PHASE2
THE ATLAS OF CACAO
– カカオが描く新しい地図 –
beyond cacaoが手掛ける本プロジェクトのPHASE2のテーマは「THE ATLAS OF CACAO」だ。
カカオという言葉を聞いて、多くの人は真っ先に思い浮かべるのはチョコレートたが、それはカカオが秘める可能性の、ほんの一形態に過ぎない。カカオを材料として見つめ直した時、そこにはどのような壮大な世界が眠っているのだろうか。
東南アジアを拠点に「スペシャルティ・カカオ(ファインカカオ)」を開発するスタートアップWhosecacao(フーズカカオ)と、未来に向けたカカオのまだ見ぬ価値の創造を目指して様々な取り組みを行っているAPeCA(アペカ)は、素材としてのカカオが生み出す新たな価値を創ることに挑むことを目標に「beyond cacao」を発足した。
そのbeyond cacaoの第1歩目の企画となるPHASE1をクリエイティブ集団301と共に2020年1月から4月まで「The New Horizen of Cacao(カカオの新しい地平線)」をテーマに実施。液体 (=ドリンク) をテーマにカカオを多面的に捉えるために異なるシーンで活躍する野村空人 (バーテンダー)、橋本浩一 (料理人)、川野優馬 (バリスタ) をクリエイターに迎え、カカオがもつ隠れた可能性や新たな価値を一緒にプロトタイプとして描いた。ただこれはあくまでもプロトタイプであり、カカオを素材として見たときの1つのアイデアであった。
今回、beyond cacaoのプロジェクトとして第2回目となる「PHASE2」では「THE ATLAS OF CACAO(カカオが描く新しい地図)」をテーマに新たに3名のクリエイターを迎え、カカオの焙煎技術の開発、及びプロダクト開発を行った。
本編では2020年4月まで行われたHELLO NEW CACAO PHASE1に続く、PHASE2における実験の記録を全3回のレポートに渡ってお送りする。
参考:
HELLO NEW CACAO PHASE1 | The New Horizon of Cacao:
「カカオ」の現在地
現代におけるカカオは多くの場合、チョコレートのための素材といっても過言ではない。
しかし研究によるとアマゾンの熱帯雨林で5000年以上前に初めて食用目的で栽培され、紀元前1250年頃にはマヤ人はその種をすりつぶした飲み物を作っていたそうだ。予想するに種をただすり潰した「カカオドリンク」は飲みにくかったのだろう、5世紀にはそこにバニラや唐辛子で味をつけた「xocoatl」(ナワトル語で「苦い水」の意味)という飲み物が親しまれていた。固形としてのチョコレートの原型が生まれたのは19世紀頃だ。
このことから固形としてのチョコレートの歴史は人間とカカオの長い歴史における氷山の一角に過ぎないことが分かる。
近年、耳にすることが多くなった「シングルオリジン」はカカオが生産される微小気候(マイクロクライメイト)によって作り出されるカカオの千差万別の個性に着目するようになった。
それによって大きく一括りされたカカオの個性は細分化され、その価値も大きく変わろうとしている。そしてよりカカオの個性が注目されるほど、今度はその個性をどう最大限引き出すかを考えなければならい。例えばこれまで収穫されたカカオはどこで、誰が栽培したものだろうと効率化のためにまとめて精製所に集められ、発酵や乾燥を行われた後、個性を画一化するように深く焙煎された。それらを職人としてのショコラティエが丁寧に細かい粒子にテンパリングされ、滑らかな舌触りの美しいチョコレートへと仕上げる。これがこれまでのカカオからチョコレートのアプローチだ。
一方で高品質なシングルオリジンとしてのカカオは深い焙煎を行うと、せっかくの個性が焦げの味の裏に隠れてしまう。高品質なカカオは適度に浅い焙煎を行うことにより、それらが持つ物質が化学変化を起こし、非常に複雑な個性を引き出すことができる。それによって作られる「ビーン・トゥ・バー(Bean To Bar)」はまるで果実や香辛料が入っているかのような個性が生まれる。さらにいうならば、これまで滑らかな舌触りのために良しとされいた非常に細かい粒子まで粉砕されたものよりも、ある程度粗く粉砕されたカカオで作った方が個性が際立つことも分かっている。
このようにシングルオリジンとしてのカカオは、これまでの”当たり前”をことごとく覆している。まさにカカオの新しい世界の到来だ。
せっかくカカオが新しい世界に踏み出すのなら、作られるプロダクトも見直してみることはどうだろうか?
例えばかつてマヤ文明が親しんでいた「カカオドリンク」を現代風に再帰させるのはどうだろう。
新しいカカオの地図を描く
今回つくるプロダクトはPHASE1から得られた知見とプロトタイプのヒントから「コーラ」と「トニックウォーター」の開発はどうだろうかという意見がでた。詳細はまた後日連載として掲載する記事でお伝えするが、カカオとそれぞれのドリンクには非常に面白い共通点があることが分かった。
課題は「カカオドリンク」を作る上で、どのように素材となるカカオの個性を最大に引き出すかだ。
カカオはwhosecacaoが栽培から発酵まで一貫して管理しているインドネシア・エンレカン県で収穫された間違いなく高品質なものがある。問題はこれをどのように素材として加工するかだ。カカオは生のままでは非常に固く、個性を楽しむ以前に渋く、また衛生的にも適さない。そのため「焙煎」を行う必要性がある。しかもこれまでのチョコレートのための焙煎ではなく、新しくドリンクに適した技術を開発する必要がある。
beyond cacaoが手掛けるHELLO NEW CACAOのPHASE2ではエンレカンのカカオの個性を焙煎を通して最大化し、そしてその最大化されたカカオをドリンクとして表現するために、新たに3名のクリエイターをゲストとして迎えることにした。
また、まだ見ぬカカオの可能性を探るため、カカオの加工を行う専門家としてチョコレートに従事している専門家よりもカカオに対して既成概念を持たない純粋な視点を持ったクリエイターで挑む方針で決めた。そもそもbeyond cacaoはチョコレート作りのプロフェッショナルが所属していない。運営を行うメンバーは元ロケットエンジニアの吉田裕一(APeCA)、フリーでディレクションを行う大西陽(bugology)、そしてWhosecacaoの福村瑛は最高のカカオは作っているがチョコレートはつくっていない。
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高堂謙一郎
(株)高堂商店 / 等々力八丁目焙煎所2008年、コーヒーロースターとして創業。
東京下町の祖父が経営する町工場でモノづくりや機械などが身近にある環境で育つ。
焙煎家としてコーヒー豆の卸販売の傍ら、焙煎機の構造に興味をもち、
焙煎機メーカーへの協力や焙煎所設立の際の指導やアドバイザーとしても活動する。
現在は東京・等々力にて、ビーントゥバーチョコレート事業「等々力八丁目焙煎所」を立ち上げ、
これまで培ったコーヒーロースターとしての経験や技術をカカオ豆加工に落とし込んでいる。 -
野村 空人
ABV+ CEO21歳で単身渡英、7年間ロンドンのバーでバーテンダーとしてのキャリアを積んだ後、帰国。「Fuglen Tokyo」にてバーマネージャーとして活躍しながら、
数々の賞を受賞。バーテンダーとしての新しい働き方を示すべく独立し、ドリンクのコンサルティングを手掛ける「ABV+」を立ち上げる。
その後、Kyrö Distillery Company のブランドアンバサダーや、渋谷 The SG club のバーテンダーも勤め、 最近では日本橋・兜町にオープンしたホテル K5 のバー青淵 Ao のバープロデュースを手掛けている -
堀江 麗
1992年生、東京都出身。情報学修士取得後、2017年にGoogle Japanに入社。デジタル広告のコンサル業務に携わった後、大手企業の幹部対象の企画運営に従事。2019年より株式会社カンカクに酒販事業のPMとして、2020年よりエシカルスピリッツ株式会社にてクラフトジン事業に企画PRとして参画。その他アルコール・ノンアルコールの領域を問わず、飲料の開発コンサルを行う。
まず1人目はカカオの個性を最大限引き出すために等々力八丁目焙煎所を運営する高堂謙一郎をクリエイターとして迎えた。高堂は元々コーヒーの焙煎を専門としていたが、その技術を転用し現在カカオの焙煎も主体で行っている。
2人目はPHASE1に引き続きドリンク開発のプロである野村空人だ。
国内外でのバーテンダーとしての経験をもつ彼は、その経験を活かし、現在はドリンクコンサルティングチーム「ABV+」のメンバーとしてさまざまな領域でドリンク開発やお酒に関わるイベントのコーディネートなどを手がけている。PHASE1ではバーテンダーならではの立体的な味作りからカカオの酸味と苦味に着目し、今回のトニックウォーターの元となるプロトタイプを制作した。
そして3人目の堀江麗は日本人の味覚と身体に合う、和製の柑橘やスパイスをふんだんに使った新しい和製トニックウォーターの開発を手掛けている。
PHASE1ではあくまでも開発パートナーが持つ異なる専門分野から自由に発想してもらい、プロジェクト中で生まれくる失敗も含む全てのアイディアや気付きを成果としたが、
PHASE2は焙煎によって個性を最大化したエンレカンのカカオを起点にドリンクとして精度の高いプロダクトへと落とし込むこを目的とした。
まだカカオの新しい世界は始まってばかりだ。
そして今わたしたちが知っているカカオは、ほんの一形態に過ぎず、
そこにはまだわたしたちが踏み入れたことのない壮大な世界が眠っている”未開拓な素材”なのだ。
本編ではそのまだ未開拓なカカオを3名のクリエターと一緒に少しだけ切り開いた記録を追いかけていく。
ディレクション:大西 陽・福村 瑛・吉田 裕一
デザイン・撮影:高橋佑亮
アドバイザー:セキネトモイキ
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beyond cacao
カカオと聞いて多くの人は、チョコレートの原料をイメージします。しかしカカオには素材として、まだ見ぬ可能性があるのではないかという仮説の元、東南アジアを拠点にスペシャルティカカオを生産するwhosecacao、未来に向けたカカオのまだ見ぬ価値の創造を目指して様々な取り組みを行っているAPeCAと共にカカオを多面的な視点で捉え、新たな価値を提案するプロジェクトです。
web : https://sites.google.com/whosecacao.com/beyondcacao/
OpenLab : https://fabcafe.com/jp/labs/tokyo/beyondcacao/カカオと聞いて多くの人は、チョコレートの原料をイメージします。しかしカカオには素材として、まだ見ぬ可能性があるのではないかという仮説の元、東南アジアを拠点にスペシャルティカカオを生産するwhosecacao、未来に向けたカカオのまだ見ぬ価値の創造を目指して様々な取り組みを行っているAPeCAと共にカカオを多面的な視点で捉え、新たな価値を提案するプロジェクトです。
web : https://sites.google.com/whosecacao.com/beyondcacao/
OpenLab : https://fabcafe.com/jp/labs/tokyo/beyondcacao/ -
大西 陽
FabCafe Tokyo / MTRL
ヨーロッパを中心にファッションデザイナーとして活動後、2012年帰国。
複眼的な視点を持ったデザインを行いたいという想いから、分野の垣根を超えた接点を持つ食の分野に興味を抱く。2014年よりFabCafe Tokyoでディレクター、リードバリスタ、コミュニティマネジャーとして勤務し、FabCafeに集まる多種多様なコミュニティと多くの企画やプロジェクトを立ち上げる。担当プロジェクト
bugology Space Mongology fruitful BUGOLOGY beyond cacao THE OYATSU OLFACTORY DESIGN LABヨーロッパを中心にファッションデザイナーとして活動後、2012年帰国。
複眼的な視点を持ったデザインを行いたいという想いから、分野の垣根を超えた接点を持つ食の分野に興味を抱く。2014年よりFabCafe Tokyoでディレクター、リードバリスタ、コミュニティマネジャーとして勤務し、FabCafeに集まる多種多様なコミュニティと多くの企画やプロジェクトを立ち上げる。担当プロジェクト
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福村 瑛
フーズカカオ株式会社 農園開発担当&代表取締役
1991年石川県金沢市生まれ。明治大学経営学部卒業後、翻訳Conyacを運営するエニドアに入社し事業開発に従事。上場会社によるM&A後に退職しチョコレートの事業をはじめるためにインドネシアに訪問。帰国後ダンデライオンチョコレートジャパンにてチョコレート製造を経験。2017年にインドネシアやタイなど東南アジアのカカオ農園開発およびお菓子開発を手がけるフーズカカオを設立。
whosecacao : https://whosecacao.com/
1991年石川県金沢市生まれ。明治大学経営学部卒業後、翻訳Conyacを運営するエニドアに入社し事業開発に従事。上場会社によるM&A後に退職しチョコレートの事業をはじめるためにインドネシアに訪問。帰国後ダンデライオンチョコレートジャパンにてチョコレート製造を経験。2017年にインドネシアやタイなど東南アジアのカカオ農園開発およびお菓子開発を手がけるフーズカカオを設立。
whosecacao : https://whosecacao.com/
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吉田 裕一
APeCA
京都大学にて航空宇宙工学を学び、卒業後は三菱重工及びJAXAにてロケットの開発・運用に従事。4ヶ月間南極を含め世界を旅した後、企画職へ転身。想いを同じくする仲間と共にAPeCAを設立。趣味は旅と温泉
APeCA : https://www.apeca.co.jp/
京都大学にて航空宇宙工学を学び、卒業後は三菱重工及びJAXAにてロケットの開発・運用に従事。4ヶ月間南極を含め世界を旅した後、企画職へ転身。想いを同じくする仲間と共にAPeCAを設立。趣味は旅と温泉
APeCA : https://www.apeca.co.jp/
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大西 陽
FabCafe Tokyo / MTRL
ヨーロッパを中心にファッションデザイナーとして活動後、2012年帰国。
複眼的な視点を持ったデザインを行いたいという想いから、分野の垣根を超えた接点を持つ食の分野に興味を抱く。2014年よりFabCafe Tokyoでディレクター、リードバリスタ、コミュニティマネジャーとして勤務し、FabCafeに集まる多種多様なコミュニティと多くの企画やプロジェクトを立ち上げる。担当プロジェクト
bugology Space Mongology fruitful BUGOLOGY beyond cacao THE OYATSU OLFACTORY DESIGN LABヨーロッパを中心にファッションデザイナーとして活動後、2012年帰国。
複眼的な視点を持ったデザインを行いたいという想いから、分野の垣根を超えた接点を持つ食の分野に興味を抱く。2014年よりFabCafe Tokyoでディレクター、リードバリスタ、コミュニティマネジャーとして勤務し、FabCafeに集まる多種多様なコミュニティと多くの企画やプロジェクトを立ち上げる。担当プロジェクト
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