Column
2020.9.14
大西 陽
FabCafe Tokyo / MTRL
カカオの新たな可能性と価値を追求するプロジェクト「beyond cacao」がはじまった。
カカオと聞いて多くの人は、チョコレートの原料をイメージする。しかしカカオには素材として、まだ見ぬ可能性があるはずだ。その第1弾の企画としてスタートした『HELLO NEW CACAO』では「カカオの新しい地平線 (The New Horizon of Cacao)」をテーマにカカオを通して異なる3名のクリエイターとの開発の記録を全3回のレポートに渡ってお送りする。
『カカオを液体として再構築する』
野村空人 (バーテンダー)
バーテンダーが作り出すカクテルの味は無限だ。
リキュールの種類は多く、同じ種類のリキュールであっても異なる特徴を持つ。ジンのようなに何千種類もあるボタニカルを組み合わせ全く異なる味になるリキュールもある。それらを多彩な技術を自由自在に操り、一杯のカクテルを作り出すバーテンダーはまるで童話にでてくる魔法使いを思い浮かべる。
しかし彼らの思考は意外にも数学者のように論理的である。何千何万通りもある味の作り方の基本は味わいのバランス(酸味・甘味・苦味)を平面に捉え、そこに広がる奥行き(ボディ)を立体とするのがバーテンダーの基本的な味のデザイン手法だそうだ。例えばキューバ生まれのクラシックカクテル「ダイキリ」はフレッシュライムジュース、シロップ、ラムの3つの材料からなるこのカクテルは、ライムが<酸味>、シロップが<甘み>、そしてラムが<ボディ>を1対1で代表している。
このように甘味・酸味・苦味の構成される味わいの要素に対してアルコールが持つ重厚感がボディとして立体化させる。もしこの味の立体感がなければ平坦な味わいだけで終わったしまい、どこか物足りなさを感じてしまう。これらのロジックにはアルコールが入っていないノンアルコールドリンクの味を決定するときにも応用することができる。それは味わいの甘味・酸味・苦味の要素のいずれかを奥行きに置き換えて立体感を出す方法だ。
まず野村空人が注目したのは今回のカカオが持つ特徴的な「酸味」と「苦味」だ。
この特徴から真っ先にジントニックなどに用いられる「トニックウォーター」の絶妙な酸味と苦味を連想したそうだ。
三次元の奥行きを出すカカオの苦味と酸味
今回はより幅広い人に楽しんで貰えるようにドリンクのテーマを「モクテル」とした。
モクテルとは「似せた、真似た」という意味の英単語「モク(mock)」と「カクテル(cocktail)」を組み合わせた造語で、ノンアルコールカクテルの新しい呼び方だ。アルコールが入っていない分、お酒が苦手な人でも気軽に楽しむことができる。
モクテルはアルコールを用いないため、アルコールの重厚感の代わりにカカオが持つ苦味を味の立体感の要素として置き換えた。一方で、今回のカカオの特徴の1つである特徴的な酸味は試作を行っている中で全体のバランスを崩しかねないとして、カカオの特徴を壊さない程度に果汁を用いて酸味の調整を行うことにした。今回、野村空人はこのカカオの特徴的な酸味を「ワイルドな酸味」と述べていた。
完成したドリンクはカカオをお湯で1日漬け込んだものを細かく粉砕し液体として再現したものにレモン・きび砂糖で味わいのバランスをとり、ファットウォッシング(=ミルクウォッシング)といわれる手法で清澄化されたシロップが完成した。
カカオを液体として再構築する
この完成したシロップを炭酸水で割り味わってみると、カカオの特徴的な酸味と甘味の要素がレモン、砂糖によって平面的な味わいとしてバランスがとられ、カカオがもつ苦味の要素が見事に味の立体感をつくりあげられていた。細かく粉砕され抽出されたカカオは酸味・苦味・甘味の要素に分解され、それぞれの特徴が洗練された液体として再構築された。
カカオの味わいを要素分解し、それぞれを洗練化することにより、直に食べた時以上にカカオを感じる可能性を感じることができた。カカオは国、地域、人、そして加工方法によって様々な特徴を持つ。そしてそれらの特徴はカカオによって異なる要素をもつ。今回のバーテンダーのロジックを用いることで、カカオの特徴をより強調することができそうだ。
主催:Whosecacao
企画:福村瑛・吉田裕一
企画設計・ディレクション:大西 陽
ゲスト:橋本宏一、川野優馬、野村空人
制作:301
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野村空人
ABV+ CEO
21歳で単身渡英、7年間ロンドンのバーでバーテンダーとしてのキャリアを積んだ後、帰国。「Fuglen Tokyo」にてバーマネージャーとして活躍しながら、数々の賞を受賞。バーテンダーとしての新しい働き方を示すべく独立し、ドリンクのコンサルティングを手掛ける「ABV+」を立ち上げる。その後、Kyrö Distillery Company のブランドアンバサダーや、渋谷 The SG club のバーテンダーも勤め、 最近では日本橋・兜町にオープンしたホテル K5 のバー青淵 Ao のバープロデュースを手掛けている。
21歳で単身渡英、7年間ロンドンのバーでバーテンダーとしてのキャリアを積んだ後、帰国。「Fuglen Tokyo」にてバーマネージャーとして活躍しながら、数々の賞を受賞。バーテンダーとしての新しい働き方を示すべく独立し、ドリンクのコンサルティングを手掛ける「ABV+」を立ち上げる。その後、Kyrö Distillery Company のブランドアンバサダーや、渋谷 The SG club のバーテンダーも勤め、 最近では日本橋・兜町にオープンしたホテル K5 のバー青淵 Ao のバープロデュースを手掛けている。
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beyond cacao
カカオと聞いて多くの人は、チョコレートの原料をイメージします。しかしカカオには素材として、まだ見ぬ可能性があるのではないかという仮説の元、東南アジアを拠点にスペシャルティカカオを生産するwhosecacao、未来に向けたカカオのまだ見ぬ価値の創造を目指して様々な取り組みを行っているAPeCAと共にカカオを多面的な視点で捉え、新たな価値を提案するプロジェクトです。
web : https://sites.google.com/whosecacao.com/beyondcacao/
OpenLab : https://fabcafe.com/jp/labs/tokyo/beyondcacao/カカオと聞いて多くの人は、チョコレートの原料をイメージします。しかしカカオには素材として、まだ見ぬ可能性があるのではないかという仮説の元、東南アジアを拠点にスペシャルティカカオを生産するwhosecacao、未来に向けたカカオのまだ見ぬ価値の創造を目指して様々な取り組みを行っているAPeCAと共にカカオを多面的な視点で捉え、新たな価値を提案するプロジェクトです。
web : https://sites.google.com/whosecacao.com/beyondcacao/
OpenLab : https://fabcafe.com/jp/labs/tokyo/beyondcacao/
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大西 陽
FabCafe Tokyo / MTRL
ヨーロッパを中心にファッションデザイナーとして活動後、2012年帰国。
複眼的な視点を持ったデザインを行いたいという想いから、分野の垣根を超えた接点を持つ食の分野に興味を抱く。2014年よりFabCafe Tokyoでディレクター、リードバリスタ、コミュニティマネジャーとして勤務し、FabCafeに集まる多種多様なコミュニティと多くの企画やプロジェクトを立ち上げる。担当プロジェクト
bugology Space Mongology fruitful BUGOLOGY beyond cacao THE OYATSU OLFACTORY DESIGN LABヨーロッパを中心にファッションデザイナーとして活動後、2012年帰国。
複眼的な視点を持ったデザインを行いたいという想いから、分野の垣根を超えた接点を持つ食の分野に興味を抱く。2014年よりFabCafe Tokyoでディレクター、リードバリスタ、コミュニティマネジャーとして勤務し、FabCafeに集まる多種多様なコミュニティと多くの企画やプロジェクトを立ち上げる。担当プロジェクト
bugology Space Mongology fruitful BUGOLOGY beyond cacao THE OYATSU OLFACTORY DESIGN LAB