Column

2017.11.25

ベトナムの少数民族が作るコーヒーとは?

fruitful アジアの農業活性化プロジェクト

大西 陽

FabCafe Tokyo / MTRL

11月中旬、来年度のFabCafeのコーヒーをアジアの農園から購入するため、ベトナムのダラットに向かいました。スペシャルティーコーヒーのみをこれまで扱ってきたFabCafeですが、良いコーヒーを選ぶだけで無く、良いコーヒーを育てるプロセスに関わろうと進めているfruitifulプロジェクトの一環です。
fruitfulでは、パートナーのLIGHTUP COFFEEと共にアジアのコーヒー農園と提携し、FabCafeの持っているグローバルなネットワークやテクノロジーで美味しいコーヒーを作り、農家、消費者、提供者でWin-Win-Winの関係を作るプロジェクトです。

> fruitifulプロジェクトについて

そのfruitfulプロジェクトの中で一番クオリティーの高いコーヒーを提供しているのが、ベトナム中東部にあるダラットのK’HO COFFEEです。ダラットはホーチミンから飛行機で1時間程度。そこからタクシーで30分ほど行くと市内に入ります。

高台からみたダラットの街。早朝は雲海がとても美しい。

ダラットには60〜70ものコーヒー農園があります。
少数民族が多いこのエリアで代々続いているK’HO COFFEE農園(4代目)のオーナーは、ローランというコーホ族の女性。コーヒー農園を継ぐ前はダンサーとして舞台で活躍していました。夫のジョシュはアメリカ人で、これまでアジアで農業やバイオエンジニアリングを手がけてきた経験を活かしてコーヒーを作っています。彼らの農園はダラットの中心部から15分ほど離れた山の麓にあります。ダラットの街は標高1,500mぐらいにあり、農園も1500m〜2000mの標高に位置します。

農園主のローランとジョシュ。ロゴはコーホー族の伝統的なパターンをモチーフにしたもの

収穫時期は11月から12月にかけての2ヶ月程度。まさにいま収穫最盛期を迎えており、今年は6トンほどの収穫を見込んでいます。昨年度は雨が非常に多かったため、収穫や乾燥に影響が出てしまい大幅に収穫量が減ってしまいました。
近年アジア地域では気候変動によって農業が難しくなっている側面があります。fruitfulプロジェクトで先日訪れたインドネシアのバリの農園も今年は雨が多かったため、実が収穫前に駄目になってしまったり、収穫後の乾燥場所が確保出来ず収穫量が前年の半分以下になってしまったといいます。こういった気候変動への対応もfruituflプロジェクトの課題の一つです。

ダラットのコーヒー農園は今が収穫最盛期

環境変化だけでなく、社会的な変化もコーヒー産業を難しくしています。ダラットのエリアは昔からコーヒー栽培が盛んでしたが、近年は土地の値上がりに伴い、コーヒー栽培をやめて土地を売ってしまったり、バラの栽培など別のものを育てる農家が増えています。
コーヒー栽培は、品質が良いアラビカ種の生産出来るエリアが限られていることや、収穫してから精製、乾燥などのプロセスが非常に手間がかかることも原因の1つです。

そんな中、K’HO COFFEEはローランとジョシュが引き継いでから生産を大きく拡大しています。二人は非常に熱心に農業に取り組んでおり、収穫後の選定や、精製を真面目に行い、ベトナムコーヒーとは思えないレベルに品質を向上させました。
K’HO COFFEEの主な栽培品種はカティモール種というハイブリッド種です。アジアでは純粋な単一品種がほとんど無く、ハイブリッドやロブスタ種がほとんどです。その中でカティモールは病気に強く収穫量も多いのが特徴です。
通常ハイブリッド種は風味があまり良くないと言われていますが、この農園では精製プロセスの中で独自の発酵方法を取り入れたり、選定と精製に時間と手間をかけることで風味豊かでクリーンな質の良いコーヒーを作っています。
また、昨年度はバリと同じく雨に悩まされて生産量が落ち込みましたが、今年はビニールハウスを農園横に設置し、天候に左右されず乾燥出来る環境も整備されました。

収穫後の精製プロセスから、ビニールハウスでの乾燥へ。アフリカや中南米では一般的な工程や設備もアジアではまだまだ不十分なところも多い。

農園にはその他にもイエローブルボンはパカマラ、ティピカなども少量ですが栽培しており、こういった単一品種をより増やしていき、より質の高いコーヒーの栽培を行おうとしています。

また、K’HO COFFEEでは、焙煎機を導入し自分たちで焙煎することで、カフェに直接豆を販売したり、農園へのツアーを誘致して農園でコーヒーを振る舞うなどすることで収入を増やしています。ローランの入れるラテアートが描かれたカフェラテは東京でもなかなかお目にかかれないクオリティーですよ。

農園内にあるカフェスペース。多くのツーリストがここでコーヒーを楽しんでいる。

なんとカッピングルームまである。元エンジニアのジョシュらしい作り。

今回fruitfulプロジェクトでは、12月に幾つかの異なる精製方法をテスト予定です。
K’HO COFFEEでは、通常栽培して脱穀したコーヒー豆を水につけず発酵させるドライファーメンテーションという方法で24時間発酵させて、その後綺麗に高圧洗浄と手洗いで豆を洗浄してミューシレージと呼ばれる粘つきを落として乾燥させています。
その方法に加えて、嫌気性発酵と呼ばれる酸素を取り除いた環境で発酵の活動を調整して行う発酵をテストします。この方法は近年コスタリカなどでも行われており、非常にユニークなフレーバーが生まれるものです。それらの発酵方法を時間や温度、分量などを幾つかのパターンで試していきます。

また、これに先駆けてfruitifulプロジェクトでは、ラオスのルアンパバーンのコーヒー農園で十数種類におよぶ精製方法をテストしており、その結果成果のあるものを更にベトナムで実施していく予定です。
FabCafeでは、発酵方法の提案はもちろん、その環境づくりのための機材開発や、各種センサーなどを使った環境観測、ドローンを使った周辺環境などの確認も行っています。

こういった活動は、これまで農園単体ではなかなか実施が難しかったものですが、農園をネットワーク化してコミュニティー化していくことで、ナレッジ共有やリソース共有が可能になり、各農園の運営や品質改善に直結します。
今年はリサーチ中心に活動していますが、この農園ネットワークを使い、来年に向けて以下のような活動を実施していきたいと考えています。

・発酵プロセスの実験
・アグリテックの実証実験
・気候変動に対するテクノロジー支援
・CSRへの取り組み

また、アジアのコーヒーを評価する制度や、仕組み、支援する方法なども模索していく予定ですので、これらの活動に興味ある企業や個人の方はぜひFabCafeまでお気軽にお問い合わせください。

fruitful プロジェクト担当 川井、大西
メールアドレス info@fabcafe.com

Author

  • 大西 陽

    FabCafe Tokyo / MTRL

    ヨーロッパを中心にファッションデザイナーとして活動後、2012年帰国。
    複眼的な視点を持ったデザインを行いたいという想いから、分野の垣根を超えた接点を持つ食の分野に興味を抱く。2014年よりFabCafe Tokyoでディレクター、リードバリスタ、コミュニティマネジャーとして勤務し、FabCafeに集まる多種多様なコミュニティと多くの企画やプロジェクトを立ち上げる。

    担当プロジェクト
    bugology Space Mongology fruitful BUGOLOGY  beyond cacao  THE OYATSU  OLFACTORY DESIGN LAB

    ヨーロッパを中心にファッションデザイナーとして活動後、2012年帰国。
    複眼的な視点を持ったデザインを行いたいという想いから、分野の垣根を超えた接点を持つ食の分野に興味を抱く。2014年よりFabCafe Tokyoでディレクター、リードバリスタ、コミュニティマネジャーとして勤務し、FabCafeに集まる多種多様なコミュニティと多くの企画やプロジェクトを立ち上げる。

    担当プロジェクト
    bugology Space Mongology fruitful BUGOLOGY  beyond cacao  THE OYATSU  OLFACTORY DESIGN LAB

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