カカオの新たな可能性と価値を追求するプロジェクト「beyond cacao」がはじまった。
カカオと聞いて多くの人は、チョコレートの原料をイメージする。しかしカカオには素材として、まだ見ぬ可能性があるはずだ。その第1弾の企画としてスタートした『HELLO NEW CACAO』では「カカオの新しい地平線 (The New Horizon of Cacao)」をテーマにカカオを通して異なる3名のクリエイターとの開発の記録を全3回のレポートに渡ってお送りする。
『解像度の違いから魅せるカカオの可能性』
川野優馬 (バリスタ)
一粒のコーヒー豆を徹底的に分析し、一杯のコーヒーへと抽出する。
バリスタは素材に対して一途にアプローチする職業だ。
カッピングと呼ばれるテイテスティングから、素材であるコーヒー豆の特性・特徴を分析し、そこからありのままの素材を引き出すために最適な焙煎や抽出方法を導き出す。これらの作業は1秒/1℃/1g単位で微細に調整し、そして飲み手は農園から収穫されたコーヒーの個性をありのままに楽しむことができる。このように素材をありのままに一杯に落とし込むことを僕は解像度で表現している。一杯のコーヒーがクリーンカップであり、異なる産地がもつ特徴的な風味特性が表現できているほど解像度の高いものだ。
一方でコーヒーの解像度を上げるように極めていくほど、飲み手はある程度の知識や覚悟を持って飲まなければならない。バリスタであり、焙煎家でもある川野優馬はより飲み手が気軽にコーヒーを楽しんでもらえるように、あえてコーヒーの解像度を下げるようにアレンジドリンクなどにも挑戦してきた。
HELLO NEW CACAOで川野優馬はカカオに対して解像度の異なる2つのアプローチを提案した。
一つ目はカカオを使ったドリンクとして既に飲まれている「ココア」、二つ目は世界中で清涼飲料水として親しみがある「コーラ」をテーマにしたドリンクだ。
高解像度 – ファインカカオを再定義する「ココア」
1つ目のココアではバリスタとしてコーヒーを扱うようなアプローチを行った。
まず既存のココアを分析して感じたことは強い甘味だ。そこにはカカオの本質的な特徴を感じることができなかった。砂糖で甘さを強調することで、使用しているカカオ豆の本来の味わいが隠れてしまっている、もしくはあえて素材の品質を甘さで隠しているようにも感じた。このような印象を感じたのはコーヒーも意図的に焙煎を深くし「苦さ」を強調することでコーヒー豆の品質を隠すことがあるからだという。
コーヒーはサードウェーブの潮流を受け、多彩な個性を感じる飲み物として生まれ変わった。そして川野優馬を含め多くの人がその個性豊かなコーヒーを飲んだ時の驚きを鮮明に覚えている。これまでの苦い印象が強かったコーヒーがまるで別の飲み物のように多彩な風味特性をもったのだ。この時の体験をココアにも落とし込みたいと思った。
まず素材としてカカオの特性を理解するために、コーヒーにおけるカッピングといわれるティスティング技術で分析した。今回使用したWhosecacaoのカカオは農業から焙煎までの工程全てで徹底管理しており、そこには焙煎からなる苦味や甘味と一緒に個性的な芳香な香りと酸味を感じることができた。川野優馬はこの個性的な芳香な香りと酸味をココアで表現し、はじめてシングルオリジンを出会った時の驚きや感動を再現したいと思った。
試作したココアはカカオから作られたココアパウンダーの量を増やし、外部要素を最小限にするために砂糖の量を極力少なくした。そこにはこれまでの甘いココアとは打って変わりカカオが持つ個性と酸味を感じることができるものとなった。一方で用意したカカオが持つ酸味特性を酢酸と表現し、よりカジュアルに楽しめるドリンクにするためには果実のような酸味特性が必要と述べた。
「酢酸の酸味はネガティブではないですが、果実のような酸味の方が多くの人に受け入れやすい」
今回のカカオの酸味特性を川野優馬は酢酸と表現したが、この酸味特性は農業における発酵の工程により別の特性へと変えられる可能性が高い。「もし果実を感じるような酸味特性を持ったカカオが作れれば、フルーティなココアを作りたい」と話した。もし果実を感じるような酸味特性を持ったカカオを作ることができれば、より液体(=ドリンク)の素材として使用する用途は増えそうだ。これらの発酵の実験は2020年の秋頃からスタートをする予定だ。
低解像度 – 民主化するカカオドリンク「コーラ」
ココアが既存のカカオドリンクとしてカカオの本質を問い直すことができるとしたら、
コーラは素材としてのカカオの新しい価値を提案することができる。
コーラほど清涼飲料水としてこの世界で親しみがあり、浸透した飲み物はないだろう。
コーラはコーラナッツのエキスを用いたことからその名が付けられれいる。そしてコーラナッツとカカオは同じアオイ科の植物の種子だ。今回はそのコーラナッツの代用としてカカオを使い、より幅広い消費者に届けられないかという仮説の元に開発が進められた。バリスタが持つ微細な粉砕技術と抽出技術を用いてカカオから抽出したエキスにバニラビーンズやクローブ、カルダモンなどのスパイスで全体のバランスを整えたものに甘さを調整したシロップが完成した。そのシロップを炭酸で割るとカカオで作られたコーラの完成だ。そこにはコーラの印象を持ちつつ、カカオの特有の酸味、苦味、そして特徴的な風味特性を持ち合わせた飲み物となった。もう一方のソーダは前述したシロップにスパイスを入れていないものだ。コーラに比べ直接カカオの風味特性を鼻を抜けるように味わうことができる。
バリスタからみる様々な解像度のカカオ
カカオとコーヒーは非常に多くの共通点をもつ。
だからこそ、バリスタである川野優馬もコーヒーにアプローチするようにカカオにも携わることができる。
バリスタは引き算の手法を用いて素材にアプローチする職業だ。
要素を足すことなく追求し、ありのままの素材の個性を一杯に落とし込む。
まるで解像度を上げるようにコーヒー豆の輪郭を精密に描いているようだ。
しかし同時に解像度が上がるほど飲み手は微細な違いを理解しなければならない。
川野優馬はバリスタとしての素材を追求しながらも、あえて素材の解像度を下げ、
飲み手のハードルを下げる事を意識している。
そんなコーヒーにおける考えから、彼はカカオを用いて解像度の違うココアとコーラのを提案した。
ココアは素材としての解像度を上げることで本質的なカカオが持つ多様な個性を楽しんでもらえ、
一方コーラはあえて様々なアレンジを加えカカオの解像度を下げることで素材そのものとしての楽しみ方を幅広い人たちに伝えることができるように思える。
この2つのアプローチをバランスよく行うことが新しいカカオの可能性をみつけるヒントになりそうだ。
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川野優馬
株式会社ライトアップコーヒー 代表取締役
株式会社WORC 代表取締役大学在学中にコーヒーの魅力に取り憑かれ、2012年ラテアート全国大会で優勝。その後シングルオリジンコーヒーと出会い、焙煎機を購入し家で自家焙煎をはじめ、美味しいコーヒーで世界を明るくする「LIGHT UP COFFEE」を吉祥寺にオープン。店舗を経営する傍ら、株式会社リクルートホールディングスに就職しUXデザイナーとして1年半勤務した後、株式会社ライトアップコーヒーを設立、京都店、下北沢店をオープン。経営者兼バリスタして働く。アジアのコーヒーを美味しくしようと、バリ島やベトナムでコーヒー生産も行っている。
大学在学中にコーヒーの魅力に取り憑かれ、2012年ラテアート全国大会で優勝。その後シングルオリジンコーヒーと出会い、焙煎機を購入し家で自家焙煎をはじめ、美味しいコーヒーで世界を明るくする「LIGHT UP COFFEE」を吉祥寺にオープン。店舗を経営する傍ら、株式会社リクルートホールディングスに就職しUXデザイナーとして1年半勤務した後、株式会社ライトアップコーヒーを設立、京都店、下北沢店をオープン。経営者兼バリスタして働く。アジアのコーヒーを美味しくしようと、バリ島やベトナムでコーヒー生産も行っている。
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beyond cacao
カカオと聞いて多くの人は、チョコレートの原料をイメージします。しかしカカオには素材として、まだ見ぬ可能性があるのではないかという仮説の元、東南アジアを拠点にスペシャルティカカオを生産するwhosecacao、未来に向けたカカオのまだ見ぬ価値の創造を目指して様々な取り組みを行っているAPeCAと共にカカオを多面的な視点で捉え、新たな価値を提案するプロジェクトです。
web : https://sites.google.com/whosecacao.com/beyondcacao/
OpenLab : https://fabcafe.com/jp/labs/tokyo/beyondcacao/カカオと聞いて多くの人は、チョコレートの原料をイメージします。しかしカカオには素材として、まだ見ぬ可能性があるのではないかという仮説の元、東南アジアを拠点にスペシャルティカカオを生産するwhosecacao、未来に向けたカカオのまだ見ぬ価値の創造を目指して様々な取り組みを行っているAPeCAと共にカカオを多面的な視点で捉え、新たな価値を提案するプロジェクトです。
web : https://sites.google.com/whosecacao.com/beyondcacao/
OpenLab : https://fabcafe.com/jp/labs/tokyo/beyondcacao/
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大西 陽
FabCafe Tokyo / MTRL
ヨーロッパを中心にファッションデザイナーとして活動後、2012年帰国。
複眼的な視点を持ったデザインを行いたいという想いから、分野の垣根を超えた接点を持つ食の分野に興味を抱く。2014年よりFabCafe Tokyoでディレクター、リードバリスタ、コミュニティマネジャーとして勤務し、FabCafeに集まる多種多様なコミュニティと多くの企画やプロジェクトを立ち上げる。担当プロジェクト
bugology Space Mongology fruitful BUGOLOGY beyond cacao THE OYATSU OLFACTORY DESIGN LABヨーロッパを中心にファッションデザイナーとして活動後、2012年帰国。
複眼的な視点を持ったデザインを行いたいという想いから、分野の垣根を超えた接点を持つ食の分野に興味を抱く。2014年よりFabCafe Tokyoでディレクター、リードバリスタ、コミュニティマネジャーとして勤務し、FabCafeに集まる多種多様なコミュニティと多くの企画やプロジェクトを立ち上げる。担当プロジェクト
bugology Space Mongology fruitful BUGOLOGY beyond cacao THE OYATSU OLFACTORY DESIGN LAB