Interview
2023.9.7
サラ・ホー
株式会社ロフトワーク / FabCafe Kyoto
マーケティング
テキスタイル/ファッションデザイナーであり、彼女のプロジェクト「Growing Patterns, Living Pigments」でYouFab 2021のファイナリストとなったジュリア・モーザーさん。彼女の作品は2022年3月〜4月にかけてFabCafe KyotoとFabCafe Tokyoでも展示されました。
本インタビューでは、彼女が取り組むバクテリア染色の背景にある動機を探り、バクテリア染色がファッションと製造業界にもたらす意味と可能性について話を聞きました。
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Julia Moser
テキスタイル&ファッションデザイナー/Growing Patterns Living Pigments創設
ジュリア・モーザーは、ファッションやテキスタイルのデザイン手法や生産プロセスを、より持続可能で健康的な未来に向けて再考することを自分の使命だと考えている。化学物質や有害な成分を使わずに色を作り出す方法を自然が知っているという事実を受け、「Growing Patterns Living Pigments」を設立。テキスタイルを染めるため、顔料生成バクテリアとの共創を始め、デザインプロセスにも彼らを巻き込んでいる。マテリアルイノベーションとバイオデザインに焦点を当て、新しいテクノロジーを使うことでデザインやデザインプロセスの考え方を変える方法を模索している。
先住民族であるコギ族の「テクノロジーを使って仕事をするのは当然だが、そうするならば、自然に逆らわず、自然と共に働くテクノロジーを使いなさい」という言葉を常に心に留めている。リンツ芸術デザイン大学でテキスタイル・アート・デザインとファッション・テクノロジーの2つの修士号を取得。現在はCrafting Futures Labで大学アシスタントとして勤務しながら博士号を取得、学生を指導している。デザイン実践のためのコアバリューを見つけ、素材との接続方法をデザインすることで、芸術と科学、伝統と新しい技術の間に橋をかけ、自然とのつながりを取り戻し、次の世代のための未来を創造している。
ジュリア・モーザーは、ファッションやテキスタイルのデザイン手法や生産プロセスを、より持続可能で健康的な未来に向けて再考することを自分の使命だと考えている。化学物質や有害な成分を使わずに色を作り出す方法を自然が知っているという事実を受け、「Growing Patterns Living Pigments」を設立。テキスタイルを染めるため、顔料生成バクテリアとの共創を始め、デザインプロセスにも彼らを巻き込んでいる。マテリアルイノベーションとバイオデザインに焦点を当て、新しいテクノロジーを使うことでデザインやデザインプロセスの考え方を変える方法を模索している。
先住民族であるコギ族の「テクノロジーを使って仕事をするのは当然だが、そうするならば、自然に逆らわず、自然と共に働くテクノロジーを使いなさい」という言葉を常に心に留めている。リンツ芸術デザイン大学でテキスタイル・アート・デザインとファッション・テクノロジーの2つの修士号を取得。現在はCrafting Futures Labで大学アシスタントとして勤務しながら博士号を取得、学生を指導している。デザイン実践のためのコアバリューを見つけ、素材との接続方法をデザインすることで、芸術と科学、伝統と新しい技術の間に橋をかけ、自然とのつながりを取り戻し、次の世代のための未来を創造している。
きっかけは、1枚の写真でした。それは、繊維工場が未処理の排水を近くの河川に投棄したことで、中国・インド・メキシコの河川が有毒に染められてしまった水路の写真。ファッションとテキスタイルのデザイナーであるジュリア・モーザーさんは、自分が扱う素材や生産方法が、環境に対して目に見えるレベルの影響を与えているという現実に直面したのでした。
しかし、深く掘り下げるにつれ、彼女はまた、答えが問題の近くにあることもある、ということにも気がつきました。ある時彼女が見つけた不思議な色の湖の画像は、製造の副産物ではなく、水中の藻類やバクテリアの繁殖の結果だったのです。これがきっかけで、化学物質で無理矢理色を作り出すのではなく、自然が作り出した色の水でテキスタイルを染めることはできないかという疑問が彼女の中に生まれました。
この仮説をもとに、ジュリアさんは実験室でジャニトバクテリウム・リヴィダム株(Janithobacterium Lividum)の研究を始めました。彼女曰く、この菌株が最初に発見されたのは1990年のことで、日本の研究者グループが、日本の漁師の絹の網が青紫色に変色するのはこの菌株のせいであることを突き止めたといいます。さらに、この細菌を染料に変えるべく研究を進めている新興企業も数多くあり、ColorifixやVienna Textile Labがその一例とのこと。
ジュリアさんによれば、バクテリアを使用することの利点は、天然染料を栽培して使用するのに比べ、多くの土地や水、時間を必要としないことだといいます。合成染料については、染料に使用される有害な化学物質と、安全な処理に関する規制や施行の欠如が相まって、しばしば水路の汚染や布地への有害化学物質の残留につながるとのこと。また、合成染料に比べ、バクテリア染色は有害な化学物質を一切使用しないため、生産時および最終製品の着用時の両方で健康上の利点があるといいます。
さらに、バクテリア染料は合成繊維を染めることもできます。天然染料には、合成繊維に定着しないものも多い中で、色素を生み出すバクテリアのある菌株は合成繊維も染めることが分かってきているそうです。
しかし、彼女が研究を始めた当初、文献にはバクテリアを使ったパターン・デザインに関する研究はあまりありませんでした。そこで彼女はバクテリア染料を使って意図的なパターンを作り出すことを模索しはじめたのです。ウィーン・テキスタイル・ラボと協力し、彼女は伝統的なジャカード織からUVプリントやレーザー彫刻といった新しい手法まで、さまざまな技法を駆使し、さまざまな発見と作品を生み出していきます。
翌年もバクテリアを使った研究を続け、今度は身の回りの自然からさまざまな色を探しました。2021年、ジュリアさんとヨハネス・ケプラー大学(JKU)の研究チームは、アルス・エレクトロニカ・フェスティバルが開催されたJKU周辺からバクテリアを採取。採取したバクテリアを培養した後、採取した場所とまったく同じ場所で展示を行いました。これらの菌株の多くは、テキスタイルを染色できることもわかったため、アルスエレクトロニカ・フェスティバル2021で展示されました。
ジュリアさんは、繊維産業へのバクテリアの導入について、課題はあるものの前向きな考えを示しています。
産業界は今後、バクテリアの色素や染料を利用するようになると思いますが、バクテリアの色素を利用するとなったら、おそらく、私が行ったような方法ではなく、合成生物学と組み合わせることも考えられます。
まず第一に、彼女が行ったように生物を使って布地を染めることは、予期せぬ結果をもたらすだろうし、製造業では複製が重要であるため、そのような不安定さを許容することは難しいだろう、とジュリアさんは指摘します。
次に、生物を使った作業は従来の繊維製品の染色方法よりも複雑だということを挙げ、そのために、専門知識を持った訓練された職人が必要になるという課題、さらに、産業界が直面するであろうもうひとつの課題としてカラーパレットの制限を挙げました。
カラーパレットについては、Colorifix社、Pili社、そしてVienna Textile Lab社などのように、すでに合成生物学やその他の手段を使って、バクテリアから色素だけを抽出することに取り組んでいる企業があります。バクテリアを改良することで、幅広いカラーパレットを作り出すことができるのです。
ジュリアさんが商業的応用には不向きだと感じている方法とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。彼女の最近の研究は、バクテリアを自由に増殖させ、その増殖パターンを解釈することだといいます。このような人以外の生物との辛抱強く継続的な対話は、既存の構造においては企業にとってチャレンジしにくいもので、人以外の生物は協力者ではなく、資源と見なす方がシンプルだというのが一般的でしょう。
ジュリアさんの研究のひとつに、バクテリア増殖の形を読み取り、ジャケットに発展させたものがあります。彼女は布の上でバクテリアを自由に増殖させ、彼らが描いた形をジャケットを作るための裁断パターンとして使用しました。
彼女は実験の中で、一見一貫しているように見える入力にもかかわらず、バクテリアが異なる結果を出すことがあることを発見しました。その結果、彼女はバクテリアと言語を共創できるのではないかと思いつきます。
研究室でバクテリアと一緒に作業していたとき、私はいつもプロセスそのものについて考えていました。なぜなら、バクテリアと一緒に作業していると、一見同じように見える状況でも、違う形を作り出したり、違う反応を示したりすることが何度もあったからです。
彼らは私に何を伝えたいのだろうかと思いました。前回とまったく同じことをしたのに、なぜ彼らはこんなに異なる反応をするのだろう、と。彼らとの仕事はいつも驚きに満ちていて、とても面白いものでした。
バクテリアが作り出す成長の形と色合いは、新しい言語の基礎となりました。成長パターンをピクセルに縮小して個々の色調のピクセルに特定のアルファベットを割り当て、ピクセルを順番につなぎ合わせると、言語のような響きを生み出すことができました。この言語のサウンドスケープは、バクテリア染めの衣服を着たダンサーとミュージシャンが、バクテリアの成長の翻訳としてのこの言葉と音楽に囲まれるパフォーマンスとして紹介されました。また、この言語の別のバージョンとして、ジュリアさんが染めた布のサンプルをウェブカメラの下に通し、ピクセル化された言語によって作られた言葉を読み上げるというインスタレーションも作られました。
DANU(アベム・ダブ・ケブチ)のティーザー映像。音声はバクテリアとの共同制作による言語の朗読。(ジュリア・モーザー、スミルナ・クレノヴィッチ、アロン・ホリンジャー)
ピクセル化された成長パターンの使用は、プログラミングが可能な編み物や、さらには音楽への展開にも及びました。ジュリアさんは各ピクセルにアルファベットを割り当てる代わりに音符に置き換え、ハンドパンの楽譜を作りました。
別の作品では、ピクセルが編み機の命令信号に変換されました。編み物のプログラムは複数のピクセルで描かれ、各ピクセルがその時点で使われる編み目を決定します。スキャンされたバクテリアの成長パターンから編み物のパターンに翻訳した後で、ジュリアさんは白いウールでセーターを編みました。これにより、バクテリアの色がセーターの質感として表現されました。
ジュリア・モーザーさんの作品に繰り返し見られるテーマは、一見相反するテーマ間で繰り広げられるダンスのようです。たとえば、バクテリアと言語を共創する際、バクテリアの実験と増殖は厳密な無菌条件のもとで行われますが、各ピクセルへの音、アルファベット、編みのコマンドの割り当ては、ジュリアさん自身の判断と、バクテリアの意図についての彼女の解釈に左右されました。彼女の取り組みは、厳格な科学的プロセスと、結果を分析したり解釈したりする感情的かつ直感的なアプローチとの間に常に生まれる緊張関係で創造するという挑戦だったのです。
バクテリアによって描かれた形をつなぎ合わせたジャケットの作品でも、彼女は無菌の清潔さとバクテリアと自由奔放な成長という一見相反する概念を結びつけています。このジャケットは、病院から廃棄された布地から作られました。病院で使われていた布という、無菌の素材を意図的に使い、より健康的な未来へのメッセージとして、それらの上にバクテリアを増殖させたのでした。
私がなぜこの素材を使いたかったかというと、病院で使われていたテキスタイルは、除菌のために常に無菌状態で保管されていたため、寿命が尽きるまで細菌を目にすることがなかったからです。この布は、今回の作品で廃棄された後に初めてバクテリアと接触することになりました。でもそれによって、さらに健康的な未来を形作っているのです。
病院の生地が無菌環境に置かれていたのは、健康と衛生を維持するためです。一方で、彼女がチャレンジしているのは、バクテリア染色によって合成染料の使用を減らすことで、地球と人の健康を回復することなのです。
バクテリアを使った染料の耐久性に疑問を持つ人もいるかもしれません。ジュリアさんによると、それは菌株によるとのこと。バクテリアの菌株はそれぞれ独特で、色落ちが早いものもあれば、長持ちするものもあります。天然染料に置き換えて考えてみるとイメージしやすいかもしれません。
さらに、天然染料と同様、色褪せというのは、別の見方をすれば、新しい色にリフレッシュする新しいチャンスだと考えることもできるでしょう。衣服が変化し始めた瞬間に捨てるのではなく、衣服が変化することを受け入れ、引き続き愛せるようにクリエイティブに対応できるのか?というのも挑戦とチャンスになっていくでしょう。
テキスタイルを染める顔料としてバクテリアを採用するのは新しいことかもしれないし、現在の製造工程や消費習慣とはまだ相容れないかもしれません。しかし、繊維産業における長年の公害問題に対するこの斬新な解決策の発見と現在進行中の研究は、そのエレガントなシンプルさでいまだに私たちを魅了します。解決策は案外近くにあるのかもしれません。今チャレンジすべきは、それを目に見える形にするために、どうリフレーミングできるかということなのでしょう。
参考記事:
- The Issues: Chemicals, Common Objective
- Toxic Threads – The Big Fashion Stitch-Up, Greenpeace
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サラ・ホー
株式会社ロフトワーク / FabCafe Kyoto
マーケティング2016年シンガポール国立大学を卒業 (Communications and New Media 学士)し、シンガポールのエドテックのメーカースペースTinkertanker Pte Ltdにて、STEAMプログラムやキットを開発。2020年、東京の文化ファッション大学院大学に入学、ゼロウェイストパターンを研究した。
教育と人をつなげることに熱意を持ち、2022年12月ロフトワーク京都入社。そのほか、ゼロウェイストシステムや、ものづくり、文化交流のための新しい媒体に興味を持つ。2016年シンガポール国立大学を卒業 (Communications and New Media 学士)し、シンガポールのエドテックのメーカースペースTinkertanker Pte Ltdにて、STEAMプログラムやキットを開発。2020年、東京の文化ファッション大学院大学に入学、ゼロウェイストパターンを研究した。
教育と人をつなげることに熱意を持ち、2022年12月ロフトワーク京都入社。そのほか、ゼロウェイストシステムや、ものづくり、文化交流のための新しい媒体に興味を持つ。