Column

2017.12.11

【fruitful】ラオスから始まる「100年先も続く豊かな森と、コーヒー栽培」

大西 陽

FabCafe Tokyo / MTRL

「百年先も続く森をつくる」

△「未来からの前借り、やめましょう。」をコンセプトに環境負荷の小さな農業の普及を目指す株式会社坂ノ途中からラオス北部を舞台に新しく生まれたプロジェクト「メコンオーガニックプロジェクト」。11月下旬、この「メコンプロジェクト」に「農業の体系化」と「テクニカルサポート」としてFabCafeも参加。
Story : http://www.on-the-slope.com/mekong

2017年11月下旬、FabCafeでは環境負荷の小さな農業の普及を目指す株式会社坂ノ途中から今年産声を上げたばかりのプロジェクト「メコンオーガニックプロジェクト」「fruitiful」としてどういった事をできるかを探る視察を兼ねて「農業の体系化」「テクニカルサポート」を目的にラオス北部に位置する古都「ルアンパバーン」を訪問しました。

fruitifulプロジェクトについて

気候変動による不作、環境問題による食料汚染、人口増加による食料危機など近年の「食」に関するニュースは多種多様で、その他にも様々な要因が複雑に絡み合っています。そして普段みなさんが飲まれているコーヒーにおいてもそれは例外ではありません。

今回訪れたラオスでは「焼畑農業」が伝統的に行われていましたが、ラオス政府による焼畑禁止区域の設定や人口増加、換金作物栽培により植生が回復するまでの十分な休閑期間を取られず、土壌の劣化や侵食につながっています

「メコンオーガニックプロジェクト」ではそんな「焼畑農業」に代わる農法として森をつくる農業「アグロフォレストリー」の考え方を取り入れ、コーヒーのみならず果実や様々な農作物を栽培、共生させ「百年先も続く森をつくる」をテーマに活動しています。

△気候変動による影響で2100年には野生のコーヒーは全滅するといわれている。>http://www.climateinstitute.org.au/coffee.html

△ラオスで伝統的に行われていた「焼畑農法」。焼畑禁止区域の設定や人口増加に伴い、自然豊かな森林生態系のバランスが崩れつつあります。


「『百年』というマクロな視点」

この「メコンオーガニックプロジェクト」のゴールは「一年先」、「十年先」ではなく「百年先」
「百年先」というマクロな視点からみると実は極端な単一専業での農業では単一作物の連鎖による土壌劣化などの環境破壊や地域住民の食料安全保障の低下を引き起こしやすく、百年続くような持続的な栽培には繋がりません。

今回のメインの舞台であるルアンパバーン市街から車で1時間30分ほど西に位置する山岳少数民族モン族が暮らす「ロンラン村」では、コーヒーの他に様々な野菜を育て、狩猟を行い、キノコや薬草、染料になる草木を採り、自然と共生しながら暮らしています。

この伝統的な村はコーヒー生産国にあるような大規模なコーヒー専業農家に比べ、現段階ではまだ効率的とはいえません。しかし他の農作物や周辺に自生している植物のおかげか村は貧しいように感じませんでした

fullsizeoutput_60c△今回のプロジェクトの舞台であるルアンパバーン市街地から車で1時間半走らせてところにある美しい山や森に囲まれたロンラン村。
fullsizeoutput_4dd △ロンラン村で栽培されているコーヒーの一部は「ハヤトウリ」をシェードとして一緒に栽培されている。

fullsizeoutput_6b9△非常に量生産の高い「ハヤトウリ」は換金作物としても栽培されています。

fullsizeoutput_6a6△コーヒー以外にも様々な農作物が栽培、収穫されている。


「森を守ることで、伝統を守る」

コーヒーの栽培を通じて、百年先も豊かな森林生態系を守れるか、また彼らが持っている美しい伝統を守れるかがこのプロジェクトの大きな目的となっています。

小さく、自給自足に近い生活をしているこの村でも現金収入は彼らにとっても必要不可欠なもの。コーヒーは、そんな貴重な換金手段の1つとして大切に育てられています。しかし売買されている金額を聞くと労力に見合った金額とは言い難い。

例えば村や森を開拓し、コーヒーに恵まれた環境を作り、「量の経済」に対応できる環境作りを行う方法もあるかもしれませんが、量を維持するためには森を壊し、森での生活で育まれた伝統を手放せざるを得ない可能性が出てきます

そのため森を守りながら、彼らの生活を守るためには「質の経済」にシフトしなければなりません。
一方で「質の経済」を意識するとどうしても全体的な収量は減り、労力は増えます。これは経済的な話だけではなく、彼ら自身によって作られた農作物に対する幸福度をどう「質」にシフトさせるか、モチベーションをどう維持させるかなど生産者との密接なコミュニケーションを行う必要性があると今回の視察で実感しました。
fullsizeoutput_6be△子供やお年寄りも収穫されたコーヒーチェリーを皆んなで協力して袋に詰めている。

fullsizeoutput_6a4fullsizeoutput_4eb△チェリーを収穫するための大きなカゴやバケツを片手に持つ子供たち。大人に混じって子供も楽しそうにチェリーを収穫していました。


「【Quality】【Sustainability】【Information】 の相互関係」

「メコンオーガニックプロジェクト」での生産者との密接なコミュニケーションにより栽培や収穫の質の向上がみられ、プロジェクト始動以前の前年度のコーヒーより飛躍的な質の向上がみられました。

品質の高い農作物作り
「Quality」
生産者と提供者の持続可能な関係性
「Sustainable」
提供者が消費者に発信する情報
「Information」

しかしどんなに美味しい農作物でもその後の精製の過程、流通の過程、提供の過程において妥協をしてしまうと全てのバランスが崩れてしまいます。プロジェクトでは精製における段階でも指導を行い、集荷されたコーヒーチェリーの精製スケジュール、アフリカンベッドの導入など様々な話し合いが行われました。

また次のステップとしてfruitifulでは精製方法における「情報」を通じて、コーヒーに更なる付加価値を高められないかと考え、まだコーヒーの精製方法としては珍しい「嫌気性発酵」をベースにした3種類5通りの発酵プロセスを考え実験してきました。今回のプロセス実験の目的としては世界水準での「品質競争」ではなく、「差別化」を目的に、まだ誰もみたこともないような「精製方法の開発」「特徴的なフレーバー作り」を目的としています。
fullsizeoutput_427△渡航前のミーティングでは事前に精製方法、発酵時間などが異なったコーヒーのカッピングを行いました。

fullsizeoutput_623△ロンラン村でのチェリーの収穫後、200kgほどの精製を自分たちで行ってみました。

fullsizeoutput_626△少量でのプロセスの実験。左から「密封での発酵」、「酵母発酵( パン酵母、シャンペン酵母、酒酵母)」、「真空での発酵」


「百年先も続く、豊かな森をラオスから。」

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生態系の安定性は多様性に依然するという意味で、百年先も続く農業は多様であることが持続可能の必須条件ではないでしょうか。また同時に「美味しい」も多様的な要素から成り立っていて、それを様々な情報や視点から1つ1つしっかりと観察し、向き合っていかなければならないと思います。「メコンオーガニックプロジェクト」はそんな「百年先も続く農業」「美味しい」をラオスから発信していこうとしています

fruitifulはまだ始まってばかりのプロジェクトですが、今後もアジアの農業を舞台にFabCafeが持つ多様性に富んだなコミュニティと「美味しいコーヒー」だけではなく、「様々な体験」も皆さんに提供します。

Flickr : https://www.flickr.com/gp/fabcafe/7838xt

>大西 陽
>FabCafe Tokyo / Lead Barista

これらの活動に興味ある企業や個人の方はぜひFabCafeまでお気軽にお問い合わせください。
fruitfulプロジェクト担当 : 川井、大西

メールアドレス : info@fabcafe.com
Facebook page : https://www.facebook.com/fruitiful.project/


【EVENT】 fruitiful Report #1 「百年先も続く豊かな森と、コーヒー栽培」

12月18日(月)に開催される「fruitiful Report #1」では、11月、この「メコンオーガニックプロジェクト」で訪れた異なる分野の背景を持つ4名を登壇者としてお呼びし、それぞれの視点からみたラオスでの活動レポートとプロジェクトを通してできたコーヒーのカッピングを行います。

https://fabcafe.com/tokyo/events/fruitifulreport_001

Author

  • 大西 陽

    FabCafe Tokyo / MTRL

    ヨーロッパを中心にファッションデザイナーとして活動後、2012年帰国。
    複眼的な視点を持ったデザインを行いたいという想いから、分野の垣根を超えた接点を持つ食の分野に興味を抱く。2014年よりFabCafe Tokyoでディレクター、リードバリスタ、コミュニティマネジャーとして勤務し、FabCafeに集まる多種多様なコミュニティと多くの企画やプロジェクトを立ち上げる。

    担当プロジェクト
    bugology Space Mongology fruitful BUGOLOGY  beyond cacao  THE OYATSU  OLFACTORY DESIGN LAB

    ヨーロッパを中心にファッションデザイナーとして活動後、2012年帰国。
    複眼的な視点を持ったデザインを行いたいという想いから、分野の垣根を超えた接点を持つ食の分野に興味を抱く。2014年よりFabCafe Tokyoでディレクター、リードバリスタ、コミュニティマネジャーとして勤務し、FabCafeに集まる多種多様なコミュニティと多くの企画やプロジェクトを立ち上げる。

    担当プロジェクト
    bugology Space Mongology fruitful BUGOLOGY  beyond cacao  THE OYATSU  OLFACTORY DESIGN LAB

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