd 学科賞 2020 受賞
    • 大名古屋電脳博覧会2021 出展
    • XR CREATIVE AWARD 2021 優秀賞 学生部門
  • 久坂 蓮 / Len Kusaka

    日本大学芸術学部文芸学科卒業。放送大学教養学部 心理と教育コース在籍。

    男性でも女性でもない性自認をもつノンバイナリー・ジェンダーとして、小説と詩、ふたつの分断された領域をグラデーションとして表現することをこころざしている。

    現在、生物学的に同性の恋びとと愛知県で暮らしている。

    【受賞歴・活動歴】

    • 第13回 深大寺恋物語 候補(2017)
    • 第56回 現代詩手帖賞 候補(2018)
    • 第31回 伊東静雄賞 佳作(2020)
    • 2022年春夏 出版社《港の人》より個人作品集上梓予定

    日本大学芸術学部文芸学科卒業。放送大学教養学部 心理と教育コース在籍。

    男性でも女性でもない性自認をもつノンバイナリー・ジェンダーとして、小説と詩、ふたつの分断された領域をグラデーションとして表現することをこころざしている。

    現在、生物学的に同性の恋びとと愛知県で暮らしている。

    【受賞歴・活動歴】

    • 第13回 深大寺恋物語 候補(2017)
    • 第56回 現代詩手帖賞 候補(2018)
    • 第31回 伊東静雄賞 佳作(2020)
    • 2022年春夏 出版社《港の人》より個人作品集上梓予定

  • 加藤 あん

    2000年生まれ。水瓶座。

    2019年あいちトリエンナーレ育成プロジェクト参加をきっかけにアートとジェンダーについて興味を抱く。卒業論文のテーマは「身体とファッション」。鷲田清一の「モードの迷宮」がバイブル。現代の人々が衣服を着用する意味、身体本来の目的ついて深掘り中。 趣味は映画鑑賞。特に好きな映画は「SWEET SIXTEEN 」。

    2000年生まれ。水瓶座。

    2019年あいちトリエンナーレ育成プロジェクト参加をきっかけにアートとジェンダーについて興味を抱く。卒業論文のテーマは「身体とファッション」。鷲田清一の「モードの迷宮」がバイブル。現代の人々が衣服を着用する意味、身体本来の目的ついて深掘り中。 趣味は映画鑑賞。特に好きな映画は「SWEET SIXTEEN 」。


加藤:みなさんの作品制作のきっかけもお伺いしたいです。天野さんは今回ノイズキャンセリングをテーマに作品制作をされたと思うのですが、どこからそんな発想が出るんでしょうか?

天野:オンライン授業での体験が、きっかけの一つでした。その授業で、講義の最後に参加者全員で拍手をしたのですが、拍手がノイズキャンセリングされてしまって聞こえなかったんです。それが僕らユーザーにとっての製品システムとして最適だ、みたいな感じで提示されていたのだけれど、本当にそれ最適なのかなぁ、みたいに思ったり。勝手に向こうが決めたものを僕らが享受しているだけみたいになっているんじゃないかなってのが、若干、頭の中にこびりついていて。ノイズキャンセリングフィルターってなんなんだろう、ノイズってなんなんだろう、みたいなことを考えるようになったんですね。自分は、技術的にアプローチをすることを得意としているので、じゃあ作ってみようというところからこの発想になった感じですね。

今井:僕は…そもそもの根元を説明すると、小さい頃死んだら他人の体に乗り移れると思い込んでいたんです。それで、結構危ない遊びとかも何も思わずにやってしまっていたんですけど、そういう意識が体の錯覚への興味と潜在的に繋がっているのかなと思っています。

自我が芽生えて教養の知識が蓄えられていく過程で、この感覚はおかしなことなんだなってわかってその感覚を忘れていたのですが、たまたま今所属している小鷹研究室の錯覚体験をした際に、実際の体にないものでもまるで自分の体の感覚のように感じる体験をしたんです。この体験が、小さい頃に感じていた他人の体に乗り移れる感覚を呼び起こしてきて、「あ、これはやるしかない。」みたいに思ったのが、錯覚をやろうと思った原点ですね。

今回の作品を体験してもらった方には、ほぼ100%と言っていいほど、まるで手がスライムになったような錯覚体験をしてもらいました。これ、かなりすごいことで、錯覚には個人差があるにも関わらず、ほとんどみんなが感じるって、世紀の大発見なんじゃないかって僕は思います。なのでこの記事を読んでいる皆さんにも、ぜひ一度体験していただきたいです。

加藤:今井さんに会いに行けば体験できますか?

今井:はい、僕に会いにきていただければ、大丈夫です。スライムを常備しておきます(笑)

今井健人/スライムハンド

天野:僕から今井くんに質問なんですけど、先ほど今井くんが考案したっていう話があったじゃないですか。錯覚って、創造できるものなんですか?今井くんは錯覚のプロフェッショナルじゃないですか。なので、クリエイターとして、みんなにとって予想外のことをやるのはプロになってしまうと、なんとなく「これ来るだろうな。」と想定ができることもあるんですか?あとは、他人からの評価とかを作品制作の中に取り入れていくこととか、そのあたり、どう試行錯誤しているのかお聞きしたくて。

今井:そうですね、非常にめぐまれた環境だと思うんですけど、研究室単位でもお互いに感想を聞き合う環境があるので、おっしゃっていただいたように、みんなで高め合ってお互いにフィードバックをもらいながら制作につなげてます。錯覚ってつくろうと思ってつくれるわけではなく、体を使った遊びをする研究なんですよね。見つけなきゃっていう使命感はあるんだけど、実際は毎日遊ぶように実験を繰り返す。こうしたらいいかも、こっちのが面白いかも、と派生させていく中で、「あ、これ気持ち悪いぞ!」の感覚を深掘りして、試作を通してどんどんどんどんブラッシュアップして追求するのが大枠の流れですね。

久坂:今井さんの作品を体験させていただいたんですけど、本当に自分の手がスライムみたいにずっと伸びているように感じて、自分の体は自分が持っていると当たり前のように考えていたのに、こんな簡単に裏切られてしまうんだと、びっくりしました。

今、大学で心理学の勉強をしているんですが、錯覚の研究は目の錯視や聴覚の錯覚がメインだと学びました。ですので、体の錯覚という今井さんが研究なさっている領域は、錯覚分野の中でも新しいジャンルなんですよね。これまでの研究領域に比べ、身体内部に直接アクセスする錯覚というのはかなり変わった試みだと思うのですが、ご自身の中で、体の錯覚を研究しようと思った背景や、体の錯覚を研究するポイントって、何かあったりするのでしょうか。

今井:今回の展示作品でもそうですが、錯覚って見えないじゃないですか。でも、見えないからこそ、想像力を掻き立てる何かがあると考えているんです。

例えば、人間って骨があって臓器があって…と僕らは思っているけれど、それって知識があるからですよね。実感として、人間の内部のことを感じられない。見えないからこそ、僕らが考えている体とは違うものなのかも!みたいなギャップや違和感を与えることで、伝えられるイメージがあるのかなと思っています。

久坂:先ほどお話ししていた、死んだら他人の体に乗り移れるって、すごい面白い創造ですよね。

私は、死というものが怖いんです。どうしようもないことだから、どうしたらいいのかわからない。小さい頃、死が怖くて夜中に突然起きてしまったこともありました。

そこで、自分が死んでしまった後に自分が生きていたことをどうやって残せるのだろうと考えた時に、文章表現が頭に浮かびました。文章は、思っていることをストレートに表現することもできるし、言葉にできない抽象的な表現も、逆説的な方法で言葉で表現できる。そんな言葉の変幻自在な部分と、これから自分の体が死んでしまっても作品として残ってくれるということがすごく魅力的に思えて、文芸創作というものを選んだのかなって、お二人の話を聞いて思いました。

天野:僕は元々ユーザーインターフェースの研究をしていたこともあって、社会とか環境との関わりを考えながら、双方向のやりとりができる作品を制作することに意味を感じていますね。逆に、一人でつくって自己完結する一方通行のものに違和感を感じています。自分は単なる市民だし、一人間なんですけど、FabCafeで作品展示をして色々な人に見てもらったり、作品を通して共に考えていくことで、「一方的な技術に対して抵抗するぞ!」という気持ちでつくっています。

今井:自分は、今は錯覚をテーマには置いているのですが、人生規模で考えてみると、自分の作ったもので人の感情を動かしたいっていうのを、強く思っています。それは、自分自身が今まで他の作品や展示を見て心を動かされてきたから、今度は自分が還元していきたいなって。

そんな考えを起点に表現をしてきたんですが、今は錯覚でこれまでの感覚を新しくつくりなおすことで、人を喜ばせたいな、感情を動かしたいなと思っています。「やばい」とか「気持ち悪い」とか、そういう言葉をもっといろんな人に言わせてやりたいですね(笑)

久坂:確かに、私も、刺激を受けたりすごいって思ったりした経験や感情が、自身の創作に繋がっています。昔から本が好きで読んでいて、内容ももちろんなんですけど、文章の流れだったりリズムっていうものを美しいなって感じたことが、表現のきっかけにあると思います。

加藤:具体的に、どういうリズムや音が好き、っていうのはありますか?

久坂:具体的な音って言われるとすごい難しいですね。みなさんはどうかわからないんですけど、私は本を読んでいるとき、音が聞こえてくるんです。実際にはただの文字だけど、音声として読んでるというのはあります。

あとは、文章って句読点という点や丸によってリズムがある程度決まっているんです。ここで息継ぎしようとか、ここでこう読むんだとか。

今井;今の句読点の話はすごい共感しますね。自分が論文とかを書くときに、相手にいかにして読みやすくするかを考えて句読点を打つんです。だから、論文を読むと、この人、すごい句読点の相性良いなみたいなのがあります。

天野:めっちゃわかる(笑)

今井:読みやすい句読点ってありますよね。本との相性って、もちろん内容もあると思うんですけど、文章の構成によるリズムも大切だなと、久坂さんのお話を聞いて思いました。

久坂:そこって、作家たちが意識してやってる部分なんです。作品を読んでいる中で、そういう企みの積み重ねによって「ああ、この人は自分と近しいものがあるな。」と。逆に、意図的に句読点というものを無くす書き方もあるんです。どこまでも句読点が出てこなくて、どこで息継ぎしたらいいんだろうとか、内容何言ってるかわかんなくなるっていうのが、いわゆる詩と呼ばれているものには結構あります。

今井:確か、そのような作品、実際に書いていらっしゃいますよね。

久坂:そうなんです。句読点というものを一歳無くした文章を、何回も書いたりしています。書くこと自体、どんどん自分の中でわからなくなっていく感覚があるんですけど、その感覚をそのまま書いてみると面白くて。


  • 株式会社メニコン

    株式会社メニコンは名古屋を拠点とした、コンタクトレンズメーカーです。当社は創業者である現会長が、自らの目を実験台として日本で初めて角膜コンタクトレンズを開発したところから始まりました。
    そのDNAは全社員に受け継がれており、ものづくりに対して強い信念がございます。名古屋のものづくり文化を全国、世界に発信することができれば幸いです。

    株式会社メニコンは名古屋を拠点とした、コンタクトレンズメーカーです。当社は創業者である現会長が、自らの目を実験台として日本で初めて角膜コンタクトレンズを開発したところから始まりました。
    そのDNAは全社員に受け継がれており、ものづくりに対して強い信念がございます。名古屋のものづくり文化を全国、世界に発信することができれば幸いです。

今回クリエイターたちの展示をみて、いかがでしたでしょうか?どのような気づきをえられたか、どういう発見があったかなど、お伺いしたいです。

皆さんそれぞれ、興味のある分野を追求しておられたので、楽しそうだった印象があります。レベルの高い展示だなと思う一方で、私の印象ではクリエイターはものづくりに特化していてプロモーションの部分が弱くなりがちとかなと思うので、クリエイターの皆さんの研究が将来どのように社会に役立つのか、人々を喜ばせることができるのかをより追及していただきたいと思いました。

会社や個人として、今後、具体的に彼らのようなクリエイター・アーティストたちとともに、何かしてみたいこと、挑戦してみたいこと、描く未来を教えてください。

プロモーションの部分を一緒に考えていくことも企業人のできることと思っております。また、クリエイターはアーティストでもあるので、企業人ではでないようなアイデア、発想力とコラボすることで、一味違う新しいビジネスをやってみたいという気持ちが強いです。日本古来からのものづくりに対する姿勢や想いを後世につなげるためにもなにか一緒にやってみたいですね!


加藤:天野さんは、何か影響受けたものや、好きな作品とかってありますか?

天野:エッシャーに影響を受けているところがあります。幾何学とかが好きなんですよ。元々ガチガチの理系で、文章を読むのは得意ではなかったんですけど、彼みたいな構成的だけど、そこに淀みみたいな要素のある作品を結構見ていて、興味ありました。多分それがプログラミングやっていることに繋がってるのかな。エッシャーの、決まってることと決まってないことの差というか手ぐせというか、微妙なずれみたいなものに面白さを感じたのかな。

久坂:エッシャーの作品は言葉にするのが難しいんですけど、錯視を巧妙に用いて二階と一階の構造が気づいたら反対になっていたりとか、当たり前のものが当たり前でなくなるみたいな感覚の作品が多いですよね。

天野:そうなんですよ、気持ち悪いけどそれが面白いですよね。あれと似たようなものでいうと、クリストファーノーランの映画「インセプション」が好きですね。

加藤:見えるもの見えないものや、当たり前のものが当たり前でなくなるって、それこそ天野さんも今井さんも作品に共通していますよね。

天野:そうですね。僕が扱っているノイズキャンセリングのようなテクノロジーは、僕たちの生活では当然のものになっていて、街中を歩いていてもヘッドフォンをしながら歩く人に何も違和感を抱かないじゃないですか。耳で何かを聞く、音声情報を得る過程の経路に、ノイズキャンセリングは馴染んでいる。

当然のように使っていたものの当然じゃない感、技術が発展していくが故に削ぎ落とされてしまったもの、それらが日常生活に侵食して行っている経路を意識することが重要だと思っています。聞くということ自体も問い直す必要があるし、そこから技術の使い方とか方向性も考えるべきなんじゃないかなと。

久坂:天野さんは機械に搭載された監視カメラだったり、いつの間にか当たり前に浸透している”AI”っていうものに対抗する作品をつくられていますよね。しかも、対抗するために使うツールも最新の技術が使われている。それって、ちょっと矛盾している部分があると思うんですけど、だからこそ面白いなって思っています。そういうふうに、ご自身の表現を、技術的な部分を使おうと思ったきっかけってあったりするんでしょうか。

天野:僕の場合は、未来に向けて少しだけ離れてみる、みたいなところを意識しているのかなぁと思っています。

表現するには、他にもいくつか手段があると思うんですね。僕がやってるように、技術に対して技術で対抗する手段もありますし、本当に技術を捨てて、過去に戻るというかテクノロジーが進展していない世界に戻る手段もあって当然です。けど、技術について語るとするなら、技術自体を知っていないといけない。なので、制作プロセスとして、一回それを使うとかつくることに徹するんですよね。そこから半歩ずらして、その先の未来がどう回転するか、ある種パラレルワールド的に普段はこうあるのをちょっと変えられないかみたいな姿勢で挑んでいます。

久坂:以前、監視カメラに映らない服、人間として認識されない洋服っていうのもつくられていたと思うのですけど、前にお話しさせていただいた時に、古着がお好きというお話もされていましたよね。

技術の部分も面白いけど、見た目もすごいオシャレだなと思っていたんです。知識とか科学的に決まっていることを重視されている一方で、そういう日常生活の気づきも作品に加えていらっしゃるっていうのは、自分の感覚も大事になさっているのかなとお話を伺って思ったのですが、そこはいかがでしょうか。オンライン会議で拍手の音が聞き取れなかったとか、実体験の感覚も作品に含まれていますよね。

天野:そうですね、結構僕が何かを思いつくタイミングっていうのは、海外とか未開の地に行って発想を得るのではなく、散歩をするとか外の風景を眺めるとか普段の生活の中から発想して、試作することが多いんです。そうやって、日常の環境から地続きの制作をするところは意識はしているんですけど、感覚的なところ、それこそ古着が好きだからというのは、言われてみれば確かにそうかもしれないなと思いました。あんまり自分の趣味趣向みたいなところを落とし込んでいる感じではなかったので、無意識にやっていたのかもしれないです。

加藤:私もさっきの監視カメラの作品について質問があるのですが、衣服で監視カメラから自分を守ることは、実体験ベースの作品なんでしょうか。

天野:僕が東京出身だからかもしれないですけど、人のすれ違いとか、道端でキャッチに話しかけられるとか、人混みでクラってくる感覚は多くありました。あとは、タクシーに乗っていて髭剃りのCMがめっちゃ流れるとか、YouTubeで出会い系の広告がやたら流れてくるとか。どこまで俺のこと知ってんだ、一方的に情報を取られているな、ということは思っているので、その辺りの感覚から来ているのかなと思いました。

感覚に抵抗するものを”服”という作品に落とし込んだのは、錯覚もそうですけど、物理的な身体がメディアとどう関われるのかを考えてしまうんです。情報として勝手に処理されているものから、物理的にどうハックすることで対抗できるのか。服で身を守ることもそうだし、ノイズキャンセリングの話で言うと、普通だと物理的に聞こえているものが情報的に改変されているから、それをどう変えられるかみたいな。物理から情報へのジャンプ、情報から物理へのジャンプと行ったり来たりするのは、根本的に考えているところですね。

天野真/Voice-cancelling filter

久坂:今回のアーティストトーク、”接近する眼差し 多様な表現を響かせ合う”というのは、私、久坂が考案、企画をさせていただいていて、今回の展示は、本当に多種多様な表現の作品が展示されているんですけど、こうやってお話を進めていく中で、違うものにも共通項が見つかり、響かせ合う、共鳴し合うことができたらいいなと企画をしました。

そして、実際に天野さんにも今井さんにも自分の感覚っていうものが作品に繋がっているんだなと思いました。お二人とも、技術的な力もあるけれども、ご自身の体験など感覚的なものを大事にされているなと。

今井:僕もそう思います。知識とか当たり前と言われているものを当たり前として捉えないっていうところが大事だなと。天野さんの作品も、反骨精神みたいなものをやっぱり感じますし、自分の作品も、身体内部とか体っていうものが経験でしか養えない、体は経験の蓄積だと思っているんです。ただ、そういった内部とか、普段使っていない体の部位っていうのは、手とか足とか日常的に使う部位に比べたら経験の蓄積が全然ない。でも、未経験だからこそ、あたり前を当たり前として捉えない、そんな逆手にとって作品にするというのは、僕らの一つの共通項なのかなと思いましたね。

久坂:ですよね。私も、当たり前が覆ることを大事にしていると思います。例えば、人って話し言葉で会話をしていると思うんですけど、日常生活で使われる言葉と作品として登場する言葉は少し違っていますよね。常用する言葉を覆すことが、文章作品でできるのかなって。そこはもしかしたら似ている部分があるのかなって思いました。

天野:共通してそうですよね。個人的にも、久坂さんの社会的なルールや二分されているものをグラデーションとして捉える表現や姿勢が素敵だなと思っています。勝手に決められているものに対してカウンターする面、めちゃくちゃ推せます(笑)

今井:あと、自分はあまり作品展や美術館に足を運んでいないので、これが正しいのかわからないんですけど、FabCafeは、お客さんとの距離がとても近い展示空間だったなって思います。いわゆる美術館とかですと、静かにしなきゃいけない、飲食禁止、身なりもちゃんとしなければいけないみたいなイメージがあって。それと比べると、今回はみんな作品の前でご飯を食べながらワイワイしゃべっている。そういう雰囲気だからこそ、クリエイターもお客さんと積極的に交流できたのかなと思います。すごく嬉しいというか、楽しかったですね。

天野:めちゃくちゃ良いこと言うやん(笑)僕もそれ思ってて。一応、僕はメディアアートの領域で活動をしていたので、美術館などに行くことは多かったんですけど、今回は、そういうところでは触れられなかった作家さんとも関わることができたのが嬉しかったですね。作家として参加しつつも、一番最初の客として楽しめた。これ言うと怒られるかもしれないですけど、作品を評価してやるぞ!という姿勢の鑑賞ではなく、お互いが楽しくラフな姿勢で鑑賞していただけたのが良かったですね。

久坂:私も、お二人とまさに同じことを思いました。私は展示自体が初めてで、その経験自体が新鮮だったんですけど、文章を普段読んでいる人以外の方も自分の作品を見てくださったというのが嬉しかったですね。

やはり文章表現となると、それを読む方も普段本だったりに慣れ親しんでいる方が多いんです。でも、今回は本当に多様なお客様と、作品を通して交流できたり、直接お話ができたっていうことはとても嬉しかったです。あとはアーティストトークでみなさんの知らなかった面を知ったり、意外な共通点を見つけられたことも楽しかったですね。またやりたいです。

加藤:皆さんありがとうございます。最後にみなさんにクリエイターとして今後挑戦していきたいことをお聞きしてもいいですか。

久坂:もっと色々な人とご一緒したいですね。今回の展示でみなさんが自分では全く考え付かなかった視点であったり技術を持っているのを拝見して、そんなみなさんのことを作品に書いてみたいって思ったんですね。そのためにも、まずは色々な分野のことを勉強して、もっとみなさんと関わりたいです。

天野:僕の場合は、今回のノイズキャンセリングフィルターを社会実装してみたいなって思っています。製品なのかアプリなのか形はわからないですけど、やってみたいです。

今井:僕は、先ほども言った通り、人の感情を動かしたいっていうのが常にありまして、それにプラスしてもっとどんどん人を巻き込みたいですね。今回の展示も、作家さんに無作為に声をかけて、やろうぜ!って巻き込んだ結果なので、今後もそうやって創作活動ができたらと。

あと、もっと欲を言うと、僕は自分の作品の体験を通して、永遠に迷い続けてほしいって思っています。体の錯覚を体験することってなかなかないじゃないですか。今回のスライムと鏡っていうこんなに身近で単純なものによって、こんな簡単に体の感覚が変わってしまうんだっていう。これ、すごく面白いことだと思うんですよ。自分の体へのイメージや人生をもっともっと考えて欲しい。…人生というと長すぎるかな(笑)

久坂:今井さんの作品を体験させていただいた時の、あの手が伸びる感覚が今もずっとじわじわ頭の片隅にあって。これって、その瞬間の感覚でもあるけど、知ってしまったらもう前と同じではいられない。なので、持続した感覚でもあるんですよね。文章表現ですと瞬間的にハッと感じさせるものが難しいように思う中で、今井さんの表現だったり天野さんの作品では、じわじわくるものと両方を表現することができるなって思いました。

今井:めちゃくちゃ嬉しいですね。自分のこれからの人生が、僕の作品を通して変わったという感覚を起こすことができているというのは、自分がクリエイターとして活動する上で意味があることだなって思います。

加藤:なるほど、ありがとうございます。3月には5期生の展示もあるということなので、お時間ある方はぜひ見に行ってみてくださいね。そしてみなさん今日までの展示期間、本当にお疲れ様でした。またどこかでご一緒できればと思います!


  • クマ財団

    株式会社コロプラ代表の馬場功淳により設立された公益財団法人。「才能を持った人に、いいものを作って欲しい」という想いのもと活動をスタート。

    5年目を迎える現在、私たちは「創造性が共鳴し合う、世の中に。」というビジョンを掲げ、次の時代を担うクリエイター発掘と支援を行い、若き才能が世の中へ拡がる原動力となることを使命に活動をしている。

    Webサイト

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クマ財団6期生募集中!

クマ財団では、奨学金の給付のみならず、最終成果発表までの期間、創作活動を総合的にサポートします。対象は、2022年4月1日時点で、25 歳以下の学生クリエイター。
実力と熱意を併せ持った、学生クリエイターのみなさまの応募をお待ちしています。

  • 前期募集期間:2021年11月18日(木)〜2022年1月31日(月) 23:59
  • 後期募集期間:2022年2月1日(火)〜3月31日(水) 23:59

Author

  • 市川 慧 / Kei Ichikawa

    大学で触覚の研究室に所属しそれと並行して今年5月からFabCafe Nagoyaにインターンとして参加。メディアアート、ジャズ、ブラックミュージックに関心を持ち、ちょこちょことジャズのライブをしたり作曲やメディアアート作品を作っている。メロンパンが好き。

    大学で触覚の研究室に所属しそれと並行して今年5月からFabCafe Nagoyaにインターンとして参加。メディアアート、ジャズ、ブラックミュージックに関心を持ち、ちょこちょことジャズのライブをしたり作曲やメディアアート作品を作っている。メロンパンが好き。

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