Column

2020.10.19

HELLO NEW CACAO 『カカオの新しい地平線』#3 橋本宏一 | 擬態したカカオから体験するストーリー

大西 陽

FabCafe Tokyo / MTRL

Tokyo

カカオの新たな可能性と価値を追求するプロジェクト「beyond cacao」がはじまった。
カカオと聞いて多くの人は、チョコレートの原料をイメージする。しかしカカオには素材として、まだ見ぬ可能性があるはずだ。その第1弾の企画としてスタートした『HELLO NEW CACAO』では「カカオの新しい地平線 (The New Horizon of Cacao)」をテーマにカカオを通して異なる3名のクリエイターとの開発の記録を全3回のレポートに渡ってお送りする。

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『擬態したカカオから体験するストーリー』
クリエイター:橋本宏一(料理人)

料理人を定義することは難しい。
一概に料理人といっても幅広い分野で活躍する人たちがおり、使用する食材や技術、そして思考まで人それぞれだ。作られるものに関しても温かいものから冷たいもの、柔らかいものから堅いもの、個体から液体、時には気体まであらゆる形がある。彼らから作られるものには伝統はあったとしても正解も不正解もない自由なクリエイションの世界だ。その自由な世界が料理人の特徴の1つなのかもしれない。

橋本宏一はそんな料理人の中でも新しい技術や思考を用いるモダンガストロノミーの技術を得意とし、より自由な表現を得意とする。しかし話を聞くと食材やその生産地である自然に対して誠実に向き合う、美味しいを追求する、それらを「ストーリーのある体験」として楽しんでもらうことを軸にしているようだ。

今回のプロジェクトにおいて橋本宏一はかなり苦戦を要した。
なぜならカカオの背景に広がるストーリーがなかなか思い浮かべることができなかったからだ。実はカカオの加工はようやく近年理論的にまとめられてきたが、まだまだ感覚的に行われていることが多いのだ。料理人である橋本宏一は多くの経験や確かな技術、そして自由な発想を持っている分、カカオに対するアプローチをどの軸で落とし込むのかを悩んでいる印象を受けた。

そこで彼は作る過程においてもまずは多方面から様々な抽出パターン、味の調整、焙煎の調整を行い、ボンビージャ、ドライアイス、レシチンなどありとあらゆる道具や手法を用いて、液体、個体、気体などにも落とし込み、カカオの分析も兼ねて試作を繰り返したが、なかなかストーリーを楽しめるようなプロダクトにはならなかった。

そんな中で彼が思いついたのは乳酸カルシウムとアルギン酸ナトリウムを用いて、液体を皮膜のように薄皮の中に包み込む技法だ。見た目はまるでイクラのようだ。この料理としてのドリンクをを「カカオ液球」と名付けた。

そしてカカオ液球に用いられる液体の味はカカオに対して多くの大衆がイメージする「チョコレート」と定義し、
その上で今回のカカオを持つ特徴的な酸味特性をあえて抑える方向にした。具体的には既に焙煎されたカカオに対して追加でオーブンで焙煎を行う、そして発酵においてよりナッツを感じる発酵が行われた同生産地のカカオを用いることにした。

そして完成した滑らかな質感のカカオ液球の上にははカカオニブが散らべられ、口の中に入れるとカカオのエキスが口の中で弾けるように広がり、カカオニブのサクサクとした食感がカカオを食べているような錯覚を起こす。このカカオを別の形へとまるで擬態化させたような料理は一口目のエキスから広がるチョコレートのような味から最後に鼻から抜ける香りとカカオをニブによる食感が、チョコレートからその素材としてのカカオまでの一連のストーリーの体験ができるようなドリンクになったように思える。

カカオが編み出すストーリー

結果的に素晴らしい体験をもったプロダクトとなったが、当初橋本宏一との開発は苦戦をした。
これは今後カカオを通して様々なクリエイターとコラボレーションを行うにあたり課題となりそうだ。この課題の大きな要因はカカオがもつストーリー(=情報)がまだ言語化されていないことであろう。カカオを構成する農業、流通、プロダクトにはまだまだ発展の余地があり、そこにはまだ見つかっていないストーリーが隠れている。それらの隠れたストーリーをどう開拓・開発し、言語がするのが今後の大きな目標となりそうだ。そして改めてそれらのストーリーと一緒に料理人とコラボーレーションを行いたい。


主催:Whosecacao
企画:福村瑛・吉田裕一
企画設計・ディレクション:大西 陽
ゲスト:橋本宏一、川野優馬、野村空人
制作:301

  • 橋本宏一

    セララバアド / オーナーシェフ

    分子ガストロノミーの先駆けとして名を馳せた 「エル・ブリ」で経験を積み、帰国後は「サン・パウ東京」に勤務。マンダリンオリエンタル東京「タパス・モラキュラバー」の料理長として活躍したのち、2015年に「セララバアド」をオープン。世界の一流レストランで培った分子料理のテクニックで、素材のテクスチャーを自由に操り、驚きのあるプレゼンテーションで自然を表現する。

    分子ガストロノミーの先駆けとして名を馳せた 「エル・ブリ」で経験を積み、帰国後は「サン・パウ東京」に勤務。マンダリンオリエンタル東京「タパス・モラキュラバー」の料理長として活躍したのち、2015年に「セララバアド」をオープン。世界の一流レストランで培った分子料理のテクニックで、素材のテクスチャーを自由に操り、驚きのあるプレゼンテーションで自然を表現する。

  • beyond cacao

    カカオと聞いて多くの人は、チョコレートの原料をイメージします。しかしカカオには素材として、まだ見ぬ可能性があるのではないかという仮説の元、東南アジアを拠点にスペシャルティカカオを生産するwhosecacao、未来に向けたカカオのまだ見ぬ価値の創造を目指して様々な取り組みを行っているAPeCAと共にカカオを多面的な視点で捉え、新たな価値を提案するプロジェクトです。

    web : https://sites.google.com/whosecacao.com/beyondcacao/
    OpenLab : https://fabcafe.com/jp/labs/tokyo/beyondcacao/

    カカオと聞いて多くの人は、チョコレートの原料をイメージします。しかしカカオには素材として、まだ見ぬ可能性があるのではないかという仮説の元、東南アジアを拠点にスペシャルティカカオを生産するwhosecacao、未来に向けたカカオのまだ見ぬ価値の創造を目指して様々な取り組みを行っているAPeCAと共にカカオを多面的な視点で捉え、新たな価値を提案するプロジェクトです。

    web : https://sites.google.com/whosecacao.com/beyondcacao/
    OpenLab : https://fabcafe.com/jp/labs/tokyo/beyondcacao/

Author

  • 大西 陽

    FabCafe Tokyo / MTRL

    ヨーロッパを中心にファッションデザイナーとして活動後、2012年帰国。
    複眼的な視点を持ったデザインを行いたいという想いから、分野の垣根を超えた接点を持つ食の分野に興味を抱く。2014年よりFabCafe Tokyoでディレクター、リードバリスタ、コミュニティマネジャーとして勤務し、FabCafeに集まる多種多様なコミュニティと多くの企画やプロジェクトを立ち上げる。

    担当プロジェクト
    bugology Space Mongology fruitful BUGOLOGY  beyond cacao  THE OYATSU  OLFACTORY DESIGN LAB

    ヨーロッパを中心にファッションデザイナーとして活動後、2012年帰国。
    複眼的な視点を持ったデザインを行いたいという想いから、分野の垣根を超えた接点を持つ食の分野に興味を抱く。2014年よりFabCafe Tokyoでディレクター、リードバリスタ、コミュニティマネジャーとして勤務し、FabCafeに集まる多種多様なコミュニティと多くの企画やプロジェクトを立ち上げる。

    担当プロジェクト
    bugology Space Mongology fruitful BUGOLOGY  beyond cacao  THE OYATSU  OLFACTORY DESIGN LAB

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