Column

2020.7.27

【PHASE1】HELLO NEW CACAO『カカオの新しい地平線』連載開始

大西 陽

FabCafe Tokyo / MTRL

HELLO NEW CACAO #1
『カカオの新しい地平線』

カカオの新たな可能性と価値を追求するプロジェクト「beyond cacao」がはじまった。

カカオと聞いて多くの人は、チョコレートの原料をイメージする。しかしカカオには素材として、まだ見ぬ可能性があるはずだ。beyond cacaoは東南アジアを拠点にスペシャルティカカオを生産するwhosecacao、未来に向けたカカオのまだ見ぬ価値の創造を目指して様々な取り組みを行っているAPeCAと共にカカオを多面的な視点で捉え、新たな価値を提案するプロジェクトだ。

今回、カカオの新たな可能性を多面的に捉えるbeyond cacaoの第一歩として「カカオの新しい地平線」を「アイディアとデザインの力で人生と仕事をひとつにする」をミッションに掲げるクリエイティブ集団301と企画。 液体 (=ドリンク) をテーマに異なるシーンで活躍する野村空人 (バーテンダー)、橋本浩一 (料理人)、川野優馬 (バリスタ) をクリエイターに迎え、カカオがもつ隠れた可能性や新たな価値を一緒に描いた。

その第一弾としてスタートした企画『HELLO NEW CACAO』では「カカオの新しい地平線 (The New Horizon of Cacao)」をテーマにカカオを通して異なるクリエイターとの開発の記録を全3回のレポートに渡ってお送りする。

本記事ではそのイントロダクションとして、企画の概要と、イベントに参加した3名のクリエイターを紹介する。

素材から描く新たな世界

チョコレートの個性や味はイメージができるが、素材であるカカオのそれを思い浮かべることはできるだろうか。時にチョコレートは「チョコレート=カカオ」という既成概念からカカオがもつ本来の個性を隠してしまうことがある。 そしてチョコレートはカカオを表現する1つの側面に過ぎず、カカオにはまだ見ぬ魅力的な側面とそこから生まれる新しい価値があるはずだ。 

beyond cacaoでは固形のチョコレートという既成概念を超え、多種多様なクリエイターと複眼的にアプローチし、素材としてのカカオの新しい価値を提案するプロジェクトだ。

その第一歩として異なる領域で活躍する野村空人(バーテンダー)、橋本浩一(料理人)、川野優馬(バリスタ)をクリエイターに迎え、液体(=ドリンク)をテーマに、様々な視点からカカオを分析し、そこから生まれた仮説からドリンクの開発を行った。


今回の企画では「素材(=カカオ)の質がもつ新たな価値」を起点とした。

大量生産、大量消費の時代が終わりを迎えるなか、さまざまな領域で量の経済に争うように、質にフォーカスした試みが行われている。素材の質が上がることは、そこから作られるプロダクトの価値を高める。同時に質の向上によって新しい選択肢が生まれ、異なる領域の視点をつなげ、多彩な素材として新たな価値を提案することもできるはずだ。

かつて世界規模でコーヒーの在り方を変えたサードウェーブコーヒーは素材 (=コーヒー) の質を起点に「From Seed to Cup」を生み、農業・流通・消費に至るまでの全てのサプライチェーンの工程における従来の技術や思考の常識をガラッと変えた。そしてそのサードウェーブの潮流はコーヒーと同様にカカオの領域にも影響を与えている。

これまでショコラティエの技術を中心に発展してきたチョコレートは、舌触りや口溶け、中に入れるガナッシュの香りなど、あくまでもカカオは素材として技術を体現するための手段であった。しかし近年コーヒーと同様にカカオもサードウェーブの潮流を受け、素材であるカカオにスポットが当たるようになり、「ビーン・トゥ・バー」として新しい在り方へと変わりつつある。

一方でチョコレートはその強い存在感から既成概念として時に素材であるカカオの輪郭を弱めてしまう場合がある。チョコレートの個性や味はイメージができるが、素材のカカオが持つ個性や味はなかなか思い浮かべることができない。大人から子供まで食べ親しまれ、様々な商品のフレーバーとしても用いられるチョコレートはカカオがもつ個性を時に隠してしまう。そしてチョコレートはカカオを表現する1つの側面に過ぎず、まだ見ぬ魅力的な側面があるはずだ。

 

カカオを異なる複眼的な視点からみる

カカオの新しい側面を描くために野村空人 (バーテンダー) 、橋本浩一 (料理人)、川野優馬 (バリスタ)の異なる領域からなる3名のクリエイターを迎えた。それぞれの専門領域の視点から純粋にカカオにアプローチし、既成概念を超えるために固形と相反する液体(=ドリンク)の開発を行った。

もちろん素材としてのカカオの新しい側面が必ずしも魅力的だとは限らない。しかし多面的にアプローチする過程で生まれた新しいアイディアや視点がこれからの多彩な個性を持ったカカオには必要だ。

異なる領域で活躍する野村空人・川野優馬・橋本浩一が開発したドリンクと、それぞれの視点から開発されるまでに描かれたカカオの側面を全3回に分け、連載として紹介する。

クリエイター/ 記事

8月上旬公開予定
『解像度の違いから魅せるカカオの可能性』
川野優馬 / バリスタ

バリスタは引き算の手法を用いて素材にアプローチする職業だ。要素を足すことなく追求し、ありのままの素材の個性を一杯に落とし込む。まるで解像度を上げるようにコーヒー豆の輪郭を精密に描いているようだ。しかし同時に解像度が上がるほど飲み手は微細な違いを理解しなければならない。川野優馬はバリスタとしての素材を追求しながらも、あえて素材の解像度を下げ、飲み手のハードルを下げる事を意識している。そして解像度の違う2通りのドリンクを提案した。解像度の違いはカカオにどのような可能性を提案できるだろうか。

川野優馬

慶應義塾大学在学中に「LIGHT UP COFFEE」を創業し、卒業後、2015年にリクルートホールディングスに就職。新規事業開発等を経験した後に退職。その後は経営者およびバリスタ、ロースターとして「LIGHT UP COFFEE」に専従。「美味しさ」を軸にした、消費と生産の正の循環をつくり、農園の営みを持続可能にし、美味しいコーヒーを増やすことに尽力している。2019年、オフィス向けのサブスクリプションコーヒーサービス「WORC」をスタートさせた。

8月中旬公開予定
『カカオを液体として再構築する』
野村空人 / バーテンダー

「カカオがもつ特徴的な苦味と酸味に着目し、味わいに立体を作った」そう語ったのはバーテンダーとして活躍する野村空人だ。何千何万通りもある味わいを多彩な技術を自由自在に操り、カクテルに落とし込むバーテンダーはまるで童話の魔法使いを思い浮かべる。一方でその思考はまるで数学者のように理論的だ。素材の味を要素分解し、立体的な味へと再構築するのだ。野村空人は素材としてのカカオの味をどのように要素分解し、液体として立体として再構築したのだろうか。

野村 空人

21歳で単身渡英、7年間ロンドンのバーでバーテンダーとしてのキャリアを積んだ後、帰国。「Fuglen Tokyo」にてバーマネージャーとして活躍しながら、数々の賞を受賞。バーテンダーとしての新しい働き方を示すべく独立し、ドリンクのコンサルティングを手掛ける「ABV+」を立ち上げる。その後、Kyrö Distillery Company のブランドアンバサダーや、渋谷 The SG club のバーテンダーも勤め、 最近では日本橋・兜町にオープンしたホテル K5 のバー青淵 Ao のバープロデュースを手掛けている。

8月下旬公開予定
『擬態したカカオから体験するストーリー』
橋本宏一/ 料理人

冷たい/熱い、硬い/柔らかい、固体/液体/気体、料理人は自由な創造の世界で生きている。それに付け加えて橋本宏一は最新の技術や思考を用いるモダンガストロノミーを得意とする。一方であらゆる表現方法の先にあるのは「ストーリーのある体験」だと橋本宏一は語り、創り出されたドリンクは素材として使われたカカオを錯覚させるようなものだった。カカオが持つ物語と、そこから生まれる体験としての一品は飲み手に対して何を伝えるこができるだろうか。

橋本宏一 / 料理人

分子ガストロノミーの先駆けとして名を馳せた 「エル・ブリ」で経験を積み、帰国後は「サン・パウ東京」に勤務。マンダリンオリエンタル東京「タパス・モラキュラバー」の料理長として活躍したのち、2015年に「セララバアド」をオープン。世界の一流レストランで培った分子料理のテクニックで、素材のテクスチャーを自由に操り、驚きのあるプレゼンテーションで自然を表現する。


企画

福村瑛 / whosecacao
吉田裕一  / APeCA
大西陽 / FabCafe・bugology
大谷省吾 / 301
酒井瑛作 / 301

  • beyond cacao

    カカオと聞いて多くの人は、チョコレートの原料をイメージします。しかしカカオには素材として、まだ見ぬ可能性があるのではないかという仮説の元、東南アジアを拠点にスペシャルティカカオを生産するwhosecacao、未来に向けたカカオのまだ見ぬ価値の創造を目指して様々な取り組みを行っているAPeCAと共にカカオを多面的な視点で捉え、新たな価値を提案するプロジェクトです。

    web : https://sites.google.com/whosecacao.com/beyondcacao/
    OpenLab : https://fabcafe.com/jp/labs/tokyo/beyondcacao/

    カカオと聞いて多くの人は、チョコレートの原料をイメージします。しかしカカオには素材として、まだ見ぬ可能性があるのではないかという仮説の元、東南アジアを拠点にスペシャルティカカオを生産するwhosecacao、未来に向けたカカオのまだ見ぬ価値の創造を目指して様々な取り組みを行っているAPeCAと共にカカオを多面的な視点で捉え、新たな価値を提案するプロジェクトです。

    web : https://sites.google.com/whosecacao.com/beyondcacao/
    OpenLab : https://fabcafe.com/jp/labs/tokyo/beyondcacao/

Author

  • 大西 陽

    FabCafe Tokyo / MTRL

    ヨーロッパを中心にファッションデザイナーとして活動後、2012年帰国。
    複眼的な視点を持ったデザインを行いたいという想いから、分野の垣根を超えた接点を持つ食の分野に興味を抱く。2014年よりFabCafe Tokyoでディレクター、リードバリスタ、コミュニティマネジャーとして勤務し、FabCafeに集まる多種多様なコミュニティと多くの企画やプロジェクトを立ち上げる。

    担当プロジェクト
    bugology Space Mongology fruitful BUGOLOGY  beyond cacao  THE OYATSU  OLFACTORY DESIGN LAB

    ヨーロッパを中心にファッションデザイナーとして活動後、2012年帰国。
    複眼的な視点を持ったデザインを行いたいという想いから、分野の垣根を超えた接点を持つ食の分野に興味を抱く。2014年よりFabCafe Tokyoでディレクター、リードバリスタ、コミュニティマネジャーとして勤務し、FabCafeに集まる多種多様なコミュニティと多くの企画やプロジェクトを立ち上げる。

    担当プロジェクト
    bugology Space Mongology fruitful BUGOLOGY  beyond cacao  THE OYATSU  OLFACTORY DESIGN LAB

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