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コミュニティ探検記 Vol.2 Global Goals Jam – SDGsにデザイン思考で挑む! 世界90都市で開催される2日間のワークショップ

毎月1回、FabCafeで活動するコミュニティの姿を深掘りしていく本連載。今回は、国連の掲げる「持続可能な開発目標 (SDGs)」をテーマとした2日間のワークショップ、Global Goals Jam(グローバル・ゴールズ・ジャム)の取り組みをご紹介します。

Global Goals Jamは、オランダ・アムステルダム応用科学大学が国連開発計画とコラボレーションをし、2016年に17都市で始まりました。デザイナー、プログラマー、エンジニア、研究者、市民など、分野を超えた様々な参加者が、デザイン手法を使って世界共通の課題であるSDGsに取り組むものです。アムステルダムで始まったこの活動は多くの共感を呼び、現在では、世界90都市以上で毎年1回同時開催されるまでとなりました。

日本ではまず福岡が先陣をきり、2017年には、ロフトワーク ・FabCafeの主導で、東京での活動もスタート。FabCafeのグローバルネットワークを生かし、京都、香港、台湾、バンコクでも活動の輪が広がっています。

SDGsという言葉は最近聞くようにはなりましたが、状況から一歩前に踏み出すためのツールと手法がはっきりせず、具体的な行動に繋がらないことも、多いのではないでしょうか。Global Goals Jamでは、Jamkitという、アムステルダム応用科学大学で開発されたデザイン手法のツールを用い、2日間で、何かしらのプロトタイプを作ることを目的としています。デザインの課題解決手法を通して、「世界的な規模で考え、できることから小さくはじめ、早く行動に移す」のが、Global Goals Jamの極意です。

SDGsにデザイン手法で取り組むとはどういうことか?そこで生まれたコミュニティのあり方とは。

日本でのGlobal Goals Jamの発起人であり、現在Global Goals Jam Kyotoをオーガナイズしている伊藤慎一郎さんと、FabCafe TokyoからGlobal Goals Jamをオーガナイズしているケルシー・スチュワートに、話を聞きました。

テキスト:杉田真理子/編集:鈴木真理子

 

コミュニティ名:Global Goals Jam
Web :  https://globalgoalsjam.org/

活動内容:デザイナー、プログラマー、エンジニア、研究者など様々なバックグラウンドの人が、デザイン手法を使った2日間のワークショップを通じて、SDGsに取り組む。毎年、世界90都市以上で同時開催されている。
参加人数:東京は毎回50名、京都は10名、福岡では25名が参加。毎年参加するリピーターもいる。グローバル全体ではSlack上で世界中の運営者や参加者がやりとりしており、参加人数は650人超となっている。各国の言語が飛び交い、エネルギッシュで動的な繋がりがある。
過去のレポート: 2017年東京2018東京2018京都2018 香港

お話を伺った方

伊藤慎一郎

九州大学大学院にて海外大学とのデザインプロジェクトの企画に携わる中、2016年にSDGsをテーマとした国際的ワークショップGlobal Goals Jamを開催。以来、毎年Global Goals Jamを実施している。2018年4月、京都に移り、現在は、京都産業大学 情報理工学部にてデジタルファブリケーションとインクルーシブデザインを軸に活動中。九州大学大学院 芸術工学府 デザインストラテジー専攻修士課程修了。FabAcademy 修了。

ケルシー・スチュワート 

FabCafe Tokyo バリスタ / FabCafe グローバル コミュニケーションコーディネーター。アメリカ・フロリダ州出身。フロリダ大学で知覚心理学、主に味覚・嗅覚を学び、その後フロリダ大学大学院で現代の日本における宗教と社会の関わりについて研究を行う。2017年からFabCafeにジョイン。2017年にGlobal Goals Jam Tokyoに参加し、その魅力に魅了され、2018年からは自らが東京のオーガナイザーとなる。

「共有言語」と「プロトタイピング」を用いて、世界共通の課題に挑む2日間

── 日本のGlobal Goals Jamの先駆けは、伊藤さんが九州大学で始めたGlobal Goals Jam Fukuokaでした。伊藤さんとGlobal Goals Jamとの出会いを、教えて頂けますか?

伊藤:九州大学大学院芸術工学府で修士課程に在籍した頃、オランダ・アムステルダム応用科学大学に1年間交換留学をする機会がありました。そこで、当時はMediaLAB Amsterdamと呼ばれていた、産学連携のプロジェクト型研究教育活動を行なう研究所に所属したんです。

帰国後、そこで出会った2人の研究員から、「今度、Global Goals Jamというプロジェクトを始めるけど、九州大学で一緒にやらない?」とお誘い頂いたのが、全ての始まりです。

当日からすでに「Design Across Cultures(文化を超えたデザイン)」というテーマで継続的に活動はしており、九州では、地域の社会課題に取り組む2日間のデザインワークショップをそれまでにも行なっていたので、Global Goals Jamに賛同したのは、自然な流れでした。2016年のことです。

 

──  Global Goals Jamでは、2日間でどのような手法やアプローチをとっているのでしょう?他のワークショップとは、何が違い、どのような強みがあるのですか?

伊藤:社会的課題にデザインで取り組むという活動自体は、ヴィクター・パパネックの『生きのびるためのデザイン』や『Design for the other 90%』などの流れの延長線にあり、真新しいものではありません。しかし、その流れにインターネットの力が加わることで、グローバルで同時的にアクションを起こしたり、その成果やプロセスをオープンに共有することができるようになりました。

Global Golas Jamにはそれに加えて、Jamkitと呼ばれる”共通言語”となるツールがあります。異なるバックグラウンドの人々が集まると、考え方や物事を進めるプロセス、コミュニケーションのあり方も様々です。ここで、多くの”Design Waste(デザインのゴミ)”が発生してしまいます。デザインの過程で生み出される様々な洞察が、記録も共有も再利用されることなく、無駄になってしまう。

共通言語があると、このデザインのゴミがなくなりますよね。Global Goals Jamでは、この共通言語が物理的なカードとして提供されています。Web上でもアクセスでき、デザインに関するのさまざまな手法と、それぞれの目的や所用時間、アウトプットの形まで、一目で理解ができるようになっています。これ以外にも、自分たちのアイデアを深め、共有するためのテンプレートも用意されています。

最近は、SDGsという言葉がバズワード的に使われるようになりました。SDGsと言えば良い、という風潮もあって、思考停止になりかけているのでは、という懸念があります。SDGsを考え、実際に行動に移すために、こうしたテンプレートがあるのは分かりやすいですよね。

──  「Design Across Cultures(文化を超えたデザイン)」という言葉を先ほど使用されていましたが、グローバルで考えを統一するのではなく、ローカルの文化的な特徴を生かしつつも、共通言語を使って同じ方向を向く、という姿勢が良いなと思いました。

ケルシー:Global Goals Jamのツールは、理解しやすいように作られています。私自身、デザイン思考を専門で学んだ経験はありませんが、Jamkitは簡単に使えます。

また、これらのツールは、平等に意見を出し合えるようにデザインされています。学校や大学、企業などの大きな組織では、従来のヒエラルキーを取り払い、全員が平等に意見を出し合える環境を作ることが重要になります。

私のお気に入りは、Dark Sideというツールです。例えば「プラスチックの使用量を減らすには?」という課題に対して、「プラスチックを大量に使用するための施策」を考えるという、課題解決とは全く真逆のアイデアを、あえて出していくものです。こうしたエクササイズを行うことで、思考が柔らかくなり、とにかく意見を出してみる、という環境づくりができます。


──  2017年にはGlobal Goals Jam東京がスタートしました。ケルシーがこの活動に関わりたい、と思った共感ポイントはなんだったのでしょう?

ケルシー: Global Goals Jamは、「コミュニティ育成のためのエクササイズ」だと私は思っています。お互いを知らない状態で2日間を過ごすわけなので、SDGsへの熱意も含めて、ワークショップ終了後は必然的に、皆が仲良くなります。

もうひとつ共感を持ったのは、Global Goals Jamでは参加者が実際に手を動かして、具体的なアクションに関われることです。サステイナビリティに関する諸問題や社会課題に取り組むとき、SNS上で意見を交換するだけではなく、どんなに小さな形でも手を動かしてプロトタイプを作ってみる、という経験は非常に大切です。

伊藤:私がGlobal Goals Jam 福岡を始めた時は、コミュニティという意識はまだありませんでした。具体的な課題にそって、様々な人が2日間を共に過ごす、というダイナミクスは確かに効果がありますよね。コミュニティというものは、2016年から4年間続けていく中で、だんだん見えてきたものです。

 

グローバルな課題にローカルの特徴を活かしながら取り組む、約90都市が参加するコミュニティ

Global Goals Jam 2019 東京参加者

──  どんなに小さくても、「手を動かしてみる」経験を他の参加者と行うことには、価値がありますよね。おふたりの考える、Global Goals Jamコミュニティの特色や魅力を教えていただけますか?

伊藤:ローカルとグローバル、ふたつの視点から語れるのではと思っています。現在、世界中で約90都市が参加しているGlobal Goals Jamですが、もちろんローカルによって、特色が違います。

福岡では毎年参加してくださるリピーターの方々がいて。Global Goals Jamを中心に、社会課題に対する知見を共有したり、ソリューションを形にできる人々です。そういう人たちの周りには自然と人が集まるし、結果的に個人にナレッジも溜まっていく。それを、新しい人にまた共有していく、というサイクルがあるので、課題に対する視点は毎年どんどん成長しているなと感じます。

コミュニティがあるおかげで、実際に社会実装が実現するアイデアもあります。2017年のGlobal Goals Jam 福岡で生まれた「Baby BnB」というサービスは、福岡で今年、実証実験が始まる予定です。。まちのどこでも、安心して授乳やおむつ替えができる場所を、誰もが気軽に利用できるプラットフォームづくりのアイデアです。コミュニティが育っていくとともにソリューションも育っていくのが面白いなと思います。

グローバルな繋がりで言えば、去年福岡でGlobal Goals Jamに参加したメンバーが、今年バルセロナで新しくGlobal Goals Jamをスタートさせました。去年の京都の参加者が今年は福岡で参加したりと、都市、国をまたいで活動できるのが、Global Goals Jamの良いところです。

Global Goals Jamには世界共通のSlackがあって、世界中の参加者と運営者、計700人ほどが所属しています。各地のGlobal Goals Jamで生まれた成果やプロセスをオープンソース化し、ナレッジを蓄積していく姿勢も、良いと思います。

ケルシー:伊藤さんがおっしゃったように、ローカルによって特徴も人数も違います。東京のGlobal Goals Jamは毎回英語で開催されているので、国際的なプレイヤーが多く集まりますし、コミュニティメンバー主導のイベントも、沢山開催されるようになりました。FabCafeのグローバル拠点を生かし、香港、台湾、バンコクでもGlobal Goals Jamが始まりましたが、アジアのネットワークができはじめているのも、面白いですね。

今年から、八王子でもGlobal Goals Jamが始まりました。Global Goals Jamは1都市にひとつ、という決まりもありませんし、毎回同じ人が開催する必要もありません。Global Goals Jam 渋谷、Global Goals Jam 新宿など、東京の全ての区で同時開催できたら、面白いですよね。

Global Goals Jam 2018 京都 参加者

解決策ではなく、「課題」と恋に落ちること。
2日間のワークショップの後に得られるものは

── 毎年2日間行われているGlobal Goals Jamですが、SDGsのような大きな課題に対して、「2日間だけで何が変わるの?」という批判もあるかと思います。小さなアクションから、より大きなインパクトを生み出すために行っている工夫はありますか?

伊藤:“解決策ではなく、課題と恋に落ちよう” というGlobal Goals Jamのモットーがあります。ソリューションに注目しすぎると小さくまとまってしまいがちですが、SDGsの課題自体はとても大きなものです。イベント後も、1人ひとりが課題意識を持ち帰ることが、一番大切なことです。

Global Goals Jamで得た学びを、次の年のGlobal Goals Jamにも持ち越すことも意識しています。今年からは、SDGsに関する様々な知見を共有し、コミュニティを育てる場を、月一回で設けようと計画しています。

ケルシー:Global Goals Jamでは、1人ひとりの「ああ、そうか!」という発見を大切にしています。普段手を動かしたりアクションを起こすことに慣れていない人にとって、Global Goals Jamでの経験は自信となりますし、その後のマインドセットに影響を与えます。

今年のGlobal Goals Jam 東京で良いなと思ったのは、小学2年生の女の子が参加してくれたことです。世代を超えたアイデアの交換、というのは今後も考えていきたいテーマです。

── SDGsという未来に関わるテーマだからこそ、もっと若い世代をアクションに巻き込んでいきたいですよね。

伊藤:普段は大学生や社会人が中心ですが、小学生や中学生だけで活用できるくらいに、Global Goals Jamのフォーマットをアップデートするのも面白いかもしれないですね。子供と高齢者が一緒に活動するのも良いのではないでしょうか。

──  最後に、SDGsという大きな言葉に踊らされることなく、Global Goals Jamのコミュニティが社会のために提供できる価値を、まとめて頂けますか?

伊藤:SDGsは大きな課題なので、1人では何も出来ないし、専門家も解けない。このモヤモヤしたところから一歩踏み出してアクションをする、というのがデザイン活動の役割です。SDGsに関して、話すだけでアクションにまで届かないイベントやワークショップも多いと思います。だからこそ、みんなで悩みながら、手を動かすこと、それを継続すること。これが大切ですね。

ケルシー:個人のアクションや意識はもちろん大切ですが、大企業や組織がアクションを起こすインパクトは、やはり大切です。東京のオフィスに座りながら、ブラジルの森林のために私ができることは少ない。システマティックな構造変化を生み出すため、大きなプレイヤーを巻き込むことに対し、Global Goals Jamができることは何か?ということは、今後も考え続けたいと思います。

 

── 個人なら個人、企業なら企業と、それぞれの責任と役割がありますね。今後、Global Goals Jamのコミュニティがどう育っていくか、とても楽しみです。おふたりとも、ありがとうございました。