Project Case

2021.2.23

【PHASE2】 THE ATLAS OF CACAO CASE2「新しいカカオのカタチ」

大西 陽

FabCafeTokyo / FabCafeMTRL スタッフ

PHASE2
THE ATLAS OF CACAO
– カカオが描く新しい地図 –

 

THE ATLAS OF CACAO
– カカオが描く新しい地図 – 

beyond cacaoが手掛ける本プロジェクトのPHASE2のテーマは「THE ATLAS OF CACAO (カカオが描く新しい地図)」だ。

カカオという言葉を聞いて、多くの人は真っ先に思い浮かべるのはチョコレートたが、それはカカオが秘める可能性の、ほんの一形態に過ぎない。

カカオを材料として見つめ直した時、そこにはどのような壮大な世界が眠っているのだろうか。

東南アジアを拠点に「スペシャルティ・カカオ(ファインカカオ)」を開発するスタートアップWhosecacao(フーズカカオ)と、未来に向けたカカオのまだ見ぬ価値の創造を目指して様々な取り組みを行っているAPeCA(アペカ)は、素材としてのカカオが生み出す新たな価値を創ることに挑むことを目標に「beyond cacao」を発足した。

そのbeyond cacaoの第1歩目の企画となるPHASE1をクリエイティブ集団301と共に2020年1月から4月まで「The New Horizen of Cacao(カカオの新しい地平線)」をテーマに実施。液体 (=ドリンク) をテーマにカカオを多面的に捉えるために異なるシーンで活躍する野村空人 (バーテンダー)、橋本浩一 (料理人)、川野優馬 (バリスタ) をクリエイターに迎え、カカオがもつ隠れた可能性や新たな価値を一緒にプロトタイプとして描いた。ただこれはあくまでもプロトタイプであり、カカオを素材として見たときの1つのアイデアであった。

今回、第2回目となるPHASE2ではTHE ATLAS OF CACAOをテーマ新たに3名のクリエイターを迎え、カカオの焙煎技術の開発、及びプロダクト開発を行った。

本編では2020年4月まで行われたHELLO NEW CACAO PHASE1に続く、PHASE2における実験の記録を全3回のレポートに渡ってお送りする。

【PHASE2】THE ATLAS OF CACAO『カカオが描く新しい地図』連載開始
https://fabcafe.com/jp/magazine/tokyo/beyondcacao_phase2-0

 

CASE2
新しいカカオのカタチ

▲今回の開発ではカカオを強調させることを目的に様々な香辛料を用いて試作を繰り返した。

 

まず僕たちは1つの問いに答えなければならい。
それは「カカオはチョコレート以外の素材となり得るのか」ということだ。

カカオはチョコレートのためだけの素材なのだろうか。
その答えを探るべくCASE1ではまず素材となるカカオ、今回の場合はエンレカンのカカオの個性を最大限引き出すために焙煎家である高堂謙一郎とともに焙煎の技術開発を実施した。

第2回目となる本記事ではCASE2として、その個性が最大化されたカカオをドリンクとして表現する。
そしてドリンク開発のために。PHASE1に引き続いてバーテンダーとしての経験をもつABV+の野村空人と和製トニックウォーターの開発を手掛ける堀江麗をクリエイターとして迎えた。

まずドリンク開発を行う前に、野村と堀江は素材となるカカオがもつ特徴の分析を行った。しかしカカオの特徴は何かと改めて言語化してみると、頭の中ではイメージができていても言葉にして言い表すのは難しい。

CASE1で焙煎を通して今回の用いるエンレカンのカカオの個性をドリンク用に最大化し、カッピング(コーヒーで用いられるティスティング方法)を用いて甘酒、白ワイン、グレープフルーツ、オレンジのような味としての印象を特徴として捉えたが、実際には口に入れた瞬間から後味への変化、舌触りや鼻に抜ける感覚など味だけで表現できないような要素が複雑に絡み合っており、舌から直接頭では理解はできるのだが、ひと綴りに言語化するのは困難だ。そこで個性は上述したエンレカン特有の風味をもっているが、それとは別に複雑に絡み合ったカカオの特性を解くように2種類の要素に分解することにした。

▲カカオがもつ多くの複雑に絡み合った味覚や質感の特徴を分析し「FEMININE(女性的)」、「MASCULIN(男性的)」の2種類の要素に分解して考えた。

 

1つ目はまずカカオがもつ優しい甘さと香りに着目した。
当たり前だが、やはりカカオにはチョコレートを思わせるような優しい甘さと香りをもっている。
チョコレートを思わせるような滑らかなで、柔らかい舌触り、そしてシングルオリジンがもつ風味豊かなアロマだ。
この優しい芳香な特徴を「FEMININE (女性的)」と名付けた。

もう一方の要素をカカオ特有の酸味と苦味とした。カカオ豆をまずかじるとまずスッと鼻に抜けるように酸味と、その後に癖になるようなほろ苦さが続く。この力強く鼻に抜けるような酸味と苦味をを「MASCULIN(男性的)」とした。

この2つに分解されたカカオの要素「FEMININE (女性的)」と「MASCULIN (男性的))」を再構築するようにコーラとトニックウォーターの2種類のドリンクとして表現することにした。

1つ目のコーラは19世紀にアメリカで生まれ、今では世界中でもっともポピュラーに飲まれている清涼飲料水の1つだ。バニラ、クローブ、シナモンなどの甘い香りが複雑に絡み合うコーラという名は現在では材料として使われることが少なくなった「コーラナッツ」と呼ばれる植物の実のエキスが使われていたことに由来する。そして奇しくもこのコーラナッツという植物は、カカオと同じアオギリ科に属する植物だ。PHASE1ではバリスタである川野優馬が「カカオを素材として民主化する」というテーマでプロトタイプが開発された。コーラがもつ甘さにカカオの1つの特徴「FEMININE (女性的)」を掛け合わせることにした。

2つ目はジントニックなど、カクテルの割り物として用いられることの多いトニックウォーターだ。
癖になるような独特な酸味と苦味をもつトニックウォーターは、17世紀キナの樹皮を原料にマラリア防止のために開発された。
野村は「カカオの酸味と苦味がトニックウォーターのそれを連想した」と語ったが、実はその酸味と苦味はトニックウォーターの原料であるキナの樹皮に含まれるキナ酸という物質から生成され、焙煎されたカカオにも同様の物質が含まれていることが発見されている。しかしトニックウォーターの原料となっていたキナに関しても現在では材料として使われることが少なくなった。トニックウォーターではカカオがもつ「MASCULIN (男性的)」としての酸味や苦味をカカオのそれに置き換えらえれないかと考えた。

▲クリエイターとして参加した堀江麗(左)、野村空人(右)

 

フェミニン(女性的)
優しい甘さと芳香な香りが際立つコーラ

▲コーラ特有の風味だと認識するのは甘い香りを放つバニラやシナモン、クローブをはじめ、カカオがもつ「フェミニン(女性的)」を強調させるような香辛料を用いた。

 

コーラの要素として1つ目のカカオの要素である優しい甘さと芳醇な香り「フェミニン(女性的)」を取り入れた。

コーラは基本的にはシトラスオイル(オレンジ、ライム、レモンなどの柑橘類の果皮等の香味)とバニラやシナモン、クローブ、時にはラベンダーなどの様々な香料を用いている。
その中でほとんどの人がコーラ特有の風味だと認識するのは甘い香りを放つバニラやシナモンだ。野村と堀江は、そんなコーラにカカオがどのように落とし込むかことができるかを検討した。
まずカカオとコーラの相性を分析するために、カカオニブとコーラの要素として砂糖、シナモン、バニラ、クローブ、レモンなどを鍋に入れ火にかけた。
甘い香辛料とカカオの優しい甘さが上手く溶け込み、相性は悪くはない。しかしどこか締まりのない印象だった。

「これはこれで美味しいのだけど、味が平面的で奥行きが足りないような気がする」と多くのドリンク開発に携わった野村は語った。「このカカオの甘さを残しつつ、奥行きと何か締まりの要素を入れて味にめりはりを出したい」

バーテンダーはカクテルなどのレシピを考える際に、x軸、y軸、z軸からなる立体構図をまず脳内に思い浮かべる。x軸、y軸に当たるのは<甘み>と<酸味>、そしてz軸にあたるのはアルコール度数が生む<ボディ>だ。アルコールを用いないノンアルコールの場合はz軸にあたるボティをアルコールから苦味に置き換えて立体感を出すことができる。この考え方からみると最初のプロトタイプでは甘味が主体となり、二次元的な平面な味わいとなった。

野村は今回のコーラに対してただ優しいカカオの甘さをいれるだけではなく、それに対比する「何か」をいれ 味全体に奥行きを出すと同時にカカオの優しさを際出せることを考えた。その「何か」とは試行錯誤の末、「唐辛子」と「生姜」を思いついた。清涼飲料水に「辛味」を入れるのはなかなか思いつかない。
しかし予想以上に唐辛子と生姜の辛さが、カカオの優しい甘さを際立たせ、同時に味わい全体に対して奥行きを引き出すことに成功した。
同時にカカオの繊細な風味も隠れないように黒糖ではなく上白糖を使用し、またほのかにラベンダーの香りを付け女性らしさを纏わせた。

完成したコーラは多様な香味からなる酸味、苦味、そして辛味が主体となるカカオがもつ優しい甘さ、芳香な香りをしっかりと補完しつつもそれらを強調するようなドリンクとなった。

 

マスキュリン(男性的)
酸味と苦味が颯爽する引き締まるトニックウォーター

シナモン、バニラの甘い香りが特徴的なコーラに対して、トニックウォーターは酸味と苦味を特徴とするドリンクだ。
上述したように元となるトニックウォーターの原料はキナが用いられ、それがもつ特徴的な苦味と柑橘がもつ酸味が癖となるドリンクだ。
PHASE1ではカカオの苦味と酸味がトニックウォーターのそれと連想したと野村は語り、今回のトニックウォータの原型となるプロトタイプを制作した。
より精度の高い開発を行うため、CASE1で高堂と焙煎を通して果実の種としてカカオが本来持っている酸味と焙煎によって生成された心地のいい苦味が最大限引出されている。

「トニックウォーターがもつ爽快感にカカオのかじった時のあの感覚をうまく表現したい」
そう語ったのは日本のボタニカルをテーマにトニックウォーターの開発を行う堀江だ。
堀江と野村はカカオがもつ爽快に鼻に抜けるような酸味と苦味を「マスキュリン(男性的)」とし、トニックウォーターのそれに置き換えることができるかを検証した。

しかしカカオを水で煮込んでみるとカカオがもつ苦味や酸味はほとんど消えてしまい、甘い香りが残ってしまう。表現したいのはカカオをかじった時に感じる、あの鼻に抜けるような酸味と苦味だ。

カカオを分量、煮込み時間、抽出方法、粉砕方法など思いつく限りの方法を検討したが、なかなか思うような味にたどりつかない。
そんな中、ふと思いついたのが、カカオの皮である「ハスク」だった。通常ハスクはエグ味や雑味の要素に繋がるためチョコレートの製造をする過程で取り除かれ、ほとんどの場合は廃棄される素材だ。

一方で、ハスクがもつその独特な苦味に着目しハスクをお湯で抽出し、お茶として飲む「ハスク・ティ」と呼ばれる飲み物が近年増えている。そこでハスクを用いて煮込みを行うと、独特な苦味の要素を抽出することに成功した。

原材料となるカカオニブにハスクを加え、トニックウォーターらしい要素を引き出すためにクミンやカルダモン、ライムなどの香料を加えた。ハスクが煮込むことによって消えかけていたカカオの酸味と苦味を補完し、またクミンやカルダモン、ライムのスッとした香りがカカオのそれを一緒に鼻腔まで連れていく、まるでカカオをかじった時の感覚を連想するようなドリンクに仕上がった。

 

カカオの新しい地図

beyond cacaoの起点はカカオを一度真っ新な素材に見つめ直して、気軽に嗜好品のように楽しめるプロダクトを開発することだ。
その上で分野の垣根を越えたクリエイターと共に「カカオはチョコレート以外の素材となり得るのか」ということを検証した。今回の場合はドリンク開発のために焙煎を通してカカオの個性を最大化し、それを用いて精度の高い新しいプロダクトとしてコーラとトニックウォーター、カカオドリップを制作した。結果からいえば焙煎によって個性が最大化されたカカオには無限の可能性がある。

つまるところ今回の実験と開発を通して、beyond cacaoは小さいながらもカカオに新しい指標をみつけることができた。しかしまだカカオの新しい世界ははじまってばかりだ。

いずれにせよ、カカオの世界がより広がり、そして様々なクリエイターがカカオを用いた新しい何かをまるで地図を描くようにどんどん更新することで、多くの人たちに新しいカカオのカタチを楽しんでもらいたい。

▲今回、開発したカカオ主役に作られたコーラとトニックウォーター。パッケージにはカカオの産地であるエンレカンの生産者や地理的情報、そしてカカオの特徴を記入している。

 


 

 

  • beyond cacao

    カカオと聞いて多くの人は、チョコレートの原料をイメージします。しかしカカオには素材として、まだ見ぬ可能性があるのではないかという仮説の元、東南アジアを拠点にスペシャルティカカオを生産するwhosecacao、未来に向けたカカオのまだ見ぬ価値の創造を目指して様々な取り組みを行っているAPeCAと共にカカオを多面的な視点で捉え、新たな価値を提案するプロジェクトです。

    web : https://sites.google.com/whosecacao.com/beyondcacao/
    OpenLab : https://fabcafe.com/jp/labs/tokyo/beyondcacao/

    カカオと聞いて多くの人は、チョコレートの原料をイメージします。しかしカカオには素材として、まだ見ぬ可能性があるのではないかという仮説の元、東南アジアを拠点にスペシャルティカカオを生産するwhosecacao、未来に向けたカカオのまだ見ぬ価値の創造を目指して様々な取り組みを行っているAPeCAと共にカカオを多面的な視点で捉え、新たな価値を提案するプロジェクトです。

    web : https://sites.google.com/whosecacao.com/beyondcacao/
    OpenLab : https://fabcafe.com/jp/labs/tokyo/beyondcacao/

  • 野村空人

    ABV+ CEO

    21歳で単身渡英、7年間ロンドンのバーでバーテンダーとしてのキャリアを積んだ後、帰国。「Fuglen Tokyo」にてバーマネージャーとして活躍しながら、数々の賞を受賞。バーテンダーとしての新しい働き方を示すべく独立し、ドリンクのコンサルティングを手掛ける「ABV+」を立ち上げる。その後、Kyrö Distillery Company のブランドアンバサダーや、渋谷 The SG club のバーテンダーも勤め、 最近では日本橋・兜町にオープンしたホテル K5 のバー青淵 Ao のバープロデュースを手掛けている。

    21歳で単身渡英、7年間ロンドンのバーでバーテンダーとしてのキャリアを積んだ後、帰国。「Fuglen Tokyo」にてバーマネージャーとして活躍しながら、数々の賞を受賞。バーテンダーとしての新しい働き方を示すべく独立し、ドリンクのコンサルティングを手掛ける「ABV+」を立ち上げる。その後、Kyrö Distillery Company のブランドアンバサダーや、渋谷 The SG club のバーテンダーも勤め、 最近では日本橋・兜町にオープンしたホテル K5 のバー青淵 Ao のバープロデュースを手掛けている。

  • 堀江麗

    1992年生、東京都出身。情報学修士取得後、2017年にGoogle Japanに入社。デジタル広告のコンサル業務に携わった後、大手企業の幹部対象の企画運営に従事。2019年より株式会社カンカクに酒販事業のPMとして、2020年よりエシカルスピリッツ株式会社にてクラフトジン事業に企画PRとして参画。その他アルコール・ノンアルコールの領域を問わず、飲料の開発コンサルを行う。

    1992年生、東京都出身。情報学修士取得後、2017年にGoogle Japanに入社。デジタル広告のコンサル業務に携わった後、大手企業の幹部対象の企画運営に従事。2019年より株式会社カンカクに酒販事業のPMとして、2020年よりエシカルスピリッツ株式会社にてクラフトジン事業に企画PRとして参画。その他アルコール・ノンアルコールの領域を問わず、飲料の開発コンサルを行う。

Author

  • 大西 陽

    FabCafeTokyo / FabCafeMTRL スタッフ

    欧州を中心にファッションデザイナーとして活動後、2012年帰国。
    複眼的な視点を持ちたいという思いから、分野の垣根を超えた接点を持つ食の分野に興味を抱く。2o14年よりFabCafe Tokyoでディレクター、リードバリスタ、コミュニティマネジャーとして勤務し、FabCafeに集まる多種多様なコミュニティと多くの企画やプロジェクトを立ち上げる。

    欧州を中心にファッションデザイナーとして活動後、2012年帰国。
    複眼的な視点を持ちたいという思いから、分野の垣根を超えた接点を持つ食の分野に興味を抱く。2o14年よりFabCafe Tokyoでディレクター、リードバリスタ、コミュニティマネジャーとして勤務し、FabCafeに集まる多種多様なコミュニティと多くの企画やプロジェクトを立ち上げる。

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