Column

2021.2.28

偏愛と衝動は3ヶ月で化学反応を生んだか? COUNTER POINT第1期メンバー活動総まとめ

浦野 奈美

SPCS / FabCafe Kyoto

こんにちは。FabCafe Kyotoの浦野です。10月にスタートしたプロジェクト・イン・レジデンス「COUNTER POINT(以下CP)」は、8組の第1期メンバーの活動が3ヶ月間のプログラムを終え、それぞれが自分たちの活動を振り返りました。斜め上に進化を遂げていった活動から、意外な出会いまで、たった3ヶ月でさまざまなドラマが起こりました。ちょっと長いですが、彼らのストーリーを、メンバーそれぞれが作った総まとめパネルとともにぜひご覧ください。なお、第1期メンバーの成果発表会「COUNTER SESSION」のアーカイブ動画はこちらからどうぞ。

これまでも数々の実験的な表現を繰り出してきたフローリスト、edalab.の前田さん。本来植物は枯れても種などの形で命を繋いでいくものなのに、切り花は根を切られてしまっているために命をつなぐことができず、燃え尽きてしまうということに目をつけ、どうにか永遠性を与えられないかと考えた末、花が咲き、枯れて、ドライフラワーのように流転していく様子を写真やオブジェとして見せていくことを目指して活動してきました。写真集自体は2021年夏を目標に引き続き制作を続けていくとのこと。

1人で作業をしているとスマートフォンに気を取られてしまうのを、月半分くらいカフェに来ることで、気持ちを切り替えて一気に作業に集中できたと話す前田さん。通常1人で仕事することが多い彼ですが、今回はデザイナーの角さんとレタッチャーの廣部さんとの活動。想定以上にデザインや製本に凝ってしまい、製本だけで70万円かかってしまっとのこと。ArtBookFairで2-3万円で販売しなければ大赤字と話していました(笑)そういえば、撮影機器もFabCafeに来るたびに増えていた気がします(笑)

前田さんの撮影の様子。切り花が最盛期から枯れていく様子をいかに面白く魅せられるかがチャレンジポイント。夏に完成を目指している写真集が楽しみです。

元々画家になりたかったというみかんさん。運命の人にたどり着けるのではないかという気持ちで絵を描いていたそうなのですが、大人になるにつれて運命や輪廻転生を信じているのが恥ずかしくなってきて、絵が描けなくなってしまった経験があったといいます。そこからは画家に弟子入りしようが何しようが絵が描けない。もしかして自分の前世に何かあったのではと思い前世療法のプロに見てもらったところ、いつも絵を描いていたイメージが広がっていて、絵が描けるようになったとのこと。この強烈な体験を、みかんさん自身の誘導で、他の人にも体験してもらえるんじゃないかなと思っていたタイミングでCPに出会ったといいます。とは言え、気軽に「前世見れます」と言った早々に困り、東大の心理学の教授を探し、繋がりもない中、事情と想いをぶつけたところ、「ちょうど講座を開こうと思っていたところだから協力しましょう」と快諾いただき、今回の活動を実行に移せたのだそう。

CP参加中は、一般から広く協力者を募集してFabCafeの2Fでたくさんの人の前世を見ていたみかんさん。でもそうこうするうちに前世が見えない人も出てきたり、インスタのフォロアーが減ったり、漫画の仕事が追い付かなったそうです。一旦止めてCPメンバーと遊んでいたら、焚き火LABのイベントでグラフィックレコーディングをすることに。それがきっかけで焚き火のラボメンバーでもある越前屋俵太さん主催のイベントでも本格的にグラフィックレコーディングデビュー。この経験を生かして、前世を見るプロジェクトでも、メモをとって後から漫画にするのではなく、話を聞きながらグラフィックレコーディングしていくスタイルに変え、結果として、セラピストとしての仕事と、グラフィックレコーダーとしての仕事も増えたのだそう。それってつまり、3ヶ月で新しい仕事を2つ作ったってことですよね…!

「たとえ思いつきであっても、動いてみたら、人と繋がって実現できることもあるということを感じた」というみかんさん。「今も順調にインスタグラムのフォロアーは減ってます(笑)」と笑顔で言い切るみかんさんに、すごい清々しさと強さを感じました。

  • 前世を見る活動はFabCafe 2Fの和室を予約して実施。毎回呼びかけるたびに満席に。1番衝撃的だったのは、何もない宇宙の石だった人だという。みかんさんはその人の前世誘導をした後お腹を壊したらしい。

  • 焚き火LABのイベントにて初グラフィックレコーディング。この時の越前屋俵太さんとの 出会いが、その後の彼女の新しいスタイルと仕事を作ることになろうとは、この時誰も知る由はなかった。

テレプレゼンスアバターロボットや専用アプリの開発、および遠隔コミュニケーションサービスの提供をしている神戸のiPresence合同会社が開発した小型テレロボ「動く電話テレピー」を盛り上げていこうとCPに参加した彼ら。CPの中では、香川の離島の看護師とコミュニケーションのあり方についてディスカッションするトークイベントを行ったり、FabCafeの他拠点を繋いで利用方法の検証をすることで、機能のフィードバックをもらったり、利用アイデアをもらったりしていました。

ちょうど「テレピー」開発のためのクラウドファンディングの時期とCPの活動時期が重なったことで、普通ならなかなかできない、触りながらフィードバックしてもらうことができたのは開発に役立つ情報が得られたといいます。

ちなみに、クラウドファンディングは目標金額の353%到達で着地していました!おめでとうございます!!

  • 離島の看護師、小澤詠子さんとのトークイベントの様子。

  • FabCafeの各拠点(京都、東京、飛騨、名古屋)にそれぞれテレピーを置いてコミュニケーションの検証を実施した

元々国際協力をしたくてアフリカで活動してたものの、交通事故に遭って帰国せざるを得なくなったのを機に、日本ではあまり知られていないアフリカの料理を通じて、文化や価値観を紹介する活動をこの3年間くらいやっていたという奥さん。同じ活動でCPに応募して採用されたものの、他のメンバーの活動を見たら、「前世」とか「ギネスに挑戦」とかすごいチャレンジをしているので、こんな程度じゃダメだと思い、アフリカ大陸54カ国の料理と54名の人とトークをし、その様子をラジオとして配信し続けるという、ストイックな活動に変更。見事完遂してしまいました。

元々はアフリカの価値観を広めたい、というモチベーションだったのが、人の人生が教材となり、これからの自分の生き方を考え直す機会になったとのこと。作ったことのない料理も、人に聞いたり想像で作ったり、財布が空っぽになるまでやりきったそうです。初対面の人と54人も話していると、喋れない人もいそうなもの。そんな時はひたすら自分が喋り続けたり、あえて相手がムカっとするすることを投げてみたりするなど、トークの技術も上がっていったのだそう。

「最初の30回までは本当に辛かったけれど、30回を超えるとコツを掴んで楽しくなっていき、数が質に転化していく実感があった」と話す奥さん。目標を立てるのって難しいですが、とりあえず数を決めてしまうことも突き抜けるきっかけになるかもしれません。

ちなみに、ラジオの中で、バアブさんというクラール族の方が、「日本人は始める時間は守ることだけど、帰る時間は守らない」と言っていたのが、1番「アフリカ力(りょく)が高いなと思った一言だそうです。

COUNTER SESSIONにて。他のチームが活動をデータでパネルにまとめている中、奥さんはゲストに迎えた54人と54の料理の写真を4時間かけて切り貼りして、地図を作っていた。細かい!多い!

常にカフェの一角でスパイシーなアフリカンフードの香りを漂わせながらオンエアし続けた奥さん。この風景が馴染んできていたので、見れなくなるのはちょっと寂しいです。

チロル偏愛歴10年というキャリア持つチロリストちあ吉さん。特にCPに参加した3ヶ月はチロルチョコに集中した時間だったと言います。チロルチョコのパッケージでモザイクアートを作り、ギネスに挑戦した彼女。これまでのギネスの記録が3300枚だったのに対して、なんと5000枚で作り上げた「I LOVE TIROL」の文字は壮観。10年間で集めたパッケージに加えて、パッケージを楽しく集めるために「チ層」というケースをFabCafeのカウンターに設置

1人で始めたプロジェクトでしたが、初日に早々「これは1人では無理だ」と悟ったという彼女。周囲に助けを求めたところ、小学校から大学の友達、バイトのボス、インスタを見て来てくれた初対面の方々まで助けてくれたといいます。また、3ヶ月の間、他のCPメンバーも出張のタイミングなどでチロルチョコを見つけては買ってきていて、彼女のロッカーがチョコでいっぱいになっているのを見るたびにチロル愛が広まっていく様子を観じました。

もうひとつ、新聞でドレスを作り続けている、新聞女こと西沢みゆきさんとのイベントも彼女にとって大きな気づきをくれたのだそう。いわば偏愛の先輩である彼女に「あなた自身がすでにチロルチョコになれているよ」と言われたのが衝撃的な言葉だったそうです(彼女にとってのチロルチョコは楽しさと笑顔、ワクワクの塊そのものらしい)。このイベントで新しい自分を発見してもらえたことで、今まで以上に活動を広げていきたいとのこと。

ちなみに次のチャレンジは、今回作ったモザイクアートをドレスに作り替えて身に纏いたいそうです。自らチロルチョコになる、または、チロルチョコと結婚する、ということでしょうか。新聞ドレスとチロルドレスで西沢さんとコラボする日も遠くなさそうです。

  • 1人でスタートしたモザイクアートも、SNSを見て手伝いにきてくれた人も含めて総勢12人が関わる制作プロジェクトに!

  • 新聞女こと、西沢さんとの出会いはちあ吉さんにとって今後の活動に向けての大きなきっかけになったらしい。

「脳で奏でる音楽、できました。聞いてください。まず脳波を安定させます。これから僕はしゃべらないし、動かないですが、見ててください。」とライブをスタートした安藤さん。左手を上げることでサインを出し、意図的にα波を出して、音楽の曲調を変えていくという演奏を実演してくれました。シュールかつ音楽的なパフォーマンスに会場は大盛り上がり。3ヶ月のCP期間が終わる直前まで「これはやっぱり難しいですねー(苦笑)」と話していたのにびっくりです。CP期間中は、脳波でメロディをつくることを目指して、さまざまな方の脳波のデータをとったり、検証を繰り返していた安藤さん。脳波でメロディを奏でる段階まで持っていくのは難しかったと本人は笑いますが、いえいえ、たった3ヶ月でここまでパフォーマンスに仕上げたとは、さすがゲーム会社を営んでいるプロです。気になる方は、ぜひこちらをご覧ください。

「脳で奏でる音楽」解説動画

ちなみに、この装置がSNSなどでシェアされたことで、これまで数々のエンターテイメントを作り出してきたアフロマンスさんの目にとまり、東京までデモンストレーションをしに行ってきたとのこと。安藤さんの作品がコンテンツとして多くの人に体験してもらえる日も来るかもしれません。

COUNTER SESSIONのライブの様子。キーボードはそれっぽく演出するために置いていただけで、PCを置く台として使っていた。すごくシュール!

都市における焚き火の可能性を試した焚き火LAB。3ヶ月でなんと13回もの焚き火を開催したそうです。基本的にはお酒を持ち寄り、木をくべながら、3〜4時間語り合うというシンプルなもの。コンテンツとして焼き芋を焼くので、焼き芋LABと言っても過言ではない、というのはリーダーの橋本さん。CPメンバーからも、脳波の安藤さんやみかんさんが参加。みかんさんに関しては焚き火を漫画にして定期的に発信していました。

焚き火に参加した時の様子から焚き火の方法まで、まるでアンバサダーのように四コマ漫画にして発信していたみかんありささん。彼女もすっかり焚きloverのひとりになってしまったようです。

12月には越前屋俵太さんと京都外国語大学の教授で哲学者の原先生とイベントを開催。本当はもっと京都市内でも焚き火をしたかったそうなのですが、唯一長岡天満宮で実現できたものの、なかなかハードルが高かったとのこと。今回のCPでは、活動の第一歩として、焚き火自体を色々な人と実施し、ポテンシャルを試したそうですが、今後の活動としては、ひとつのイベントのプラットフォームとして企画を作りたいとのこと。橋本さんの現時点の構想は、それぞれテーマ性のある焚き火台を淀川に20基ほど作り、焚き火をきっかけに皆が遊べる体験を作りたいそうです。これは面白そう!

コロナ禍でなかなか実現が難しい時もあったものの、逆に屋外だからこそ、感染症対策もした上で楽しめる場を作れるはず、と、今後に向けて意気込みたっぷりの様子。CPの中でも、最もコラボが行われていた焚き火ラボ。これからもますます色々な人が巻き込まれていきそうな予感です。

DESIGN WEEK KYOTO クラフトソンがきっかけで生まれたこのチーム。工芸の技術でアップサイクルをするプラットフォームを作るため、京都と東京から5名の混合チームで活動していました。

CPではテストユーザー募集を行ったものの、なかなか反応が弱く、中盤までどうやって進めていこうか悩んだと話すのは、リーダーの岩田さん。ちょうどそんな時、岩田さん自身がヘビーリスナーだった奥さんのアフリ観ラジオに出演。奥さんとのトークで「このプロジェクトに足りなかったのは“アフリ観”だ」と気付いた(!)のだそうです。つまり、工芸やアップサイクルというのはあくまで舞台装置のようなもので、もっと手前の段階にある、本人の偏愛や衝動がないと始まらないし、そういう想いが作り手と共振し合うことで新しいものが生まれていくのではないか、という気付きとのこと。

そこでプロジェクト名を”concra”(conは”一緒に”、craはクラフトの意。congratsという意味も重ね、「一緒に作って祝福しよう」という意図)に変更。それまで私物をアップサイクルしたい人を広く募っていたアプローチを少し変え、自分たちがまず作ってみることにしたそうです。岩田さんは、宇治の歴史ある組紐の製造・卸・販売会社「昇苑くみひも」さんとともに高校時代に買った思い出のバンドTシャツをギターストラップにアップサイクル。同じくメンバーの金属工芸作家の須藤さんは、お父様から譲り受けた時計を甲冑に施す技術などを駆使して作り替えたとのこと。想像を遥かに超えるものができてきて、自分たちがやりたいことの方向性には確信を感じている様子です。今はアップサイクルするためのエンジンとなる個々の想いをどう引き出すかという議論をしているそうです。

CPの他のメンバーがいたことで、手段以上に偏愛や衝動が大切だということに気付いたという岩田さん。いきなりプラットフォームを作ろうとせず、まずは小さな共感を作り、少しづつ広げていくというやり方を見つけたそうです。Re:Craft改め、concraのコアとなるのが衝動と偏愛になったというのは感慨深いです…。

  • 高校時代の岩田青年が買って着古したバンドTシャツも職人の力で一生使えるギターストラップに生まれ変わりました。完成したストラップを装着して昇苑くみひもの八田さんと。岩田さんうれしそう。

  • 金属工芸の技術が詰まった時計。ストーリーが詰まったプロダクトを紹介する岩田さんの声には自然と熱が入り、皆も思わずカメラの前まで出てきて覗き込んでいました。

日々、クライアントからのオーダーを受けて、イノベーションやビジネス創出を考えているロフトワーク(FabCafe Kyotoの運営会社)。でも、もっと生産性や効率、マーケティングといったものから離れた場所でクリエイティビティをスパークさせたい、そして、そうした活動が個別企画単位ではなく、もっと常に起こる土壌を作りたいという想いからスタートしたCP

CPの運営チームはプロジェクトマネジメントの専門集団です。プロジェクトとは定常業務に対して期限のある活動のことで、何か新しい物事に挑戦する活動を意味します。つまり、プロジェクト=クリエイティブな活動ということ。私たちがCPをプロジェクト・イン・レジデンスと言っているのも、クリエイティブな活動そのものがもっと世の中に出ていく機会を作り出していきたいという想いからそう名付けています。だから、私たちのプロジェクトマネジメントの経験をうまく利用して、個人の衝動や偏愛をもっと発信していってほしい。それが、私たちにとっても、世界を広げ、専門性を生かせる機会になります。

衝動と偏愛こそが、人をワクワクさせ、クリエイティビティを生み出していくと信じて、COUNTER POINTはFabCafeに集う人と一緒に常に柔軟に形を変え、これからも進化していきます。少しでも気になったら、ぜひ私たちに声をかけてください。一緒に面白いことしましょう!お待ちしています!

関連リンク:
COUNTER POINT by FabCafe Kyoto について(第四期メンバー応募締切:4月5日(月)

Author

  • 浦野 奈美

    SPCS / FabCafe Kyoto

    大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。

    大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。

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