Event report

2021.6.13

スタートアップ企業が仕掛ける、グローバル展開の新アプローチ – FabCafeのコミュニティ活用事例

FabCafeプロデューサーチーム 

スタートアップ企業がプロダクトやサービスをグローバル展開するには、どのような戦略やアプローチが必要なのでしょうか?

2021年4月26日に開催されたオンラインイベント 「スタートアップ企業が仕掛ける、グローバル展開の新アプローチ」では、株式会社Psychic VR Labが取り組むプロジェクト「NEWVIEW(ニュービュー)」を事例として取り上げ、スタートアップ企業や新規事業の海外展開における新しい手法についてトークを行いました。

プロジェクト担当ディレクターが紹介する「NEWVIEW」の極意と、世界各地にコミュニティの基盤を置くFabCafeのユニークなアプローチについて紹介したイベントの様子をレポートします。

■当日のアーカイブ映像はこちらからご覧いただけます
https://youtu.be/a_F8Kz5wuxk

■FabCafeのビジネスサービス
https://fabcafe.com/jp-ja/business/

プロジェクト事例:グローバルに広がる「NEWVIEW」コミュニティ

世界のアーティストと共にxR体験の可能性を拡張する「NEWVIEW」

イベントの冒頭では、FabCafeの関連組織である株式会社ロフトワーク シニアディレクターの原亮介より「NEWVIEW」のグローバル展開について解説がなされました。

原亮介

原亮介

「NEWVIEW」は、VR/AR/MRのクリエイティブプラットフォーム「STYLY(スタイリー)」を開発する株式会社Psychic VR Labが、2017年に株式会社パルコとロフトワークと共同で立ち上げたプロジェクトです。xRコンテンツ市場の拡大とプラットフォームの世界シェア獲得を目標に、「世界のアーティストと共にxR体験の可能性を拡張し、新しいムーブメントを創出する」ことをミッションに活動を続けてきたと、原は説明します。

NEWVIEW Webサイト
https://newview.design

コンセプトは、「超体験をデザインせよ」。xRコンテンツを誰でも簡単につくり配信できる「STYLY」を活用することで、それまではゲームやエンタメ業界に限定されていた3次元上での空間表現を拡張させ、ファッション、音楽、映像、グラフィックなど、新しいクリエイティブ表現やその体験をデザインする取り組みです。

「NEWVIEW」プロジェクトを構成するのは、全世界規模のxRコンテンツアワードである「NEWVIEW AWARDS」、総合芸術としてのxR表現を学ぶ「NEWVIEW SCHOOL」、アーティストとのコラボレーションである「NEWIVEW WORKS」、音楽やグラフィックなど、ジャンル特化でxR表現を試し合うコミュニティ活動「NEWIVEW CYPHER」の4軸。クリエイター同士で高めあう、コミュニティを起点としたプロジェクト構成となっています。

「プロジェクトの初期段階において、まずは多様な分野のアーティストとxRのコンテンツを作ることからはじめました」と原は当時を振り返ります。「表現の作り方や可能性を拡張すべく、ミートアップ、ワークショップ、エキシビジョンに加え、スクール、グローバルツアーも積極的に行いました。」

本プロジェクトの主軸になるのが、グローバル規模で行う、xRコンテンツの「NEWVIEW AWARDS」です。2018年から2020年の間で、世界15か国から応募があり、計622作品が集まりました。3次元のミュージアムやVR上で読める漫画作品などのほか、昨年にはVRだけでなくAR作品も登場しています。

プレゼンテーション画面

 

プレゼンテーション画面

次世代のxRクリエイターを育て、質の良いxRコンテンツの可能性を拡張する「NEWVIEW SCHOOL」では、技術だけではなく、考え方や表現を学べます。「卒業制作を、そのままアワードへエントリーすることもできるようになりました。さまざまな分野の表現者が講師になってくれているのも、総合芸術としてのxRの可能性を広げてくれています」と原。今年から、台湾校に続きロンドン校も新たに開校しました。

日本から台湾へ。現地のコミュニティを生かした「NEWVIEW」の海外展開

続いて、ロフトワーク・クリエイティブディレクターの林剛弘より「NEWVIEW」の台湾展開におけるプロセスとそのアプローチについて、トークが行われました。

林剛弘

 

台湾におけるグローバル展開のアプローチとして、林はまず「アーリーアダプター層が集う現地クリエイティブコミュニティへの接続」について言及します。

「日本統治時代の建物がリノベーションされたクリエイティブスポット・華山1914文創園区内にあるFabCafe Taipeiには、トレンドに敏感なクリエイター達が多く集まってきます。私たちは、万人に広くxRを広めるよりも、まずはこうしたアーリーアダプターたちをターゲットにすることに決めました。」

「NEWVIEW」プロジェクトでは、アーリーアダプターであるクリエイターたちを対象に、ハンズオンワークショップやコミュニティイベントを実施。単純にビジョンを紹介するだけでなく、講師や審査員を積極的に巻き込むなど、双方向的なコミュニケーションを大切にしました。「現地コミュニティのプレゼンテーションの場を創出するため、台北でのエキシビションも開催しました。FabCafe Taipeiが持つ既存のコミュニティを土台に、コミュニティの一体感を構成することが成功の秘訣となりました」と林は説明します。

プレゼンテーション画面

もうひとつ、大切にしたアプローチは、「プロフェッショナルへのリーチを通じたコミュニティの活性化」です。

「NEWVIEW」では、ワークショップはもちろん、スクール、エキシビションなどの講師や審査員として、世界で活躍するアーティストやクリエイターを巻き込んできました。「彼らが自主的に、STYLYを自身の作品に取り入れた実験を始めてくれました。世界水準の講師陣を集めたことで、自然とクオリティの高い作品が集まりました。」

最後に林は、「プロジェクト・コミュニティマネジメント経験豊富な現地チームとの連携」について言及しました。

「FabCafe Taipeiのチームは、コミュニティ運営の経験が豊富なメンバーばかり。日本で使用したフォーマット等を細かく現地チームと共有しつつも、現地ならではのネットワークや独自性にフォーカスできる体制を構築しました。」

例として林は、FabCafe Taipeiで開催された、VR空間におけるストーリーテリングの手法を学ぶスクールについて紹介します。「現地チームと連携することで、日本では生まれえなかった独自の企画が生まれました。」

この時、サービスやプロダクトの先にあるビジョンやバリュー(コンテクスト、構造)を意識的に共有することを大切したと林は続けます。「海外展開を加速させるため、ビジョンやバリューは、きちんとブランドガイドラインとして言語化しました。マニュアルというよりもあくまでディスカッションベースとして、現地コミュニティの独自性を活かせる工夫をしています。」

グローバル展開の初期段階においては、まずは現地に乗り込むことを大切にしていると、原と林は話します。「1から始めるのではなく、クリエイターのコミュニティを既に持っているFabCafeと繋がれたのは良かったです」と原。「FabCafeは、クリエイターだけではなく企業や大学などとも繋がっています。多岐にわたってFabCafeが持っているネットワークを最大限に活用することで、グローバル展開の足がかりとなりました」とトークを締めくくりました。

グローバル拠点をもつFabCafeとそのコミュニティ

イベントの終盤は、FabCafe Tokyo CTOの金岡大輝より、FabCafeの特徴とそのコミュニティについて紹介がなされました。

金岡大輝

金岡大輝

2012年にオープンしたFabCafeは、デジタルファブリケーションスペースとカフェが同居する空間です。オープン当初よりイベントやワークショップなどを積極的に行い、さまざまな分野からクリエイター層が集まるハブとして成長してきました。

現在、世界中で12拠点に展開しており、クリエイティブ・アンド・デザインセンター内にあるFabCafe Bangkok、華山1914文創園区にあるFabCafe Taipeiなど、それぞれの土地でクリエイティブコミュニティと接続しています。

さまざまな分野のコミュニティが集まるのもFabCafeの強みです。例えば、バイオテクノロジーに関わる活動を行う「Bio Club」コミュニティや、聴覚や視覚と同じように触覚をメディアとして扱う実験を行う「Haptic Design Lab」など。建築やカーデザイン、ファッション、インタラクティブアート、フード、アグリテック、教育など、異なる分野で活動するクリエイターたちが、FabCafeに出入りしています。

デジタルとアナログの交差をテーマに、広く作品を公募する「YouFab Global Creative Awards」や、世界同時開催の2日間のデザインワークショップ「Global Goals Jam」も例に挙げられました。

「ここで大切にしているのは、コミュニティ・ドリブン・イノベーション です。ここでは、普段は出会えない分野の人たちと共創しながら、新しいことを作っていくことを大切にしています。Fabcafeに集まるクリエイターたちと即席のチームを作り、みんなでデザインしてみるアプローチです」と金岡は話します。

FabCafeは、それぞれの都市でハブとなり、オープンコラボレーションを進めていく土台として機能します。

「FabCafeには、良い意味で中心がありません。時流を見極めながら、アーリーアダプターであるクリエイターたちと共に、社会に実装するための手伝いをする。これがFabCafeのミッションです。それぞれがその土地のクリエイティブコミュニティに繋がっているので、グローバル展開のきっかけづくりに最適です。」

クリエイターコミュニティとともに、スモールスタートで

プロダクトやサービスのなかでも、「こうやって世に出す」という正統解ががなかなか決めにくいものを、どう解釈し社会に接続していくか。「NEWVIEW」プロジェクトでは、現地コミュニティと連携しながら各地でコミュニティリーダーを作り広めていくアプローチが、うまく機能していることが分かりました。

クリエイターやアーティストとのタイアップやコラボイベントなどを通して、FabCafeは企業のスモールスタートを支援します。その先にあるグローバル展開には、FabCafeの海外拠点とそのコミュニティと連携しながら、ターゲットユーザーへ直接、プロダクトやサービスを届けることができます。

プロダクトやサービスの現地リサーチ、イベント開催によるプロモーション活動、アワードやスクールを通した新たなムーブメントの育成に際し、スタートアップ企業や新規事業のグローバル展開の新しいアプローチについて学ぶ機会となりました。

世界各地のコミュニティとものづくりの場を持つFabCafeは、多様なクリエイターとの共創を通じて新しい価値を作ることをサポートしています。

FabCafeのビジネスサービスご紹介

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  • FabCafeプロデューサーチーム 

    各地のFabCafeでは、ビジネス向けサービスをご提供しています。
    プロダクト/サービス開発、SDGs、素材・新技術活用、グローバル展開サポート、テクノロジーを取り入れた教育プログラムなど。多様なクリエイターとの共創を通して、企業のみなさんとともに新しい価値をつくるサポートをしています。お気軽にお問い合わせください。

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